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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第9回 日本語補習校

要旨:

平日の放課後や週末に授業が行われる「日本語補習校」。その幼稚園部に息子は今年4月から通い始めた。日本語能力を伸ばす授業は勿論、日本の生活習慣、文化や行事を体験することができ、子どもも楽しんでいるが、日本人の親としても内容に満足している。渡独して1年、ドイツ語能力は飛躍的に伸びている息子だが、今後は限られたインプットの中でいかに日本語能力を高めていくかが課題となる。
ベルリンでは夏休みが終わり、今月から新学年が始まりました。息子が通う保育園も3週間のお休みが終わり、元気な子どもたちが園に戻ってきました。また、週1回通っている日本語補習校の幼稚園も6週間のお休みを経て2学期の授業が始まりました。

この「日本語補習校」ですが、現地の学校に通う日本人の子どもが多い海外の主要都市には、大抵存在しているようです。これは全日制で日本国内の小・中学校と同等の教育を行う「日本人学校」とは異なり、平日、現地校が終わった後、もしくは週末に授業を行うものです。また「日本語補習校」といっても日本語自体を教えるのではなく、国語や算数など日本の学校の教科を、国内で使用されている教科書を用いて日本語で教えています。*

日本語補習校は元々、企業の駐在派遣社員などを親にもち、日本に帰国することが前提の子どもたちのために設立されたものが多いようですが、近年はどの国でも国際結婚などによる定住家庭の子どもの入学が増えているとのことです。また文部科学省の認定を受けている学校が多く、その数は2011年4月15日の時点で56か国203校となっています。*

ベルリンにも補習校は二つあり、息子も今年の4月からその幼稚園部に通っています。この補習校では日本の文部科学省の幼稚園教育要領や学習指導要領に基づき授業が行われています。

子どもの日には、こいのぼりやかぶとを作成したり、8月には夏祭り、1月には小正月会など、四季折々の日本の行事が開催されます。また運動会、遠足といったイベントもあるので、子どもたちはドイツにいながら日本の文化や学校行事を体験することができます。海外でこのような経験ができるのは貴重な機会ですので、積極的に参加しています。

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5月の遠足

日本で生まれ、昨年8月に渡独する直前まで日本の保育園に通っていた息子も、今年の4月、新学期の始まりとともに、この補習校幼稚園部の3歳児クラスに入園しました。ドイツでは新学年は8月に始まりますが、日本語補習校は日本のシステムをとっているので、4月始まりです。

ドイツの現地保育園を間借りして週一回75分間にわたって行われるこの授業の初めての日、いざ足を運んでみると、教室に4人のお友達とお母さんたち、そして20代と思われる元気な女性の先生が待っていました。

初めての経験で緊張しているのか、授業開始時から息子は子ども用の椅子に座ることを断固拒否!私の膝の上に抱っこ状態です。彼以外に今日が初めてだったもう一人の男の子も同じくママの側を離れようとしません。残りの3人の女の子は昨年度からこの幼稚園に通っているため慣れている模様で、ちゃんと椅子に座っていました。

「こんな状態で大丈夫かしら?」と内心焦っていると、先生も勝手知ったる様子で「そのうち慣れますから大丈夫ですよ!」と授業を始めました。

まずは出席確認。欠席していた似たような名前の子が呼ばれたときに、聞き間違えて返事をしてしまった息子。「あれれれ?」という先生と私のおどけたリアクションに、少し気持ちがほぐれたのか、実際に自分の名前が呼ばれると、きちんと挙手して「はーい!」とお返事ができました。

次は自己紹介。先生が自己紹介した後に、ぬいぐるみを使って「お名前は何ですか?」と一人一人に聞いてきます。子どもの扱いに慣れていそうな優しい先生です。昨年度から来ている子でも自分の名前が言えなかったり、もじもじお母さんの後ろに隠れてしまったりと様々でしたが、息子ははっきりと自分の名前と好きな食べ物を言うことができました。

ここでペースに乗ったのか、自発的に私の膝から離れ、椅子に座り、背筋を伸ばしてじっと先生のお話に耳を傾けています。

次は色に関するクイズ。ここでは臆することなく、誰よりも早く答えを言っています。正解して先生に褒められると、嬉しそうにどんどん発言。時々間違えてしまっても、全く気にすることなく、積極的にクイズに参加!さっきまでの甘えモードはどこに行ってしまったのでしょうか?

