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【スウェーデン子育て記】 第23回 子どもの肥満問題と学校生活

2017年の秋学期がスタートしました。新学期の初日は、いつもより1時間遅い登校で授業はなく、新学年のオリエンテーションがありました。長女は5年生、そして次女は新1年生となりました。2人とも新しい気分で学校生活が始まったようです。

初日は新学期の予定表など、たくさんの資料が配られました。その中には今学期の行事の予定表も入っており、これから始まる課外活動がいくつも載っていました。中でも目立つのはスポーツを中心としたアクティビティー等。秋学期はこれから冬に向かって、どんどん日が短くなり寒くなる時期です。外で遊ぶ機会も減ってゆくことから、運動不足にならないように、マラソン大会やスポーツ大会などの楽しい行事はもちろん、水泳テストなども用意されているようです。

子どもの肥満問題

スウェーデンでは10月末には夏時間(サマータイム)が終わり、冬時間が始まります。夏休みが終わるとともに、気候も変化し朝晩は肌寒くなっていきます。夜遅くまで明るかった夏とは違い、暗くなる時間が早まってくるので、子どもたちが室内で遊ぶことも多くなるのは仕方のないこと。しかしながら、ここ数十年で盛んに議論されており、また近年になってさらに議論の対象となっている問題があります。それは1980年代から増加し続け、現在でも大きな問題になっているスウェーデン国民の肥満問題です。

スウェーデン統計局の調査を見てみると、1988年と2010年とで国民のBMI値を比較した結果、男女ともに標準体重の人が減り、その代わりに標準体重以上と、肥満の人が増えているとのこと(資料1)。この調査は16歳から80歳代までを対象としており、どの年代でも女性より男性の肥満率が多いという結果が出ています。ちなみに2010年の時点で、16−19歳の年代では、女子の16パーセント、そして男子の18パーセントほどが肥満とされています。スウェーデン国民は、定期的にジムなどに通って運動をする人が多く、その割合も増えているそうですが、同時に全く運動をしないという人も常に15パーセントほどおり、これは1980年代から変わらないそうです。肥満の割合は、中年期に向かうにつれどんどん増加し、50−59歳の男性では約65パーセント、そして70−79歳の女性では約55パーセントの女性が肥満とされているそうです。肥満に伴う様々な疾患が医療費の増加につながるということから、この肥満問題はかなり重要視されていて、新聞等のメディアでもこの議論を目にすることがよくあります。

また肥満問題は、成人だけに限らず子どもたちの問題でもあります。こちらも近年では増加の傾向があると言われています。2017年2月の発表では、8歳児男児の肥満の割合が1990年代に比べて減少に向かう傾向が見られる、ということですが、それでもまだ肥満問題は大きく、今後も子どもたちの健康問題とともに対応策が必要とされる問題点であるそうです(資料2)。

教育プランの改正案

このような問題を背景として、昨年の2016年頃から国会で議論がされている点の一つに、学校教育の中で児童の運動量を増やすといったプランがあります。現行の小中学校の教育プランでは、9年間で約500時間の運動時間(様々なアクティビティーや体育の時間など)が組まれていますが、これを20パーセント増の600時間にするという提案です。まだ提案の段階なので、具体的にどのような形で運動量を増やすのか、といった議論はされていません。しかし例えば、現在は9年間で約382時間が当てられている「生徒の選択による時間(Elevens val)」という活動の時間を運動に使うという案があります。この時間は生徒がそれぞれ与えられた選択肢の中から、自分の知識や能力を深めたい科目を選んで学ぶ、という時間です。毎週決まった時間数が与えられている、ということではなく、学校ごとにどのような形でこの時間を使うか、という決定がされています。

表1 各科目ごとの小中学校9年間の授業時間
スウェーデン語1490
英語480
数学1125
地理・歴史・宗教・社会885
生物・物理・化学800
外国語320
美術230
家庭科118
体育・保健体育500
音楽230
技術330
生徒の選択の時間382
6890

表1にあるように、小中学校の教育プランでは、基本的に9年間で6890時間の授業が行われることになっています(資料3)。しかしこのうち600時間は、各学校による変更が可能です。ただし、スウェーデン語、英語、そして数学の3つの科目については授業時間を減らすことはできません。そこで、生徒の選択によって活動内容が決められる時間を運動に充てよう、ということなのですが、その決定にはまだ時間がかかりそうです。ちなみに、日本の体育・保健体育の時間数は、小学校6年間で約448時間、中学校3年間で約263時間ということです。日本の小中学生は勉強だけではなく、しっかり運動にも時間を割いているのですね!非常に良いことだと思います。

日本の学校と違って、放課後のクラブ活動といった時間がスウェーデンにはありません。サッカーやダンス、スイミングなどの人気のスポーツは、各家庭で子どもの送り迎えをして習わせています。そのようなスポーツ系の習い事をしている子どもには運動不足といった問題はないのかもしれませんが、放課後に体を動かすことが少ない子どもにとっては深刻な問題になりうるかもしれません。

適度な運動量の増加は、学習能力を高めるという調査結果もあります(資料4)。これから室内で過ごす時間が増える時期を迎えるにあたり、私も子どもたちと一緒になって、意識的に運動をしていかなければいけないな、と考えているところです。

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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