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【カナダBC州の子育てレポート】第19回 新学期の新型コロナウイルス対策と近づく11歳以下のワクチン接種

要旨:

カナダ・BC州では9月、新型コロナウイルス感染の第4波の真っただ中に新学期が始まり、その2週間後から校内感染が増え続けました。それでも州政府は子どもの感染はあくまで地域の感染に比例していて、校内でのクラスターやアウトブレイク感染は稀だとしています。学校内や公共施設でのマスク着用義務化が低年齢層にも拡大し、12歳以上のワクチン接種も進めることで、まだワクチン接種ができていない11歳以下の子どもたちを守る動きがみられてきました。そんな中、いよいよ5歳から11歳の子ども向けのワクチンがカナダ政府保健局の安全性および効果のレビューに入りました。その結果を待たずして、この年齢層のワクチン接種の受付がすでに始まっています。

キーワード:
学校の新型コロナウイルス対策、マスク、校内感染、子どもの感染、5~11歳の新型コロナウイルスワクチン

2021年9月、カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州では新学期を迎えました。夏の間にすでに新型コロナウイルス第4波を迎えていたBC州では、新学期の学校における新型コロナウイルスの対策に大きな懸念を抱く保護者が多かったです。

BC州では10月末現在、12歳以上のワクチン2回目接種終了者が人口の84.4%と高い水準にあります(注1)。現在の懸念事項は、ブレークスルー感染の増加(2020年12月から2021年2月までにワクチン接種した人々の感染が増えている)、そしてワクチンがまだ承認されていない11歳以下の子どもの感染増加です。

実際に保護者の不安は的中し、新学期が始まった2週間後あたりから学校での感染者数はうなぎ登りになりました。生徒児童を含む学校関係者における感染発生(Exposure)だけではなく、学校内で1人の感染者から2~3人へ感染が認められた場合のクラスター感染も、前年より増えています(注2)。以前にこの連載の記事でも紹介した校内感染を追うウェブサイトを一日の終わりに確認するのが日課になりました。幸い娘の通う学校では、校内感染は新学期が始まって以来まだ報告されていませんが、いつそのニュースがやってきても驚かないほどに感染発生やクラスター感染を報告する学校のリストは日々増えています。同時に、パンデミックも1年10か月が過ぎ、人々が感染の知らせに慣れてきた感じも受けています。

教員、スタッフのワクチン義務化なし

BC州政府は、新型コロナウイルスの感染を抑えるのに第一に効果的な方法として、ワクチン接種を掲げています。現在11歳以下の子どもたちはワクチン接種の対象ではない中(2021年11月現在)、ワクチンカード導入によりワクチン未接種者への規制が強まり、高齢者施設関係者や医療関係者のワクチン接種義務化(注3)が進んでいく中で、教員やその他学校関係者へのワクチン接種は義務化されないのかという点が疑問視されています。ですが、教員や補助教員(Teaching Assistants)などは各学区が雇用者であり、ワクチン接種を義務化するかどうかはそれぞれの雇用者が判断すべきだというのが、今のところの州保健局の判断です。これを受け、BC州教師連盟(BC Teachers' Federation)は、ワクチン接種義務化には反対しないものの、判断は州政府による一律であるべきであり、学区ごとに差が生じるのはおかしいとしています(注4)

校内感染が発生した学校からの連絡をしない方針から感染追跡再開へ

2020~2021年度では校内感染が発生した場合、管轄保健局が指揮をとり、学校から各家庭へ、メールで感染発生の連絡が届きました。まだワクチンもできておらず、新型コロナウイルスの情報も今ほど出そろっていなかった時点で、こういった動きが地域の不安を掻き立てたのではないかという声もありました。今年度の新学期が始まる直前、これを踏まえた州の保健局では、感染発生が起きても学校から連絡はしないことにしていました。しかし、8月に第4波で感染者が増加し、11歳以下の子どもはいまだ全員がワクチン未接種であることから、今度は逆に学校から家庭へ連絡しないことに対して疑問視する声が大きくなり、現在は昨年度と同様に、家庭への連絡を再開しています。ですが、保健局の動きが遅く、濃厚接触者が感染発生から14日程度の隔離を求められる際でも、連絡が来るのは隔離期間がもう半分以上過ぎている、終了間近だ(その間は連絡がなかったために通学を続けていた)という声もあがっています(注5)

