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【インドの育児と教育レポート~チェンナイ編】 第3回 チェンナイの暮らしと子どもたちのおやつ

1.念願のチェンナイ生活スタート
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コロナの影響による二度の渡航延期を経て、2021年9月に、やっとチェンナイに移住することができました。二度のワクチン接種と渡航前PCR検査を日本で済ませた後、チェンナイ市内に入るためにPCR検査の陰性証明をWEBサイトに登録して、ようやくインドの入国審査を通過しました。とても長い道のりでしたが、一年半ぶりに踏むインドの土や懐かしい風のにおいを感じて「やっと戻ってきた!」という達成感に満たされました。

ムンバイから日本への退避生活は一年半に渡り、それを経て移住した筆者の目に映るチェンナイの第一印象は、とても静かな街というものでした。空港から市街地や郊外へ続く道路はどこもきれいに舗装されており、車に乗っていてもムンバイのレンガ道で感じたガタガタという振動もなく、渋滞もほとんどありません。幹線道路沿いの店舗には、駐車場が完備されているところも多く、歩道も確保されているため、歩行者とバイクと車が入り混じっているムンバイの印象とはずいぶんと異なります。筆者の暮らすエリアは、各国の領事館などが建ち並ぶ市街地からは15㎞ほど離れた海沿いの郊外にあります。近くには、リゾート施設や水族館などが多く集まり、コロナ禍の中であっても週末には多くの旅行客や若者が訪れています。長雨の続くモンスーンが始まる9月・10月は、時折激しい雨が降り、雷鳴に驚かされることもありますが、晴れた日には突き抜けるような真っ青な空とギラギラの太陽を見上げて、南インドにいることを実感します。大気汚染の進むムンバイでは体験できなかったきれいな空気を、暑さも忘れて胸いっぱい吸い込むことができます。

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自宅前の道路から眺めるゲートソサエティ(戸建て住宅群)の敷地には、野良犬も不法駐車もなく、住宅が整然と立ち並ぶ閑静な住宅街です。

2.チェンナイ市街の子どもたち

今回は筆者が初めて見たチェンナイ市内の子どもたちの様子を、ムンバイと比較しながらレポートします。筆者が2016年に初めてムンバイで見た子どもは、路上で物乞いをしている子どもでした。裸足で顔や手足は泥や砂埃で汚れ、その身体には大きすぎる古びた服を着て、思わず目を背けてしまいたくなるような貧困を表す姿でした。しかし、チェンナイの市街や郊外を見渡しても、そのような子どもはほとんど見当たりません。同じインド国内ではあるので、チェンナイの市街地にも、物乞いをしたり、手に商品を持って「買ってください」と信号待ちの車の窓をノックしたりする子どもたちはいますが、みんな普段着として見苦しくない程度の服装をしています。サンダルや靴も履いています。

そのことについて、チェンナイ市内で日本語の通訳をしている女性に尋ねてみると、チェンナイにはムンバイの「ダラビ」のような大きなスラム街がほとんどないため、貧困層が少なく、街が全体的に豊かであるとのことでした。チェンナイ市内には一か所だけ、他の地方から集まってきた人々が暮らすスラムエリアがあるのみで、ほとんどの子どもたちが、公教育を受けて育っているとのことでした。子どもたちの服装を見ただけでも、大都市ムンバイの貧困層との差は明白です。

子どもたちと一緒に歩く母親や、筆者の住むゲートソサエティで働く他の家庭のメイドさんや清掃係の方たちも、みなさんゴールドのピアスやブレスレットなどを身に着けており、毎日、色とりどりのサリーを着ています。ほんの少しですが、チェンナイの人々の暮らしを垣間見た限りでは、筆者のイメージとは大きくかけ離れた「豊かな街」という印象を受けました。

