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【スウェーデン子育て記】第33回 夏期補習クラス

前回の記事で、スウェーデンの小学校では成績表が生徒に渡されるのは6年生からという話を取り上げました。6年生からの毎年、春学期と秋学期の終わりにそれぞれ成績表が渡され、中学3年生の春学期の成績が、高校入試の選抜の基準となります。

2019年現在、成績をつけ始める学年を6年生から4年生へ引き下げることの可能性を探るために試験的な取り組みも行われていますが(前回記事参照)、当面は、成績表は6年生からというシステムは変わらない様子です。

成績は7段階で評価されます。一番良い評価が「A」、そして「E」までが合格の範囲です。評価の「F」は不合格。病欠等の理由で試験を受けられなかった場合は評価無しという意味の、横線「―」がつけられます。評価「F」をもらってしまった場合、生徒にとっては一大事です。この成績では希望の高校へ進学できない可能性も出てきた、となった場合どうしたらよいのか。今回はそのような生徒が受けられる夏期補習について調べてみました。

コミューンが生徒の教育に責任をもつ

スウェーデンの公立小学校・中学校は子どもたちの基礎学力をつける場所としての役割をもつため、それぞれの学校が所属するコミューン(日本の市町村に相当する自治体)が全ての子どもに教育の機会を与える責任をもっています。また同時に、全ての子どもたちが高校へ進学できるための一定の学力をつけることを目的としているため、各コミューンは8年生と9年生(日本の中学2年生と3年生に相当する)を対象にして、6月半ばの終業式が終わった後に夏期補習を6月いっぱい行うことになっています(参考1)。

この夏期補習クラスには、希望者が誰でも通えるというわけではありません。少し説明が長くなりますが、スウェーデンの高等学校の専攻には2種類あります。まずは職業別専攻のように、技術を身につけるための専攻科と、もう一つは大学進学を目指すための専攻科です。職業別専攻の場合、入学に必要な中学の成績は、「スウェーデン語」、「英語」そして「数学」の必須科目に加えて他に任意の5科目(地理、歴史など)の成績が合格ラインに達していること。つまり8科目が合格ラインに達していることが必要です。大学進学を目指す専攻科の場合は、必須の3科目に加えて他に9科目、つまり12科目が合格ラインに達していることが必要となります。どの科目が必要になるかは、選んだ高校のプログラムによります。例えば高校の自然科学プログラムで学びたい場合は、必須3科目の他に生物、化学、物理などの科目が必要です。

9年生の時につけられる最終成績(合格科目の成績)は、高校へ進学するために必要なものです。これにより、どの高校を選べるかが決まる重要な成績となるので、8年生の時点で、もしも職業別専攻科に進学するための条件である8科目でさえも合格できていないという場合、その生徒の通う学校の校長と教師たちは協議をした上で、この生徒に夏期補習クラスへの参加を促します。また、9年生になっても必要な科目で合格点が取れないという場合は、8年生同様に、この夏期補習クラスへ参加することもできます。

ここで重要なのは、8年生でいくつかの科目に不合格がある場合でも、教師が生徒の様子をみたうえで次の学期には成績を上げることができると判断した時には、この夏期補習クラスへの参加が見合わされることがあるということです。また、この夏期補習クラスは生徒の自由意志とその保護者の意志に基づく参加なので、生徒に出席が強制されることはありません。

コミューン主導の夏期補習クラス

夏期補習が必要な生徒がいるという場合、各学校の校長はその夏期補習に必要な経費(教師の給料や給食費など)をコミューンに申請します。また、コミューンは各学校の状況に基づいて、いくつかの学校の生徒を一つの学校に集めて夏期補習を行うなどの対策を講じます。したがって、生徒によっては普段通っている学校とは違う学校に通って夏期補習を受ける場合がありますが、いずれにしても通える範囲の近くの学校に行くことになります。

夏休み前の終業式は、ほとんどの学校で6月の半ばまでに行われます。したがって6月末までの残りの2週間強(土日は除く)に夏期補習クラスを利用することになります。夏期補習クラスで行われる授業は、「スウェーデン語」「英語」そして「数学」の3科目です。一人の生徒がどの教科を受けるのか、一つの科目なのか、複数の科目なのか、ということは各学校の校長の判断によります。

補習期間中に一人の生徒が受けられる授業時間は1学年で約50時間と定められています。つまり、8年生と9年生の夏に2回、補習クラスに通うとすると合計で100時間の補習を受けることができます。授業を行っていいのは、一日最長で8時間。どのように時間割を決めるかということは、担当の教師に一任されています。

しかしこの授業時間も、担当の教師の判断で短くなることがあるそうです。予定されていた授業時間内で生徒の勉強の進みぐあいを判断し、これなら次の学期の試験は大丈夫だろうということになれば、夏期補習クラスが早めに終了するケースもあります。

子どもたちにとっては楽しい夏休みに、夏期補習で学校に通うというのは辛いことでもありますが、これも子どもたちの将来を考えてのことですから頑張ってもらうしかありませんね。その代わりと言ってはなんですが、そのあとの長い夏休みには宿題がありません。これから8月半ばまである夏休み、思い切り充実させてほしいものです。

参考1 https://www.skolverket.se/regler-och-ansvar/ansvar-i-skolfragor/lovskola
筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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