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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第19回 日本語補習校小学部

要旨:

昨年4月に幼稚部からもち上がり進学した補習校小学部だが、幼稚部よりも一段とハードな内容および通学状況となっている。週1回平日に行われる授業は3時間だが、日本では毎日行われる国語の授業内容を週1回でカバーしなければならないため、宿題も多く、現地校や他の習い事のスケジュール調整が大変なのである。さらに、学校運営には保護者の協力が不可欠なため、親の関わりも日本の学校よりずっと深い。しかし、ベルリンにいながら息子が日本の行事を体験できたり、何より日本語能力を向上させることができるのは大変有り難いので、今後もできる限り学校運営に協力していきたい。

キーワード:
ドイツ、ベルリン、日本語補習校、漢字能力検定、シュリットディトリッヒ桃子

以前、「【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】第9回 日本語補習校」にて、ベルリンの日本語補習校の幼稚部についてご紹介しましたが、今回は小学部について記したいと思います。この春に小学1年生から2年生に進級したので、補習校での1年目を振り返りながらご紹介します。

息子が通う補習校では、日本の暦に合わせて4月始まりです。ですから、息子は現地の小学校1年生が始まって半年ほど過ぎた昨年の4月に幼稚部からそのままもち上がって補習校小学部へ入学しました。3月末の同じ日ではありましたが、そこはきちんと日本式に、卒園式と入学式が行われました。一丁前にスラックスをはき、蝶ネクタイを締めた息子は緊張した面持ちで、卒園証書を頂いた後、そのまま入学式に入り、晴れて日本語補習校でも1年生となりました。

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式典で卒園証書を頂く息子


  

ちなみに、ドイツの保育園では「卒園式」などは特にありませんでした。卒園の時期は夏なので、早々に休暇に入って旅行に出かけてしまう子どもも多く、ばらばらと個別に最後の挨拶をしておしまい、という感じで拍子抜けした覚えがあります。

本校デビューは大変!

さて、晴れて日本語補習校での1年生生活が始まりましたが、これがなかなか大変です。まずは、その立地。幼稚部は私たちが住む東ベルリンと西ベルリンの両地区にありましたが、小学部から高校部までは本校のある西ベルリンに統合されます。また他の地域の補習校は大体土曜日に授業が行われているようですが、ベルリンの補習校は金曜日の夕方に週1回授業があります。ですから、授業のある日は現地校が終わった後、すぐにカバンを持ちかえて、1時間かけて西ベルリンまで通うこととなりました。東ベルリンの幼稚部は自宅から約30分と程よい距離でしたが、子どもと一緒に電車を乗り継いで1時間かけて通う小学部は大人の私でも遠く感じられます。息子が通う補習校は現地の小学校の一角を借りて授業を行っている関係上、仕方がないのかもしれませんが、東ベルリンにも小学部があったらなあ、と思います。

さらに、幼稚部年長組の時は週1回1時間45分の授業でしたが、小学生になると学校にいる時間も3時間と一気に長くなります。これは6歳の息子には体力的に大変だったようです。というのも、補習校がない平日には既に週3回、サッカーの練習や他の習い事が入っていますし、通常、土曜日は朝からサッカーの試合があるからです。

金曜日の午後はバタバタと1時間かけて登校し、3時間の授業を終え、また1時間かけて帰宅すると、さすがに「今日はぼくもう疲れたよ」と言って、そのままベッドへ直行してしまう日もありました。親としては、息子が体調を崩さないよう、毎日の就寝時間は8時を過ぎないように、夕飯はすぐに食べられるように準備しておくなど、スケジュール調整をしていました。

授業内容

さて、週1回約3時間行われている補習校ですが、2時限あります。1時限目(60分)は「総合学習」といって、時期によって「漢字検定対策」授業だったり、毎年秋に開催される学習発表会での「劇学習」だったりと変わります。また低学年の頃は「算数」の授業もこの枠で行われ、足し算や引き算、それらの文章題に取り組んでいます。 *

