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【宝宝、ニーハオ!-上海子育て記】 第6回 上海の医療事情<産婦人科編>

上海に来て1年がたった頃、第二子を妊娠しました。2012年は辰年、中国では辰は古来より皇帝のシンボルで縁起がいいとされているため、辰年生まれは好まれます。その上、この年は60年に一度の壬辰の年。女へんをつけると「妊娠」となるため、子孫繁栄も望めるとあって、産むなら今!と、中国全土でちょっとしたベビーブームが起きていました。


セレブ産婦人科

私が妊婦健診に通っていたのは、自宅から歩いて5分のところにある外資系総合病院です。この病院は産婦人科が有名で、毎年多くの外国人が出産しています。LDR設備*1を備えたホテルのような病室に、豪華な食事、24時間の通訳サービスもあるので、日本人にも大変人気があります。

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通っていた病院

しかし、前回も触れましたように、こちらの外国人向けの医療サービスはローカルの基準から考えると高額です。健診は15回通うパッケージで約30万円、出産費用として、普通分娩、3泊4日の入院で約100万円、帝王切開だと約180万円かかります。

ちなみにローカルの病院だと帝王切開でも10万円くらいから高いところで20万円くらいと聞きました。

こんなに高いのだから、てっきり会社からの補助が出る駐在外国人ばかりだろうと思っていたのですが、検診に通ってみると、外国人と地元中国人(と思われる上海語もしくはいわゆる中国語(標準語)を話す人)の割合は6:4くらいでした。

改めて、経済発展の著しい上海、富裕層の存在を感じずにはいられません。(余談ですが、上海ではとてもよく超高級車を見かけます。その数は東京よりはるかに多いです。)


上海の妊婦健診

こちらで私の担当となっていただいたのは、アメリカ系中国人の助産師の方でした。海外での経験、そしてこの病院でのキャリアも長く、明るくさっぱりとした頼りになるお母さんという感じです。

検診では、担当医は診察だけを行い、超音波検査は別室で専門技師により行われました。超音波検査は特に問題がない限り、出産までに3回しか行われません。日本で長男を出産した際は、全部で12,3回の健診全てで超音波検査があったので、これはとても少なく感じました。おなかの触診や心音で十分状態は分かる、「No Problem! Your baby is very happy!」と毎回言われましたが、それでもちょっと心配になってお願いすると「分かった、分かった。日本人って超音波検査をするのが好きだものね。」と笑われてしまいました。


大きな妊婦さん

さて、これはいいのか悪いのかわかりませんが、健診では体重については全く言われませんでした。確かにこちらでは、妊婦さんが出産までに25キロや30キロ、体重が増えることもざらで、20キロくらいであれば当たり前とされます。子どもの分まで栄養をとるのだから、体にいいものをたくさん食べなさいと周りもすすめます。もともと上海にはすらっとした大柄な人が多いため、それに大きく突き出たお腹は妊婦の神々しさとあいまって迫力満点です。

加えて、日本と中国の出産事情で一つ大きく違うのは、中国は帝王切開が主流であることです*2。特に上海など都市部では、帝王切開の方が痛みも少なく、より安全であると考えられており、たった一人のわが子を大切に産みたいと、初めから帝王切開を希望する人が多いのです。

私が自然分娩で産む予定だと告げると、たいてい「どうして?痛いでしょ!?」と驚かれました。自然分娩で安全なケースでも帝王切開をする場合は、術後の傷の痛みや手術を行うことへのリスクなど、マイナスの面もあるのですが、体重管理のプレッシャーも、陣痛の苦しさもなく赤ちゃんが産める、わざわざつらい思いをする必要はない、というふうに中国では考えられているようです。


男の子?女の子?

また、今回初めて知ったのは、中国の病院ではお腹の赤ちゃんの性別を教えてはいけない、という決まりがあることです。これは、おそらく性別の選択がされ、男児の方が多く生まれている現状を改善し、自然な男女比を保つためです*3

私の通っていた病院では、外国人に限っては、希望すれば教えてもらえましたが、別の病院では外国人であっても教えてくれません。超音波画像も見せてくれない所もあるそうです。それだけ医師が性別を教えることは固く禁じられているのです。

どうしても知りたい人は、医師が○○銀行と言えば男児、△△銀行と言えば女児、そういった符牒で伝えてもらえることもあるとか。でも普通は産むまでは全く分からないそうです。


