CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【イギリスの子育て・教育レポート】 第8回 コスプレして見学旅行?! イギリスの4年生の「戦争」の学び方

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【イギリスの子育て・教育レポート】 第8回 コスプレして見学旅行?! イギリスの4年生の「戦争」の学び方

要旨:

イギリスの小学校で4年生になる息子は4~7月の3か月間、「第二次世界大戦」について学んだ。日本において戦争の歴史は小学6年生で習うため、4年生(8~9歳)には少し難しいのではないかと思えた。しかし、実際授業が始まってみると、「子どもの生活」に焦点を当てて学ぶといった、理解を深める工夫がたくさんあった。最も象徴的なのが、1940年代に使われていた保存鉄道への見学旅行。疎開時の子どもの服装に「コスプレ」して行ったり、当時、使用されていた蒸気機関車に乗って短い旅をしたりするなど、子どもの体験をベースにした旅行だった。また、第二次世界大戦について自分なりに調べ、ポスターやレポートにまとめる宿題が出された。関心のあるテーマの調べ学習や戦闘機の工作が宿題の成果として教室に掲示されていた。さらに、美術の授業では第二次世界大戦をテーマにした制作もあった。知識が定着しているかをテストで把握しないので、どこまで理解しているかはわからないが、子どもの体験をベースにした学び方で理解を促すのは興味深い。

Keywords: 橋村美穂子, イギリス, 小学生, トピック, トピック学習, 第二次世界大戦, 見学旅行, コスプレ

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

「イギリスでは小学4年生で『第二次世界大戦』を学ぶの?!」

これは、息子が通うイギリスの公立小の年間カリキュラムで驚いたことの1つ。日本では小学6年生(11~12歳)で太平洋戦争を学ぶそうです。イギリスは5歳で就学するので、小学4年生といっても8~9歳。この年齢でどこまで理解できるのかと思っていたのですが、8~9歳でも戦争の歴史を学べる工夫がたくさんありました。今回は、息子の小学校の事例をもとに、イギリスの小学4年生の「戦争」の学び方を紹介します。

「戦時中の子どもの生活」を通して第二次世界大戦を学ぶ

息子の学校では、歴史と地理は「トピック」という授業の中で学びます。第2回で紹介したように、この授業の特徴は、教科の枠を超えていろいろな角度から1つのテーマを学ぶこと。 テーマは学期ごとに設定されており、息子のクラスでは今年度、「古代エジプト」「アングロ・サクソン」「第二次世界大戦」の3つを学びました。

では、第二次世界大戦をどのような方法で学んでいくのでしょうか?息子のクラスのカリキュラム表によると「主に(イギリスの)国内戦線や疎開、戦時中の子どもの生活を通して、第二次世界大戦のいろいろな側面を学ぶ」とありました。また、身近に戦争に関する遺品や写真などがあれば持参してほしいとも書かれていました。

ちなみに、日本の小学校の先生に6年生における「太平洋戦争」の学び方を聞いたところ、概ね同じでした。「戦争によって影響を受けた人々の生活」という視点から、小学生の生活や疎開や空襲、衣食住でどのような事実があったかを学ぶそうです。

ではさっそく、イギリスの4年生における「第二次世界大戦」の学び方の特徴を見ていきましょう。

特徴① 疎開時の子どもの服装に「コスプレ」して見学旅行へ!

第二次世界大戦を学習しはじめて1か月ほど経った頃、1940年代に使用されていた保存鉄道への見学旅行がありました。ここでは、今も走っている蒸気機関車に乗れたり、戦時中の街や当時の生活を知ることができます(写真1)。

この見学旅行のお知らせを受け取ったときに目を疑ったのが、疎開時の子どもの服装に「コスプレ」して見学旅行に来てくださいというお願い!服装例まで添付されていました。色は地味ですが、意外にもおしゃれです(写真2)。また、見学旅行前には当日持っていくガスマスクを「工作」する宿題が出ました。当時の生活の一端を体験することが重視されているようです。

report_09_226_01.jpg
写真1:当時の洗濯の様子の再現。


report_09_226_02.jpg
写真2:服装例をもとにバッチリ「コスプレ」してきた子どもと先生。

特徴② 「第二次世界大戦」について自分なりに調べ、制作する宿題

次に興味深いのは、宿題です。クラスで発表できるように「興味のあるテーマを選んで、パソコン、手書きなど好きな形で制作してください」とありました。その後、学校を訪れると、教室にはその宿題の成果がたくさん貼ってありました。当時のものを再現したようなすりきれた紙に戦争が始まった時期をまとめている子、ヒトラーやガスマスクを例にドイツについて書いている子もいました(写真3)。また、戦時中のポスターを模写した子(写真3右下)や、戦闘機の工作をしている子もいました(写真4)。そのほか、教室には第二次世界大戦に関する写真や、いつ何が起こったか、年号とともに書いてある資料も掲示してありました(写真5)。

report_09_226_03.jpg
写真3:教室に掲示された宿題。一人ひとり内容が違って興味深いです。


report_09_226_04.jpg
写真4:戦闘機の工作。ペットボトルで作成しているようで、雰囲気が出ていますね。


report_09_226_05.jpg
写真5:先生が作成した第二次世界大戦に関する掲示コーナー

特徴③ 美術の時間も「第二次世界大戦」がテーマ

「トピック」のテーマは毎回、美術の授業とリンクしているのも興味深いところです。テーマの学習が終盤に差し掛かった頃に美術の制作に取り組むことが多いようです。今回は、夕陽をバックにした建物と戦闘機の絵でした(写真6)。建物と戦闘機は切り絵で、なかなか凝った作りです。この作品は、送り迎えをする保護者や他の学年の子どもも見られるように教室の外の廊下に掲示されています。

report_09_226_06.jpg
写真6:廊下に掲示されている第二次世界大戦をテーマにした絵。


このほかに、見学旅行前に「子どもと戦争」をテーマにしたDVDを見たり、アンネ・フランクについて学ぶ授業もあったそうです。8~9歳で戦争について学ぶのは、少しハードルが高いのではないかと思っていました。しかし、見学旅行や自分で調べたり制作したりする活動、美術とのリンクなど、体験をベースにしながら子どもの理解を促す工夫がたくさんありました。ただ、第二次世界大戦に関して知識が定着しているかをテストで把握するわけではないので、実際にどの程度理解しているか、少々疑問が残ります。そのうえ、このテーマの学習が始まった頃、息子は現地校に通い始めてまだ半年ほどだったので、英語で各国の関係性や戦争の背景を学ぶのはハードルが非常に高かったようです。少しでも授業を理解できるように、日本や世界の歴史をマンガで予習して臨みました。イギリスと日本の両国から見た「戦争」を知ることができ、親子ともによい勉強の機会となりました。

次回は「妊娠中期~後期の妊婦健診」について取り上げます。どうぞお楽しみに!

筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP