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【スウェーデン子育て記】 第9回 長い休暇にでる宿題

下鳥 美鈴

2016年1月29日掲載

子どもたちにとって、クリスマスやウィンタースポーツが楽しめる最高に楽しい季節がやってきました。日が短く太陽の見える日はほとんどない冬ですが、今年のスウェーデンは例年よりも暖かく、マイナス気温の日が少ない冬となりました。秋学期の終業式(12月中旬)は、おだやかな気候のなか、地元の教会で行われました。さっそく余談となりますが、スウェーデンの多くの学校では、終業式は教会で行われることが慣例となっています。しかし、「宗教的な要素をとりいれないこと」を前提に許容されているそうで、牧師が授業の形態をとって話をしたり、賛美歌を歌うことは認められていません(資料1)。しかし近年になって、いくつかの親しまれた賛美歌に限っては歌うことが許されるべきだという議論がされています。ただ、慎重な意見の交換が必要な内容なだけに、その決定には長い時間がかかりそうです。日本だったら地域の神社やお寺で学校の行事を行うようなものでしょうか。なかなか微妙で難しい問題のようです。しかし自国の歴史に親しむ、といった意味では学校と教会が結びつくこともいいことかなと思います。

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冬休みの宿題

さて、終業式はクリスマスイブの一週間前でした。あとは楽しいクリスマスと新年を待つのみ。秋学期の終業式を終えて、ご機嫌で帰宅した小学3年生の娘に、冬休みの宿題はあるのかと聞きました。3週間の長い冬休みなのですが、持ち帰った宿題は、クラス全員がそれぞれ自分で考えた算数クイズを冊子にしたものだけでした。クラスのみんなの個性がでていて、とっても面白そうな宿題ですが、この算数クイズのほかには特に宿題はでなかったそうです。そういえば夏休みの宿題も、思っていたより量が少なかったのを覚えています。

スウェーデンの小学校低学年の生徒には、あまり宿題がでないようだという話題は、ストックホルムに住む日本人ママさんたちとの間でも話していたことでした。娘は毎週土曜日にストックホルムの日本人補習校にも通っていますが、こちらは冬休みに日記やワークブックなどの宿題がでています。しかしストックホルムの現地校のほうは、どこの地域のママさんに聞いてもあまり宿題はでていないそうです。学校が終わったら、勉強などしないでスポーツをしたり、友達と遊んだり、習い事(ダンスや音楽など)をすることが普通のようです。

宿題の利点・欠点とは

スウェーデンの教育委員会にあたる行政機関(Skolverket, http://www.skolverket.se/)のホームページによると、宿題をすることの利点は指摘されていますが、積極的に推奨はされていません。教育委員会から宿題に関する指導は特になく、宿題を出すのか出さないのかという選択は、担任教師や校長に任されているそうです。ただし、宿題を出す場合は、十分な準備と考慮が必要であるということが詳しく記されています。

まず第一に、教師の適切な指導のもとに、授業との組み合わせで宿題が出されるべきであるという見解が記されています。また、子どもの宿題は両親が手伝ってやるもの、という前提があるため、宿題の難度にも注意を払うべきという指摘がされています。保護者の学歴が各家庭で異なる場合があるので、子どもたちの宿題の手伝いにも差が出てしまうおそれがあるからです。したがって、すべての子どもが理解できる範囲で宿題の内容を決めることが必要となります。そして、子どもたちの中には、家庭の住宅環境が悪くて宿題に集中できないという場合もある、ということを考慮するべきという指摘があります。こういった細かい指導内容を見ると、日本人にとっては単純に「宿題をする」ということがスウェーデンではかなり慎重に検討されたうえで行われているというかんじで、驚きでした。

さらに、宿題を出したそのあとのフォローも非常に重要であるという指摘もされています。それぞれの生徒がやってきた宿題は、その後クラス全体でもう一度復習をするというのが特に効果的だそうです。この方法はフィンランドにおいては一般的な方法だということですが、スウェーデンではまだ、担任教師が宿題を集めて、添削をすることが多いそうです。

このような注意点以外に、一般的には小学5年生までは宿題は特に必要が無いという見解もあるそうです。学校の学習においては、とにかく授業内容を充実させることが一番重要と言う考え方です。また、スウェーデンの大手新聞社であるダーゲンスニーへーテル(Dagens Nyheter)には、たびたび宿題に関する討論記事が載せられており、宿題を課すことによる問題点を指摘し、宿題を廃止するべきといった意見が多くあります(資料2)。

