CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第37回 給食の無料化

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第37回 給食の無料化

シュリットディトリッヒ 桃子

2019年11月 1日掲載

要旨:

ベルリンの公立学校では、今年度から市内約22万人の児童に温かい昼食が無料で提供されるようになった。これにより、我が家では食費を抑えることができるようになり、家計の助けになっているが、一方で、問題も生じている模様。この政策が採択されてから、導入されるまで短期間だったこともあり、実態が追いついていないのが大きな要因である。しかし、未来を担う子どもたちの健康のための政策は概ね好意的に受け入れられている。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、ギムナジウム、時間割、給食無料化、食堂、交通費無料化、シュリットディトリッヒ桃子
ギムナジウム2年目

8月より新学年が始まり、息子もギムナジウムの2年生(日本でいうところの小学6年生)となりました。思えば昨年度は怒涛のギムナジウム1年生生活でしたが(第34回「ギムナジウム生活の始まり」、第35回「ギムナジウムの洗礼」参照)、今年度はそれに比べると図らずも余裕をもったスタートとなりました。というのも、担任の先生(ドイツ語、英語担当)が学校開始前日に足を骨折してしまい、10月の秋休み明けまで欠席、という想定外の展開! 副担任の先生(理科担当)が代わりを務めるかと思いきや、上級生のイギリス研修に参加して不在、他の先生方も新入生歓迎合宿などで不在・・・。というわけで、最初の2週間は代講のオンパレードとなりました。日本で新学年開始早々、先生方が2週間もお休みという事態は想像するのが難しいかもしれませんが、少なくとも代講措置がとられ、新学期早々休講とはなりませんでしたので、親としては安堵しました。息子も比較的スローな新学年開始となり、慌てることなく夏休みからのシフトチェンジを行うことができました。

さて、そんなギムナジウム2年目の時間割ですが、変更点といえば、英語の授業が1コマ増えたことにより、総授業数もその分増加しました。これで、彼の学校では1週間に英語、算数、理科、ドイツ語のクラスが其々5時限分となりました。また、昨年度は理科の中で化学、物理、生物の3分野の授業がありましたが、今年度は物理と生物のみになりました。

このように、時間割的にはそれほど大きな変更はなかったのですが、学校生活面では今年度から給食と交通費が無料化され、大きなニュースとなりました。本稿ではベルリンの学校における給食費の無料化についてお伝えしたいと思います。

給食の無料化

これまでベルリンの公立学校では月に約30ユーロ(約3,500円)の給食費を払えば、温かい昼食が食堂で提供されてきましたが、日本のように全ての児童が学校給食を利用しているわけではありませんでした。給食を申し込まない子どもは、お弁当を持参していたようですが、小学校在校時には、何も食べずに食堂で無料のお水やお茶だけ飲んで、午後の授業に臨む子どももいる、と息子から聞いたことがあります。

そんな状況を鑑みたベルリン議会は「市内公立校に通う全ての1年生から6年生までの児童に温かい昼食を提供すること」を決定しました。第26回「ドイツの食事情」でお伝えしたように、ドイツでは伝統的に朝御飯と晩御飯は「冷たい食事(Kaltes Essen)」といって、パンとチーズやハムで簡素に終わらせますが、昼ご飯は一番豪華で「温かい食事(Warmes Essen)」のシチューや焼いたお肉などがふるまわれます。ですから、今年度より市内約22万人の児童(1年生から6年生まで=小学生およびギムナジウム2年生まで)が無料で温かいご飯を食べられるようになったことは、成長期の子どもたちにとって、大変重要な意味合いをもつこととされています。

さらに、給食の質を向上させるべく、給食を提供する業者は少なくとも50%は有機食材を用いることが義務付けられました。

これまでも給食費の3割を負担していたベルリン市ですが(残りの7割は上述の保護者が支払う給食費です)、今回の新制度導入に伴い、年1億2900万ユーロ(約154億円)を市の財政から捻出しました。

ギムナジウムでの給食:息子の学校の場合

息子の通うギムナジウムでは、小学校の時とは異なる給食業者を使用しているようで、1日あたりのランチの値段は小学校時に比べると数十セント値上がりし、1日あたり3.5ユーロ(約390円)となりました。しかし、今回の政策導入のおかげで、我が家では年間約700ユーロ(約84,000円)の支出を抑えることができるようになり、喜ばしい限りです。

ちなみに、給食メニューは事前にインターネットで選ぶことができ、味も小学校の時より美味しくなったらしく(あくまでも本人談ですが)、毎日完食し、本人も満足しているようです。

