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【保育フィールドノートにみる気まぐれな子どもたち】第3回 創造性を支える、人と人の関係性

要旨:

園の保育室の一角にある製作コーナーでは、子どもの創造性(クリエイティビティ)とそれを支える環境について考えるヒントがあふれている。4歳児クラスのマキが、自分なりの表現を行うようになるまでの長期的な過程は、子どもが模倣から始まる「ずらし」の創造を行う過程と見ることができる。この過程から、子どもが自分なりの表現をするには、素材などのそろった物的環境だけでなく、違いを認め合える人と人との関係性をつくっていくこともまた重要であることが見えてくる。

キーワード:
創造性、模倣、「ずらし」、表現、遊び、関係性

園の保育室の一角には、空箱や紙芯などの廃材が置かれている製作コーナーがよくあります。子どもたちは、それらの素材を使ってものを描いたりつくったりする遊びや、つくったものを使った遊びを日常的に行っています。ここでの子どもたちの様子をみていると、創造性(クリエイティビティ)について気づかされることがよくあります。

今回は、4歳児クラスのマキちゃんが自分なりの表現をするようになるまでの長期的な過程を通して、創造性を発揮するには、素材などのそろった物的環境だけでなく、違いを認め合える人と人との関係性もまた大切だと考えるにいたった事例をお伝えしようと思います。

マキちゃんとナナコちゃんは、製作コーナーで遊んでいることが多い二人でした。マキちゃんは、早生まれということもあったのでしょう。様々なことのできる友達に憧れ、その友達と同じことをするのを好む姿がありました。ナナコちゃんと遊ぶときにも、ナナコちゃんが空箱を取ったら自分も空箱を取る、折り紙を折ったら自分も折り紙を折るというように、ナナコちゃんの真似をする姿がよくありました。そんな二人は、製作するなかで、自分のつくったものを相手に「見て」とか「ほら」とか言いながら、お互いに見せあっていました。そこで、二人の「見せる」行為がどのように変わっていくかを観察した研究を行いました(注1)

1学期の終わり頃、ナナコちゃんは一緒に遊んでいるミノリちゃんがリボンをつくっているのを見て、自分も同じ材料と同じ要領でリボンをつくり、ミノリちゃんに見せていました。二人は目を合わせてうなずきながら「同じだね」と言い合っていて、まるで、自分と相手が「同じ」であることを確認しているようでした。同じモノを持っていることが嬉しく、親しさの証であるかのように、確認しあう姿がありました。

2学期の終わり頃の12月、ナナコちゃんは素材の入ったかごから、半透明のシートを取り出すと、そばにいたマキちゃんに見せて、「ねぇ、これつくんない?」と誘い、誘われたマキちゃんも同じモノを手に取り、なにかをつくり始めました。ナナコちゃんは、「こういうふうにして、こうするんだよ」とそのつくり方をマキちゃんに逐一教え、マキちゃんはそれに追随しているようでした。二人の間に「教えるー教えられる」という関係性があり、ナナコちゃんが「同じようにつくらないと遊びに入れてあげない」と言っていることからも、製作物が同じモノであるか違うモノであるかが、相手を遊びの仲間として認めるかどうかの判断に結びつくものであり、ナナコちゃんには相手が自分と「同じ」であることを求めるような心理があったことがわかります。担任の保育者は、このときの二人の関係性について、「いつもマキちゃんがナナコちゃんと同じモノをつくっていることが気になるんです。たまには別のモノもつくって、マキちゃんがつくりたいものをつくるようにとかかわっているんですが、自信がもてない中でマキちゃんは、相手と一緒のモノをつくることで安心するという面もあるようで...」と、ご自身の保育者としての迷いや葛藤を述べていました。

