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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第21回 クロスカントリー大会

要旨:

ニュージーランドの小学校で通常は秋(5月)に行われているクロスカントリー大会が、今年は新型コロナウイルスの影響で冬(8月)に延期となり、更に再び新型コロナウイルスの影響で春(9月)に延期となりました。必ずしも競うだけを目的としていないクロスカントリー大会の様子について紹介しています。

ニュージーランドの小学校では、毎年秋(5月)ごろにクロスカントリー大会が開催されます。行っている内容は日本のマラソン大会にそっくりのように思いますが、緑の芝生が広がる中を子どもたちが駆け抜けるためか、見ていて美しい光景です。教育省のカリキュラムでは、クロスカントリー大会を開催しなければならないというわけではありませんが、多くの小学校で開催されます。校内大会で上位の入賞者は選抜されて、近隣の小学校を代表する地区の大会へと勝ち進んでいきます。例年は5月頃に校内のクロスカントリー大会が開催されていますが、今年は新型コロナウイルスの影響で7月から練習を開始し、8月が校内大会として予定されていました。この予定変更も、オークランドのみコロナウイルスに対する二度目のレベル3への警戒レベル引き上げとなったため、更に変更になり結局9月に保護者の参観なしという形でクロスカントリー大会が行われました。

走る距離は5歳の子どもは600mくらい、そして年齢が上がるとともに徐々に長い距離を走るようになり、高学年では2km弱のコースになります。普通のレースは男女年齢別に行われますが、娘の学校では9歳以上の高学年になると、結果を競うレースとは別に「競争をしないレース(no competitive race)」というものが用意されており、選択することができます。こちらのレースは距離も短く、性別も順位も問わず楽しく走ることができるそうです。ただし、どんなに早く走っても、たとえ1位になったとしても、地区大会などに選抜されることはありません。娘が高学年になって初めての今年、どちらのレースを選択するのかなと思っていたのですが、担任の先生からは「筋肉に適度に負荷をかけることは子どもにとって健康につながることだから、無理はしなくていいけど挑戦してみるのも良いことだよ」という話があったそうで、娘は競争しないレースを最初に選んだものの、年齢別で競うレースに参加してみようと思って変更したとのことでした。本当は速く走れる子どもが「競争をしないレース」を選んでしまって、選抜される機会を失うことのないようにだと思いますが、他の先生方からもできるだけ競うレースを選ぶようにという働きかけがあったそうです。ちなみに、このようにレースの選択肢を増やして対応するだけではなく、走るのが苦手で恥をかいてしまうと心配するような子どもたちへの配慮として、クロスカントリーへの参加自体を任意にする小学校もあるようです。

レース選択があった日に、迷わず競うレースを選んだ上位常連のクラスメイトに、娘は「走るの速くてすごいね。なんでそんなに速いの?」と聞いたそうです。すると「走ることが好きだから」という答えとともに「走ることは好き?」と質問されたそうです。そして、娘はあらためて「好きではないな」と思い、自分がそんなに速く走れない理由に納得がいったとのことでした。ただ、「走るのが好き」というのはどういう感覚なのかについてはとても興味がわいたようでした。私自身も子どもの頃を思い出すと、とても速く走れる友人であっても「好きだから」と表現して走っていた子どもに会った記憶がなく、走る技術、スピード、運動神経、体型などに焦点があった気がします。そのため、私にとってもその子の話は新鮮で、好きだと思って走れることはそれ自体が素敵なことだなぁと思いました。

そんな娘との会話をきっかけに、少し調べてみたところ、興味深い調査を見つけました。ニュージーランドにいる全ての一般の人のウェルビーイングに寄与することを目的とした機関であるスポーツニュージーランド(Sport NZ)の行った調査iでは、6歳から13歳の子どものうち、4分の1の子どもが走ることを楽しんでいないのだそうです。そのこと自体を問題意識として取り上げていますが、逆に言えば4分の3の子どもが楽しんでいるということになります。また、クロスカントリーを楽しいと答える割合は、年齢が上がるにつれて減り、男女別では女子の方が少ないそうです。スポーツニュージーランドでは、クロスカントリーを楽しむコツとして、学校で取り組める楽しい練習方法の紹介などもなされているようですがii、結局一番のカギは保護者の働きかけのようです。クロスカントリーを楽しんでいる子どもには、親が走ることに対して「肯定的な働きかけ」をしているのだそうです。また学校でのクロスカントリー大会に向けて、37%もの子どもたちが保護者と練習を積んでいるのだとか。こうした子どもはクロスカントリーを楽しめる割合がぐっと増えるそうです。こうした傾向を知ると、なるほどとは思うものの、私自身は娘のクロスカントリーの練習には付き合えずに過ぎてしまいました。ただ、私は例年「身体も他の子どもと比べて華奢だし、遅くてもあまり気にしないようにね」「そんなに無理しなくていいよ」といった声かけをしてしまっていたのですが、今年は「走ることの楽しさは分かった?」「ロックダウンで身体が弱っているから体力がついてちょうどよいのかもしれないね」「毎日練習していて偉いね」など、学校での練習に疲れて眠いと帰ってくる娘に対して、例年と比べれば前向きな言葉を発していた気がします。娘自身も、どういう走り方をしている子が速いかといった細かな観察をしていました。

冒頭で触れた通り、新型コロナウイルスの感染防止の観点から、本番は保護者の観戦はなしで行われたので直接見ることはできなかったのですが、娘の年齢のレースでは、娘に走るのが好きと話してくれた女の子が優勝に輝いたそうです。改めて好きというパワーは大きいのだなと親子で勉強になったイベントになりました。続けて「来年はやっぱり競争しないレースに出てみようかな」と思案する娘の姿を見て、自分の得意分野、何が好きなのか、当日の負担などいろいろ考える良い機会になっているようにも感じました。今後、娘が何を考えてどちらのレースを選んでいくのか少し楽しみです。

例年ですと、小学校から近くの広々とした公園に全員で歩いて移動して、年齢の低い順番に走ります。そもそも開会式や準備運動などもないので、小学校の全学年分でも2時間程度とそれほど長時間でもなく終わるのですが、各レースの大体のスタート時刻があらかじめ親に知らされているので、自分の子どもの時間だけピンポイントで応援にくる保護者も多数います。ニュージーランドらしい明るい緑の中を駆けぬけていく子どもたちの姿と、犬の散歩ついでに来たようなカジュアルな装いで犬を連れてくる人から、仕事を抜け出して応援にきていると思しきスーツ姿の人まで、服装も様々な保護者の姿。1年前は当たり前だったその光景を懐かしく思い出し、早くそんな日常が戻ってきて欲しいなと思います。

report_09_381_01.jpg はじめてクロスカントリーに参加した5歳頃の様子




注記



筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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