ある週のメニューは下記のとおりですが、この中から1日1メニューを当日の朝8時までにインターネットから登録しておきます。ちなみに、その時間まででしたら、キャンセルもできますから、昨年度は、朝、急に体調が悪くなり学校を休むことになった場合などは、料金発生を回避することができ便利でした。そして、その日の昼に食堂で各児童が「給食カード」をかざすと、自分の選択したランチが提供されるシステムになっています。

ある週のメニュー:毎日どれか一つを選択します
月曜: 1)合いびき肉のボロネーゼ
2)カリフラワーのチーズ揚げと野菜サラダ
火曜: 1)鶏肉ともやしの春巻きとご飯
2)ベジタリアンギュロスとフライドポテト
3)オートミールとアップルムース
水曜: 1)七面鳥のソーセージとザワークラウトとゆでじゃがいも
2)人参・パプリカ・トウモロコシの炒め物とご飯
木曜: 1)スケトウダラのフライ タルタルソース添えとハッシュドポテト
2)じゃがいもと野菜のグラタン
3)骨付きチキンと夏野菜付け合わせ
金曜: 1)豚ソーセージ入りザクセン風ジャガイモスープとライ麦全粒粉パン
2)トウモロコシとズッキーニのサツマイモパイ、ブロッコリ・人参・カリフラワー添えとご飯
:ギュロスとは元々ギリシャ料理で、あぶった肉の塊をそぎ切ったものですが、当地のスーパーなどでは細切り肉に味を付けたものも売られています。ベジタリアンギュロスは、肉の代わりに豆をすりつぶしたものを細切り肉に見立てて味を付けてあるそうです。
report_09_342_01.jpg
給食に出るメニュー:ギュロスとゆで野菜とご飯

毎日お肉・お魚料理もしくはベジタリアンメニューが選択できるようになっており、様々な背景をもつ子どもたちにも対応できるようになっていることが特徴ですね。それにしてもレストランのメニューのように美味しそうな献立!

給食無料化の問題点

ベルリン市民には概ね好意的に受け入れられている給食の無料化ですが、一方で、問題も生じている模様。というのも、この春に採択され、早くも8月から導入されたこの制度に、実態が追いついていないからです。まず、8月5日に新学期が始まった時点で、子どもたち全員が給食を食べるかどうか不明でした。ベルリンの人口の1割以上を占めるイスラム教の子どもたちの中には特定の食材しか口にしないケースもありますし、持病やアレルギーのため、給食を食べられない児童もいるでしょう。ですから、多くの食材が無駄になってしまうのではないか、という懸念があったのです。

それでも、多くの学校では全員分、すなわちこれまでの3割から5割増しの人数分を調達しなければならず、果たして給食業者がこの急激な増加量に対応できるのか、という疑問がありました。給食を作る施設や人材、さらには学校への配達手段の確保に関する問題が生じてきたのです。実際、新学期開始時に特定の数の温かい食事を準備できない給食業者もあったようで、しばらくは「冷たい食事」のみ提供された学校もありました。

また、学校の食堂は全児童を収容するだけの広さに作られていないので、椅子の数を増やしたり、中には食堂用テントを設置したり、食堂全体を改築せざるを得ない学校もありました。それでも、全児童を一度に食堂に収容することは不可能なので、昼休みを11時から14時までの間、6回に分けて、「食べたらすぐに食堂から退出する」としている学校もあるとか。

実は、息子のギムナジウムでもこの新制度導入を受けて、食堂の椅子をあえて「居心地の悪い小さなもの」に変えて数を増やし、児童たちが食堂に滞在する時間を短くするようにしたそうです。これに関しては、ベルリン市議会も対策を講じているようで、既に2020年度特別予算として、2,400万ユーロ(約28億7千万円)を食堂改築費として組み込んでいます。

さらに、日本のように教室で食べることを試みた小学校もあるそうですが、これはなかなかうまくいかなかったそうです。短い休み時間に食堂まで食べ物を取りに行って、教室で給食を配って、一斉にランチをとり、食後は食器を返しに行き、さらに教室の掃除をして、午後の授業に臨むというのは、そのようなシステムを慣例化していない当地の学校では、時間的にも衛生面にも問題があったようです。そもそもみんなで一斉に何かをする、という慣習はなく、休み時間に食堂へ行くのも、食堂から退出するのもバラバラです。(第22回「戸惑いの小3生活の始まり」参照)また、衛生面に関しては、当地では日本のように上履きに履き替える習慣もなく、また、掃除は子どもたちがするのではなく、放課後に清掃業者が行うこともあり、給食後に教室が汚れてしまった場合の対処の問題が大きい模様です。

このように問題も生じている給食費の無料化ですが、私たちの周囲では肯定的な意見をもつ方々が多いようです。当地では収入の約半分は税金などで徴収されてしまいますが、今回のように未来の社会を担う子どもたちの健康のために税金が使用されることは歓迎すべきことだと思いました。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP