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【ヒューストンの自閉症児支援プログラム】第6回 神経学的相違をもつ生徒たちのための革新的な療育施設―The Monarch Instituteの紹介 (1)

ポーター 倫子(米国社会科学協議会安倍フェロー)

2016年2月12日掲載
English
編集:ブライアント・ショー (Bryant Shaw)氏

モナーク・インスティテュート(The Monarch Institute) は、1997年に神経学的な違いをもつ子どもたちへの緊急なニーズに応えようとしてヒューストンに設立された最初の学校の一つです。この学校の重要な使命の一つは、神経学的な違いをもつ生徒たち(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥障害、学習障害、トゥレット症候群、気分障害[双極性障害、うつ病]、不安障害、けいれん性疾患、その他の神経学的な相違を含む)へ世界をリードするような革新的な療育学習環境を提供していくことです。

注:本稿で使用する「神経学的な相違をもつ」という表現は、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)で定義される「神経発達障害(いわゆる発達障害)」およびその他の脳神経学的な差異に起因する症状を意味する。また最近の研究では、自閉症者などのその脳機能の違いを欠損ではなく、ユニークな個性として前向きに受け止めていく必要性があることも強調されている。そういう背景を受けて、この学校でも障害という言葉を敢えて使用せずに神経学的な相違をもつという風に表現されている。


モナーク・インスティテュートのいくつかの重要な特徴は、(a)学習者に即した、学習者中心のアプローチ、(b)4つの重点的な目標をもつ発達モデル(自己規制と自己認識、遂行機能、人間関係性の発達、学習能力)、(c)生態系を利用し、自分も自然界の一部であることを学ぶ仕組みを採用していることです。またモナーク・インスティテュートのプログラムとして、モナーク・スクールのほか、診断のためのクリニック、療育サービス、トレーニングセンター、レプリケーション(プログラムの複製の意。次回に具体的な内容を説明)、および社会的な自立へ向けたサービス、があります。これらのプログラムの中には、革新的かつ優れたプログラムゆえにこれまで数多くの賞を受賞してきたものもあります。 ( http://www.monarchinstitute.org/about-us/awards

このレポートでは、モナーク・インスティテュートのウェブサイトからの情報と併せて、同クリニックの院長であるブライアント・ショー(Ph.D.)氏にインタビューした内容を掲載していきたいと思います。本稿前半となる第6回では、生徒やスタッフなどの人材面と施設など物理的環境について述べていきます。

A. 在籍生徒

モナーク・スクールには、幼児から高校生までの生徒と、社会的自立への移行サービスのプログラムに参加する大学生や院生を含めて約150人の生徒が在籍しています。施設拡大のプロジェクトの終了後には、250名の在籍者を見込んでいます。生徒たちの特徴について、以下説明していきます。

(1) 性別と年齢

聞き手: 貴校に通うお子さんたちの属性について話していただけますか。

ショー氏: 本校には、現在130名の生徒が在籍し、その75%が男子生徒だと思います。男子学生が多いというのは、一般的に神経学的な違いがみられる(自閉症など)子どもの多くが男子であるという性差の違いを反映していると思います。しかし私たちの学校では、女子生徒の数も増えてきています。機能的なレベルについても、男女かかわらず、幅広く様々なレベルの生徒が在籍しています。

聞き手: 女子生徒の割合が増加しているとは、興味深いですね。

ショー氏: 統計データをはっきり確認したわけではないのですが、より多くの女子生徒を見かけているようになったと思います。これは生徒全体における女子生徒の割合が増えているということの現れなのかどうか確信をもって言えませんが。

聞き手: 興味深いですね。在籍する生徒の年齢について教えて下さい。

ショー氏: 私が知っている限りでは、これまで受け入れた中で最年少の生徒は3歳です。現在、最年長の生徒は30代前半だと思います。というのは、インターンシップに参加するため、あるいは遂行機能の訓練を目的として大学生や大学院生もプログラムに参加しているからです。また必要であれば、社会的自立へ向けた生活サポートを提供しています。そのようなサービスを提供することで、青年の参加者も増えてきていると言えると思います。

聞き手: 3歳未満のお子さんが在籍していないというのは、そのような年齢のお子さんを受け入れることができないということでしょうか。

ショー氏: 通常、3歳未満のお子さんについては、神経発達的な視点からみて、私たちのプログラムに適応しているかどうかを決定するのは難しいと思っています。関わりをもったり、プレ学習的なことを行うためには1対1サポートを必要とするような年齢です。そのような年齢では、本校に毎日通うよりも、むしろ外来として療育サービスに参加する方が適していると考えています。その後、もう少し広範囲の学習環境に適応するまで成熟したとみなされた場合、本校に通うことを勧めています。

