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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第40回 ベルリンにおける新型コロナウイルスの感染拡大経緯

要旨:

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスだが、ベルリンでは3月1日に最初の感染者が確認された。3月第1週にはベルリン市内で初めて新型コロナウイルスによる休校措置が出され、市長の記者会見が行われた。第2週明けには二桁だった感染者数が週の後半には三桁に増加、50人以上のイベントの開催は禁止され、映画館、劇場など文化的施設やスポーツ施設は全て閉鎖されることとなった。第3週には、初の行動制限が発令され、ドイツの全学校・保育園の閉鎖となった。そして、第4週には、スーパーや病院など生活に必要な施設以外は全て閉鎖、基本的に同居家族以外との人々の接触は禁止となった。これにて事実上のロックダウン生活に入ったが、同居家族との散歩などは認められているため、気分転換も行うことができている。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、新型コロナウイルス、感染拡大、行動制限、ロックダウン、シュリットディトリッヒ桃子

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスですが、本稿執筆時点の4月上旬時点で、ドイツ全体の感染者数は約10万人、死者数も約1,500名となっています。近隣のイタリアやスペインに比べて数は少ないものの、感染は拡大し続けており、危機的状況にあることには変わりありません。本稿では、ベルリンにおける新型コロナウイルスの感染拡大経緯とその影響についてお伝えしたいと思います。

ドイツにおける感染拡大の経緯

ドイツでは2月上旬に南部バイエルン州の自動車メーカーで1人目の感染者が確認されました。感染ルートは武漢からの出張者を迎え、会議を行ったことが発端とされていましたが、すぐさまその会社は公表、閉鎖され、感染者およびその家族は即刻隔離されたことも功を奏し、いったんウイルス拡大は収まったように見えました。

しかし、その後、お隣のイタリアにスキー旅行に行ったドイツ南部の人々がウイルスに感染したことが判明しました。2月は、2期制を採るドイツの学校の前期が終わり、後期が始まるまでの冬休み中の時期でした。さらに、陸続きのEU諸国内では、国境検閲なしに人々が簡単に行き来できるので、ドイツとイタリア間の移動は国内旅行のような感覚で気軽に行われていることもあり、このタイミングで多くの人々がイタリアに出かけていたのです。

また、2月中旬から下旬にかけてはドイツの南部および西部では伝統的なカーニバルの季節で、大々的にお祭りを行っていたことから、ケルンやデュッセルドルフのあるノルトライン=ヴェストファーレン州などドイツ北西部でもウイルス感染が爆発的に広がっていきました。

ベルリンでの感染拡大経緯
3月1週目:第一感染者の確認

一方、ドイツ北東部に位置し、上記の感染地域からは距離的に離れているベルリンでは3月に入るまで、感染者が確認されることはありませんでした。しかし、3月1日に1人目の感染者が確認されると、このニュースは大々的に報じられました。

この時、1~2月にアジア諸国で猛威を振るっていた新型コロナウイルスが、遂に当地でも現実的な問題となって押し寄せてきた、という危機感を抱いたのを覚えています。国際化が進み、人の往来が国境を越えて当たり前のように行われている現代において、いつかは来るとは思っていましたが、自分が住んでいる街で実際に感染者が見つかるというのはやはりショックでした。さらに、当地ではマスク着用の習慣がない*ことも、大きな不安を抱いた要因の一つでした。今後、ベルリンでも爆発的に感染が広がり、ニュースで見た武漢の恐ろしい光景が繰り広げられるのか、もしそうなったら、この異国の地で子どもや家族と生き残ることができるのか、などしばらくは心穏やかでない日々が続きました。