3学期になっても、二人はよく製作コーナーで遊んでいました。3月の半ば、同じ折り紙を使って製作していた二人でしたが、ナナコちゃんが紙を折っているのに対して、マキちゃんは途中で「切ってみようかな」と言って、ナナコちゃんとは違うことをし始めました。自分が手を加えたことで、どんどん形が変わる折り紙を見て、「こうやると、こうなるんだ。わー、すごーい」と驚きながらつくっていました。そして、「ねぇ、ナナちゃん、見て、ほら」と言って、自分のつくったものを見せていました。それを見たナナコちゃんも刺激を受けたのか、「面白いのつくっちゃおう」と言い、どんどん、新しいことをやっていきました。担任保育者によれば、その日の3日前に二人は初めて大きなけんかをし、それ以来、二人の関係性が変わってきているように感じられるとのことでした。どのように変わってきたかというと、マキちゃんは相手に合わせるだけでなく、自分の好きなモノをつくるんだという自己主張をするようになり、ナナコちゃんもまた、相手に自分と同じモノをつくるように求めるのではなく、相手が自分とは違う意図をもっていることを認め、その違いを受け入れて、自分もそこに刺激されて製作をし始めるようになったということです。

ここから、二人の間に、「違い」を認め合い、自己主張しあえる関係性ができつつあることがわかります。そして、それが製作の過程にも表れているのでした。マキちゃんにとって、相手の真似をたくさんして仲間だと感じることも必要な経験だったと思います。そこから、だんだん、自分と相手とは違うんだと主張しあえる関係性ができてきたことで、やっと、模倣にとどまらない、自分なりの表現を生み出すようになりました。このことから、自分と他者との「違い」を受容するという関係性が基盤となり、子どもは模倣をきっかけに他児の表現からアイデアを採り入れ、その一部を変更して表現を行う「ずらし」の創造・表現を行うのだと言うことができそうです(注2)

もちろん、関係性だけが要因ではないと思います。他の子どもたちと一緒に製作し、何度も人の真似をするなかで、そこにある素材に自分がどんな手を加えたら、その素材がどんな振る舞いをするかという、モノとの対話も積み重ねてきたのでしょう。それが、素材経験と自信につながったのだと思われます。しかし、それだけでなく、子どもが創造性を発揮するには、自分のやってみようと思うことを試せる雰囲気、人と違っている自分なりの表現を出せる関係性もまた重要だったのだと思います。一人の子どもが、模倣から始まる「ずらし」の創造を行う過程をみることで、その場にある関係性がどのようなものかがわかります。また、その関係性をつくっていく過程を保育者が支えることの重要性が見えてきました。


  • (注1)この研究については、下記の論文で詳しく述べています。
    佐川早季子(2017)幼児同士の仲間関係形成に伴う造形表現過程の変化―4歳児の製作場面におけるモノを「見せる」行為と製作過程に注目して―. 保育学研究, 55(1), 31-42.
  • (注2)「ずらし」という概念は、現代美術家の美術創作過程を研究した髙木・岡田・横地(2013)が初出です。この論文では、模倣をきっかけに創造性やオリジナリティーのある表現が生まれる過程を、「ずらし」という概念で捉えています。そして、「ずらし」とは、「既有知識の中の事例の構造の大枠を当てはめ、その中の何らかの特徴を変更しながら新しい作品を作ること」と説明されています。
    髙木紀久子・岡田猛・横地早和子(2013)美術家の作品コンセプトの生成過程に関するケーススタディ―写真情報の利用と概念生成との関係に着目して―. 認知科学,20 (1),60.
筆者プロフィール
佐川 早季子(さがわ・さきこ)

京都教育大学教育学部 准教授。
長崎市生まれ。一人目の子どもを生み育ててから、どうしても子どもに関わる研究がしたくなり、大学院に入り直し、今に至る。母親であり研究者であり大学教員。
著書に『他者との相互作用を通した幼児の造形表現プロセスの検討』(風間書房)、共訳書に『GIFTS FROM THE CHILDREN 子どもたちからの贈りもの−レッジョ・エミリアの哲学に基づく保育実践』(萌文書林)などがある。

※肩書は執筆時のものです

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