2時限目(1時間45分)はメインの国語の授業で、日本と同じ教科書(光村図書)とそれに準じた漢字ドリルを使用しての授業が行われています。教科書に準じた内容となっているようですが、小2になった今では毎週、漢字テスト、「今週のニュース(子どもが一週間のハイライトを日記風の作文に記して、クラスで発表するもの)」は行われている模様。先生によるとこの「今週のニュース」を書く作業は「他人に伝えることを意識した文章が書けるようになるための練習」だそうです。発表に対して質問する子どもたちも多く、授業の中でも重要視されているタスクのようです。

ちなみに、1時限目と2時限目の間には途中10分ほど休憩時間があるので、子どもたちは持参したお弁当(サンドイッチなどの軽食が多いようです)を頬張って気分転換をしている模様。ちなみに、教科書は音楽や図画工作なども含めた全教科分、毎年大使館より無料配布されます。「日本のお友達はこんな教科書を使っているんだね」と息子は興味津々、有り難く使用させて頂いています。

漢字能力検定

国語授業の中心的存在といえる漢字学習ですが、息子が通う補習校では、年2回、漢字能力検定が実施されています。基本的に小2生以上のほとんどの生徒がこのテストを受験するので、検定前には国語の授業とは別途対策の授業を、受験級別に行っています。息子も6月に初めて受験するため、現在頑張って過去問題に取り組んでいます。

先生によると、1年生の漢字が出る10級は、そのほとんどが象形文字であることもあり、多くの子どもたちが合格するそうです。しかし、2年生までに習う漢字を網羅する9級になると、なかなかそうもいかないようで、「漢検9級クラス」には、小学校2年生から中学1年生までの子どもたちが在籍しているとのこと。日本語や漢字に触れる機会が少ないことからくる語彙不足が原因だと先生はおっしゃっています。例えば、「理科」や「図画工作」といった、日本の学校に通っている子どもたちにとっては当たり前の教科の名称も、補習校の子どもにとっては初めて触れる言葉なのです。

さらに、8級になるとさらに200字の新出漢字が加わり、累計字数は440に跳ね上がります。抽象的概念も入ってきて、同音異義語や対義語、熟語なども多くなり、かなりレベルが上がるようです。例えば「委員会」「野球の地区大会」などドイツに住んでいる子どもたちには馴染みのない概念で理解しにくい単語も多く見受けられます。これらの問題に対し、先生方はあの手この手でなんとか子どもたちが漢字を習得し、合格できるよう努力されています。しかし、「保護者は第二の教師。家庭での指導なくして、日本語習得はありえません」と、毎日の親のフォローが不可欠だともおっしゃっています。

宿題の多さにびっくり!

幼稚部の時にも3年間運筆やひらがなの宿題が出ていましたが、小学生になると比べ物にならないほどの量に増えました。ひらがな、かたかなはもとより、漢字と音読は必須の宿題で、そのタスクは合計10にのぼることもあり、毎日こなしていかないと終わらない量です。

さらに、読書の習慣をつけるため、本を読んで、あらすじや感想を書く「読書マラソン」という課題も毎週出されます。これは半年に一回、小学生以上高校生までを対象に、何冊本を読んだか競うもので、5冊以上読んだら優秀賞、10冊以上読んだら最優秀賞として、賞状と景品がもらえます。優秀賞はお菓子、最優秀賞はお菓子に加え、文房具などがもらえるので、目の前にニンジンをぶら下げた馬のように、大変ながらも息子は毎週張り切って取り組んでいます。

日本の小学校では恐らくほぼ毎日国語の授業が行われていると思いますが、補習校では日本の文部科学省から助成を受け、学習指導要領に基づき授業が行われていることもあり、週1回で日本の子どもたちの1週間分の内容を学習しなければなりません。ですから、授業でカバーできない部分は、自宅で宿題をこなして補うしかないのだそうです。

