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【イギリスの子育て・教育レポート】 第9回 検査がこんなに少ないのってアリ? イギリスの妊婦健診(妊娠中期~後期編)

要旨:

今回は主に妊娠中期~後期に焦点を当て、イギリスの妊婦健診の特徴や日本との違いを紹介する。特徴は3つある。1つ目は健診内容や検査項目だ。驚くべきことに「内診」や「体重測定」は妊娠期全体を通して1度もない。また、超音波検査は全体で2回のみである。2つ目は、健診回数が日本に比べ大幅に少ない人もいることだ。それは特に出産直前(36週以降)の健診間隔の違いが大きい。日本では毎週だが、イギリスでは2週間に1回となっている。また、第2子以降の出産の場合、健診回数がさらに少ない人もいるという。3つ目は「自分から質問する、自分で考えて決める」といった「積極的な姿勢」が妊婦に求められること。例えば、妊婦が質問をすれば丁寧に答えてくれるが、妊婦から聞かなければ必要最低限の情報しか入ってこない。また、出産方法にはさまざまな選択肢が用意されており、妊婦自身が決定する機会が多い。「あなたはどうしたいのか?」と妊婦の考えを求められる。
上記のような特徴の背景には、第4回でも触れたように「妊娠・出産は太古の昔から行っている自然な営み」という考え方や、国営保健サービスの財政難があるようだ。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

第4回でイギリスにおける「初回の妊婦健診」を取り上げ、多くの反響をいただきました。今回はその続編として、「妊娠中期~後期の妊婦健診」にスポットを当てたいと思います。今回取材したのは第4回に登場した方とは別の日本人で、順調に妊娠生活を送っているAさん。日本での出産経験はありますが、2016年秋にNHS(国営保健サービス)を利用してイギリスでは初めて出産する予定です。このAさんの事例をもとに日本とイギリスの違いを見ていきましょう。今回紹介する内容はAさんの事例であり、個人差や病院、居住地域による差があることをあらかじめご了承ください。

妊娠初期から出産直前までの健診スケジュールとその内容

妊娠初期から出産前まで、どのくらいの間隔でどのような検査があるのでしょうか。イギリスの妊婦健診についてをまとめた表を見てください(表1)。大きな特徴は、①健診での検査項目と②健診の回数です。


<表1>

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特徴① 健診での検査項目が少ない。「内診」「体重測定」は1回もなし!

まず、大きく違う点は妊婦健診で行われる検査項目です。日本とイギリスの共通点は、尿検査、血圧測定、心音測定、子宮底長測定(妊娠後期のみ)が毎回あること。しかし、驚くべきことにイギリス(Aさん)では「内診」「体重測定」は妊娠期全体を通して1回も行われていません!また、日本では毎回行う病院もあるという「超音波検査」は、イギリスでは妊娠期全体を通して2回のみ。12週(妊娠4か月)と20週(妊娠6か月)に行われます。その他、奥様がイギリスで出産した産婦人科医師によると、「日本では行われている性器クラミジア、子宮頸がん、血糖値、B群溶血性レンサ球菌の検査もない」と言います。

特徴② 妊婦健診の回数が日本に比べて大幅に少ない人も

次に違う点は健診の回数です。個人によって異なりますが、日本では一般的に、妊娠期全体を通して約14回(初回が妊娠8週の場合)、健診を受けます。対して、イギリス(Aさん)の場合は10回と日本に比べて少なくなっています。これは妊娠中期~後期の健診間隔が長いことが理由です。例えば、日本では妊娠24~35週までは、基本的に2週間に1回健診がありますが、イギリス(Aさん)の場合は、3~4週間に1回と半分弱の割合です。また、出産直前の妊娠10か月(36週)以降は日本では毎週1回健診がありますが、Aさんの場合は2週に1回でした(1)。