マスク義務化は小4以上からキンダー以上へ

学校での感染が増加の傾向を示し始めた10月頭、BC州政府はこれまで学校内での生徒児童のマスク着用義務化を小学4年生以上としていましたが、キンダーガーテン以上へと変更しました。私たち日本人は、小さな頃から風邪をひけばマスク、花粉症がひどい時期にはマスク、と公共の場でマスクをすることに抵抗があまりありません。新型コロナウイルス状況下でも、日本人のマスク着用率が非常に高いことが、公衆衛生の鏡だとカナダではニュースになったりします。それに比べ、こちらでは、マスクを着けることに反対するアンチマスク運動が起きたり、子どもがマスクを着けることで肺の発達に問題が生じるなどという声が上がっています。マスクを着けることに北米の人々は大きな抵抗を感じているようです。ある友人が、新学期が始まって学校に子どもを通わせたものの、マスク着用が義務化されたことで複数の家庭が子どもを休学させたと教えてくれました。室内ではマスクを必ず着用しなくてはならないため、公立学校の新型コロナウイルスガイドラインには、音楽の授業でも歌を歌う際にマスクを外してはならないと書いてあります(注6)。さすがに子どもたちがマスクを着けたままで合唱をするのは大変だろうと思っていると、娘が通う学校の音楽の授業では、ハロウィンに向けてフラッシュモブを練習しているのだと教えてくれました(去年のハロウィンには、屋外でソーシャルディスタンスをとりながら、全校生徒がスリラーダンスを踊りました。後日、それをドローン撮影した動画が送られてきました)。学校の先生方の工夫と苦労が感じられます。

公共の室内での5歳以上のマスク義務化

キンダーガーテン(5歳)以上のマスク着用義務化が発表された数日後、公共の場でもそれまでは12歳以上からだったマスク着用が5歳以上に改められました。これまでは、小さな子どもがマスクをすると、着脱時に顔や口元に手が触れる、はずしたマスクを所かまわず置くといったことがあり、かえって不衛生だと言われていましたが、BC保健局長が「想像していたよりも子どもたちはマスクに抵抗がなく、着用することにスムーズに移行できているようだ」と伝えたことは、私にとって印象的でした。もともとカナダ政府はパンデミックの初期に「マスクをすることで他人を感染から守ることにはつながるけれど、自分を感染から守ることにはならない」という理由でマスクの着用を推奨していませんでした。ここにもマスク文化の違いがあるのだろうかと、理由としている科学的根拠を疑問に思いながらラジオのニュースを聞いたのを憶えています。娘は、日本の祖母から届いた手作りのカラフルなガーゼ生地のマスクを気に入っていて、日本語学校やサマーキャンプに参加していた夏頃から、長時間すでにマスクを室内で着けていました。慣れていたこともあり、リスク回避のためにも新学期開始当初から学校でマスクを着けていたため、この規制の改定に対し問題はありませんでした。

9月末にピークを迎えた学校感染は現在減少傾向にあるといいます。10月に発表されたBC州の新型コロナウイルス学校感染状況レポート(注2)によると、子どもの感染は依然として重症化していないと結論づけています。感染者数が増えた理由として、検査数が増えたこと、そしてその検査数が増えたのは、学校での集団活動が始まったためにRSウイルスなどCOVID-19の症状と類似した呼吸器系の感染症が増えたためでもあるとしています。また、学校での感染発生は依然として学校が存在する地域の感染者数の増加に比例しています。たとえば私たちが暮らす内陸部は沿岸部に比べワクチン接種率が低く(といっても8割近い接種率なのですが)、それが原因で感染者数が増えて、学校の外から校内へ感染が持ち込まれるケースがほとんどだということです。

