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【実録・フィンランドでの子育て】 第4回 フィンランドのドゥーラ(Doula)

要旨:

この連載では、教育・福祉先進国と言われ、国民の幸福度が高いことでも知られるフィンランドにおいて、日本人夫婦が経験した妊娠・出産・子育ての過程をお伝えしていきます。フィンランドに暮らすって本当に幸せなの? そんな皆さんの疑問に、実際の経験を踏まえてお答えします。第4回の今回は、妊娠・出産に寄り添うドゥーラをフィンランドで利用してみた体験談をお伝えします。

キーワード:
フィンランド、ドゥーラ、妊娠出産、子育て支援

ドゥーラとは、主に妊婦の陣痛・分娩時に付き添い、本人と家族を様々な形でサポートする人のことを指します。医療行為を行うことはなく、情緒的サポートを提供することが主な役割で、その内容は情報提供、マッサージ、励ましなど多岐に渡ります。ドゥーラについてはCRNのドゥーラ研究室内で詳しく記述されていますので、そちらをご覧ください。今回は、フィンランドで出産した際にドゥーラを利用してみた体験談をお伝えします。

ドゥーラ探し

もうすぐ1歳になる子どもの妊娠中、フィンランドには頼れる親戚もなく、夫が万が一立ち会えない場合は一人で出産に臨まないといけない不安を友人に吐露していると、その友人が「ドゥーラを使ってみたら?」と勧めてくれました。北米を中心に発展してきたドゥーラは、ヨーロッパでは日本よりは知られているものの、フィンランドで利用するのはそこまで一般的ではありません。私自身も、今まで「ドゥーラ」という言葉は聞いたことがありましたが、実際に利用している人は身近にいなかったため、「なるほど、その手があったか!」と思いました。早速インターネットで調べてみると、いくらか情報は出てきますが、個人でドゥーラをやっている人のホームページなどが主に出てくるくらいで、一体どの人が私の住む街のドゥーラなのか、それを体系的に検索できるシステムはまだ確立されていないようでした。そこで、妊婦健診でお世話になっているネウボラナース(第2回参照)に相談すると、私が住むユヴァスキュラ市のドゥーラのまとめ役の人の連絡先を教えてくれました。今やインターネットで調べれば様々な情報が出てくる世の中ですが、こうした時に必要な情報を案内してもらえるので、やはり専門家に相談できるネウボラの存在はありがたいと思いました。教えてもらった連絡先に連絡すると、有償のドゥーラとボランティアのドゥーラがいるということを教えてもらいました。私は、きちんとお金を支払った方が遠慮なく頼ることができると思ったので、有償で英語の話せるドゥーラを紹介してもらうことにしました。

ドゥーラとの出会い

私はすぐにでもお願いするつもりで、紹介してもらったドゥーラに連絡をすると、「まずは1回会って話をしてみてから契約するかを決めてください」と言われました。「出産はあなたと家族にとって一生ものの大切なイベントなので、話してみてきちんと相性の合うドゥーラか判断してから決めて欲しい」ということでした。確かによくよく考えてみると、私のあられもない姿を見てもらうことになるので、ドゥーラとの相性はとても大事です。初回の面談では、お互いの自己紹介やどうしてドゥーラを利用したいのか、ドゥーラに提供してもらえるサービスなどについて、じっくり1時間話をしました。とても親身になって私の出産に対する心配事を聞いてくれて、ドゥーラについての説明もしてもらえたので、私は安心してその方と契約することにしました。

ドゥーラが提供するサービス

ドゥーラは国家資格などが必要なわけではないので、経験や知識があればドゥーラを名乗って活動することが可能です。そのため、サービスの内容や料金も、それぞれのドゥーラによって変わってきます。私がお願いすることにしたドゥーラは、フィンランドのドゥーラアカデミーでトレーニングを受けていました。クライアントの希望に応じて2つのドゥーラ・パッケージを提供しており、私はシンプルな内容のパッケージ1を選択しました。パッケージ1に含まれるのは、出産前に2回(各1時間)のカウンセリング、出産までの間いつでもできるメールまたは電話相談、陣痛・分娩時の付き添い、出産後に1回(1時間)のカウンセリングで、日本円でおよそ5万5千円でした。パッケージ2は更にきめ細かいサービスが含まれており、値段設定も少し高くなっていました。また、フィンランドではまだドゥーラがそこまで定着しているわけではないため、ドゥーラのみを職業としている人は少なく、私がお願いしたドゥーラも、本業が別にありながらドゥーラもやっているという状態でした。従って、本業の仕事のスケジュールによっては陣痛・分娩時に付き添ってもらえない可能性も出てきます。本業の仕事のスケジュールを優先した上で、可能な限り付き添ってもらうので良ければパッケージ1を、絶対に付き添って欲しい場合には本業の休暇を取ってもらう必要があるので、その分の補てん料金も含めたパッケージ2を選ぶ、という形になっていました。初回のカウンセリングで夫とドゥーラの仕事や生活上のスケジュールをすり合わせたところ、必ずどちらかには付き添ってもらえそうだったため、ドゥーラとも相談の上、私の希望(一人での出産は避けたい)を叶えるにはパッケージ1で大丈夫だろうということになりました。

ドゥーラとのカウンセリング

出産予定日の6週間前と2週間前にそれぞれ1回ずつ、ドゥーラから産前カウンセリングを受けました。1回目のカウンセリングでは、現在、出産に当たって不安に思っていることを主に話し合いました。私は体が小さく痛みにも弱いため、とにかく陣痛とお産の痛みに耐えられるかというのが最大の不安でした。ドゥーラは、陣痛を逃がすための方法として、子宮口が開くまでは家でリラックスしてサウナ(フィンランドの一般家庭の多くは自宅にサウナがあります)やシャワーに入ることなどのアドバイスをしてくれたり、レボゾという大きな布を使って痛みを逃がすマッサージの仕方を教えてくれたりしました。加えて、経皮的電気神経刺激(transcutaneous nerve stimulation:TENS)の機械を貸してくれ、陣痛が始まった際の使い方を教えてくれました(個人差があるかもしれませんが、私は陣痛時このTENSに本当に助けられました)。もう一つ心配なこととして、赤ちゃんが逆子かもしれない、ということをネウボラで言われたばかりでした。元に戻るよう、逆子体操などをした方がいいのかネウボラナースに聞いた時は、逆子体操には医学的根拠がないため、やってもやらなくてもいい、という回答で、積極的に勧めるという感じではありませんでした。しかし、そのことをドゥーラに相談すると、「やって悪いことはないから」と逆子体操のやり方も教えてくれました。その甲斐あってかどうかはわかりませんが、次のドクターの健診で超音波検査を受けてみると、ありがたいことに逆子は直っており、自然分娩で出産できることになりました。

2回目のカウンセリングでは、実際に陣痛・出産が始まったらどのようにドゥーラに付き添って欲しいか、出産時に病院に伝えて欲しい希望などについて、より具体的なことを話し合いました。自分の希望を記入して病院に提出するバースプランの紙をもらっていたので、それに合わせて、無痛分娩にしたいか、その場合はどの程度麻酔を使用するか、へその緒は誰が切るかといった出産に直接関わることから、分娩室では私が用意した音楽をかけてもらえるかなど、病院でできる限り私がリラックスできるような工夫に至るまでを一緒に話し合ってくれました。2回のカウンセリングを通して、自分のお産はどのようなものになるか、どのようなものにしたいかのイメージをもつことができたと思います。

report_09_425_01.jpg 痛みの逃がし方を教わる様子

いざ、出産!

2回目のカウンセリング後、数日おきに私の体調を確認するメッセージをドゥーラが送ってくれ、小まめにやりとりをしていました。そうしていよいよ陣痛が始まったかもしれないと感じたのが予定日1週間前の朝方でした。朝5時に陣痛が始まった旨をドゥーラに連絡すると、6時には我が家に駆けつけてくれ、夫と共に3人で病院に向かいました。しかし病院に着く頃には少し陣痛が収まってしまい(病院に来ると気持ちが緊張するため、陣痛が収まるのはよくあることだそうです)、子宮口はまだほとんど開いておらず、一度自宅に帰ることになりました。すぐに出産とはならなそうだったため、ドゥーラは一旦自分の仕事に向かいました。私の陣痛間隔が短くなって病院にまた行くことになったら、こちらから連絡をし、病院で落ち合うことになりました。自宅で待つ間、ドゥーラに貸してもらったTENSの機械がとても役に立ちました。電極の入ったパッドを腰と背中の4箇所に貼り、痛みを感じたらスイッチをオンにします。すると、ピリピリと心地よい刺激が背中に走り、陣痛の痛みが軽減されます。ただ痛みに耐えなければいけないというのではなく、ある程度痛みをコントロールできるというのも不安の軽減に繋がったと思います。陣痛の間隔が5分より短くなり、TENSでもコントロールできなくなったところで、急いで病院に行くと、すでに8センチ子宮口が開いており、すぐに分娩室に向かいました。その間に、夫がドゥーラに連絡をしてくれ、ドゥーラはなんとか仕事を早く終わらせて駆けつけてくれました。

分娩が始まると、色々な医療スタッフが入れ替わり立ち替わりやってきます。その中には、あまり英語が得意でない人もいたため、必要に応じてドゥーラが通訳もしてくれました。フィンランド語も英語も話せるドゥーラが一緒にいてくれたことは、こちらにとっても病院側にとっても安心感に繋がっていたのではないかと思います。いよいよいきむ段階では、いきみやすい体勢を一緒に考えてくれたり、「今とっても上手にいきむことができていたよ」と言って励ましてくれたり、汗を拭いてくれたりしました。夫も一緒に立ち会って励ましてくれていましたが、夫も不安であることは同じです。専門的知識があって冷静な第三者がいて励ましてくれることは、私たち家族にとって大きな安心感がありました。無事出産が終わると、私と夫とドゥーラは一つのチームのような感じで、一つのことを一緒に成し遂げた達成感がありました。出産直後の私は力尽きていたので、夫が赤ちゃんのへその緒を切る様子や、私と夫が赤ちゃんを胸元に抱いて カンガルーケアをする様子を、ドゥーラが自然に写真におさめておいてくれていたのも、とても有難かったです。

利用してみた感想

ドゥーラにお支払いする料金には色々な意見があるかと思いますが、私はこれだけのサービスと出産時の安心感を得られて、上記の値段はとても安いと感じました。ただそれは、フィンランドでは出産にかかる費用がほとんど無料なため(入院中のベッド代のみ)、ドゥーラにかける料金はそこまで負担に感じなかったという背景があります。多くの場合、出産に追加の費用がかかる日本や、出産に高額な費用がかかる他の国などで、さらにドゥーラの費用を負担する場合には、感じ方が異なるかもしれません。また、値段やサービスは上述したようにドゥーラによって違うので、これをフィンランドのドゥーラとして一般化はできないことにご留意ください。

これまで、お産はどこか「医療にやってもらう」という受容的な自分がいましたが、ドゥーラを利用することで、自分でお産をどのようにしたいかを一緒に考えることができ、「お産をより積極的に自分らしいものにする」という考え方をもてたと思います。

注: レボゾ(Rebozo)とはメソアメリカの伝統的な幅広の布のことです。お産の時に限らず、女性がスカーフとして体に巻いたり、赤ちゃんを抱いたり包むのに用いたり、その他日常生活でも広く用いられてきたものです。これを用いたリラクゼーションが妊娠中や陣痛中の痛みの軽減に役立つと言われています。


参考文献


筆者プロフィール
Akie_Yada.jpg
矢田 明恵(やだ・あきえ)

フィンランド・ユヴァスキュラ大学博士課程修了。Ph.D. (Education)、公認心理師、臨床心理士。現在、ユヴァスキュラ大学およびトゥルク大学ポスドク研究員、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員。
青山学院大学博士前期課程修了後、臨床心理士として療育センター,小児精神科クリニック、小学校等にて6年間勤務。主に、特別な支援を要する子どもとその保護者および先生のカウンセリングやコンサルテーションを行ってきた。
特別な支援を要する子もそうでない子も共に同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」に関心を持ち、夫と共に2013年にフィンランドに渡航。インクルーシブ教育についての研究を続ける。フィンランドでの出産・育児経験から、フィンランドのネウボラや幼児教育、社会福祉制度にも関心をもち、幅広く研究を行なっている。
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