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【スウェーデン子育て記】 第3回 小学生のカバンの中身

スウェーデンの学校は春学期(1月~6月上旬)と秋学期(8月中旬~12月)の二学期制で、夏休み前の6月半ばには終業式が行われます。我が家の次女の保育園でも、9月から小学校に入る前のプレスクールクラスに通い始めるお友達とはお別れの季節でした。スウェーデンではプレスクール(保育園: 1歳から5歳まで)のあと、その年に6歳をむかえる年齢の児童は1年間、プレスクールクラスに通うことができます。プレスクールクラスでは、その後始まる小学校生活に慣れるための準備などがされています。

日本では子どもが小学校に入学するとなると、親はその準備に追われて大わらわ、なんて話を友人から聞いたりします。ランドセルを用意したり、指定の体操着を買ったり、持ち物に名前をつけたりと、たくさんの準備が必要となるようですね。

我が家の長女は、9月から小学校三年生です。3年前に彼女がプレスクールクラスにあがるときには、私にとっても初めての体験ということで、たくさんの準備が必要なのだろうと想像し、緊張していました。長女は近所にある公立小学校に通うことになっていたので、入学前にはすでに小学校へ通っているお子さんをもつお母さんたちに色々な話を聞いたりしました。しかしプレスクールクラスは考えていたよりのんびりペース、というか保育園の延長のような感じでした。あまりに変化が無くてホッとしたような物足りないような。でも子どもにとっては、いきなり環境が変わるよりは徐々に学ぶ環境に移行してくことのほうが良い点もあるかもしれないと思っています。

長女の学校生活は、一年生に進級してからも大きな変化はありませんでした。保護者を集めての説明会はありましたが、日本のようにフォーマルな「入学式」も無いので、節目を尊ぶ日本人としては、これまた少し拍子抜けでした。しかし、これもお国柄の違いでしょう。

スウェーデンの小学校生活はそんな感じでどこか日本とは違っています。今回はスウェーデンの小学生のカバンの中身を覗いて、日本の小学生との違いを探してみようと思います。

教科書

教科書は学校で配られますが、日本のようにいくつもの教科にそれぞれ教科書があるわけではありません。主にスウェーデン語と算数の教科書をよく利用するそうですが、他の教科では先生が独自の教材を考えてくれたり、自分たちで作ったりしているそうです。教科書や教材は、ほとんど学校で与えられるそれぞれの棚に置いてくるので、毎日持っていくカバンの中に教科書は見当たりません。「こんなに空っぽのカバンでいいの?」と心配になりますが、これが普通のようです。重い教科書をランドセルいっぱいに入れて、毎日通っていた自分の小学生時代を考えると、違うんだなあ、と思います。長女の学校では、担任の先生から定期的にメールが送られてきて、どんな学習をしているのか報告されます。日本と同じように、三者面談もあります。学習面でもう少し頑張ってほしいところや、生活面での話もされますが、小学校二年生までは成績表がないので、まだまだのんびりムードです。

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二年生で使った手作り教材。夏休みにはアサガオではなく、ミニトマトを育てます。

夏休みといえば、たくさんの宿題も心配でした。2か月間もある長い夏休みなので、さぞ宿題もたくさんでるだろうと思っていましたが、読書の宿題があるほかには算数ドリルも絵日記もありませんでした。夏の短い北欧で、小学校低学年の子どもたちは目いっぱい夏休みを楽しんでいます!