習い事がある日は宿題がなかなかできないので、週末に少し多めに終わらせたりしてなんとか済ませるようにしてきましたが、小学2年生になると、通常の宿題に加え、漢字検定対策の宿題も加わり、1日1時間以上かかる日もしょっちゅうです。これに加えてドイツの現地校でも、ドイツ語と算数の宿題は毎日出ますから、両親と子どもで文字どおり、ヒーヒー言いながら宿題に向かっています。

行事

幼稚部の時には、「ひなまつり」にはお雛様の絵を描いたり、「子どもの日」には兜を作ったり、また「遠足」など季節ごとに行事が多く実施されていましたが、小学部以上になるとそれらは卒業します。一方、運動会、夏祭り、書初め、小正月会(小正月の時期に実施され、羽根つきや福笑い、餅つきなどお正月に行われる日本の伝統行事を行います)といった行事は幼稚部との合同で行われますが、小学生になるとそれらに一泊二日の合宿が追加されます。これは前回少し触れましたが、毎年秋にベルリンのユースホステルで行われ、小学1年生から高校3年生までが参加するものです。合宿後に行われる学習発表会で披露される劇の練習の他に、夜には日本の怪談話なども行われるようで、日本語だけで学年を超えたコミュニケーションを図る、という貴重な経験を子どもたちはさせてもらっているようです。

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夏祭りでスイカ割りをしました


親の参加は必須

息子が通っている補習校は年々生徒数が増え、幼稚部はなんと世界の日本語補習校の中で最大規模だそうです。あまりに人数が増えたので、息子の学年から、小学部は2クラス制になり、現在の幼稚部も東校、本校で各2クラス、計4クラスとなっている学年もあります。勿論、ウェイティングリストに名前を連ね、空きを待っている子どもも少なくありません。

そんな補習校ですが、保護者の協力が学校運営に欠かせません。例えば、毎年恒例の小正月会では、数日前から保護者たちが子どもたちの書初め披露やお餅つきのためのもち米を準備したり、うすや杵を借りてきたり、当日は総動員でおもちを丸めて、あんこやみたらしを作ってつけたり、目の回るような忙しさです。運動会でも、朝から会場設営をし、競技用小道具を作ったり、競技にも参加し、競技後は片づけ、と一日中動きっぱなしです。

また、西ベルリンにある本校では、子どもたちの安全を確保するために、交代制で毎週6人の保護者が3時間の授業中、ずっと教室の前で待機、トイレには子ども一人で行かせないよう付き添っていきます。本校に設置してある図書コーナーでも、図書委員と呼ばれる保護者の方々が毎週当番制で、日本語の蔵書の管理や貸し出しを行っています。

日本の学校では、学校運営は教師と一部のPTAの方々にまかせきりだった記憶がありますが、本補習校では、教師の役割は主に授業と行事の遂行であるため、学校運営には財務や法務的なことも含め、原則的に全ての保護者が何らかの形で携わっています。仕事をしているとなかなかスケジュール調整が大変なこともありますし、時間や手間がとられることではあります。しかし、外国にいながら、子どもたちが最適な形で日本語を学習していくことができるよう、教師と保護者たちが協力して、学校運営を行っていくのは素晴らしいことだと思うので、できるだけお手伝いに携わっていきたいと思っています。

最後に

日常生活で息子が日本語で会話するのは私だけですし、宿題を見てあげられるのも私だけ。そんな状況にも関わらず、渡独して4年以上が経った今でも、ドイツ語より日本語の方が得意だと思っている息子です。これもひとえに、日本語補習校に通い続けてきたお蔭だと思います。一方、今後ドイツの学校で進学していく上では、ドイツ語能力の向上も不可欠ですし、並行して日本語能力を向上させるのは並大抵のことではありません。幼稚部の頃にも思いましたが、いかに息子のモティベーションを保ちつつ、限られた時間の中で日本語力を向上させるか、補習校の先生方のお力添えを頂きつつ、家族全員で取り組んでいきたいと思っています。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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