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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第20回 日独における算数教育の違い

シュリットディトリッヒ 桃子

2016年7月29日掲載

要旨:

日本とドイツの算数教育における差異をご紹介する。例としては、数字の書き方や、掛け算と割り算の導入、筆算の方法などが挙げられるが、日本語補習校の授業や通信教育の受講にあたって、息子が困惑したエピソードを紹介する。これらの経験を通し、筆者は基本的にドイツの算数教育の根底には「計算は電卓やコンピューターに任せた方が効率的なので、学校では数の概念や計算の過程を重視し、将来、実社会にて応用できる論理的な思考を養う」という考え方があるのだろうと感じた。

キーワード:
ドイツ、ベルリン、算数、ドイツ式計算、漢字能力検定、シュリットディトリッヒ桃子

以前、「【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第4回」でもお伝えしたように、ドイツ語と日本語では数の数え方が異なるため、息子が混乱してしまうことがありましたが、算数の授業が進むにつれ、さらなる日独の算数教育の違いが浮き彫りになってきました。本日はその中のいくつかをご紹介したいと思います。

数字の書き方

前回の記事で紹介したように、息子が通う日本語補習校では年二回、漢字能力検定が実施されています。今年6月の検定前には通常の国語の授業とは別途、検定対策の授業が行われ、子どもたちは主にテストの過去問題に取り組んでいました。そこでちょっとした問題が起こりました。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、漢字検定10級では、漢字の筆順について問われる問題があります。答えは数字で記入することになっているのですが、それまでドイツ方式で数字を書いていた息子の回答は、「日本式ではない=日本人に読みづらい」ということで、回答自体は合っていたのですが×がついてしまったのです。

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特に指摘されたのが、写真のように1、7、9で、補習校の先生からも細かく修正が入りました

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左側がドイツ式数字、右側が日本式
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1年生の時に補習校で算数の授業はあったものの、日本式の数字の書き方までは習わなかったようで、この検定の授業で初めて指摘され、いささかショックを受けていた息子。「答えは合っているのに、なんで×なんだよ?!」と当初はふてくされていました。が、本番の漢字検定時に日本人の採点者が回答を判読できなければ意味がありませんし、どうやら日本語補習校ではこれを機に、日本式の数字の書き方を徹底して教えているようでしたので、自宅でも「読み手に伝わる文字表記の重要性」を説明しておきました。

といっても、現地校で日本式の数字を書いては、補習校と同じように修正されてしまう恐れがあります。状況に応じて、数字の表記を変えることの大切さを今回、息子は漢字検定対策授業で学んだようでした。

掛け算九九の暗記がないドイツ

さて、小学2年生になり、現地校の算数の授業では掛け算が導入されました。私が子どもの頃は掛け算と言えば「九九」で、「ににんがし、にさんがろく・・・」と呪文のように暗記した覚えがありますが、ドイツにはそのような「呪文」を暗記する必要はなく、「ににんがし(2×2)」は"Zwei mal Zwei ist gleich Vier.(直訳すると「2の2倍は4」)"、「にさんがろく(2×3)」は"Zwei mal Drei ist gleich Sechs.(2の3倍は6)"と、普通に文章を言うことになります。

また、日本では9の段までの学習でしたが、ドイツでは10の段(10×10)まで習います。下記の掛け算表が配布され、子どもたちは最初はこれを参考にしながら、掛け算の問題を解いていく模様。息子の学校では、算数の教科書はなく、ワークブックのみを使用した個人のペースで進められる授業が行われていますが、そこには、この表を完成させる問題を初め、イラストで掛け算の概念を習得する問題、シンプルな計算問題、文章題などが記載されています。また興味深かったのが、2乗の概念も小学校2年生で習うようで、掛け算表の各数の2乗にあたる箇所は異なる色になっており、ワークブックでも繰り返し「2×2、3×3、4×4・・・」とその部分の問題が記載されていたことでした。

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ドイツの小学校で使用している掛け算表(2乗にあたる箇所が強調されている)


ちなみに、日本では「2かける2は4」は「2×2=4」と表記しますが、ドイツでは「2・2=4」と「×」ではなく「・」を用います。また、割り算の記号も日本とは異なり、「4割る2は2」は「4:2=2」と「:」を用いての表記となります。

