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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第7回 小学校のストライキ

要旨:

ベルリンの小学校では、3月には毎週、教師・保育士のストライキが行われた。休校になった学校も多かったようだが、息子の通う小学校では、ストライキに参加しなかった教師が複数のクラスをまとめて臨時授業を行った。ただし、学童保育はないので、ストライキの度に保護者は昼過ぎに迎えにいかなければならず、保護者たちは辟易していた。学校生活もクラス分けなどその場しのぎの対応が多く、大混乱だった。さらに、教師の病欠も多いことから、勉強に関していえば、学校だけに頼ることはできない、自宅でのフォローが大切、ということを身を持って経験した。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、教師、保育士、ストライキ、シュリットディトリッヒ桃子

前回も少し触れましたが、息子が通うベルリンの小学校で教師・保育士*1のストライキがおきました。目的は給与の値上げですが、なかなか決着がつかなかったようで、3月は毎週1回という高頻度で、4月初めのイースター休暇に入る直前まで行われました。

ちなみに、3月は警察や消防でもストライキが行われており、一部のメディアでは不要な外出を控えるよう呼びかけていました。このようにドイツでは公務員(公務被用者)に争議権(ストライキを行う権利)が与えられており*2、日本に比べるとこの権利を行使することが珍しくないようです。

小学校に話を戻すと、ベルリンではこれらのストライキが行われた日には休校になってしまったところもあったようです。しかし、息子の通う小学校では、約半数の教師と保育士はデモに参加しましたが、残りの教師が複数のクラスをまとめて臨時授業を行いました。ただし、放課後の学童保育に関しては、保育士が業務を行わないのでお休みです。ですから、ストライキ2-3日前に学校から「ストライキに関する手紙」が配られると、その度に保護者は「授業後の午後1時半に誰がお迎えに行くのか」を明記した書類を、署名付きで学校に提出しなければなりませんでした。

3月中は毎週1回お昼過ぎに迎えにいかなければならず、私を含めて仕事をもつ保護者たちは辟易していました。しかし、このストライキのニュースはベルリン中に知れ渡っていますし、どうすることもできないので、1)近くに祖父母がいればお迎えにいってもらう、2)配偶者もしくは近所の保護者と交代で迎えにいく、3)いつもより数時間早く仕事を切り上げてお迎えにいく、ということでこの事態を乗り切っていたようです。ちなみに、フリーランスの私は仕事のスケジュールを調節して、お迎えに行っていました。

では、肝心の学校生活はどうなっていたのでしょうか?ストライキ初日に、息子と登校すると、既に学校は混乱を極めていました。

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校内に貼られていたストライキのポスター「警告ストライキ」

前日に、担当の保育士から知らされていたのは「登校したら、まず、ゆり組の教室へ行ってください」とのことでしたが、偶然、登校時に会った息子のクラスメートK君のママは「まず、事務室へ行ってくださいって言われたわよ」とのこと。この時点で、情報の食い違いがあったわけですが、とりあえず、皆で一緒に事務室に行くことにしました。すると、既に子どもたちであふれかえっていて、どの教室にいくかの割当てが場当たり的に行われていました。

ある教師が「じゃあ、ここからここまでの4人は私についてきて!」と言い、一緒に登校したK君を含む4人が指名されました。この時点で、K君のママは安心したのか、仕事へ向かいました。ところが一緒にいた息子はカウントされません。私たちが親子で困惑していると、隣にいた別の教師が息子に向かって「いいよ、あなたも一緒に行っちゃいなさい!」と言います。「え、大丈夫なのかしら?」とそのいい加減な(?)采配に不安を抱いた私を尻目に、一転して、お友達と一緒になることができ喜ぶ息子でした。

しかし、いざ教室に到着してみると、最初に指名をした先生が息子を見て、「あれ、4人って言ったじゃない!もう、私のクラスはいっぱいなのよ」と驚いています。「どうしよう...」と不安がる息子と私を見てその先生は「じゃあ、隣のクラスの先生に聞いてみましょう。私についてきて!」と言います。その通りにすると、どうやら隣のクラスにはまだ余裕がある模様。それを見た教師は、もう一度自分の教室へ戻り、「L(息子の名前) と一緒に隣のクラスに行きたい人はいるかな?」と聞きます。すると、一緒に登校したK君が「僕が一緒に行くよ!」と言ってくれたので、めでたく息子たちは二人で、隣のクラスに入ることができ、私もようやく学校を後にすることができました。