1人目の感染者と接触した60名がすぐに追跡、隔離され、検査を受けることとなりましたが、翌日にはベルリンでの感染者数は6名に増えました。その中に学校の先生が含まれていたことから、市内の学校3校が初めて新型コロナウイルスの影響で休校になりました。そのうちの1校である上級学校(中高一貫校)は、学校内で希望する生徒たちがイタリアのチロル地方にスキー旅行に行ったのが感染源と言われており、上述の引率教師が検査で陽性と出たため、2週間の休校となったそうです。このスキー旅行に行った生徒たち30名も2週間の自宅待機となりました。隣接する小学校も、感染が疑われる生徒たちの兄弟が多く通っていることから、同様に休校となりました。

また、2日目の感染者6人の接触者200名も隔離、検査を受けさせられました。この時点で、ドイツ全体の感染者数は196名となっていましたが、ベルリン市長は緊急会見を開き、感染者の居住区や現状(自宅もしくは病院隔離)および今後の対応方針について述べました。

この時、市内最初の感染者の発見から2日目、まだ感染者が6人の段階で、市長が会見を行うというそのスピードの速さ、そして感染者情報を公開するという情報の透明性に、良い意味で驚いたことを覚えています。さらに、感染者と接触した多くの人々を迅速に割り出したことにも感嘆しました。また、感染者は自宅(軽症者)もしくは病院(重症者)にて隔離されることとなっていますが、それを破って外出した場合、罰金が科せられる(すなわち犯罪行為とみなされる)ということから、事の重大さが理解できました。

同じ頃、ドイツ全体の感染者数は240名になり、マスクや防護服の輸出が禁止されました。また、ベルリンでは、直前の週末にあるクラブに行った若者の感染が確認されたことから、そのクラブに行った人は自宅待機をし、保健所に連絡するよう、新聞やインターネット、TVなどのメディアによって一斉に呼びかけられました。

また、当地の学校の中では、劇場などの閉鎖空間で大人数が集まることに危機感を抱き、観劇などの課外授業をとりやめるところも出てきました。

我が家では、この週末に毎年恒例の私の誕生日パーティを親戚一同、十数名を招待して行う予定でしたが、これらの経緯をふまえて、中止しました。毎年、ビュッフェを準備し、我が家で楽しく集うこのパーティですが、現在の感染状況を鑑みると、この判断は間違っていなかったと思います。

また、食べ盛りの子どもを抱える世帯としては、万が一の事態に備えて、食料調達は不可欠です。東西ドイツの統一前に物不足を経験している東ドイツ出身の夫は「これからは物資が入手しにくくなるかもしれないから、今、買えるものは買っておくべきだ」と主張していたので、この頃から我が家では少しずつ、水、缶詰や小麦粉、米、トイレットペーパーなどの食料の備蓄を開始しました。その甲斐あって、現在、買い物は生鮮食品など必要最低限に保つことができています。

3月2週目:行動制限に関わる政令発表

さて、最初の感染者確認から1週間経過し、3月2週目に入ると、ベルリンでの感染者数は累計48名となりました。すると、オペラ劇場やコンサートホールなど、市内の500名以上収容可能な劇場での公演はすべて、4月19日まで休演になることが市から発表されました。これは文化的施設が多く、それらに携わる人が多いベルリンにおいて、かなり衝撃的な発表でした。

身近なところでは、市内のバスの乗り降りは後ろの出口からのみとなり、前の入口は封鎖されました。これはバス運転手を感染から防ぐための措置です。さらに、運転士と乗客の席の間にはテープが張られ、距離が保たれています。

週の後半になると、市内の感染者は累計158名となりました。週の初めには48名でしたから、驚異的な増加率です。それまでは感染者と接触があった人をくまなく検査してきましたが、この週から、検査は発症が疑われる人に限定して行われることとなりました。

また、市から感染症保護法に基づく新たな行動制限に関わる政令が追加発表され、即日施行、4月19日まで効力をもつこととなりました。これにより、50人以上のイベントは禁止され、前述の施設以外にもメッセなど人が集まる場所の営業は停止、ジムなど全てのスポーツ施設の営業も禁止となりました。これらの政令に従わないものは、最大5年の懲役もしくは最大25,000ユーロ(約290万円)の罰金という厳しいものです。さらに、翌週から市内全ての学校・保育園の閉鎖が発表されました。