さらに、NHSのウェブサイトによると、イギリスでは第1子の場合、健診回数は10回程度ですが、第2子以降では6~7回と日本の半分以下の場合もあるそうです(2)。日本では地方自治体によって異なりますが、妊婦健診補助券を約13~14枚もらえるとのこと。つまり、日本では第2子以降でも妊婦健診が13~14回程度行われると想定されているようですが、イギリスでは健診回数が日本の半分以下の人もいるから驚きです。もちろん、母体や赤ちゃんの状況により、必要に応じて健診が追加される場合もあるそうです。

特徴③ 自分から質問、自分で考えて決める・・・妊婦に求められる「積極性」

3つ目の特徴は、健診に臨む「姿勢」。妊婦に求められる「姿勢」について、Aさんは以下のように話します。

「日本ではいろいろな検査があるので、自分や赤ちゃんの状態を細かく知ることができたり、妊娠・出産に関する情報を病院からもらえたりしますよね。でも、イギリスでは、基本的には自分から質問をしない限り、必要最低限の情報しか得られません。ただ、質問をすれば真摯に、ていねいに答えてくれます。日本での妊娠・出産は『至れり尽くせり』で、情報を与えられることに慣れていたので、『何かあったら自分から積極的に関わって解決していかねばならない』ことに少しとまどいました。妊娠後期に入り、出産時のことが気になってきました。ちょうど健診が自宅で行われる回があり、ゆっくり質問できそうなので、健診前に質問を準備して臨みました。『陣痛が始まって、病院に電話した際に電話口で聞かれること』『入院する際の持ち物』『無痛分娩について』などたくさんの質問をしましたが、とても詳しく教えてくれました。出産経験者や情報を調べることに慣れている人はいいけれど、そうでない場合は情報が限られてしまうので、大丈夫なのかなと思ってしまいます。

また、出産の形態については『あなたの好きなようにしてよい』という立場が取られています。自宅出産なのか病院なのか、無痛分娩なのか自然分娩なのかなど、さまざまな選択肢の中から自分に合った出産形態を選ぶことができます。しかし、例えば『あなたはどういう姿勢で産みたい?』と聞かれても、分娩台に上がって仰向けになる姿勢以外はしたことがないし、そもそも『どういう姿勢で産みたいか』と考えたこともなく、日本では病院の方法に沿っていたので、聞かれても困る・・・というのが正直な感想でした。今回は日本で上の二人の子を産んだときと同じように、自然分娩、同じ姿勢で出産する予定です。」

イギリスでは、検査項目や健診回数が少ないこと、「自分で考えたり、自分から行動を起こしたりする積極性」が求められることは、複数の日本人の妊婦さんから聞きます。このような背景には、第4回でも触れたとおり、「妊娠は太古の昔から行っている自然な営み」という考え方や、NHSの財政難があるようです。妊娠に対する考え方については、NHSの出産に関するパンフレットに「分娩は痛みを伴うものであり、大仕事です。しかし、何十万年もの間、女性たちは出産してきており、適切なサポートと知識があれば大丈夫なのです」といった表現が出てきます(3)。太古の昔から人類が行っている自然なことなので、頻繁に健診する必要もないし、妊婦が主体で決めてよいという考え方になるのかもしれません(もちろん、出産リスクの高い妊婦さんの場合は健診回数が多いなど、より手厚いケアを受けることができます)。また、NHSの財政難は深刻な問題です。妊婦健診に関わる費用はすべて無料なので、費用対効果で考えると検査項目や健診が少ないのは当然なのかもしれません。

Aさんはイギリスに住む多くの妊婦さんと同じく、結局、1度も産婦人科医師の診察も内診も受けずに出産に臨む予定です。手厚く、至れり尽くせりの健診がある日本に比べ、必要最低限の健診で出産に臨むイギリス。自分と赤ちゃんのもつ力を信じて妊娠期を過ごすイギリス在住の妊婦さんたちが順調に妊娠・出産を乗り切ることを願わずにはいられません。

次回は「小学校の宿題」を取り上げます。どうぞお楽しみに。


<参考文献>
筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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