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【インドの育児と教育レポート】 第6回 ムンバイ日本人学校における学習活動

長かったモンスーンが明けると、9月から11月にかけてはたくさんのお祭りが催され、ムンバイの街全体が華やぎを増してきます。人々の活気も最高潮に達し、子どもから大人まで伝統的な文化や宗教行事を楽しみます。象の頭をもつ神様「ガネーシャ」のお祭りや、女性たちが民族衣装に身を包み毎夜踊り明かす「ナブラトリー」のお祭り、そしてインドの旧正月である「ディワリ」を迎える10月から11月にかけては、私たち日本人もすっかりインドの文化に魅了され、街で行きかう人々と自然に「ハッピー ディワリ!」と挨拶を交わしています。

今回は、そんな歴史と文化の薫り高く、インドの流行の最先端をいく商都ムンバイにある日本人学校についてご紹介します。同校の橋本匠司校長によると、1995年に都市名が「ボンベイ」から「ムンバイ」に変更されたことに伴い、現在は「ムンバイ日本人学校」が正式な名称です。開校は1971年と歴史も古く、現在はムンバイ市北部のポワイ湖付近に位置する「ノウレッジパーク」と呼ばれる、病院や学校が多く集まる文教地区の大きなビルの中にあります。生徒数は小学生41名、中学生7名、日本から派遣された教員数は9名、この他に現地採用講師6名、そして事務、用務員、セキュリティースタッフなどが9名と学校の規模としては小さいものの校長の橋本先生を中心に、きめ細やかな指導で新たな学校教育の取り組みを行っています(2019年9月現在)。

インドならではのICT教育の強化

ムンバイ日本人学校では、日本の文科省で定められた学習指導要領に沿った授業が行われています。新学習指導要領完全実施に向け、2018年度の校内研究の柱として、「プログラミング教育の理解と実践」を推進しています。思考力を育てるためには「ICTに関するスキルアップ」が必要であると考え、第1週を除く火曜日7校時にムンバイタイムという独自の呼称で固定時間を設定し、2018年9月より実践を開始しました。

ICTの授業は基本的に担任の教諭が行い、子どもたちのレベルに合わせて年間の指導計画が立てられているとのことです。

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例えば、小学部低学年の場合は、お絵かきソフトやタイピングソフトを用いた学習、中学年は、マウスやタイピングの学習を経て簡単なプログラミングソフトを用いた学習、高学年になるとプログラミングソフトやパソコンの基盤の学習を行っています。

また、中学生になると小学部で学習した内容に加えて、ロボットの制作にも挑戦しています。このように学年に応じた教材を活用しているため、どの学年の子どもたちも楽しみながらムンバイタイムの活動に取り組んでいるようです。授業を通して、高学年の子どもたちはパソコンの扱いにも慣れ、日々の他の授業においても使いこなすことができるようになってきたそうです。

この「ムンバイタイム」をスタートさせる前に、ICT関連企業で活躍されている駐在員保護者により「プログラミングとは何か」について基本的な考え方を子どもたちにわかりやすく教授してもらい、同時に「メディアリテラシー」についても学び、情報保護の大切さを子どもたちが理解した上で、ICTの活動を始めています。

 
子どもたちの学習を評価する

ムンバイ日本人学校では「プログラミング教育の理解と実践」を柱として学習活動を行っていますが、ICTの学習だけに留まらず、子どもたちがいかにプログラミング的思考力を伸ばしているかを重要なポイントとし、評価の対象としています。それはコンピューターを扱うスキルだけでなく、論理的な思考となるように物事を順序立てて考える力が養われているかを意味しています。

特に本年度は、Apple TVに代表されるようなセットトップボックス(注)を各教室に配備したので、子どもたちのプレゼンテーション能力の育成を助ける機器としての活用が期待されます。ムンバイタイムで培った力が、日常の学習の中で活かされるように、ソフト、ハードの両面から子どもたちを支援している様子が伝わってきます。

インドならではの学習活動

インドの学校は、公立、私立、インターナショナル、在外校などどこでも、日常的に伝統的なインドの民俗文化や慣習、伝統芸能を取り入れた活動を行っています。日本では、伝統芸術の鑑賞や日本の民謡などの学習が単元ごとに設定されていますが、七夕やお月見などの行事を学校の授業で扱うことは稀ではないでしょうか。インドの学校では、学習活動がこうした神話や宗教や伝統文化や祭事とともにあるのが特徴です。

ムンバイ日本人学校でも、インドらしい様々な取り組みが行われています。インド体験クラブといって、牛乳とマサラで煮出す紅茶の「チャイ作り」、インド北西部のジャイプール地方に伝わる野菜の汁と木彫りのスタンプを使った染め物「ブロックプリント」、「インド絵画」等の体験活動が年に3回ほど行われているそうです。どの活動も子どもたちにとっては、インドの文化を肌で感じることができる貴重な時間であると思います。また、全員が授業の一環として参加する「インドダンスクラブ」は年間12回、専門の講師による指導を受けています。子どもたちは、インドの伝統的で独特なリズムやメロディーに身を任せるうちに、いつしか魅惑的な優雅な踊りが踊れるようになり、学習発表会では見ている保護者たちを魅了します。