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閑散としたベルリン中心部のアレキサンダー広場


3月3週目:行動制限の追加、学校・保育園閉鎖

この週に入ると、ベルリンの感染者数は累計263名となり、1日で約100人の増加とそれまで以上のスピードで感染が進みました。ベルリンよりもずっと感染者数が多い南部のバイエルン州では国内で初めて外出禁止令が出されました。国レベルでは、ドイツ国境が閉鎖され、ワールドカップと同様、一大行事であるサッカー欧州選手権が来年に延期されることが正式に発表されました。

そして、ベルリン市内でもさらに厳しい行動制限の命令が出て、スーパー以外の店(ショッピングモールなど)や教会などの集会所は閉鎖になりました。ただし、ドラッグストア、ガソリンスタンド、銀行、郵便局、美容院、クリーニング店、ペットショップ、ホームセンター、自転車店などは閉店を免れていました。長い冬が終わり、庭いじりに最適となったこの季節、家で過ごす時間が増えたので、ホームセンターが開いていることは好意的に受け止められていました。また、この頃から公共交通機関を避け、自転車で通勤する人が今まで以上に増えてきたこともあり、自転車店も開いていたのは興味深かったです。

街中では、案の定、この週から買い占め(ドイツ語ではHamsterkäufe:「ハムスター買い」と言います)が起こり、メディアでも大きく報じられました。トイレットペーパーや米、パスタ、缶詰などが品薄になっていたのは日本も同様かと思いますが、小麦粉やイーストが売り切れとなっていたのは、パンを自宅で作る人が増えたためと察します。といっても、一つのスーパーである品物が売り切れでも、隣のお店では普通に陳列されていたり、同じ商品でも値段が比較的高いものは売れ残っていたりと、お店の中が空っぽという状態ではなく、メディアが報じるほど深刻な状況ではなかったように記憶しています。(あくまでも私たちの近所の話ですが・・・)

また、この週になると、市内7か所の検査所で1日あたり2,000件の検査が可能となりました(ドイツ全国規模ではこの週16万件の検査が可能でした)。しかし、希望者全員を検査対象にしているわけではなく、感染が疑われる症状が出ている人や感染者との接触があった人などに限定されています。 不安や心配から検査を希望する人は、公の検査機関では受け付けてもらえないとのことでした。

この週のハイライトはアンゲラ・メルケル首相の演説でした。彼女が国民に向けて演説するのは、これまで年1回の大晦日のみでしたが、この緊急事態に、彼女は直接国民に訴えました。「ドイツ国民の7割がこのウイルスに感染する可能性があります。ですから、医療崩壊を防ぐため、感染のスピードをできるだけ遅らせるべく、国民一人一人が人との接触を避け、感染拡大防止に協力することが必要です。そのために今後、さらに行動の制限がかけられる可能性がありますが、どうか理解して下さい」という内容の演説は、一国のリーダーとしての国民への要請とその目的が明白で、外国人の私にとってもわかりやすいものでした。さらに、この厳しい状況で、感染の脅威にさらされながらも労働し続けている医療関係者をはじめ、スーパーの店員にも感謝を表明していました。このように、国民との距離を縮めつつ、安心感を与えてくれる心が温まるような演説でした。

3月第4週:事実上のロックダウン

この週に入ると遂にベルリン市内の感染者は累計1,000人を超え、初めて死者も出ました。週が終わるころには感染者は2,000人を超え、文字通り爆発的に感染者が増加しました。それまで新型コロナウイルス対策はドイツ国内の16の各州がそれぞれ行っていましたが、遂に3月22日、メルケル首相がドイツ全土において統一した社会生活上の接触制限措置を定め、発令しました。

