この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。
ベネッセ教育総合研究所の調査によると、日本の小学校の先生の95.3%が「毎日、宿題を出す」そうです (1)。しかし、息子が通うイギリスの公立小学校では、週1回しか宿題が出ません。宿題の頻度や量もさることながら、内容も日本とは違います。今回は、息子が通う公立小学校の4年生のクラスを例に、イギリスの宿題事情を紹介します。
※イギリスの小学校の宿題は、学校単位はもちろんのこと、学年や先生によっても非常に大きな差があります。ここでご紹介する内容は一例であることをあらかじめご了承ください。
毎週出るのは「英単語のスペリング練習と文章読解」「算数の計算や文章題」
息子のクラスでは、宿題は毎週水曜日に出され、翌週の火曜までに宿題ボックスに提出するスケジュールになっています。毎週出されるのは、英語と算数で、週によってはトピック学習(地理や歴史、科学を学ぶ時間)の予習として調べ学習するものや、発表資料の作成というものもありました。以下、具体的な内容を見ていきましょう。
<毎週出るもの>
① 小テストに向けた英単語のスペリング練習
まず、翌週にある小テストに向けて、6~12個程度の英単語のスペリング練習が宿題として出されます(写真1)。この英単語はクラスのみんなと同じ宿題が出され、息子には若干、難しいのですが、がんばって取り組んでいます。興味深いのは「Look, cover, write, check!」という練習方法。まず始めに、その単語はどのようなパターンなのかよく観察し、その上で単語を隠してどのようなスペリングか考えてみて、実際に書いてみる。最後にスペリングが正しいかチェックするという4段階で練習することが息子の学校では推奨されています。ちなみに、写真1の下記にある緑色のレ点(チェック)は先生が書いたものです。イギリスはこのチェックマークが丸の意味です。日本のように赤色のペンで丸ではないので、最初は混乱しました。

写真1 毎週6~12個を覚える スペリング練習
② 短い文章読解
英語の文章読解は息子のレベルに合わせて出されます。日本の国語の読解と同じで、文章を読み、内容の理解度を問う質問に答えます。100ワードほどの簡単な文章に対して、7問ほどの選択式、または記述式の問題が出ます。
③ おもしろ出題も! 算数の計算や文章題
算数の宿題は、計算や図形問題、文章題が出ます。計算や図形の問題は、多くの日本の子どもにとっては簡単に思えるレベルだと思います。それは日本の学校や日本人補習授業校の算数の進度がイギリスに比べて早いからです。ただ、文章題は英語の読解が必要なため、少々時間がかかります。しかし、この算数の文章題は、イギリスの文化や生活が垣間見えておもしろいのです(写真2)。例えば:
●ジェイのクラスはマラウイ共和国に靴を送るために、靴を集めています。彼のクラスは26足の靴を集めました。集めた靴は片方ずつで数えると何個ありますか?上記の靴の問題は、チャリティー精神が根づいているイギリスらしい出題だと思いました。

写真2 設定にはお国柄が出ていておもしろい! 算数の文章題
おじいちゃんが休暇にゴルフに行くという設定もイギリスらしいです。
<週によって出るもの>
④ 地理や歴史、科学のテーマについて調べ学習
週によっては、地理や歴史、科学などを学ぶ「トピック学習」の授業のテーマを予習する宿題も出ます。例えば「今、山について学んでいますが、山のタイプ、山の高さと気温の関係を調べてきてください」というものがありました。また、ユニークだと思ったのが「今、アングロ・サクソン人の文字について学んでいますが、その文字を使って秘密のメッセージを書いてきてください」というものも出され、もちろん、息子は喜んで取り組みました。
⑤ クラスでプレゼンするために、関心のあるテーマを調べて資料を作る
