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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第39回 ベルリン日本人国際学校

シュリットディトリッヒ 桃子

2020年4月 3日掲載

要旨:

「ベルリン日本人国際学校」は、小中学部から成る全日制の日本人学校であるが、小規模校であることを最大限に活かした教育が行われている。児童生徒と教員の距離が非常に近いため、きめ細かな教育を日常的にわたり行うことが可能である。また、校舎は地元小学校と同じ敷地内にあるため、地元の子どもたちとの交流をもつことが日常的となっていることも、英会話・ドイツ語の授業に加えて国際教育を掲げる一要素となっている。さらに、ベルリンという土地ならではの、様々な行事を通じ、子どもたちは豊かな経験を積み上げていくことができている。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、ベルリン日本人国際学校、日本人学校、日本語補習校、シュリットディトリッヒ桃子

ベルリンには日本語で授業を行う学校として、日本人学校と日本語補習校が存在しています。日本語補習校については以前「【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】第9回日本語補習校」および「【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第19回日本語補習校小学部」にて記したとおり、概して当地に定住し、現地校に通う子どもたちが、放課後週1回通学し、日本で使用されている教科書を用いて主に国語(補習校によっては算数も)を学ぶ学校です。授業は日本の文部科学省の学習指導要領に基づいて、現地採用の教員により行われています。また、ベルリンには補習校は2校ありますが、どちらも0歳児の未就学児から18歳の高校生までのクラスで成り立っています。

一方で、日本人学校とは、全日制の学校で、通常は平日の昼間に日本国内の小・中学校と同様の教育を行っています。今回はベルリンの日本人学校「ベルリン日本人国際学校」をご紹介したいと思います。

*本稿における日本人学校および補習校に関する記載事項は、あくまでもベルリンでのケースであり、他の国や都市におけるものとは異なる可能性があることをご了承下さい。

日本人学校とは?

最初に、一般的な日本人学校について少し説明しておきましょう。文部科学省によると「日本人学校とは、日本国内の小・中・高等学校と同等の教育を行うことを目的として海外に設置された全日制の教育施設」です。教育課程は、原則的に日本国内の学習指導要領に基づいており、教科書も国内で使用されているものが用いられています。日本人学校では日本の学校と同等の教育を受けられるため、小中学部を卒業すると日本国内の高等学校の入学資格を、高等部を卒業すると大学の入学資格を得ることができます。ちなみに、週1日数時間の授業を行う補習校では、これらの入学資格を取得することはできませんが、現地校を卒業することで、同等の資格を取得することができます。

日本人学校が初めて設立されたのは1956年タイのバンコクで、それ以来、2015年には世界50か国以上で94校が設置されており、約2万1千人が学んでいるとのこと。その多くは小学部と中学部から構成されているようですが、規模に関しては小中学部合わせて2千人を超える大所帯のところもあれば、数名の小規模校もあるようです。

教員に関しては、毎年日本国内の国公私立の義務教育諸学校の教員の中から、各都道府県教育委員会等が選考し、2年間~4年間の任期で各日本人学校等に派遣しているそうです。更に10年ほど前から、日本の学校を退職した先生をシニア教員として派遣する制度が出来ました。シニアで派遣される先生方は年々増加しているそうです。また数年前からは、各都道府県教委等に所属していなくても教員免許を所持している方々も、教員として派遣しているとのことです。

ベルリン日本人国際学校:アットホームな少人数教育

ベルリンにおける日本人学校「ベルリン日本人国際学校」は、1993年にドイツで4番目の日本人学校として設立されました。日本の文部科学省から在外教育施設として認可され、ベルリン市においては私立学校として認められています。また、ベルリン市および周辺に在住する全ての子どもたちに門戸が開かれていることから、「国際学校」という名前がついたそうです。ただし、現在の在学生は、両親もしくはどちらかの親が日本人である世帯の子どもたちとのことです。

自然豊かなベルリン南西部に位置し、小中学部から成るこの全日制の学校は、創立以来、全校児童生徒の合計が常に30名ほど(現在は25名)の非常に小さな学校ですが、その利点を最大限に活かした教育が行われています。

まず、少人数学習により、一人ひとりに応じた指導が可能となっています。児童生徒と教員の距離が非常に近いため、きめ細かな教育を日常的に行うことができます。校長先生を含むほとんどの教員は、日本国内で選考され、派遣されてきた現役の方々であり、時には個別指導のような授業も行われているため、子どもたちは確かな学力を身に付けています。それは、卒業生の進路からも伺えます。また、小さな学校であるが故、保護者同士や保護者と学校の距離感も程よく保たれているようです。

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学校の玄関
 
学校の外観
                 

クラスは小学部低学年(1-2年生)、中学年(3-4年生)、高学年(5-6年)、中学部(1-3年)の4クラスで成り立っていますが、クラスごとの授業は勿論、必要に応じて学年別授業を行うなど、少人数ならではの臨機応変な教育を行うことが可能となっています。実は、筆者は講師として当校で英会話の授業を担当していますが、小学部の英語プレゼンテーションを中学部の生徒たちが見学し、英語でフィードバックを行うといった、「合同授業」を実施することもあります。

さらに、小学部1年生から中学部3年生までが同じ校舎で生活し、行事や縦割りのグループ活動を行うことによって、上級生は下級生をいたわり、下級生は上級生から学ぶ姿勢が自然と身につきます。お互いをよく知っているこの学校では、人間関係も良く、子どもたちが皆、まるで家族のように仲良く交流していることも大きな特色です。

