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【スウェーデン子育て記】 第22回 10代の夏のアルバイト

6月半ばから始まった2ヶ月間の長い夏休みが、とうとう半ばを過ぎました。ストックホルム市内では観光客の姿が多く見られますが、通勤時間の電車やバスは空いていて、ラッシュも無く快適です。社会人でも3~5週間ほどの長い夏休みをとることが多いので、この時期はレジャーシーズン真っ盛り!8月後半に始まる新学期まで、残りの夏休みを楽しむために旅行に出かける人はまだまだ多いようです。

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ストックホルム市内の遊園地

スウェーデンの電車やバスといった公共交通機関では、12歳からが有料(8歳から11歳までは、平日のみ有料)となります。ただし夏休み期間は子どもたちの活動範囲が広がるということから、スウェーデン第二の都市のヨーテボリ市では、今年、小学6年生から高校2年生までの学生に向けて、夏休み期間(2017年6月1日から8月31日まで)の乗車が無料になる定期券が交付されるという決定がされました。数年前にも実施されたことのようですが、この行政の決定には驚きました。これで若者も外出しやすくなりますよね。

先日、我が家はストックホルム市内にある遊園地へ出かけました。平日を選んで行ったので、思ったより混雑はしていませんでした。遊園地内では、たくさんのアルバイトの学生が働いているのが目立ちました。アトラクションの安全確認をしたり、売店で販売をするスタッフは、ほとんどが10代か20代くらいの若者でした。そういえばこの時期は、どこのレストランでも若い子がたくさん働いているなあ、と思いました。スウェーデンでは学生の普段のアルバイトが日本よりも一般的ではなく、アルバイトは夏休みにするという子が多いようです。スウェーデン統計局(http://www.scb.se)の2015−2016年の調査によると、13歳から15歳の子どもの11%と、16歳から18歳の子どもの52%が夏のアルバイトをしています。しかし学校が始まると、アルバイトと兼業することはあまりないようです。年間を通してアルバイトをする13−15歳の子どもはおよそ9%、そして16−18歳では29%とのことです。

以前、うちにも17、8歳くらいの学生が2人、夏休みのアルバイトのチラシを持ってやってきました。スウェーデンでは、家庭でDIYをすることが多いので、夏休みに大かがりな家の修理をしたり庭の手入れをするためには人手が必要となります。それを見込んで、彼らは便利屋さんのようなアルバイトを考えついたのでしょう。車の免許があるということで、リフォームの手伝いから庭の草刈りまでなんでも引き受けます、ということが書いてありました。なかなかいいアイデアだなと思いました。

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遊園地内の飲食店。店員のほとんどが学生アルバイトのようでした。

10代のアルバイトについて

スウェーデンでは、原則満15歳を迎える年からアルバイトを始めることができます。ただし簡単で危険のない軽作業であることや、職場での監督者がつくことが条件です。15歳以下の子どもに関してはさらに保護者の監督などの規制がつきます。子どもが販売の労働に就く場合は、年齢制限が設けられている商品(例えば酒やタバコ)の販売をすることはできません。満15歳の子どもに許可されている労働時間は、夏休み期間中は1日7時間、学期中は1日2時間までです。週に35時間を超える労働は許可されていません。

そして満16歳になる年からは、労働条件が少し変わります。義務教育が終了する年齢でもあるので、より成人に近い労働条件となります。週に40時間、つまり一日8時間労働をすることができるようになります。もしも残業などで一日の労働時間が8時間を超えた場合は、そのぶんの超過時間を次の日に減らすことでバランスをとります。しかし、仕事と仕事の間は、最低でも11時間の休息を取らなければいけないという条件がつきます。そして満16歳の子どもに関しては、夜間の22時から朝7時までの労働は禁止されています。

成人年齢前、つまり18歳未満の子どもの労働については、かなり厳しく条件が整えられていることは、日本もスウェーデンも変わりがないように思います。つい最近のニュースで、2020年の1月から国連の定めた国際条約の一つである「児童の権利に関する条約」が、スウェーデンの憲法に組み込まれることが決まったと報道されました。これで一層、子どもの権利と人権が重要視されることになるでしょう。

アルバイトを探すには

15歳になる年齢からは、自分でアルバイトを探すことが可能になります。一般的には友人や両親のツテを頼りに、企業やお店でのアルバイトを探すようです。スーパーマーケットや、レストラン、老人ホームなどは、夏休みに正規社員が長い休暇を取るので、アルバイトを募っています。アルバイト情報は、インターネットやハローワークのような機関から見つけるそうです。学生アルバイトの時給については、短期雇用なのか、長期的な雇用なのかといった雇用形態により異なります。

職種によっては、労働協約によって最低賃金が決められている場合もありますが、一般的に15歳の学生に支払われる時給は50クローナから80クローナ(日本円にして660円から1060円ほど、2017年7月のレート、以下同様)程度です。ちなみに、ホテルやレストランのサービス業では、17歳以下の労働者に対する最低賃金は76.5クローナ(日本円にして1,010円)ほどだそうです。

コミューンでのアルバイト

スウェーデンのほとんどのコミューン(自治体)では、公的機関での夏のアルバイトを紹介していますが、とても人気があるため、募集する数よりも多くのアルバイト応募者がいることが普通です。 応募できる条件として、年齢の制限枠に入っていること、またコミューンに住民登録されている必要があります。夏のアルバイトの募集は、かなり早い時期に始まるようです。その募集期間は、2017年の場合だと、ストックホルムコミューンでは2月24日から3月17日まで。他のコミューンでも春休みごろまでには、夏のアルバイトに応募しなければいけないことになります。

採用されたかどうかの通知は、5月末までに知らされるそうです。18歳未満の学生の場合、夏のアルバイトをする際には保護者のサインが必要となります。仕事内容は、例えば公園の整備、学童のアシスタントや老人ホームのアシスタントなどです。

税金が高いことで知られるスウェーデンですが、学生の場合、2017年の所得が1万8951クローナ(日本円で25万円ほど)未満であれば、課税の対象にはならないとのことです。夏のアルバイトは、基本的に3週間という期間が設けてあるそうで、2ヶ月間という長い夏休みのうちの3週間をアルバイトに費やすことになります。この処置も、なるべく多くの学生に仕事を振り分け、かつ子どもの過剰な労働を避けるためでしょうか。

コミューンでのアルバイトの時給は以下の通りとされています。

16歳 85クローナ(1,123円)
17歳 95クローナ(1,255円)
18歳 105クローナ(1,387円)
19歳 115クローナ(1,519円)
    (参考 ストックホルムコミューン ホームページ)

我が家の長女もあと5年ほどで、夏のアルバイトができる年齢になります。欲しいものが買いたいから、という理由で今から楽しみにしている様子です。仕事として給料をもらうからには楽なことばかりではないと思いますが、子どもたちが夏休みのアルバイトを良い経験にしてくれるといいと思います。

* 13歳からでも働ける場合もあります。

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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