それは、これまでのベルリンにおいて発令されたものよりさらに厳しくなっており、これにより、スーパーや病院など生活に必要な施設以外はレストラン、理髪業を含め全て閉鎖、同居家族以外の人との接触は最低限に控え、外出時に同伴できる同居家族以外の人は1人、他人と接触せざるを得ない場合は、最低1.5メートルの距離をとることとなっています。また、70歳以上の高齢者はなるべく自宅から出ないよう、外出禁止勧告が出されたのもこの週でした。このように、街は事実上のロックダウン状態に入りました。

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レストラン前に張り出された休業のサイン

3月の振り返りと現状

今年の3月は、色々なことが矢継ぎ早に起こって、あっという間に過ぎた月だった、というのが個人的な感想です。最初の感染者が見つかってから、わずか1か月で市内の感染者数は2,500名以上となり、想像以上のスピードでこのウイルスは拡大し続けています。このスピードに追い付けとばかり、行政の動きもとにかく早く、毎日何度もニュースをチェックしていないと、政令発表に追いつかない、という焦りもありました。「たった数日前に発令されたものが、今日には変更され、即日発効」ということが実際に起こっていたからです。

しかし、このような行政の決断および実行の早さは「医療崩壊を防ぐために市中感染増加のスピードを緩めるには、ここまで徹底的にしなければならないのだ」という厳しい現実に基づいたものです。感染者は増加し続けているものの、検査能力の拡大(4月上旬時点では週50万人が検査可能)や、市長や首相がメディアに度々登場し、国民や市民に直接、現状や対応策を説明していたことにより、少なからず安心感を覚えたのも事実です。

4月に入った現在、街中でマスクを着用する人も増えました。また、買い占めはひと段落し、スーパーでは品ぞろえもほとんど通常通りにもどったこともあり、市民は平常心を保っているように見受けられます。ちなみに、スーパーの中では、他人との距離を保つため、レジ前や陳列棚前には1.5メートルごとに目印がつけられています。また同様の目的で、買い物カゴは撤去され、人との距離を保てる、縦長のショッピングカートのみの使用となっています。

地下鉄やSバーンといった主要交通機関も大体10分間隔の間引き運転となっていますが、多くの人が在宅勤務に切り替えていることも相まって、車内はガラガラ、利用者数は制限が出る前の10~15%に落ち込んでいるとのこと。明らかに車の通行量も減り、街は静かで、空気も澄んでいます。

一方で、当初2週間といわれていた行動制限は延長され、イースター後の4月19日まで効力を保つこととなりました**。イースターでは伝統的に高齢者を含む家族親戚一同が集まるため、人々の移動も多く、社会的距離を保つことが難しく、感染拡大が再び爆発的に広がってしまうことを懸念したためだそうです。

また、不要不急の外出(通院、通勤、買い物、犬の散歩、単独・同居家族との運動、新鮮な空気を吸うための散歩以外の外出)をした者には10~100ユーロ(約1,150~11,500円)、公共の場に2名を超える人数(家族連れは例外)で滞在し、警官の指示に従わなかった者は15~500ユーロ(約1,700~57,700円)の罰金が課されるようにもなりました。

このように4月に入ってからロックダウン状態は延長、厳格化されました。それでもベルリンでは完全な外出禁止令は出ておらず、同居家族との散歩などは認められているため、春の陽気の中、気分転換を行うことができており、制限生活をさほど苦しいと感じることなく続けられています。スーパー・薬局以外の施設はほぼ全て閉鎖しているので、外出する理由もありませんし、何より、「感染しない・させない」ために、家にいた方が安心できるので、敢えて外に出たいと思わないのが現状です。

いくら国や行政が法令を定めても、国民一人一人が自覚をもって行動しないと、このウイルスは食い止められません。「ウイルスが勝手に広まるのではなく、人がウイルスを運ぶから感染が広まるのです」という専門家の言葉を胸に、外出を控え、一日も早く感染拡大が終息することを願っています。


  • * 4月下旬より、ドイツ全土において、公共交通機関や店内でのマスク着用が義務化されました。
  • ** こちらの行動制限の期間は5月3日まで延長されました。

参考文献

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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