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サントメ大聖堂: チェンナイには多くのキリスト教の教会があります。16世紀にはポルトガル人によって多くの教会が建設されました。イギリスにより植民地化された後にサントメ大聖堂が完成し、1986年には、当時のローマ法王も訪れています。この教会は、キリストの弟子の聖トーマスを弔う為に建てられたと伝えられています。中に入ると、奥行きがありステンドグラスを通して色鮮やかな太陽の光が降り注いできます。
3.インドのお菓子

チェンナイに到着してからインド政府指定の7日間の隔離期間を終えて、筆者は家族とともにムンバイへの国内旅行に出かけてきました。夫は以前の勤務先に残してきた荷物を取りに行き、私たちはその後、ムンバイで暮らしていた家の近所の方々やお世話になった友人やお稽古の先生などへのお礼の挨拶など、一通りの用事を済ませることができました。ムンバイがロックダウンしたため急に日本へ一時退避してから、ムンバイに心を置き去りにしたままでおりましたので、この機会にすべてをリセットして、新たな土地での生活を始める心の準備も整いました。

さて、久しぶりのムンバイで娘が懐かしさの余り、大量に購入したインドのスナックがあります。南インドのチェンナイには売られていないかもしれないからと、なじみのお店で好みのお菓子を大量に買い込みました。路上のワゴン販売では、日本でも有名なサモサやサンドイッチの揚げパンなどが並んでいます。手軽に食べられる「パニプリ」というスナックは、北インドやムンバイでは定番のおやつで、揚げた丸いクラッカーのような器にマサラや刻んだ野菜などを詰め、そこに緑色の塩辛いタレを注ぎ、それを一口でパクっと頂くのがお作法です。今回は、新型コロナの影響で液体を扱うことが禁止されているため、それを食べることができませんでしたが、ローカルマーケットのワゴンスナックを堪能し、ご満悦の娘の笑顔に筆者も幸せな気分になりました。

それでは、インドの子どもたちが日常どのようなスナックを食べているのかをご紹介します。まずは、「ドライペーパードーサ」と「ライスパフ」です。ドーサは、南インドの食べ物です。ヨーグルトと小麦粉を混ぜて、薄く平たく円形に焼いた朝食用のパンの一つですが、ギー(ヤギの脂)を使用してクリスピーに仕上げているため、おやつ感覚で食べることができます。ココナッツなどのチャットニ―(チャツネ)というソースをつけて食べます。出来立てをその場で食べるのが美味しく、生では長時間の保存がきかないため、下記の写真(左)のような乾燥タイプのドーサが、お菓子屋さんで箱に入って売られています。日本の薄焼きせんべいのようなパリッとした食感です。味は、お店によって少しずつ異なりますが、プレーン・マサラ・チリ味などが定番です。インド人が、インド国外に旅行をする際に、持ち歩くことができるため、この国ではとてもポピュラーなスナックです。

ライスパフは、日本でもおなじみのお米からできたポン菓子です。こちらのライスパフは、少し長めのお米を使用しています。味は、ソルトのみで家庭で器に盛ってから、マサラパウダーやチリパウダーを好みで振りかけて食べることが多いそうです。しかし、子どもたちのおやつとしては、水あめやはちみつをかけて握ることができる大きさに固めてから食べることもあるそうです。我が家では、器に盛ってそのままスプーンですくって食べています。

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次に、南インドで特に需要の多い「バナナチップス」です。バナナチップスは、日本では甘いものが多いですが、こちらでは、ソルトまたはマサラの味がほとんどです。他にも、大豆を使用したスナックや「サブダナ」というタピオカの小さな粒を茹でて固めて塩味をつけ油で揚げたものなどが人気です。どのスナックも「カリカリ」としたクリスピーな食感が特徴です。そして、とても辛いチリパウダーでコーティングされています。これらのスナックは、専門店では250g単位で販売されており、一袋140ルピー(230円)くらいから購入できます。ローカルショップや量販店・スーパーマーケットでは、より低価格で入手できるものもあります。どのスナックも油で揚げてあるため、カロリーが高いのですが、チョコレートやキャンディーを食べるよりも安心で安全なスナックとして、多くのインド人の家庭に常備されています。