朝から大混乱でしたが、お迎え時にも同様の混乱が生じます。それは「息子探しの旅」。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、広い校内を校舎から校舎へ、上階から下階へと渡り歩く ことになるとは、登校時には想像もしなかったことです。

例えば、ストライキ第一日目、無事に仲良しのK君と一緒の臨時クラスにすべりこんだ息子でしたが、受け持った先生は馴染みのない先生。さらに、校舎も異なる見知らぬ教室での授業でした。ですから、朝、その先生に「1時半のお迎えもここでいいのですね?」と確認したところ「ええ、そうですよ」とおっしゃったので、その教室に行ったのですが、7-8人ほどの子どもたちが遊んでいるものの、その中に息子の姿は見当たりません。

すると、先生が私に気付いたので「ひまわり組のLの母ですが...」と申し出ると、て「ああ、お迎えですね。L、お迎えよ!」とアジア人らしき子どもに声をかけます。しかし、その子は息子ではありません!完全に見かけだけで判断している先生に困惑気味に「いいえ、その子は私の子ではありません。息子の名前はLっていうのですが...」と再び息子の名前を言うと「あーら、そうですか。じゃあ、向こうの校舎のA先生のところにいると思うわ」と軽くいなされてしまいました。

念のため「A先生は、向こうの校舎のどの教室にいるのですか?」と再確認して、言われたとおりに別の校舎に行くと、今度は息子のクラスメートがちょうど校舎から出てくるところでした。同じクラスの子どもがいるのだから、息子もこの界隈にいるに違いない、と少し安心していると、「あ、Lのママ!Lは3階にいるよ!」と親切にも教えてくれます。

言われたとおりに階段を上っていくと、今度は別のクラスメートが現れます。「ハロー!Lはもう一つ上の階の教室にいるから、僕が連れて行ってあげるよ」とこれまた親切にも手をひっぱっていってくれたので、これでようやく息子に会えるか、と思い、階段をさらに上がっていくと...

教室の入り口でまず教師が「誰の保護者ですか?」と聞いてきます。息子の名前を答えると「L?うーん、僕のクラスにはいないなあ。2階じゃないかな?」とおっしゃいます。「ええー!?」と手をひいて連れてきてくれた子をみると「あれ、ここじゃなかったのかあ」とバツの悪い顔をして、どこかへ行ってしまいました。

校舎から校舎へ、階段を上から下へと言ったり来たりで、汗びっしょりになりながら、落胆して2階に降りると、既にいくつかの教室は閉まって、廊下も静かになっています。「本当にどこに行ってしまったのだろう?」と半ば焦りながら歩いていると、一つだけドアが開いている教室がありました。中をのぞいてみると、取り残されているもう一人の子どもと一緒に遊んでいた息子の姿が目に入りました。

「はあ、やっと見つかった~!」と脱力して、思わず息子を抱きしめると、何も知らない息子は「今日はコンピュータを使ったり、映画を見たりしたから、最初の教室と違うお部屋で授業をしたんだよ」と嬉しそうに説明してくれました。

このような、混乱極まりない状況がストライキの度に生じるので、こちらも「またか~!?」とストライキのお知らせを受け取る度に戦々恐々としています。また、複数クラスを組み合わせて、いつもより大人数で授業を行うことから、授業内容も時間をつぶすだけのタスク(塗り絵や映像鑑賞)が行われていることが多いようです。1、2回ならともかく、毎週このような日が生じると、勉強の進度に対しても懸念を抱かずにはいられません。

さらに、教員の病欠もベルリンでは大きな問題となっています。現に息子の担任は体調不良で2週間休んでおり、その間はずっと代講の先生による臨時授業でした。これらの状況を鑑みると、勉強に関していえば、学校だけに頼ることはできない、というのが私たち夫婦の見解です。

しかし、だからといって、当地では「教育は皆が公的に平等に受けるべきもの」という考え方が強く、日本のように塾や予備校などの教育サービス産業が発達しているわけでもありません。さらに、以前も記したとおり(保育園編 第16回 ドイツ内の教育格差(2) 参照)、ベルリンの教育レベルは残念ながらドイツ最低です。従って、結局のところ、家庭でのフォローが非常に大切になります。我が家は勿論、息子と仲良しのクラスメートの保護者たちも異口同音に「毎日少しの時間でもいいから、宿題やワークブックのチェックをしなきゃ!」と言っています。

前回お伝えしたとおり、まとまった休暇も多く羨ましがられることもある欧州での生活ですが、上記のように問題点も多く、現地の小学校に通う子どもをもつ親としては、時に複雑な気分になるものです。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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