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オミクロンはそんなに怖い?

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かなり前から気になっていることがあります。それはオミクロン株をはじめとする新型コロナ感染症に関する日本のマスコミ全般の報道姿勢についてです。

一つは感染者の数の報道の仕方です。感染者数が急増しているので、「過去最高」という言い方をする理由はわからないでもないのですが、前日より減った場合は「高止まり」と表現し、「少し減ってきているな」と思っていると、「月曜日としては◯◯以降最高」とか、「3日間連続して1万人を超えた」といった言い方で、何がなんでも増加を印象付けようとしているように感じるのです。もちろん、放送局では国民が気を緩めないように、やや強めに言っているのかもしれません。用心するに越したことはないのではないか、ということです。

さて、最近チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)が音頭をとって、中国やインドネシアなどアジアの8カ国で、コロナ禍と子どものウェル・ビーイング(子どもの幸福度)とレジリエンス(精神的回復力)に関するアンケート調査を行いました。5歳あるいは7歳の子どもがいる母親3,000人以上からアンケートの結果が寄せられました。コロナ禍の影響を見るために、コロナの今後の感染拡大をどの程度心配しているか、またコロナ禍における国・地域の対応全般にどのくらい満足しているか、という質問を回答者である母親全員に聞きました。8カ国の中には、マレーシアやインドネシアのように一時期コロナ感染が蔓延し、日本以上に大変だった国もあります。

結果を見てびっくりしました。コロナによる人口あたりの感染者数や死亡者数は、日本は決して多い方ではないのですが、母親の心配度と国の対策への不信感が、日本が一番高かったのです。また、母親の心配度と子どものレジリエンスの関連を見たところ、日本では有意差はなかったものの、他国のデータでは、母親の心配度が高いと子どものレジリエンスが低い傾向があったのです。また8カ国全体で分析すると、コロナへの母親の不安が強いと、子どものレジリエンスが統計的に有意に低かったのです。因果関係はこの結果だけでは断言できませんが、母親の心配が子どものレジリエンスに影響を与えた可能性があります。母親の不安が高いことに、マスコミの姿勢が影響を与えたという証拠はありませんが、あまり不安をあおるような報道をすると、子どもの心理状態にまで影響を与える可能性があるのです。

何故このようなことを書いたかと言うと、タイトルに書いたようにオミクロン株による感染者は増えていますが、子どもの症状は軽く、今までのところ子どもの重傷者や死亡者はいないからです。もちろん老人や重い基礎疾患がある人は、オミクロン株感染で重症化、死亡の可能性はあるのですが、厚労省の最近の統計を見ても、10歳以下の重症者は2人(329人中)、死亡者はゼロです。

こうした書き方をすると、「重症者はいるじゃないか」「軽症なら良いというのか」とお叱りを受けそうです。しかし、オミクロン株による老人まで含めた全年齢層での死亡率は、最初にオミクロン株が流行し、すでにピークを超えた沖縄県では0.006%であり、これはインフルエンザの最近の死亡率(年による変動があるので直近の2018~2019シーズン)は0.025%(インフルエンザによる超過死亡数3,000人÷1,200万人(患者総数))より低くなっているのです(1)

現在は児童生徒に1人でもコロナ感染者が出ると、濃厚接触者も行政規則によって園や学校を休まなければなりません。しかし自治体によっては、オミクロン株による感染を冷静に評価し始めているところがあります。神奈川県では、学級内の感染者数が10~15%を超えたときに初めて学級閉鎖をするという方針を出しています(2)

コロナもインフルエンザも、ともに子どもや大人の健康にとって有害な存在であることに変わりありません。特にコロナはこれまで経験したことのないウイルスであり、なかでもデルタ株による第5波までは死亡率の極めて高い感染症でしたが、少なくともオミクロン株は、インフルエンザなみのウイルス感染症になっているという現実を受け止めて、インフルエンザを心配するくらいのもう少し楽観的な気持ちになっても良いのではないでしょうか。

参考
Resilienceは安心度高群(心配度低群)で有意に高い。QOL(Quality of Life)は有意差なし。

chief2_01_109_01.png 出典:Child Research Network Asia. CRNA Collaborative Research for Exploring Factors Nurturing "Happy and Resilient" Children among Asian Countries


筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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