クイズが終わると塗り絵の時間。ここでもちゃんと先生の指示に従って、一つずつ塗り絵を完成させていました。

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補習校で作成した、こいのぼりとかぶと

1時間ほどするとおやつの時間です。皆、持参した果物やパンを楽しそうに食べています。その間も先生は「かたい」「やわらかい」「甘い」「赤いリンゴ」など積極的に日本語の単語を発しています。息子はこの日はリンゴを持っていきましたが、先生に一切れあげるなど、優しい一面を見せていました。

おやつの後も、先生の絵本の読み聞かせや紙芝居、リズムに合わせて体を動かしたり、どのタスクにも楽しそうに参加しています。

そうしてあっという間に授業終了!その後もクラスメートと一緒に遊ぶなど、初日にしてすっかり慣れた様子。先生も「息子さんは昔からずっと私達のクラスにいるような堂々ぶりですね」と驚いていました。本人も余程楽しかったらしく「また明日も日本の幼稚園行きたーい!」とのこと。まずは初日を無事終えることができ、安堵しました。

息子がすぐに新しい雰囲気に馴染むことができたのには、二つ理由があったのだと思います。一つ目は、日本で保育園に通っていた経験があること。ドイツでも現地保育園に通っており、集団生活には慣れている息子だと思いますが、日独の保育園には大きな違いがあります。例えば、日本の保育園では皆で一斉に起立して挨拶をしたり、一緒に椅子に座り、先生の指示に従って机に向かい、作業を行うということは普通に行われていました。しかし、息子が今通っている現地保育園では、そもそも皆で一斉に何かをすることはあまりなく、通常のアクティビティは個々の子どもの自由に委ねられています。息子は懐かしい「日本の保育園モード」にすっかり切り替わったようでした。

ただ、日本の保育園経験のない子どもたちの中には、去年からこの補習校に通っていても、なかなか帰りの挨拶ができなかったり、皆と一緒にじっと椅子に座っていることができない子も見受けられました。そのような子どもに対して、先生は「ここは日本の幼稚園ですから、皆できちんとご挨拶しましょうね。」と「日本の環境」であることを強調して諭しています。日本語の語彙などを教えるだけでなく、その背景にある生活習慣や文化を小さな頃からきちんと教えていくことは、非常に大切なことだと思いますので有り難いことです。

さて、二つ目は子どもたちの日本語能力です。3歳児クラスの子どもたちは出生国はそれぞれですが、大体、息子と同様にドイツ人のパパと日本人のママを持っています。日本で生まれた子どももいますが、その子も生まれてすぐドイツに移住してきたとのこと。ほとんどの場合、どの子どもも日本語を理解しているように見えましたが、先生の指示を間違って理解していたり、質問にドイツ語で返す子どももいます。そのような子どもたちにも、先生は辛抱強く日本語で返答、説明します。日本語能力の点では3年間日本語環境で育ってきた息子がやはり一番高かったようで、先生とのコミュニケーションもスムーズに行うことができ、それが積極的な授業参加へのモティベーションになった模様です。

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通信教育教材でお勉強

現在日常生活で息子と日本語で会話するのは私だけです。渡独して1年、飛躍的にドイツ語能力を向上させた息子ですが、このままドイツに住み続ければ、さらにドイツ語能力が高まり、日本語よりドイツ語が優勢になっていくのは明らかです。日本人の親としては、できるだけ息子の日本語能力も高めていきたいと思うのですが、自身の経験上、海外で日本語を習得する際に困難なのは、その場に応じた話し方(例:敬語や丁寧語、男女別の話し方など)と読み書きです。話し方は先生や他の日本人の方々の協力を得て対応していくしかありませんが、読み書きは自宅で練習できます。といっても周りにひらがなや漢字などの文字が目に入らない環境で、日本に住んでいる子どもたちと同様のレベルまで日本語力をつけるには「私立中学受験並みの努力が親子で不可欠」と言われています。現在、ひらがなについては自宅で通信教育やおもちゃで触れさせるようにしていますが、いかに息子のモティベーションを保ちつつ、限られたインプットの中で日本語力をつけていくか、これからの課題になりそうです。

参考文献

* 文部科学省「CLARINET 在外教育施設の概要」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/002.htm
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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