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【カナダBC州の子育てレポート】第20回 気候変動と子どもたちのこれから

要旨:

カナダのBC州に暮らす私たちは、2021年夏の山火事、秋の洪水、冬の寒波による極度の低温と、気候変動による異常気象の大きな影響を受けました。山火事による煙害のために何週間にもわたって外出ができない、洪水によって道路が遮断され物流が止まって食べ物に困る、マイナス20度では水道管が凍結するなど、暮らしの中で多くの不自由と不便を体験しました。それとともに自然の脅威を身をもって知ることで、気候変動に対して保護者として、子どもたちとともにすべきことに真剣に考えを巡らすこととなりました。

キーワード:
気候変動、地球温暖化、異常気象、自然災害、緩和策、対応策、大人の責任、集団の力

日本は自然災害の多い国です。日本から離れて暮らすようになり、地震や津波、火山噴火のニュースを異国の地で国際ニュースとしてしばしば耳にするようになって、東西に長く伸びる小さな島国がどれほど自然災害の危険にさらされているのかを改めて客観的に知るようになりました。

日本で自然災害といって真っ先に頭に思い浮かぶのは地震ではないでしょうか。小さな地震は日常茶飯事で気にも留めない程度に存在し、東日本大震災や阪神淡路大震災は多くの人々の記憶に新しいところです。また、台風による被害も毎年起こっています。9月1日は防災の日とされ、私が幼少期に通っていた小学校ではこの日に防災訓練が行われていたのを憶えています。

以前の記事で、ここBC州内陸部が去年の夏に史上最大規模と数の山火事に見舞われたことに触れました。煙害だけでなく、実際に山火事による火の熱さと色も目の当たりにして私が感じたのは、これまでに経験したことのない自然の恐怖でした。私一人が頑張ったところでどうにもならないものが目の前に差し迫り、恐怖でした。そして洪水による水害を経験し、地球温暖化は実際に起きているのだという事実を真に理解し、それが簡単には止められない、あるいはスピードを落とすことすら難しい問題だと再認識しました。気候変動を理由に子どもをもたない若者さえいることを知り(注1)、これは、自分たちの子どもの世代も向き合わなくてはならない、とてつもなく複雑で大きな、対処に時間のかかる問題だと感じるようになりました。

同時に、はたして世の中にこの気候変動の課題を本当に理解している人はどれくらいいるのだろうかという疑問が湧いてきました。というのも、数年前に私はBC州北西部にある観光協会と仕事で関わることがありました。その際、全体が生態学の研究所となっている離島、スピリットベアと呼ばれる白いクマ、海岸を住処とするオオカミ、ゴールドラッシュなどその歴史と自然についてなど、多くの情報に触れ、いつかは実際にその土地をこの足で旅してみたいと思っていました。その矢先にその地域一帯が山火事の大きな被害にあい、観光を促進するどころではなくなりました。仕事で関わりがあったため、いつも以上にこの地域には深いつながりを感じていたにもかかわらず、数年前はまだ小さい子どもを抱えていた私は日々の生活に追われ、ラジオから流れる山火事のニュースを、地球温暖化に考えをめぐらすこともなく、ただ聞き流していたということが過去にあったからです。この時の私のように、気候変動が起きている事実を聞きながらも、何となく過ごしている人が多いのではないでしょうか。

秋になり、長らく待ち望んでいた雨がBC州に降り始めたのもつかの間、今度は沿岸部で洪水の惨事が続きました。この頃、ラジオのニュースでよく聞くようになった言葉にAtmospheric Riverがあります。「大気の川」と訳されるこの現象は、気圧の谷間に入り込んだ湿気が一気に一部の地域に流れ込むことで、激しい雨を降らせます。その雨量は数日でその地域の1年分にも相当するような量に値するとか(注2)。もともと湖だった場所を開拓して農地にしたため低地であるBC州屈指の農村地帯はこの現象によって洪水に見舞われ、多くの家畜がおぼれ死に、農家が多大な被害を受けました。また、夏に山火事の危険から避難指示が出ていた同地域に位置する町全体が今度は洪水による避難指示を受け、住人は再び不自由な暮らしを余儀なくされました。(注3)