私が面白い論点だなあと思ったのは、子どもの学習時間と大人の労働時間を並べて議論しているところ。小学3年生から中学3年生が学校で費やす生活時間は最高で8時間。このなかでたくさんの時間を学習に費やされるのに、それ以上の時間を宿題に使うのはおかしいという意見です。大人は労働基準法で労働時間が制限されているのであれば、子どもも当然、学習時間に制限があるべきだという意見には、なるほど、と思うと同時に驚かされました。

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宿題がストレスの原因?

また、宿題が子どもたちのストレスの大きな原因となっているという調査報告もあります。スウェーデン統計局(http://www.scb.se/)の2013年の調査では約8万9千人の10歳から12歳までの生徒が、宿題や試験にストレスを感じているとのこと。また16歳から18歳の高校生を対象にした調査でも、4人に3人の女生徒と2人に1人の男子生徒が同様のストレスを感じているという結果がでました。そのストレスの症状として、腹痛、頭痛、不眠などの不調を訴えているそうです。加えて、家庭内の親子喧嘩の原因の第一は宿題だそうです。スウェーデンにおいては、学校の宿題にあまり良い印象はないようです。放課後の学習塾も存在しない理由がわかる気がします。

宿題のサポートシステム

しかしながら、宿題の利点を踏まえたうえで課題がだされることもあります。そのような場合、学校の授業時間外で、希望の生徒に対して宿題の手伝いをしてくれるサポートシステムがあります。宿題のお手伝いの先生が雇われて、放課後の時間などを利用して宿題のサポートをしてくれるのです。お手伝いの先生は教員免許を持っている人ばかりではありませんが、サポートをする教科を大学等で履修していて、専門知識を持っていることが条件となります。そしてさらに重要なのは、犯罪歴が無いこと!学校での宿題の手伝いをしたいと希望する人は、警察から発行される証明書を提出して、犯罪記録等がないことを証明しなくてはいけません。日本でもスウェーデンでも、小学校への出入りは厳しくチェックされるのです。子どもたちに勉強を教えるだけでなく、良き見本となって学ぶ姿勢を示したり、やる気を起こさせてくれるような人物が採用されているようです。

このサポートシステムの導入も、各学校の校長に判断がゆだねられていますが、必要な場合は教育委員会に予算の申請をすることができます。宿題サポートの予算の用途は、指導教師への給料、事務費用、教室の使用代、教材やおやつなど。2016年は以下の学年を対象にして、補助費の申請ができるそうです。

  • 普通学級の小学6年生から中学3年生
  • 特別学級(発達障害の生徒などが通う)の小学6年生から中学3年生
  • サーメ学校(北スウェーデンのサーメ語を使用言語とする学校)の6年生
  • 特別学校(盲学校など)の中学1年生から高校1年生
ちなみに、2015年には2千4百万クローナ(約3億4千万円,2015年12月のレート)の予算が宿題のサポートにかかる費用として使われたそうです。

ノルウェーでは、2010年に全ての学校でこの宿題サポートシステムが義務付けられました。2013年には、サポートシステム導入について評価がなされ、大きく二つのマイナス点が指摘されました。ひとつは、生徒全員にこの宿題サポートを提供すると、本当にサポートが必要な生徒にまで手が回らなくなること。また、サポート教師のすべてが教員資格を持っている訳ではないので、十分なサポートができなかったこと。

まだまだ改善の必要があるシステムのようですが、私自身の考えとしては、この宿題サポートは非常に良いと思っています。娘の学年でも、週に1回、担任の先生が宿題のお手伝いをしてくれるそうで、気が向いた時には友達と一緒に学校で宿題をしてきます。宿題はあまり多くないので、友達と楽しく終わらせてしまい、あとは遊ぶことに集中しているようです。

日本で教育を受けてきた私にとっては当然のようにあった「宿題」も、国が違えば考え方が異なり、大きな議論の対象になるのだと改めて考えさせられました。



資料1 http://www.skolverket.se/regelverk/juridisk-vagledning/skolan-och-kyrkan-1.162940
資料2 http://www.dn.se/insidan/larare-som-ger-laxor-baklaxa/

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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