総合的な学習の時間には、インド人スタッフによるインドの遊び紹介や簡単なヒンディー語教室が学年に応じて行われているそうです。昨年度、私が視察に行った際には、1年生の「生活科」の授業で、インド人のお友達を遊びに誘うという場面設定で、会話をする活動を見せていただきました。担任の先生のヒンディー語の「おにごっこをしてあそぼうよ」という呼びかけに対して、子どもたちもヒンディー語で「いいよ」「いやだよ」などと、各自がやってみたい遊びを書いたカードを見ながら、上手にヒンディー語で話していたのが印象的でした。外部講師に頼るだけでなく担任の日本人の先生方もインドの文化を受容して学習活動に活かそうと、日々教材研究をされている様子がうかがえます。

また、前回のレポートでお伝えしたように、インドの現地校2校との交流が小学部低学年にて継続的に行われています。そして、背景となる文化や学びの違いを体感できるよう、さらに中学年、高学年になっても、同じ校舎内にある現地校との交流を行っています。

インドといえばヨガにクリケット

早朝に近所の公園に行くと、必ずヨガのセッションが行われています。誰でも気軽に参加でき、体力維持や健康のために多くのインド人がヨガを日常生活に取り入れています。ヨガについては、あらためて詳しくレポートします。

ムンバイ日本人学校でも、インド人講師が週に2回朝学習の時間にヨガを教えているそうです。「新体力テスト」における柔軟性は日本の学校の子どもたちの平均よりも上回っているという結果が得られたそうです。またムンバイ日本人学校では、日本人初のクリケット選手に挑戦中の元日本プロ野球の選手を迎えて、クリケットの体験会を催し、日本クリケット協会から道具の進呈を受けて、新たに体育科の授業にもクリケットを取り入れて実施しています。我が家の娘が通う学校でも、クリケットは男女問わず大人気のスポーツで、ルールは野球に似ているけれど、羽子板のような細長いバットでボールを打つのは意外と難しいようです。

修学旅行や学習発表会もスケールが大きい!

ムンバイ日本人学校の修学旅行は、インド国内の歴史を訪ねること、これからのインドの未来を見つめることにより、個々の視野をさらに広げることを基本コンセプトに訪問場所を設定しています。小学校5年生以上の子どもたちが2泊3日の旅行に参加します。毎年行き先が変わるため、3年間在籍するとインド国内の3か所を巡ることができます。インドにはタージマハルをはじめ多くの世界遺産があります。そうした歴史的な建造物を見るだけでなく、日本から参入している自動車関連企業などの工場見学や、インドで暮らす人々の生活を垣間見ることで、視野を広げたり、子どもたちの自己実現への一助となったりするような体験を多くしているのだと思います。

これらの様々なインドでの経験を活かし、ムンバイ日本人学校では毎年10~11月に大きなホールを借り、学習発表会を開催しています。もちあわせた日本人らしさに加え、インド文化を享受して、双方の文化を融合した発表会は、とても素晴らしく、エネルギッシュな躍動感あふれる舞台となります。在ムンバイ日本人そして現地インド人を招待して、多くの方に参観いただきます。子どもたちの個々の力が発揮される大きなステージとなっています。

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社会科見学 水泳学習 卓球大会
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グルモハル祭 学習発表会・ロックソーラン 学習発表
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スタッフ感謝デー 修学旅行・ジャイプール 運動会組体操
 
写真提供:ムンバイ日本人学校 橋本 匠司校長

このような活動を通して、ムンバイに暮らす子どもたちは日本の学習はもちろんのこと、インドの風土や文化を肌で感じ、お互いに理解し尊重しながら自身にフィードバックしているように思います。授業は日本と同じように日本語で行われていますが、英語科では日本の新教育課程における英語の学習時間数に加え、週2時間の英会話の授業が行われているとのことです。3年以上在籍した児童生徒の中には英語検定準2級の取得に挑戦する子どもたちも多く、英語に対する学習意欲も高いことがわかります。

インフラや環境問題、食の安全や衛生管理など様々な苦境をも乗り越えながら、インドで暮らす子どもたちは、少しずつこの土地に適応していきます。ムンバイに暮らす日本人の子どもたちが通う学校は、ムンバイ日本人学校の他にもアメリカンスクールやインターナショナルスクールなどいくつかあります。それぞれの学校が独自の教育目標を掲げ、地域の中で伝統文化を守りながら、次世代を担う子どもたちの教育に取り組んでいます。私たち大人も、インドの文化を受容しながら、子どもたちを見守り、励まし、サポートしていくことが大切であると感じています。


  • 注:ケーブルテレビやIP放送を受信できる他、モデムを内蔵し、インターネットテレビやHDDレコーダーとしての機能などをもつホームターミナルと呼ばれる装置。
筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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