ランドセル・筆記用具など

ピカピカの一年生、といえば新しいランドセルを思い浮かべるくらい日本では定番の必需品ですが、スウェーデンではそういった指定カバンは無いので、使いやすいリュックサックで通学します。当然、日本の小学生のお決まりの黄色い通学帽もありません。日本人としてみると、なんだか物足りないような気もしますね。

ランドセルや通学帽と並んで定番の持ち物は、新しい筆記用具や筆箱、というイメージをもっていたのですが、スウェーデンの学校では必要な筆記用具は全て学校が用意したものを使用するようです。鉛筆も消しゴムも、ハサミなどの工作用具もすべて学校のものを使っています。義務教育(小・中学校)は完全に無料である、と法律で定められているためでしょう。いくつかの遠足などにともなう交通費などを除いて、親が費用を負担することはありません。学校ではみんなが同じ筆記用具を使うせいなのか、文房具店を見ても日本のような筆記用具・ステーショナリーの流行は少ないように感じます。

うわばき・体操着・水着など

学校に着くと、子どもたちはまず入り口で外履きの靴から室内用の靴やサンダルに履き替えます。これといって学校から指定されたものはなかったので、長女には履きやすいサンダルを持たせています。体育館で体育の授業があるときは、普通の運動靴を室内用にして使っています。 体操着も学校指定のものはありませんでした。とりあえず、最初のうちは動きやすいスウェットなどを持たせていましたが、学年があがってくると、スポーツ用品店で売っているようなジョギングウェアなどを友達が着ているということなので、娘もそれを使っています。日本と違う点として一番驚いたのは、体育の後には子どもたちはちゃんとシャワーを浴びて汗を洗い流すということ。そのため、体育の時にはバスタオルも持参です。これも日本の小学校ではなかったことで驚きました。

夏になると日本ではプール開きがあり、毎週の体育は水泳になりますが、こちらの小中高等学校では学校内にプール施設がありません。水泳の授業は一年生の時に数回ありましたが、まず水に慣れる練習と、着衣のまま水に入って泳ぐ練習をさせるということでした。水着を着て、クロールや平泳ぎなどの水泳を教えてくれる機会は学校ではありませんので、子どもは学校外のスイミングスクールに通ったり、両親が教えたりしています。スウェーデンは、海や湖が近くにあるところが多いので、夏休みになると湖で泳いだり、カヤックの練習をしている光景もよく見ます。

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湖でのカヤック教室

学校の「果物の時間」

ランチは給食があるので、お弁当などを持っていく必要はありませんが、毎朝学校へ行くときには必ず、果物がカバンに入っているかどうかを確かめます。スウェーデンのほとんどの小学校では、「果物の時間」というものがあるからです。午前中の授業の中休みに、小腹の空いたお腹を満たして授業へのエネルギーを補充するために、それぞれ好きな果物を持っていって食べるそうです。これはもちろん学校からの強制ではありませんが、習慣としてバナナやリンゴなどを持っていくことになっています。スウェーデンでは、野菜や果物を積極的に子どもに食べさせる志向があるようです。スーパーマーケットの果物コーナーには、子ども向けにリンゴやバナナなど無料の果物を提供するカゴが置いてあるところが多いです。また、大人でもとにかく間食するなら果物という考えのようで、職場にフルーツバスケットを配達する専門の業者もあります。こういった小学校での習慣のせいなのか、大学生でもよく果物を持ち歩いて、授業の合間に食べたりしている姿がかなり多いことに驚いた記憶があります。こうした考え方の背景には、1980年代から1990年代ころを境に増えてきた肥満の問題があると思います。とくに若い女性の肥満は増加傾向にあるそうなので、子どものうちから健康的な食事を心がけさせようという意図なのかもしれません(参考資料1)。

しかし毎日持っていく果物が家計の負担になると考える保護者もいるようです。月曜日から金曜日まで毎日一つの果物を持っていくうえ、子どもが複数いる家庭になると1年間の果物にかかる費用は安くない、ということが理由です。義務教育は無料である、という法律に基づき、近年にはこの「果物の時間」を設けない地方自治体があったり、学校が果物を用意するべきだとする意見もあります。現状では果物を持っていくかどうかの選択は各家庭の自由ということで落ち着いている様子ですが、長年続いてきた果物の習慣はこれからも続きそうです。

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スーパーの野菜コーナーのディスプレイ


参考資料1
http://www.scb.se/statistik/_publikationer/BE0801_2007K01_TI_00_A05ST0701.pdf

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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