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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第35回 ギムナジウムの洗礼

要旨:

ギムナジウムに入学してから秋休みまでの約2か月間、息子は生活のリズムを整えるのに精いっぱいで、体調も崩し気味だった。新しい学校では、各教科とも学習進度が速く、テストも多い。そんな中、先生から「親は宿題をしたかどうかのチェックのみを行い、正誤までは教えないでください」とのお達しが! 最初は従っていたものの、しばらくして息子の学習到達度が低くなっていることに気づいたので、教科書の復習を重視して家庭学習に力を入れることにした。またギムナジウムでは、学期の途中で中間成績が発表され、勉強の指針となっている。小学校に比べて、量も質も明らかにレベルアップした学習内容に、ギブアップ寸前の息子だったが、ある日、クラスメートも多かれ少なかれ同じような状況に置かれていることを知り、安堵した私たちであった。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、教科書、成績表、Nachhilfe、シュリットディトリッヒ桃子

昨年の秋からギムナジウム(総合大学への入学を希望する子どもが通う上級学校)に晴れて進学した息子ですが、入学してから秋休みまでの約2か月間は生活のリズムを整えるのに精いっぱいで、体調も崩し気味でした。そもそも、例年通り夏休みを過ごした昨年夏の日本では、ドイツでは経験したことのない程の猛暑が続き、寒冷地育ちで暑さに慣れていない息子は熱中症にかかってしまうなど、日本での滞在そのものは楽しかったものの、身体的には厳しい休暇となっていました。

ドイツへ戻ってきてからは時差ぼけに加え、既にベルリンでは涼しい秋模様で、日本との温度差に、大人の私でもすっかり体が驚いてしまったのを覚えています。そして、完全に疲れをとる間もなく、入学式、お泊まり合宿と新しい学校の行事が続き、それと並行して、学校が始まったその日からサッカーの練習が始まり、次の日は補習校、音楽(キーボード)レッスンとこれまで続けてきた習い事も並行して再開され、週末はサッカーの試合・・・。こうして、怒涛のような日々の中、2週目から本格的にギムナジウムでの勉強が始まりました。

とにかく速い学習進度

小学校と異なり、教科ごとに先生が変わり、時には教室も移動しなければならないシステムに息子は最初、戸惑っていたようでした。さらに、追い打ちをかけたのが、入学早々、各教科で次々にテストが行われたり、「算数オリンピック」にクラス全員で参加するなど、学習に関するイベントが絶え間なく行われていることです。

授業の進度もとにかく速く、まさにジェットコースターのよう! 例えば、算数は4週間で50ページ分進んだので、最初の中間テストの準備は大変なものでした。具体的には、「7桁までの大きな数、自然数の四則計算、概数および四捨五入、小数、単位変換(例:トン⇔キログラム⇔グラム⇔ミリグラム)と異なる単位の数の計算、二進法と十進法、ローマ数字とその計算」といった単元を文字通り「超特急」で学習しました。しかも、各単元が終わるごとにテストがあるものですから、まったく気が抜けません。先輩ママたちからは「ギムナジウムの勉強は本当に大変」とは聞いていましたが、私たち家族はこれほど大変だとは思っていませんでした。

あまりの進度の速さに、当初息子は何をどうしてよいのかわからず、途方にくれていたようです。というのも、つい2か月前まで通っていた小学校のクラスでは、掛け算九九の小テストを毎週1年半にもわたって行っていたにも関わらず、落第点をとっている子どもがまだ数人いたレベル・・・また、算数以外の科目も同様のスピードで進んでいます。

親の私も、日本では習わない二進法やローマ数字の計算にはタジタジ・・・。お恥ずかしながら「ローマ数字って何?」という状態だったので、子どもから質問を受けた時に慌ててインターネットで調べ、それを子どもと一緒に見て考えるようにしました。それでもわからない場合は、帰宅後、夫に説明してもらい、何とか乗り切りました。

*ローマ数字の問題例
問:MCCLXIVを十進法で表しなさい。
答:MCCLXIV=M+C+C+L+X+IV=1000+100+100+50+10+4=1264 

また、英語に関しては、6週間で、動物、色、数字、序数、電話番号の読み方(2020をtwenty-twentyと読むことがあるなど)、代名詞、命令形、メールの書き方、be動詞、時計の読み方、科目と時間割、月名、曜日名、不定冠詞(a/an)、there is 構文、canとてんこ盛り! こちらは私が手伝うこともできましたが、ドイツ語⇔英語の問題が多いこともあり、夫からドイツ語で説明してもらった方が理解が進むことが増えてきました。