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「大気の川」が停滞した朝の濃い霧

私たち家族に洪水の直接の影響はありませんでしたが、洪水によって沿岸部と内陸部を結ぶ幹線道路があちこちで断絶され物流が止まり、内陸部のスーパーからは物資が一斉に消えました(注4)。コロナ禍の初めにパニックで買い占めが発生し、トイレットペーパーが商品棚から消えたように、今度は冷凍食品を含む食べ物がすべて買い占められました。まだ冷蔵庫にストックがあった私たちも数日後にスーパーへ出向くと、ものの見事にすべての棚が空っぽでした(注5)。その後、東部からの流通ルートにより1週間後くらいには商品が戻ってきましたが、BC州の7割の乳製品を取り扱っていた農村地帯が洪水被害に遭ったことで、卵、牛乳、クリーム、ヨーグルトなどはいまだにスーパーで品薄ですし、入荷のタイミングと買い物の時間がずれるとなかなか手に入らない状態のままです。沿岸部では、パイプラインの停止によりガソリンが不足したことにより、ガソリンの購入は1人30リットルまでという規制が発生しました(一部継続中)。我が家では、クリスマスを前に楽しみにしていた日本からの物資もなかなか届かず(なかには洪水で紛失された郵送物も多いとか)、BC州内の郵送もいまだ大幅に遅延しています。幹線道路の復旧には長い期間を要するらしく、クリスマス休暇で内陸部から沿岸部に向かう人たちはいったんアメリカへ南下、国境を越えてからBC州に再び戻るというルートをとらなくてはならなくなりました。コロナ禍での国境越えは簡単なことではありません。山火事による緊急事態宣言が解けて2か月足らず、BC州は洪水による緊急事態宣言が発令され、2022年1月現在も継続されています(注6)。この間、洪水の被害地域の学校は複数校がいったん閉鎖されました。世界では年間38万人の生徒児童の教育が気候変動の影響により中断せざるを得なくなっていて、その数は増えていく一方だと言います(注7)

この原稿を書いている1月現在、BC州には極寒警報が出されています。ここよりも内陸の地域ではマイナス50度以下を記録。私たちの住む地域でもこれまでの記録を破りマイナス20度以下の日がすでに1週間続いています。ここまで気温が下がると、10分程度外気に触れただけで凍瘡や凍傷の危険があり、長時間の外出は危険です。カナダは日本に比べ緯度の高い位置にあり、日本よりも年間平均気温が低いです。さらに国土が広く内陸部は内陸性気候の傾向が顕著で、日較差や年較差も大きいため、冬の気温が下がるのは自然のことで、家の造りにおいても二重窓が使われたりといった工夫がされています。それでもこの地域でこの時期にマイナス20度以下の気温が数日以上続くことはまれで、こういった気候変動による突発的な異常気象への対策が整っているとは言えません。現にこの原稿を書いている最中、水道管が凍結したのか蛇口が一部機能しなくなっています(注8)

地球温暖化という言葉は聞いて久しく、私も小学校の理科などの授業で耳にした記憶があります。二酸化炭素等の温室効果ガスの排出が増加したことにより、特に1980年以降の地球の気温は大幅に上昇を続けています。氷河が溶けだしたり、夏でも寒い北極圏で史上初の雨が降ったりといった気温上昇に関する現象は私たちにも馴染みのあるニュースになってきました。ですが、まれであった異常気象が実は気候変動の一端であり、それが年々増えていることを意識している人たちはいるのでしょうか。そして子どもたちへの気候変動の認識はどこまで行き届いているのでしょうか。ここカナダは日本に比べ高緯度に位置するため、気候変動、特に地球温暖化の影響は日常生活に色濃く表れていて、人々の問題意識が高まっている印象を受けます。

奇しくもこの秋、私は機会があって環境地理学という大学の授業を履修していました。その中の大きなテーマがやはり気候変動だったのですが、私たちにできることは何かという問いに「教育。人々が気候変動そしてその影響の認識を得ることで、地球温暖化のスピードを緩めることができるのではないか」という意見が出ました。その意見に対し、担当教員が「それなら具体的に何が行えるのか」と尋ねると、先に答えた学生は「私は教育機関で働いてないからどうしたらいいのかわからない」と言ったのが気にかかりました。

私たちの世代がこの巨大な問題に直面していることに気づき、向き合い始めた世代であるならば、子どもたちはこの問題と長い期間向き合い対処していかなくてはならない世代です。その中でも保護者として、子どもたちとともに気候変動を理解し行動するために以下の点に注目しました。

