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【スウェーデン子育て記】 第32回 学校の成績

夏休みを目前に控え、スウェーデンの学校は学年の変わり目を迎えます。9月からは一年進級して、新しい学年が始まります。スウェーデンでは全国的に、小学校の終業式は6月半ばにあります。我が家の娘たちが通う小学校の終業式は、毎年近所の教会で行われます(第9回参照)。この日はみんな着飾って、保護者も参加して歌を歌ったり、牧師さんの話を聞いたりします。終業式の後はみんなで学校に戻り、保護者と生徒が先生に感謝のプレゼントを渡したり、フィーカ(コーヒーやお茶を飲むこと)をして楽しみます。

成績表は6年生から

そんな夏休み前のウキウキ気分の中、小学校6年生の長女は春学期の成績が気になる様子です。スウェーデンの小学校は、6年生の秋学期(8月末から12月まで)から成績表をもらうシステムとなっています。つまり小学校5年生までは成績表が学校から配られることがない、ということです。成績の良し悪しが気になる日本の小学生に比べて、スウェーデンの小学生がかなりのんびりしてるのもこういった環境が理由なのかもしれません。

ところが2017年から、試験的にスウェーデン国内の16の小学校において、4年生から各教科に成績をつけるという試みが行われています。この試みは2021年の春学期まで実施され、その後、全国で施行されるかどうかが審議されます。スウェーデンでも低学年から学力を重視してきているということでしょうか。OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに行っている15歳児の学習到達度調査であるPISA(Programme for International Student Assessment)では、2015年の結果としてスウェーデンが参加72カ国中、科学的リテラシーで28位、読解力で17位、そして数学的リテラシーで24位なのに対して、お隣の国であるフィンランドは科学的リテラシー5位、読解力4位、数学的リテラシーで13位と常にスウェーデンよりも上位にランクインしています。もしかしたらこういった結果に影響されているところもあるのかもしれませんね。

現在のところ、義務教育の間、成績表は6年生から毎学期ごとに9年生(中学3年生)まで出されます。成績は各教科ごとにつけられますが、6年生と9年生の最終学期においては、各教科の成績がつけられるとともに、全教科をまとめた総合の成績もつきます。9年生にとっては、これが義務教育での最終の成績となり、この成績をもとに高校入学が決まります。入学試験がないスウェーデンでは、試験の代わりにこの最終成績が合否の決め手となるのです。

小学校の成績表は、6年生からつけられますが、各科目の成績の良し悪しは小学3年生の時点から記録されており、先生の授業の参考にされています。それぞれの子どもの得意・不得意の教科を把握して、授業等での指導に役立てるそうです。

スウェーデンの教育委員会で定められている成績のつけ方は、7段階でA, B, C, D, E, F, そして評価不能の横線(―)となります。Aが一番良く、そこからEまでが合格ラインです。Fは不合格で、横線は長期欠席などにより成績がつけられないことを示します。各教科の成績は、試験の結果だけではなく、授業への参加や提出物なども評価の対象となるそうです。ここ数年は、とくに授業への出席がとても重視されるようになりました。病欠以外の理由で、例えば親戚の結婚式などで遠方へ行くため数日間学校を休む場合は、担任の先生だけではなく校長先生の許可も必要になりました。クラス全体だけでなく学校全体の学力をあげるためなのかもしれないな、と思います。これもスウェーデン全体の学力を強化するための対策かもしれません。

小学校のオープンハウス

毎年、春学期の終業式が間近になった5月には、娘の通う小学校ではオープンハウスが開かれます。学校を開放して保護者や親戚に子どもの学習成果を見てもらったり、ジュースや手作りお菓子を販売して、各クラスの学外活動(小旅行や社会科見学など)の費用にあてます。

今年のオープンハウスでは、6年生の娘の教室の雰囲気が少しだけ違っていました。5年生までは楽しく教室内を見学したものですが、今年は毎年6年生を対象に行われる全国模試(nationella prov)の結果を、訪れた保護者に見せることが目的のようでした。各生徒ごとにファイルにまとめてあるスウェーデン語、英語、そして数学の成績を娘から見せてもらいました。教室内には担任の先生がいるので、質問があればそれに応えてもらうことができます。個々に先生から意見をいただくことで、今後の学習の励みにしようというものです。保護者の側からしたら、どのような内容の試験を受けているのか気になるところですし、子どもの得意・不得意科目が顕著にわかって、とても充実した見学内容となりました。

英語やスウェーデン語の試験内容は、お題を与えてとにかく長い文章を書かせるといったものがメインでした。その中で、いつ、誰が、どのように、という要素をきちんと含んだ内容で文章を論理的に組み立てる、という点を評価しているようでした。昨今はスウェーデンでも本を日常的に読んでいる子どもの姿を見かけることが少なくなりました。電車の中でも、ほとんどの人は下を向いてスマートフォンを見ています。しかし、しっかりした文章を書けるようになるためには、まず読書をすることが最適かつ必要だと思います。この夏は娘に何か一冊、良い本を読みきってもらいたいなあと思っています。

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筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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