いずれの教科でも、テストに選択問題はなく、ほとんどが記述式です。仕組みや現象の理由を自分の言葉で説明させる問題が多く目につきます。

例1:理科(物理)のテスト問題
なぜ科学者は温度を測る時に温度計を使用するのか、適切な専門用語を用いて説明しなさい。

例2:社会(歴史)のテスト問題
ホモサピエンスとアウストラロピテクスの違いとなる要素を少なくとも8つ説明しなさい。その際、キーワードを使用するのみならず、キーポイントを明確にして記述すること。

ちなみに、授業中と同じく、テストも使用が許されているのは万年筆のみで、修正液や修正テープなどの使用は禁止されています。

テストが返却されると、親の署名をもらい、間違えた箇所は修正して別紙にまとめ、先生に提出します。このようにして、自分の弱点を補っていくそうです。

ギムナジウムにおける親の役割

実は、新年度開始時に先生からお達しがありました。「ここは小学校ではなく、ギムナジウムですから、親の役目は子どもが宿題をやったかどうかチェックすることだけです。これは、子どもが自分で間違いを修正できるようになるため、そして教師が生徒の学力を適正に把握するためです。ですから、親御さんはお子さんの答えが合っているかどうかまでチェックしないでください。」ということです。従って、我が家でも宿題の答えは教えず、インターネットや本での調べ方を教えるにとどめておくようにしました。

しかし、しばらくすると、テストの結果がふるわず、学校の授業にもついていけない、と落ち込んでいる息子が・・・。日本でしたら、このタイミングで塾に入るところでしょうが、当地では「教育は公的機関が行うもの」という意識が強く、私的な塾や予備校のようなものはありません。唯一、"Nachhilfe"と呼ばれる「学校の授業についていくのが困難な子どもたちに対する個別指導」のようなものはあり、クラスの数名は利用しているようですが「まだ新しい学校生活が始まったばかりだし、サッカーや補習校で既に多忙な上にNachhilfeとなると息子はパンクしてしまう」ということで、とりあえず、宿題とは別に、教科書の復習を重視して、親子で取り組むことにしました。

学期の途中で発表される中間成績

小学校の時は、年2回(1月下旬と夏休み前)成績表をもらいましたが、ギムナジウムでは学期の途中で中間成績なるものが配布されました。初めてのそれは、10月中旬の秋休み前に全ての教科で行われた大きなテスト(日本の中間テストのようなもの)とそれまでに行われた単元テスト、小テスト、そして科目によってはプレゼンテーションの結果を中心につけられたもので、秋休み後の11月にもらってきました。

ドイツの成績のつけ方は6段階で1が最高、5と6は落第点ですが、ギムナジウム入学後最初の中間成績で5をとってしまった子どもは、強制的に保護者面談となった模様。ちなみに、通常7年生入学のところを5年生から入学したギムナジウムでは、入学後1年間は猶予期間なので、この間の成績が悪ければ、6年生になるタイミングで小学校に戻される可能性もあるとのことでした。前期の成績は学期末の1月末に配布されますが、中間成績は11月に配布されました。後期に関しては、最終成績は学年末の6月に配布されますが、中間成績はイースター休暇前後(4月)に配布され、子どもたちの勉強の指針となっているとのことです。

幸い、息子には落第点はありませんでしたが、明らかに成績は小学校よりも下がってしまいました。さすがに、「ギムナジウムは大学進学のために勉強する場所なんだなあ」という思いを親子で強くしましたが、同時にどの教科でもドイツ語力が不可欠である、ということを再認識しました。というのも、どの科目においても、読解量およびレポートやテストでの記述量が小学校の時とは比較にならないくらい増加したからです。

しかし、息子は未だにドイツ語よりも日本語に対する得意意識が高い状態・・・日本への思いとは反比例したドイツ語学習に対するモティベーションを上げるのがなかなか難しい状況でした。さらに、冒頭に述べたように、体調がすぐれない中、始まった新生活に加え、習い事も再開し、心身ともに絶不調。授業が本格的に始まってからは、テストや宿題に追われ、疲労が蓄積されていったようで、秋休みまでの約2か月、本調子に戻ることはありませんでした。

ギムナジウムの洗礼?!

しかし、よくよく周りの話を聞いてみると、新しい生活に戸惑っていたのはどうやら息子だけではなかった模様。というのも、テストでは都度、点数に基づいて成績がつけられ、最高の1から最低の6までをとった人数分布が発表されるのですが(テストの満点は17点だったり、25点だったり毎回異なるので、6段階の成績の方が重視される)、1を取る生徒はほとんどおらず、3や4が大部分、中には5がクラスの半分以上だったテストもあったからです。皆、一連の受験プロセスをくぐり抜け、合格した子どもたちなので、それなりに学力は備わっているはずだと思いますが、それでも一様に「ギムナジウムの洗礼」を受けた最初の2か月だったことがわかります。少なくとも、この状況を知って「息子だけではないのだ」と、少なからず安堵した私たちでした。これからも、親子でコツコツと地道に復習重視で頑張っていこうと思っています。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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