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インドのスナック菓子
上段の左から
  • ビンディのドライスナック:マサラ味のオクラにチリパウダーと食塩を混ぜて揚げたもの
  • バナナ・ワッフル:皮が緑のバナナをスライスして揚げターメリックと食塩で味付けたもの
  • ソヤ・カトーリ:カトーリはヒンディー語でボウルを意味する。それを模った大豆チップス
  • ボタン・バカルワディ:小麦粉にピーナッツを混ぜのり巻き状にしてカットし揚げたもの
中段左から
  • ガーリック・ムルク:小麦粉にガーリックパウダーを混ぜ、型から絞り出して揚げたもの
  • サブダナ・プリ:マッシュポテトにタピオカとスパイスとチリを混ぜて揚げたもの
下段左から
  • ナチニ・スティック:小麦粉に水とスパイスを混ぜて成型し乾燥してから揚げたもの
  • ソヤ・スティック:大豆粉にチリスパイスやマンゴーパウダーを混ぜて成形し揚げたもの
  • ペリペリ・ナチニ・チップス:小麦粉にチリスパイスを混ぜて揚げたもの
  • サブダナ・スティック:小麦粉にタピオカと食塩を混ぜて型から絞り出して揚げたもの
4.チェンナイ市内の日本食文化

チェンナイでは、ムンバイとは比較にならないほど「日本食」の文化が根付いています。驚いたのは、市内に何軒もの日本食レストランや、日本食や韓国食材を扱うスーパーマーケットがあることでした。また、ローカルなスーパーマーケットにも、「醤油・酒・みりん」は必ず置かれています。我が家に短期で引っ越しのお手伝いに来てくれたメイドさんは、チェンナイ市内にある日本企業の単身寮で日本食のコックをしている方でした。彼女はチェンナイで和食の作り方を学び、1週間ごとに献立を考え、材料を購入して調理し、一人ずつに盛り付けるという作業を平日は休みなく続けているそうです。彼女によると、「だし・みりん・酒・しょうゆ」これが日本料理の基礎で、あとは「砂糖・塩・酢・味噌」を用いて味を調節するとのことです。また、日本食は、スパイスの種類も少なく、工程も3段階ほどで完結するため、手間のかかるインド料理に比べるととても簡単なのだそうです。なるほど、彼女の言う通りです。インド料理の工程を見ていると、豆を水に浸したり、蒸したり炒めたり、野菜を細かく刻んだり、ミキサーで混ぜたり、粉を混ぜたり伸ばしたりと、朝食を作るだけでも、インド人は2時間くらいかけているようです。

「粉を混ぜたり伸ばしたり」という点では、「チェンナイで餃子を作る」という依頼を行う際に、ムンバイから招へいした我が家のメイドさんのロティ作りの技が見事に開花しました。「ロティ」とは、インドの朝食で出される直径が15㎝くらいの円形の薄いパンです。インドの子どもたちに大人気の、家庭で作られるパンの一つです。我が家では、餃子用に強力粉の生地をまとめて寝かせておくと、メイドさんが麵棒で同じ大きさの丸い餃子の皮に仕上げ、筆者は隣で種を詰めて形成するという流れ作業で、あっという間に夕食の餃子が出来上がります。ロティに比べると餃子の皮はとても小さいため、成形しやすいとのことでした。ちなみに、南インドはシーフードが豊富に手に入るため、我が家では「エビとコリアンダーの餃子」が人気メニューの一品に追加されました。

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インドの朝ごはん
写真左:ロティ(丸いパン)から時計回りに白米・ベジタブルサブジー(刻んだ野菜の炒め煮)・マンゴーピクルス・ダル(豆のスープ)
写真右:ロティ・カリフラワーサブジー・キャベツサブジー