事務局長のお話によると、このアットホームで優しい雰囲気は創立以来、校舎移転があっても変わっておらず、転入学直後は少々「とんがっている」子どもも、しばらくするとこのあたたかい校風に感化されてか「のびのびと心優しい」性格になるそうです。本校に通学するのは平均して約3年、その後は日本に帰国する子どもがほとんどだそうですが、帰国後も5年に1度は卒業生が主体となって同窓会を開いていることからも、子どもたちの愛校心の強さや絆の深さが伺えます。

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小学部の教室
 
中学部の教室
    

子どもたちも概ね学校生活を楽しんでいるようです。「先生に質問しやすいから、勉強は今の学校の方がわかりやすい」「日本で通っていた学校は一クラス30人以上いたので、自分の意見をなかなか言う機会が少なかったけれど、今の学校は、人数が少ないから発言のチャンスが多いのが良い」「日本の学校ではいじめがあったけど、ここではないのが嬉しい」などポジティブな意見もある中、「今の学校は小さいから、運動会などではずっと出ずっぱりで、他の学年の競技を見ることができないのが残念」「日本の学校の方が図書室は大きく、本の種類も多くて良かった」といった意見も、小規模校ならではのものでしょうか。

豊富な行事

また、少人数教育のおかげで学習進捗が順調であることから、行事開催の時間が多いのもベルリン日本人国際学校の特徴です。4月の歓迎遠足に始まり、5月は運動会、気候が良くなる6月には湖畔など自然の中で夏季学校が開催されます。

夏休みが終わると、小学部高学年と中学部の生徒が修学旅行に出かけます(隔年実施)。9月下旬には世界的に有名なベルリンマラソンが行われますが、ベルリン日本人国際学校の子どもたちは同時に開催される子ども向けの「ベルリンミニマラソン」にも参加します。

その後、季節が変わる頃には、ベルリン・フィルハーモニー見学、オペラワークショップ参加、さらには、子どもたち自らが日ごろ学習してきたドイツ語の成果を発表すべく、学校祭にて日独語の劇を披露するなど芸術の秋を堪能します。

冬には「校長先生サンタ」から一人一人にプレゼントが渡されるクリスマス会や、毎年百人一首大会や書き初めで盛り上がるお正月会といった恒例行事の他に、寒冷地という土地柄を生かした屋外スケート教室も開催されます。このように日本の行事に加え、ベルリンならではの行事も行われ、子どもたちは授業以外にも様々な経験を積み重ねていくことができます。

土地柄を活かした国際教育

校舎は地元の小学校の一角を借りているため、同じ敷地内で過ごしている地元の小学校の子どもたちとの交流が盛んに行われていることも、小規模校ならではのメリットです。時には一緒にサッカーに興じるなど、日常的に同じ空間で過ごしていますし、お互いにドイツ語や日本語の歌を歌い合う合唱イベントなどを通じた交流行事も計画的に行われ、国際教育がすすめられています。

その土台となる言語教育も実施されており、少人数・レベル別の英会話、ドイツ語の授業が毎週行われています。このため、地元小学校の児童の保護者を中心とした周辺地域の方々との関係は良好で、学校の安全・治安面にも問題がないとのことです。

さらに、長い歴史を誇るドイツの首都ベルリンという立地を生かして、欧州の歴史や地理を肌で感じながら、現地の施設を訪問して学習したり、上述のように、世界的に有名なベルリン・フィルハーモニーや国立オペラ座でのワークショップに参加したりするなど、子どもたちはベルリンならではの贅沢な経験を積むことができています。

多くの著名人のご訪問も

また、日本ではなかなかお目にかかれないような方が来訪されることも珍しくありません。天皇・皇后両陛下(当時)を筆頭に、ノーベル賞作家の大江健三郎氏や、スポーツ界からはサッカーブンデスリーガのヘルタ・ベルリンで活躍した原口元気選手や、マラソンの高橋尚子氏などがベルリンマラソンで優勝後に来校されるなど、枚挙にいとまがありません。こうした方々と直接触れ合うことは、子どもたちは将来の自分の将来像をポジティブに考えていくきっかけになっているようです。

例えば、原口選手の来校に関しては、進路学習の一環として「先輩方に学ぶ」というテーマの元、実現されたそうです。同選手には、夢をもつことやそれに向けて努力する大切さをお話頂き、子どもたちは彼のサッカーに対する思いや生き方を学び、自分たちの将来について考えを深めたとのこと。お話の後は、実際に一緒にゲームも行い、常にボールが体に吸いつくような足さばきとスピード感を、子どもたちは体感することができたようです。

最後に

本稿執筆の際に、校長先生および事務局長にインタビューをさせて頂いたのですが、特に「経営的には50人、100人と生徒数が多い方が良いのでしょうが、少規模校ならではのメリットがこの学校にはあります。ここでは本当に良質な教育を提供することができるのです」という校長先生の言葉が印象的でした。ベルリン国際日本人学校は日本政府およびベルリン市の認可校ではありますが、当地では公立校ではなく私立学校なので学費がかかります。ですから、校長先生のおっしゃるとおり、学校運営という視点からは、生徒児童数は多ければ多いほど好ましいのかもしれません。

また、少人数で穏やかな雰囲気の学校生活では、子どもたちは荒波にもまれることがあまりなく「温室育ち」になってしまい、帰国後、日本の学校に戻った時に「逆カルチャーショック」を受けることもあるかもしれません。

しかし、スケート教室への道中、上級生が教員たちに交じって小さな下級生を引率したり、いつも子どもたちが明るく感じよく挨拶をしてくれるのを目にすると、彼らが素直にのびのびと育っていることが伺えます。授業中も、常に前向きな姿勢が見られ、毎回感嘆させられています。安定した精神で学力をしっかり定着させ、外国語を含む国際感覚も身に付け、様々な経験から広い視野をもって物事に対応できるようになる子どもたちの将来が、今から楽しみでなりません。


参考文献


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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