(2) 各家庭の経済的な負担

聞き手: なるほど。それでは貴校に通う生徒さんたちの家庭の経済的な負担について教えていただけますか。奨学金など提供していらっしゃいますか。

ショー氏: まずその質問に答える前に、本校に通ったり治療や診療サービスを受けたりするためには、かなり費用がかかるかもしれないにもかかわらず、幅広い社会経済的な階層の生徒が在籍していることをお伝えしたいと思います。プログラムに参加する人たちは、誰もが裕福であるとは限りません。たとえば、親族のメンバーに経済的な援助をしてもらい授業料を支払う家族もいますし、一定の条件を満たす生徒には経済的なサポートを行うこともあります。その場合、第三者の評定者がその家族の支払い能力を評定します。その評定を基に、援助金額を決定し、最高で授業料の30%程度の援助も可能です。

聞き手: 貴団体のウェブサイトによると、プログラムや療育に医療保険の適用も可能だと書かれたと思いますが。

ショー氏: その点については、私たちはなるべく保険が適用されるような環境を整えているとお答えしたら良いのかもしれません。私たちのところで提供しているサービスは、まずクライエントの方にお支払いしていただいて、その後もし可能であれば医療保険で払い戻ししていただいています。私たちは、民間の非営利組織ですので、はじめから保険を適用させるような料金体系や外部資金によるシステムをもっていません。また保険会社から支払ってもらうことができるように、その確認などの雑務に追われると、さらなる出費拡大にもなりかねません。幸い私たちのプログラムに在籍する臨床医はみな保険医ですので、保険会社を通しての医療費の請求は可能かと思います。

(3)通学者の分布

聞き手: 生徒さんたちは、どこから通ってきますか。ヒューストンからですか。それとも別の地域からですか。

ショー氏: この地図(手元の世界地図を示しながら)でお分かりの通り、本インスティテュートへは世界各地から診断のためにやってきます。もう少し広げてお話すると、診断だけでなく、本校へ入学するために(そのために必要な心理学的な診断のために)来られる人たちもいます。

聞き手: ということは、海外から来るクライエントもいらっしゃるということなのですね。

ショー氏: 本校に来られるご家庭の多くは、石油やガス会社関係で、そのような企業の中には従業員の福利厚生に非常に力を入れている企業もあり、私たちのような学校に子どもさんを通わせるような援助を行っています。別のケースでは、インターネットで私たちの教育方針について知り、大変刺激を受けて、子どもさんを通わせたいと思って来られたり、たまたまこの地域に住むいとこがいたためこの学校のことを知り、訪問した結果、通えると判断してこの地域に引っ越しして通わせているというケースがあります。

(4) 人種と民族

聞き手: そちらの学校に通う生徒さんたちの人種と民族別の割合について教えてください。

ショー氏: 現時点では、70%の生徒が白人で、残りは、アジア系、アフリカ系、ヒスパニック系がほぼ同じ割合で在籍しています。

聞き手: 英語がネィティブではない生徒の場合に対しては、英語クラスを提供していらっしゃるのですか。あるいは、英語の能力が入学の前提条件なのですか。

ショー氏: これは複雑な質問です。というのは、私たちの学校には言葉に遅れがある生徒が多く、またそのうちの多くの生徒が、少なくとも二か国語以上の言語を使用している家庭の子弟として小さい頃から私たちのところにやってくるのです。時々そういう子どもたちを不安に思いながらも受け入れていますが、家族とうまく意思疎通を図るようにしたいと思っています。その子の本当の言語の発達とはどういうものなのでしょうか。たとえば、最近の話ですが、機能的な言語をあまりもたない幼児を受け入れることにしました。彼の両親は英語が達者ではないため、学校では英語でサポートを行い、家庭で別の言語を用いることについての影響について現在模索しています。二か国語あるいは英語を学ぶことを必要とする家庭のお子さんを、英語を話す環境に浸からせても大丈夫だと思っています。特に、言語障害がある場合、その対処の仕方を知っている人がいるような環境にそのお子さんが置かれている場合は、問題ないと思っています。

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写真提供:The Monarch Institute for Neurological Differences

(5)確定診断

聞き手: 自閉症をもっていらっしゃる生徒さんの割合について教えてください。

ショー氏: 約70%の生徒で、年齢が低い程その割合が高いと言えます。私たちのところに来る幼児のほぼ全員が自閉症スペクトラム障害と診断されています。

聞き手: 生徒さんたちは、高機能自閉症の人が多いのですか?そちらのウェブサイトを拝見しますと、問題解決能力があることが入学条件の一つとなっていると書かれてましたので、高機能自閉症の生徒さんが多いのではないかと想定したのですが。

ショー氏: 生徒自身に、働きかけようとする意志があることが前提です。しかし私たちが介入する余地が全くない程の完璧さを求めているわけではありません。認知的な機能レベルの入学条件を設定しているというわけではなく、こちらのプログラムが提供できるものを受け入れることができる生徒を求めています。その点、ある程度働きかけたり、反応できる生徒であることが条件ですが、時間をかけてそれらを形成することができると考えています。また、私たちが教える内容をキープできるある程度の記憶機能をもっている生徒を求めています。

聞き手: そうすると、もし生徒さんがそちらの学校にあまりふさわしくないと判断した場合、別の学校を推薦していらっしゃるのでしょうか。どういう選択権をご両親に与えていらっしゃるのでしょうか。