宝宝を取り巻く人々

ところで、最近では日本でも検診に旦那さまがつきそっているのは珍しいことではありませんが、こちらでは生まれてくる赤ちゃんのお父さんに加えて、毎回おばあちゃん、おじいちゃんと、家族みんなで来ている人も多く見られました。

待合室から、診察室、検査室と一族でぞろぞろと大移動する姿は、初めはちょっとびっくりしましたが、初めての赤ちゃん誕生に寄せる期待と心配がだんだんと伝わってきてほほえましく感じるようになりました。こちらでは、子どもの養育は祖父母が担うことが主流ですから*4、妊娠時期からそれがもう始まっているのかもしれません。


日本で里帰り出産

さて、上海に住む日本人は上海と日本、どちらでお産をすることを選ぶのでしょう。私の知っている範囲ですが、この1年で出産をした日本人ママ22人のうち、上海で産んだ方は6人(そのうち1人は旦那さまが中国人)いました。それぞれの事情によるのでしょうが、日本での出産を選ぶ人が約7割と多数派です。ただ、2人目は上海で産みたいという声もよく聞きました。

実際、里帰り出産のメリットは、日本の高い医療水準、実家の助けを借りることができる、などがありますが、デメリットとして、飛行機での移動、上の子への環境の変化の影響、夫との長期にわたる別居などがあります。現地で出産するにあたっては、アイさんの助けもありますし、生活自体の変化は少なくてすみます。この点で、第二子以降の出産は上海の方が、と考えるのもうなずけます。

うちも息子の幼稚園はあるし・・・と悩んだのですが、結局、夫の仕事が忙しい時期と重なること、第二子とはいえ高齢出産にあたるため大事をとろうと、健診は上海で、出産は日本ですることに決めました。

そして2013年2月4日、予定日より1週間早く、長女が無事誕生しました。日本では巳年ですが、中国は旧正月で、2月10日に新年が明けましたから、滑り込みでドラゴンベビーとなりました。

生後2カ月たって上海に連れて帰ってくると、「まあ!上が息子で今度は娘だったの!非常好!(すっごく良かったね!)最好!(最高だね!)」と知っている人から全然知らない人にまで、熱烈に祝福していただきました。そうそう、この温かさ、率直さ、上海だなあと実感します。赤ちゃんとのこれからの暮らし、じっくりと楽しんでいきたいと思います。

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妹妹との対面


  1. LDR設備:陣痛(Labor)から、分娩(Delivery)、産後の回復(Recovery)までを同じ部屋で過ごすお産の方法です。医療設備も備えた入院室で、分娩時にはベッドが分娩台に早変わりします。その後は再びベッドになり、産後の回復期もそれに続く入院生活も送ることができます。分娩時以外、医療機器は収納されているので、自宅の寝室のような家庭的な雰囲気の中で過ごすことができます。また、お産の進行によって分娩室に移動する必要もないので、精神的にも肉体的にも負担が軽くなります。ただし、設備がある産院は限られており、入院費もやや高めになります。(たまひよnet 妊娠用語・出産用語辞典より)
  2. 中国における帝王切開の割合は46%、上海など一部地域においては70%近くに及ぶ。妊婦が太りすぎることによる体重4000グラムを超える巨大児の出生数も全体の1割を超える。
    http://www2.explore.ne.jp/news/articles/16593.html
    http://news.livedoor.com/article/detail/7986544/
  3. 中国全体では、現在も家系を継ぐ男子が好まれています。(2012年現在 男女比117.7:100)http://j.people.com.cn/94475/8154067.html
    しかし、上海では結婚の際、夫の親が住居を用意し、さらには高額な結納金、結婚式費用を負担することが多いため、今はかえって女の子の方が好まれる傾向があるとも聞きます。
  4. 上海の女性の就業率は高く、母親が職場復帰することに伴い、リタイア後の祖父母が家庭で子どもの養育を担うことが多いようです。
    参考:【中国】 中国における早期の子育て事情 「一人っ子」「市場経済化」「早期からの教育」の各政策のもとで 一見 真理子(国立教育政策研究所)2011年1月14日掲載
筆者プロフィール
石橋 貴子

チャイルド・リサーチ・ネット日本語版・英語版編集、外資系企業勤務を経て、2011年6月より夫の転勤に伴い上海在住。
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