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【スウェーデン子育て記】 第18回 高校卒業後の進路

下鳥 美鈴

2017年1月13日掲載

先日、図書館の児童書コーナーで面白そうな本を見つけました。「大きくなったら何になりたい?(Vad vill du bli när du blir stor?)」という題名の本です。子どもたちに向け、何をすることが好きなの?と問いかけたうえで、世の中にはいろいろな仕事があって、大きくなったらどんな仕事でも選べるようになること、たくさんの選択肢があることを示してくれる内容になっています。小さいうちは、誰でも突拍子もない夢をもったりするものです。それはとても素晴らしいこと。大事なことは、まず自分の興味のあることを見つけることと、そしてまわりの大人が未来にはいくつもの可能性があることを子どもに伝えることだと紹介しています。私の2人の娘たちも小学生になった今、これはとても大事なことだなと改めて考えさせられました。

折にふれ、我が家の娘たちに「どんなことが一番好きなの?」と聞いてみることがあります。その時々で彼女たちの好きなことは変わるし、なりたい職業も変わります。まだ小学生なので当然のことだと思いますが、これが高校生くらいになるとこの質問ははちょっと現実味を帯びてきます。実際に高校生の時点で、自分が将来就きたい仕事をしっかりと見定めている子どもは少ないと思いますし、これは日本でも変わらないと思います。大学に行ってから、勉強を進めていくうちに方向が定まってくるという生徒もたくさんいます。

しかし高校を卒業してから社会にでるまでの期間にどういう選択肢があるのかという点に関しては、スウェーデンの高校生は日本人とちょっと違った展望をもっているようです。私の大学の生徒たちや高校生の子どもがいるママ友に話を聞くと、高校卒業後の進路として大学進学を考えている生徒ばかりではないことがひとつ。かといって、一度就職をしてもその後の大学の進学を考えていないわけではない、ということがひとつです。スウェーデンでも日本と同じように、就職の際に大学卒業資格が重要視されることに変わりありません。しかし日本のように「大学新卒」という身分がとにかく優遇されるという考えはなく、あくまで個人のもつ学歴・職歴や資格が重視されるため、高校卒業後の進路には選択肢に幅があるようです。

高校卒業後の進路

スウェーデンの教育委員会にあたるSkolverket(http://www.skolverket.se/)が2008年に全国の高校を卒業した子どもたちを対象に行った調査があります(参考資料1)。調査の目的は、高校卒業後の5年間を追跡調査し、子どもたちがどのような進路に進んでいるのかを調べるものです。調査対象は普通コース(45,925名)と職業コース(33,697名)に通った生徒たち。調査対象となる生徒たちは、高校終了時に高校の卒業資格を満たしている者、単位不足などで卒業資格を得られていない者、そして高校に1年間ほどしか通わなかった者、というように分けられたうえで、進学しているか就職しているのか、仕事をしている場合はどのくらいの年収を得ているのか、という項目を卒業後の5年間、毎年追跡調査されています。

普通コースに通った生徒たちの卒業後

調査結果を詳しく見るといくつか興味深いことがわかります。まず高校の卒業資格を得た生徒の半数近くは、卒業1年後の時点で大学に通っています(約45%)。参考までに日本における同様の文部科学省の調査結果と比べてみると、日本では大学進学率(短大を含む)が6割弱となっています(参考資料2)。日本よりも高校卒業直後の大学進学率は低いのですが、2年後、3年後とその数は増えていきます。次に多いのはアルバイトなどで年収185万円以下の仕事をしている生徒(約25%)。しかしこの数は2年後、3年後と減っていくことから、卒業後にまずは仕事をして、その後進学をする生徒が多いことがうかがえます。また、18歳で成人するスウェーデンでは、大学入学を機に1人暮らしをする人が多いこともあり、まずは少しお金を貯めてから大学へ進みたい、という人が多いのかもしれません。

グラフ1 普通高校卒業資格を得た生徒の進路(人数 45,925名)
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220万円以上の年収を得て仕事をする生徒の数は卒業後にどんどん増えていきます。この数値は、高校卒業資格を得ていない生徒でも同様ですが、高校の卒業年齢になった時点で単位不足などの理由により卒業資格を得られていない生徒は、卒業後に改めてその資格を得る勉強を続けて、のちに就職するというパターンが多いようです。やはり高校卒業程度の学歴があるかないかということは、就職活動を左右するのでしょう。また、高校卒業時にその資格を得ていない生徒と得ている生徒の違いは、その後の大学進学率に大きく表れます。大学で勉強を続けようと考える人の多くは、高校の3年間にきちんと単位を修めて卒業する生徒のようですね。

職業コースに通った生徒たちの進路

高校の職業コース(例えば、エンジニア、コック、建築関係など)に通った生徒の多くは、卒業後すぐに就職したり自分で会社を立ち上げることを目標としています。従って、卒業後の進路は普通コースの生徒と大きく異なり、就職をして収入を増やしていく生徒がほとんどです。大学に行く生徒は20パーセントに満たないという結果を見ると、職業コースに通う生徒は、働くということにしっかりと目標を定めているように思えます。

グラフ2 職業高校卒業資格を得た生徒の進路(人数 33,697名)
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勉強は一生できる

私が勤務する大学では、日本の文化や社会なども教えることがあります。そのようなコースに通ってくるのは若い学生たちばかりとは限りません。ごく普通に社会人として昼間は仕事をしている社会人が、自分の知識や教養を増やすために大学に通ってきます。社会人になってから学ぶ勉強は、自分の仕事の幅を広げるという目的もあるでしょうし、仕事に直接かかわることではない場合もあるのかもしれません。しかし、何歳になっても学びたいことを学べる大学の雰囲気はとてもいいなあ、といつも思います。仕事のための勉強というのはもちろん、知識や教養のための勉強というものも大事です。

毎日の忙しい日常の中では、「宿題しなさい!」と言うばかりで、子どもたちに勉強をすることの意味を教えてあげることができていないことを反省することしきりです。勉強することで未来の可能性が広がる、ということをなるべく多く示してあげられたらいいな、と思います。



参考資料1 Skolverket "Vad gör ungdomar efter gymnasieskolan?": http://www.skolverket.se/
参考資料2 文部科学省 学校基本調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/1268046.htm

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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