ショー氏: はい、私たちはご家族にできるだけ良いお返事をすることができるように努めていますが、時々、「私の子どものためにいい学校を探してください」とか「おたくの学校は、うちの子どもにふさわしいでしょうか」などという質問を受けることもあります。私は「いいえ、ふさわしくはありません」と単に答えるのではなく、できるだけ包括的な答えを提供し、子どもの最大の利益のために次に何をしたら良いのかを探すこのプロセスによって、家族が何かを得ることができるように努めています。

ご想像いただけるかと思いますが、私たちの革新的なプログラムの評判が高くなってきているということは、指導が難しいお子さんを受け入れてほしいという要求も高くなってきます。そういう場合は、かなり複雑な状況をもってこられますので、いわゆる型にはまらない考え方をすることが私たちに求められています。

B. 教員について

モナーク・スクールのプログラムでは、教員一人あたりの生徒数が非常に少ないことが特徴です。生徒へのサポートが最も高いレベルとしては、生徒2名につき教員が1名つきます。さらに療法士などの大人がもう1名つく可能性も高いのです。このモナーク・スクールでは、「プロフェッショナル・エデュケーター」、臨床/応用心理学の専門家、ソーシャルワーカー、公認DIR® / Floortime ™(グリーンスパン博士によって提唱された自閉症児への発達論的療育。発達段階と個人差を考慮に入れた相互関係に基づくアプローチ)セラピスト、神経学的音楽療法士、教育の専門家、および言語療法士などからなる学際的なチームを抱えています。全ての教員が、児童発達の学位や経験、また多様な学習パターンをもつ生徒を教える経験をもっています。さらに、教育や特殊教育の分野における大学院卒の資格をもつ教員もいます。

聞き手: そちらの学校に勤務する教員は何人いらっしゃいますか。

ショー氏: 専任教員が72名、パートタイムの教員が15名です。また毎年、約350名のボランティアがお手伝いしてくださっています。これは、学校だけでなく、クリニックやレジデンスサービスを含めた社会的自立への移行サービスなど、様々なプログラムにおいてです。教員と管理職以外に、別の分野の専門家も多数かかわっています。

聞き手: 教員研修は行っているのですか。

ショー氏: 毎年、8月に行っています。他の公立学校の先生たちが夏季休暇をとっている間、私たちの学校の先生方は、研修に参加しています。私たちは、先生方を「プロフェッショナル・エデュケーター」と呼んでいます。というのは、彼らは単なる先生であるだけではなく、セラピストでもなければならず、生徒たちと療育的にかかわるための訓練を受けているからです。8月いっぱい、子どもたちとかかわるための重要なテーマに基づいた教員研修を行っています。具体的には、「子ども時代の精神的疾患」などです。この教員研修を通して、親からの問い合わせや専門的な質問に対して、教員誰もが答えることができるようになることを目指しています。また私たち誰もが、専門家の介在なしに療育的にかかわれるようになることを目指しています。

C. 物理的環境

モナーク・インスティテュートは、ヒューストンの北西に位置しており、敷地の広さは11エーカーです。学校の使命を果たし、療育的な実践を行うために、キャンパス内は人と環境に優しいデザインが使用されています。キャンパスの中の「Chrysalis(さなぎ)」という名称の建物は、アメリカの特殊教育の中で、LEED® Gold(米国グリーンビルディング協会が所管している任意の認証制度で、LEEDとはLeadership in Energy and Environmental Designの略。この認証制度の中でゴールドと格付けされているとの意味)と認定された最初の学校として知られています。その他キャンパスの施設の中で、環境にやさしい施設のいくつかのユニークな特徴をご紹介します。

  • 現在、補助的な建物が4つの重点的目標の実践のために建築中である。「The Living Building Challenge Studio Classroom」という名称の教室は、国際コンペに出場するために建てられもので、「off-the-grid, green, sustainable」(都会生活から離れ、環境に優しく、環境的な持続性を大切にしたものというような意)な建築を目指している。屋外科学展示場は、多くの学習の機会 (発電、太陽エネルギー、堆肥トイレなどについて学ぶなど) を提供している。

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    写真提供:The Monarch Institute for Neurological Differences

  • 貯水池(ため池)は、生物科学の学習と景観のために設置されている。
  • テキサス野草と植物、食糧生産、保水、水のリサイクル、美化、および植物学の学習のための大きなテラスガーデンが、現在開発、建設中である。
  • 身体運動と対処法として、 花崗岩の砂利が敷き詰められたウォーキングコースと複数のフィットネスコースが設置されている。

筆者プロフィール
report_porter_noriko_02.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

金沢市出身。1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、国際結婚を経て1998年に渡米。2008年にミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。現職はワシントン州立大学人間発達学科のインストラクター。2015年より安倍フェロ-として日本における調査研究を実施。テキサス大学医学部の精神医学行動科学学部客員研究員。立命館大学の人間科学研究所客員協力研究員。
保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の子育て比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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