息子が上海にある米系インターナショナルスクールの幼稚園に通い始めて1年半が過ぎました。入園当初は行くのをいやがり泣く毎日。なんとかなだめすかしてバスに乗せていたのですが、今では「楽しみで明日が待ちきれないよ!」と言う日があるほど、すっかり幼稚園生活をエンジョイしています。
幼稚園での生活
さて、息子の通うインターナショナルスクールの幼稚部には、Nursery(日本の年々少クラス)、Pre-school(年少クラス)、Pre-Kindergarten(年中クラス)、Kindergarten (年長クラス)があります。
息子は3歳の誕生日にNurseryに入り、Pre-schoolを経て、この8月からPre-Kindergartenに進級しました*1。
今年のクラスメイトは14名、アメリカ人の担任の先生、フィリピン人の副担任、身の回りのお世話の補助として中国人のアイ先生の3人がいます。生徒は半数が日本人、そして中国系の子どもたち、韓国人とインド人の子どもたちがいます。
どの学年も日本人の比率が高いのですが、同じ国籍の子どもの数は半数を超えないように考慮されており、教室では英語以外の言語を話すことが禁止されています。
一日のタイムスケジュール
では、子どもたちは実際にどのように一日を過ごしているのでしょうか。日本でいう年少組にあたるPre-Kindergartenのタイムスケジュールは、このような感じです。
Time | Activity |
8:30 - 8:45 | Play Time (登園後、遊びの時間) |
8:45 -9:00 | Morning Meeting (朝の会) |
9:00 - 9:45 | Literacy Time (英語の時間) |
9:45 - 9:55 | Snack |
9:55 - 10:25 | Math Lesson (算数の時間) |
10:25 - 10:55 | Chinese Lesson (中国語の時間) |
10:50 - 11:00 | Transition to Lunch |
10:55 - 11:35 | Lunch (ランチタイム) |
11:35 - 11:55 | Transition/ Brush Teeth/ Quiet time |
12:00 - 1:15 | Nap Time (お昼寝) |
1:15 - 1:30 | Wake up/Transition |
1:30 - 2:15 | Daily Learning Centers (ラーニングセンター) |
2:15 - 2:40 | Play Time (遊びの時間) |
2:40 - 2:45 | Transition to Specials |
2:45 - 3:30 | Specials (スペシャルレッスン) |
3:30 - 3:40 | Afternoon Meeting (帰りの会) |
3:40 | Dismissal (降園) |
かなり忙しそうなスケジュールに見えますが*2、実際に学校で見学した感じではあまりバタバタしている印象はありません。表の"Transition to~"というのは、教科の間の移動時間や準備時間のことですが、この時間があるため特別急がなくてもよいからか、時間の感覚がまだないからなのか、子どもたちはけっこうゆっくりしゃべったり、遊んだり、のんびりと一日の予定をこなしています。
スペシャルレッスンは日替わりで、月曜日:創造表現(歌や工作など)、火曜日:体育(外で球技など)、水曜日:陶芸、木曜日:ダンス(バレエ)、金曜日:体操、という風に曜日ごとに決まっています。それぞれの科目は専門の講師が指導してくれます。
息子曰く、「バレエは女の子のやるものだからつまらない」らしいのですが、体育や体操は大好きです。
バレエの授業風景
女子はチュチュ、男子もバレエ用のユニフォームを着ます。
実際の授業内容
では、毎日の決まった学習では具体的にどんなことをしているのでしょうか。一番息子の進歩が感じられるLiteracy、読み書きの時間を例にあげてみます。
Literacyでは今、毎週一つのアルファベットがテーマに選ばれています。テーマになるアルファベットの順序は、イギリス発祥の、あるフォニックスメソッドに基づいているそうです。基本的にはs,a,t,i,p,nなど、子どもが発音を覚えやすく、かつ少ない音節で(tiger, sun, ant, ink, pig, newなど)簡単な言葉を作りやすいと考えられるアルファベットから始め、それに加えてハロウィンの時期には、hを取り上げるなど、子どもの興味を引くような工夫をしています。また、bとdなど書き間違いが起こりやすいものは続けて教えず、間をあけて教えるなどの配慮もされています。
例えば、今週はEの週でした。まず月曜日に音声学から、Eは何かとくっつく時、イーではなくエと読むのだ、と習います。