掛け算と割り算を同時に習う

さらに、息子の通う小学校では、掛け算の導入とともに割り算も一緒に学習しているようです。今のところ、二桁の数字での計算ですが、例えば、ワークブックには下記のような問題が多く記されており、四角で囲んだ部分を子どもが記入していくようになっています。

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「14÷2=7」と「7×2=14」には関連性があることを示している問題


確かにこのように数の関連性を理解した方が、計算もしやすくなるのかもしれないな、とドイツの合理的な掛け算と割り算を同時に導入する方法に感心しました。

この後すぐに余りのある割り算も教わっており「23:3=7 Rest2(23÷3=7余り2)」といった問題も多く解いていました。同時にその逆の「7×3+2=23」という問題もセットでこなします。計算練習が終わると、文章題も解くことになります。

筆算の方法が違う!

日本の通信教育を毎月受けている息子ですが、ある日、繰り上がり、繰り下がりのある足し算、引き算を学習する段階で、戸惑ってしまいました。というのも、まずこれまでドイツの学校では縦に計算式を書くことがなかったからです。

通常のドイツ式足し算は「13+28=41」のように、繰り上がりがあっても横に書いていますし、息子もそれまでは「3+8は11。10+20は30。11+30は41」と3段階で計算をしていたようです。ただ、個人的には筆算の方が一気に計算できて楽だと思うので、繰り上がり、繰り下がりのある筆算を、通信教育の教材を用いながら、じっくり息子に教えました。その結果、本人も筆算の方が楽だということがわかったようで、なんとか筆算で問題を解けるまでになりました。

一方、繰り下がりのある引き算に関しては、ドイツでも筆算をすることもあるようですが、そもそも解き方が違うようです。

例えば、62-39という問題は、日本式筆算だと以下のようになりますね。

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日本式繰り下がりのある引き算の筆算


つまり、2-9はできないので、10の位から1借りてきて「12-9=3」と一の位を求める。次に、10の位は繰り下がって「5」になっているので「5-3=2」と10の位を求める。ゆえに、答えは23となる。 これがドイツ式筆算だと、下記のようになります。

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ドイツ式繰り下がりのある引き算の筆算


私は最初見た時、全く訳がわからなかったのですが、夫によるとこう計算するそうです。

2-9はできないので、2に10を足して「12-9=3」と一の位を求める。すると、62の10の位の「6」から1を使ってしまったので、39の10の位に1を足して「6-(3+1)=2」と10の位を求める。ゆえに答えは23となる。

なるほど、1の位の計算は日本式と同じようですが、10の位の計算が異なります。日本式では引かれる方の数が繰り下がりますが、ドイツ式では、引く数を繰り上げる(?)ことになります。答えは同じになるものの、このように全く計算方法が違うようです。幸い、息子はこの筆算方法はまだ学校で習っていないようですが、もしこの方法で計算しなければならない状況になったら、混乱してしまうんだろうなあ、と少し気をもんでいます。

以上、日独の計算や数字表記の違いについて記してきましたが、今後、現地校で導入される予定の掛け算、割り算の筆算もまた日本とは計算方式が異なるようです。このような差異により子どもたちが混乱してしまうこともあって、日本語補習校では算数の授業を今年度からなくしたそうです。

ドイツの算数教育の根底にあるもの

最後に、ドイツの算数教育において一番驚いた点は、当地では「計算は電卓にやらせた方が効率的」ということで、中学校以降は授業のみならずテストにも電卓の持ち込みが許されていることです。従って、小学校低学年で数や数式の概念を教えることは大切とされていますが、計算そのものに対しては日本ほど重要視されていない気がします。ドイツ人の夫も「計算は電卓にやらせた方が正確で早いし、僕が子どもの頃もそんなに重視されなかった。社会に出てからも、数式などはエクセルの方が得意だし、人間はコンピューターができないことをすべきだ」と言っています。その一方で、学校では数の概念や計算の過程が重視されているようで、これは後に多く導入される記述問題や、将来子どもたちが実社会に出た時に、人に対して論理立てて物事を説明できる能力「論理的な思考」を身に着けるための準備なのだ、という印象を強くもちました。

といっても、生活面で計算が得意なことに越したことはありません。せっかくの機会なので、日本から送ってもらった掛け算九九ポスターを壁に貼りました。そのポスターを前に「ににんがし!」と日本式九九を唱えている息子です。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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