身近なアイテムと生活に密着した形で

2021年11月にイギリスのグラスゴーで行われたCOP26では、2030年までの地球の気温上昇を産業革命以来から1.5°C内に抑えること、そしてそれに関連する国際ルールが話し合われました(注9)。ですが、このような内容を子どもたちが聞いても簡単には理解できません。

3R「Reuse(再利用) Reduce(削減) Recycle(リサイクル)」という言葉があります。 たとえば、マイバッグの使用はビニール袋のごみの発生を減らずReuseやReduceにあたり、ここBC州では州政府が承認しなくてもそれぞれの自治体で使い捨てのビニール袋を使用しない条例を立てています。このような動きは最近になって大きく取り上げられるようになりましたが、私がカナダへ移住してきた10年前にはすでに買い物に出かけると大半の人々がマイバッグを使用していました。娘もこういったことを理解するようになり、買い物に行く際には、マイバッグを持ってきているのかと聞かれ、忘れると「Waste(無駄使い)だよ」と怒られます。

また、こちらの人々は中古であることにあまりこだわりをもっていないように感じます。私たちの暮らす町にもいわゆるReuse Recycleにあたるリサイクルショップが数多くあります。子どもは成長が早く、洋服がすぐに着られなくなったり、自転車やおもちゃも成長に合わせて変えていく必要があったりします。不要になったものでも、まだ使えるものは人に譲ったり、オンラインで売ったり、あるいは町中のリサイクルショップに持っていくようにしています。娘は小さな頃からそれを見ていて、自分のもので不要になると「〇〇ちゃんに譲る」とか「△△ショップに持っていく」と言うようになりました。

こういった日ごろの取り組みが、実は国際会議で話し合われている地球温暖化対策と結びついているという話は、子どもなりに身近な内容で理解できると考えるのです。

緩和策(Mitigation)と適応策(Adaptation)の双方から、子どもたちのために

日本ではSDGsが注目を集めているようで、娘と見ている日本の子ども向けの番組でもよく目にするようになりました。気候変動対策もSDGsの17ある持続可能な開発目標の一つです。気候変動への対策は緩和策と適応策の両方から取り組む必要があります。緩和策は、たとえばレジ袋の使用をなくすことで炭素排出量を減少させ気候変動をストップまたは緩める方向へと舵を切ること、適応策は火事や洪水に耐えやすい家屋の建築など、抗うことのできない気候変動に私たちが順応していくことです。気候変動に関する知識を子どもたちに教えることは、この両方に当てはまります。先ほど「教育の現場にいないから気候変動に関する教育について何をすればいいのかわからない」という学生の話を出しましたが、何も教育は机上でするものだけを指すのではありません。

以前の記事にも読書について書きましたが、大人が注意を払っていることに身近にいる子どもは敏感に反応します。普段から大人が身近なアイテムを通して、正しい知識を生活の中に取り入れながら行動し、子どもの意識づけを促すことは、気候変動に拍車をかけてきた大人たちの責任であると私は思います。カナダ人環境活動家デヴィッド・スズキは「子どもたちを思い、孫たちを思うのであれば、人として気候変動に対して今すぐに行動を起こすべきだ。気候変動に対処していくインセンティブはもうそこにしかないのだろう」と言っていますが、これはこの記事の最初に書いた私の疑問と注にあげた、これから家庭を築いていく若者の懸念と呼応する点で重く響きます(注11)

集団の力

実際にはプラスチックを一人一人が減らすこと、リサイクルを増やすこと、グリーンエネルギーへの転換に電気自動車を導入することといった個人の努力は気候危機にわずかな影響しかもたらしません。一方で、はからずもコロナ禍では、目まぐるしく変わっていく状況に対し、BC州で暮らす私たちは刻一刻と変化する規制にスピード感のある適応を求められてきました。三密を避け、マスクを着用し、社交の機会を減らすなどといったコロナ対策も長期間にわたって継続しています。コロナ禍では、大多数の人が規制を守り、近しい人のため、コミュニティのため、さらに広い社会のためにと行動する集団の力とやさしさも垣間みえました。大きなストレスを抱えながらも、一つの目標に向かって集団が作り出すその力を、気候変動のような地球規模の問題にも活かせればよいと思います。

この1年で山火事、洪水、大寒波を体験したことで、問題の深刻さを私は身をもって体験しました。上記のような点を踏まえて、保護者が先に立って、子どもたちと「行動を起こす」暮らしを「今」するべきだと強く感じずにはいられません。


筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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