そして、Eの形を確かめ、文字を書く練習をした後、Eをテーマにした歌を歌ったり、工作をしたりすることを通して、Eのつく単語の発音、意味、スペリングをどんどん覚えていきます。
最終日の金曜日には、show and tellと言って、家からEのつく物を探して持ってきて、みんなの前で発表です。息子は月曜日から毎日、その日習ったEのつく単語のものが家にないかと探し始め、金曜日が来るのを楽しみにしています。ちなみにEの時は、Egg-中に怪獣の入ったおもちゃのたまご、を持って行きました。この日だけは大手を振って学校におもちゃを持っていけるので、それがまた嬉しいのでしょう。
担任のMs. Amberからは前もって、「来週はEを教えます、単語はegg, elephant, enter, exit, elevatorなどです」と親には連絡帳で知らされ、家庭でも子どもに質問してみてくださいと復習を促されます。
我が家でも寝る前に「今日習ったEのつく単語は何?」など、できるだけ記憶が新鮮なうちに質問するように心がけています。息子は私にすごい、すごいと褒められるのが嬉しいのでしょうか、得意げに覚えてきたことを披露してくれます。
親としては、復習という意味だけでなく、子どもがどのくらい授業の内容を理解できているのかを確認できますし、ネイティブ仕込みの素晴らしすぎてよく聞き取れない発音を聞くのも面白く、とても楽しい時間です。
と、このような1週間が終わってみると、あら不思議!いつのまにか子どもの中でEはすっかり親しみのある文字になっている、という運びです。
毎週一つか二つのアルファベットの書き方、発音、ボキャブラリーを覚えていくことが積み重なり、1年たつころにはかなりの単語の読み書きができるようになります。
ラーニングセンター
また、この時間割の中で、Ms. Amberが特に力を入れていますと言っていたのが、ラーニングセンターの時間です。ラーニングセンターとは聞き慣れない言葉ですが、教室にいくつかのテーマのエリアが設けられていて、それを3~4人のグループごとに順番にまわっていく仕組みです。
ラーニングセンターには、- 数学のエリア
- ホワイトボードやいろいろな道具を使って読み書きするエリア
- ブロックや車などを配置したエリア
- 人形の家や台所などで創造力を高めるエリア
- お米やパスタなどを使ってfine motor skill (手指の細かな動作の能力)を鍛えるエリア
- 工作のエリア
ポイントは、こうした活動および遊びを通して、子どもたちが多くのことを学ぶということです。この年頃のこどもたちにとって、一日ずっと席に座って勉強することはほぼ不可能です。そこで、短い時間で(40分の間にだいたい二か所のエリアを巡る)、遊びながら学ぶラーニングセンターが有効というわけです。
ある保護者の方が、教室に行くといつも子どもたちは遊んでいるとおっしゃっていましたが、今思うとこのラーニングセンターを見たのかもしれません。確かに一見遊んでいるだけのようにも見えますが、目的に沿った道具を与えられて遊んで学ぶ場が用意されています。
ラーニングセンターの一角 ミニカーを使って遊びながら形の概念を学んでいます。
パスタをスコップですくったり、指にはめたり、手指の細かな運動能力を鍛えます。
ホワイトボードにペンで形を書くライティングのコーナー。
個人面談の際、普段、息子が一番楽しんでいる科目は何かと先生に尋ねると、このラーニングセンターの時間だと言われました。本人にも聞いてみると、いろいろなことができて、なおかつ自分で考えて遊べるのが気に入っているようです。
親としてできること
さて、実はこの記事を書くにあたって、改めてMs. Amberにカリキュラムの内容について細かく確認してみたのですが、ちょっとした質問にもとても丁寧に説明をしてくれ、そんなことをしていたのか、そういう意味があったのかと初めて知って驚くことが多々ありました。
恥ずかしながら今まであまり興味を持っていなかった、先生、学校の取り組みを詳しく知るよい機会となったのです。
これを受けて今後は、幼稚園での教育や生活についてもっと意識的にならないといけないなと反省。そして、子どもの育ちのより良いサポーターになりたい、その努力をしなければという思いを強くしました。
- *1 進級と敢えて書きましたが、幼稚園でも落第、飛び級があります。担任の先生の判断によって、もう一年同じクラスをしたり、一つ上のクラスに入れてもらったりできます。これは、もともとの英語環境への慣れ・不慣れであったり、その子の個性、親の希望などを考慮して調整されます。
- *2 この一日のスケジュールを改めて見た時、思い出した記事がこれです。
欧米式というよりも、記事の中の中国の幼稚園のタイムスケジュールに似ている気がします。この記事を読んだ当時は、「小さな子どもたちがこんなハードな一日を送るなんて」と思いましたが、息子の幼稚園も勝るとも劣らない部分があります。
エリート幼稚園の一日 劉 愛萍 (日中教育研究交流会議 会員)