この宿題は年度末に1度だけでしたが、「クラスのみんなに発表するために、関心のあるテーマを調べ、資料を作ってきてください」という宿題が出ました。発表形態はポスターやブックレット、パソコンでのスライドショーなど好きな形でよいとのことでした。クラスメイトの多くはパソコンを使って発表していたそうで、息子もパワーポイントで資料を作成することにしました。このソフトは学校が提供しているオンラインサービスの中にあり、自由に使用することができるので驚きです。
宿題が少ない背景には、国の指針に沿った「宿題ガイドライン」があった
息子はイギリスで暮らし始めてまだ1年経っていなかったため、わからない単語を調べる時間がかかりましたが、それを含めてもそれぞれの宿題は30分~1時間以内に終わってしまいます。イギリスで生まれた子どもならそれより早く終わるでしょう。イギリスの宿題は日本に比べてずいぶん少ない印象です。
日本では毎日宿題が出るのに、なぜ、イギリスではこんなに少ないのか、疑問に思った私は学校のホームページにその手がかりを求めました。第7回「ほめて認める」取り組みの背景にガイドラインがあったように、今回もやはり「宿題ガイドライン」が作成され、誰でも確認できるようになっていました。ガイドラインは、大きく4つの章「宿題を出す背景」「宿題のねらい」「内容と量」「保護者の役割」から成っています。一番驚いたのは、「宿題の量」。それには国のガイドラインが明記されていました。例えば、レセプション学年~2年生(4歳~7歳)は「宿題を終えるのに必要な時間はだいたい週に1時間程度(保護者と行う読書を含む)」、3・4年生(7~9歳)は「1日15~20分程度」、5・6年生(9~11歳)は「1日30分程度」だそうです。日本では一般的に「1日の家庭学習の時間は、学年×10分」と言われているようなので、6年生だと60分。もちろん、日本もイギリスも家庭や個人によって差はあるでしょうが、全体的に日本より少ない印象です。
イギリス流の宿題のいいところ・課題に思うところ
イギリスの宿題のいい点としては、まず、「教科書やノートを持ち帰らないため、宿題で現在の学習内容や理解度を把握できること」です。逆に宿題がないと、保護者は今、何を勉強しているのかまったくわかりません。また、「発表資料作成の宿題をきっかけに、わかりやすい資料づくりのポイントを学べたこと」もよい経験になったのではないかと思います。息子は「日本語」を発表テーマに選びました。パソコンで発表資料作成をするのが初めてだったため、相手にわかりやすい順番や伝え方を教えるのに苦労しました。この宿題は家族総出で取り組んだため、資料の出来は上々でした。しかし、英語でプレゼンテーションするのが息子にとって非常に大きなプレッシャーだったため、結局、先生と相談して資料だけ提出することになりました。クラスの全員が取り組む必要がある宿題だったのですが、強制はされないことに柔軟さを感じました。
また、課題に思うところは、「復習による知識の定着が弱い」点です。毎日、計算や音読などの宿題が出て、習ったことを定着させていく日本に比べて、週に1度、少ない量しか出ないため、知識の定着という点では疑問が残ります。さらに「宿題のフィードバックが遅いため、つまずきがそのままになってしまう可能性がある」点も気になります。日本では、息子の宿題はその日か翌日に先生がチェックしていたようですが、イギリスに来てからは宿題のフィードバックは1か月以上経ってから戻ってくるもの、中には返却されないものもありました。先生は授業の準備や他の業務で忙しく、そこまで手が回らないのかもしれません。
我が家は毎週土曜日に日本人補習授業校に通っているため、イギリス流、日本流の宿題の両方をこなしており、それはそれで大変なのですが、両者のいいところを取っているのかもしれません。
次回は「小学校の個人面談」をお届けします。どうぞお楽しみに。
<参考文献>
- (1) ベネッセ教育総合研究所「第5回学習指導基本調査(小学校・中学校版〈2010年〉)」 宿題を出す頻度(図3-5-1)
http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/shidou_kihon5/sc_hon/pdf/data_10.pdf