インドの一般家庭では、「アタ」と呼ばれる中力粉を使ってパンが作られます。日本のような強力粉にイースト菌を混ぜてふっくらと焼き上げるのではなく、伸ばした生地を平たくして焼くことがほとんどです。スーパーで売られている食パンや朝食用のパンは、少しバサバサとした乾いた食感ですが、インド人はそこにマサラポテトやつぶした野菜を炒めたものなどを挟んで食べています。インドでは強力粉や薄力粉は一般的にはほとんど用いられていないのです。

しかし、チェンナイには強力粉とイースト菌を用いた日本人や韓国人向けのベーカリーがあります。見た目も食感も味もすべて、日本で購入するパンと同じくらいのクオリティで、とても満足しています。お客さんの中には、富裕層家庭の方も多く、幼い子どもを連れたインド人の若い夫婦の姿も見られます。父親が「どれがいい?」と子どもに尋ねると、「チョコレート、それからチーズ!」と子どものかわいらしい声が店内に響きます。母親は、慣れた手つきでトングを用いてパンをつかみ、トレーにのせていきます。まだ、チェンナイに住んで日が浅い筆者には、チェンナイ生活のすべての光景が新鮮に映ります。

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強力粉とイースト菌を用いた日本人や韓国人向けのパン

最近では、チェンナイ市内のとある日本食レストランに「しゃぶしゃぶ食べ放題」というメニューもお目見えしました。日本と同様にスープや野菜やお肉を選んで、日本のカレーライスやおつまみの一品料理なども追加料金なしで注文できるというシステムです。ムンバイにいた時には経験できなかった贅沢を味わうことができました。

おわりに

チェンナイのアメリカンインターナショナルスクールでは、11月1日より、教員・スタッフ・児童・生徒の学校への立ち入りが認められ、オンライン授業から通常授業へとやっと移行することになりました。入校には、毎週金曜日に全生徒が各家庭で抗原検査を行い、専用のアプリを用いて、その結果をアップロードすることが義務付けられています。検査キットは、事前に学校から生徒に無料で配布されており、検査結果が出た検体を袋に入れて持参すると教員による目視確認と検体の回収が行われます。同時に、アメリカン・インターナショナルスクールの校内に設けられている日本人補習校でも、対面授業が開始されました。このタイミングで、一時退避先の日本から戻ってこられたご家族も多いとのことで、少しずつ日本人コミュニティも賑わいを取り戻していくことと思います。また、チェンナイ市内に再び子どもたちの賑やかな声が響き始めると、筆者の現地での調査や研究も本格的にスタートします。子どもたちがインドの民族舞踊に取り組む様子などを追ってレポートしたいと思います。

我が家は、幸運にもムンバイから引き続き、同じメイドさんとドライバーさんが生活のサポートをしてくださることとなり、快適に過ごすことができています。チェンナイのローカルエリアでは、同じインドでありながら、ヒンディー語はほとんど通じることがなく(第1回参照)、タミル語の全く話せない筆者とメイドさんは、一緒にローカルマーケットに出掛けては、あれでもない、これでもないと言いながら必要な野菜を手に入れたり、タミル語の話せるドライバーさんに通訳をしてもらいながら、ドゥルガー神に歌や踊りを祈りとして捧げるナブラートリーのお祭り(【インドの育児と教育レポート】 第7回 インドのヒンドゥー教のお祭り参照)の花を手に入れたり、和気あいあいと過ごしています。

最後に、相も変わらず筆者のインドの伝統的な衣装への興味は醒めることなく、先日チェンナイで一番大きな「チェンナイシルク」のショップに出掛け、早速、玉虫色に光り輝くシルクサリーを購入しました。現地での生活が少しずつ彩られていくのが楽しく、充実したチェンナイ生活への期待でいっぱいです。

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チェンナイ産シルクのお店では、サリー生地を広げてお客さんに見せてくれます

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自宅付近のヒンドゥー教寺院。色とりどりのカラフルな像が南インドの特徴

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院(児童・保育学)にて南インドの教育研究及びインド舞踊の研究中。 約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月より2020年4月までムンバイ在住。2020年9月よりチェンナイ在住。
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