さて、9月末、米国では5歳から11歳までの子どもに対して、ファイザー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンを、大人の3分の1の投与量で接種する許可をアメリカ食品医薬品局(FDA)に求めたという知らせを受け、カナダ政府保健局も安全性と有効性のレビューを行っています。その結果を待たずして、10月10日には5歳から11歳までの子どものワクチン接種予約のための登録ができるようになりました。学校での感染が減少傾向にあるとはいえ、BC州全体としての感染者数および死者数が、規制が敷かれている中でも大きく減少することがないため、州政府が一刻も早くパンデミックの終息に向けて、できる限りワクチンの普及を図ろうとしている動きなのでしょうか。成人の新型コロナワクチン接種制度が整っていることから、展開はスムーズにいくと想定されます。11歳以下の子どものワクチン展開で一番注目されているのは、その普及率です。現在カナダ国内の調査によると、子どもにワクチンを受けさせると回答している保護者は全体の50%程度です(注7)

以前にも子どものワクチン接種(12歳以上)には、複雑な要素が絡み合っているということを書きました(第16回参照)。新しいワクチンの安全性にまったく懐疑的でないとは私も言い切れません。ですが、娘にワクチンを受けさせるかどうかと聞かれれば、やはり私は接種させたいと考えています。理由としては、我が家には感染したらハイリスク患者となる家族がいるということ、また、オンラインなどではなく学校に通わせながら、感染リスクを極力減らしたいこと、これまで2年間滞ってきたスポーツや音楽等の習い事を安全に再開させてあげたいこと、そして何よりも3年も訪れていない日本の家族に会いに行きたいことがあげられます。また、治験結果に大きな問題がないと見られる点、新型コロナウイルスの感染リスク(および周囲へ感染させ、重症化させるリスク)よりもワクチンを接種するリスクの方が低い点が大きな理由です。

先日娘が通う学校からメールが送られてきました。娘のクラスメイトの父親が病気で亡くなったと書かれていました。学区危機対策チーム(The district crisis response team)が教室を訪れ(注8)、子どもたちに話をしたそうで、もし子どもたちが家庭で死に関する話をしたら、できる限りオープンに子どもの質問に答えて欲しい、学校も引き続きメンタル面でサポートをしていく、カウンセリングが必要なら申し出て欲しいという内容でした。私はすでに、学校の父母会(Parental Advisory Council)が運営するSNSグループの投稿で、この児童の父親が新型コロナウイルス感染によって亡くなったことを読んで知っていました。その投稿では、残された家族のためのMeal Train(テイクアウトなどの食事1回分を寄付し、その寄付をつなげていくことからついた名前)を受け付けているということでした。実際にその日娘は学校から家に戻ると、お友達のお父さんが亡くなったんだと真っ先に教えてくれました。新型コロナウイルスが原因だとは子どもたちには公表されていませんが、パンデミックで保護者を亡くした子どもたちは全世界に多数おり(注9)、そういった影響が今後どのように社会に現れてくるのかと私は考えを巡らせました。たまたまこれまでは自分にとって近しい存在に、感染者だけでなく、新型コロナウイルスが原因で亡くなった方がいませんでしたが、コロナ感染だけでなく、重症化やそれによる死が間近に存在しているのだと知り、自分たちが今どれほど大きな歴史のうねりの中にいるのかを感じた出来事でした。

子どもに新型コロナウイルスワクチンを接種させることに、私も夫も全く不安がないかと言われれば、やはりそんなことはありません。ワクチン接種サイトへの子どもの登録はしましたが、政府によるワクチンの効果や安全性の確認が終わり、実際に予約日の知らせが届くのをドキドキしながら待っています。


筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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