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もうこども家庭庁には期待しない

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昨年「こども庁」(発表当時)設置の計画が発表された時に、私やCRN、そして子ども学会の仲間は皆期待に胸を膨らませて小躍りしました。なぜなら、こども庁(省)は、CRNや子ども学会の創設者である小林登先生の夢だったからです。CRNや子ども学会では、そのための特集企画を行おうという声が出ました。しかし、そうした私たちの期待は、大きく打ち砕かれてしまいました。それも一度ではなく三度も。

最初の失望は、現在の日本の子どもの生育環境の中で、最大の懸案であった幼稚園と保育園の分裂が子ども庁の創設によって解決されるのではという大きな期待が、最初から外れてしまったことです。文部科学省が、子ども庁に人材を派遣しないという方針を打ち出したからです。悪しき省庁間の縦割り人事は、そのままだったのです。これが第一回目の失望でした。

とはいえ、現在の子どもに関するもう一つの課題である、いじめや虐待の問題を、子ども本意、子ども目線で検討し解決する場所として、こども庁にはまだまだ期待することがたくさんありました。ところが、これも「こども庁」という名前が、「こども家庭庁」と変更されることによって、はかない夢と消えました。親子は一つと言えば聞こえはいいのですが、実際には親と子どもは別の人格です。毎年増え続ける子どもへの虐待が、親への働きかけだけでは解決しないことは、これまでの痛ましい事件から学んだはずです。しかし、「基本的に子どもは家庭で育つのだから」という理由で、子どもに独立した人格を認めることへの反動の力が働いたのです。これが二回目の失望です。

それでもまた最近、少し明るい話がありました。こども家庭庁から独立した、子どもを見守る第三者機関の議員立法が計画されているというのです。しかし、またまたそれを潰そうという動きが出てきていると報道されています。それは、「子どもの声を直接聞く第三者機関(仮称:子どもコミッショナー)は、『誤った子ども中心主義』を助長する」というのです。何をもって「誤った子ども中心主義」というのか私には全く理解できませんが、ここに、「子どもは家庭の所有物であり、家父長の監督の元で育てられる」という古色蒼然とした権威主義が頭をもたげてきているような気がします。これが三回目の失望です。

小林先生は決して怒気を顔に表すような方ではありませんでした。私のように失望感で言葉を荒げるようなことはないと思います。しかし天国で、こうした成り行きをどんな気持ちで眺めておられるのでしょうか。
「『こども家庭庁』がどのようなものになろうが、子どものウェルビーイングの向上を目指すCRNの基本的な姿勢は変わりません」というのが私の天国の小林先生へのメッセージです。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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