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【ヒューストンの自閉症児支援プログラム】第1回 自閉症の子どもたちのための私立学校-The Westview School-

ポーター 倫子(ワシントン州立大学人間発達学科専任教員)

2014年3月 7日掲載

要旨:

自閉症児の母親である筆者は、昨年よりテキサス大学医学部の自閉症クリニックの客員研究員として、研究指導を受けています。そこで広がったネットワークをもとに、ヒューストン市とその郊外にある自閉症の子どもたちやその親を対象とした学校、医療機関、療育施設、サポートセンターなどを順に紹介していきたいと思います。
はじめに

筆者は、2013年6月より、世界最大の医療センターであるテキサス・メディカル・センター内にあるテキサス大学医学部の自閉症クリニック(C.L.A.S.S. Clinic)の客員研究員として、自閉症研究と臨床で著名なDr. Katherine Loveland氏より研究指導を受けています。そこでヒューストン市内唯一の自閉症の子どもたちのための私立学校、ウエストビュー・スクール(The Westview School)の先生たちと知り合う機会が得られました。米国では、障がい又は発達障がいの子どもたちを対象とした学校は数多く設置されていますが、自閉症の子どもたちのみを対象とした学校は、限られているようです。この学校を見学し、担当者に伺った話を報告したいと思います。

沿革

ウエストビュー・スクールは、自閉症スペクトラム障害を持つ子どものための民間の非営利学校です。集中的な訓練と質の高い教育を施すことで、自閉症を持つ子どもたちが、独立し、学業面で成功することを目的として設立された学校です。始まりは、1981年にJane Stewart氏が自宅を開放し、知的障がいの3歳児4名を対象とした保育プログラムだったそうです。障がいをもつ就学前児のためのプログラムとして、ヒューストンの中では先進的な役割を持っていたということでした。保護者の要望に応えて次第に対象年齢を広げ、現在では2歳から15歳までの自閉症の子どもを対象とした、総数150名の学校です。写真1は、創設者Stewart氏の没日である11月11日の記念日に、氏を慕う生徒や教員がリボンを木に巻きつけるそのシーンです。

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写真1

物的環境

ウエストビュー・スクールは、全米で4番目の大都市であるヒューストンの中心からやや離れた郊外に位置しています。高速道路からも近く、遠隔地から子どもを通わせる家庭にとっては便利なようです。担当者の話によると、自閉症の子どもを対象とした専門の教育を求めて、片道1-2時間車を運転して子どもを連れてこられる保護者の方もいらっしゃるそうです。

約3万平方メートルの敷地内にある二つの建物が校舎です。就学前児と小学生が使用する校舎と、中学生用の校舎に分かれています。室内の施設としては、教室(合計23室)、言語療法と作業療法用の教室、美術室、音楽室、図書館、体育館、化学実験室、小劇場、コンピューターラボ、保健室、食堂、調理室があります。校庭は二つのプレーグラウンド(外遊び場)、散歩道、自然庭園、野外劇場で成り立っています。写真2は、校門の前で撮った生徒たちの写真です。

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写真2

人的環境

この学校の特色の一つは、少人数制クラスです。一クラスは4名から8名の子どもと担任1名、副担任1名で構成されています。現在、生徒数は151名、教職員の総数は、70名です。その内訳として、担任29名とそのアシスタントが25名、管理職と事務職が8名、図書館員が1名、行動・作業・言語療法士と発達の専門家7名だそうです。質の高い教育を目的としているため、担任の半分以上が修士号を持っているそうで、さらに自閉症の教育や療育に携わった経験者が多いということでした。たとえば、私が話を伺ったKen Montfort氏とNatalie Montfort氏は双方とも博士課程の学生で、自閉症者の行動療法士として、自閉症者支援センターであるJudevine Center for Autismや、Relationship Development Intervention(対人関係発達指導法;Dr. Steven Gutstein氏により開発された自閉症スペクトラム障害の子どもを対象とした対人関係能力の発達促進プログラム)の本拠地であるヒューストンのコネクションセンターで勤務した実践経験者です。ウエストビュー・スクールの職場環境は非常に良く、数年前にヒューストンのもっとも理想的な職場トップ100の一つに選ばれたこともあるということでした。

在籍生徒の大多数は、高機能自閉症の子どもたちだそうです。高機能自閉症の子どもたちは、学業面での問題が少ないがために、一般の子どもたちと共に教育を受ける場合が多く、それゆえに個々のニーズにあった教育を受けにくいという問題を反映しているようです。また一般の学校では、社会面の発達遅延があるゆえに、いじめにあったり、孤立したりするということを経験してきたことから、このような自閉症の学校を選択する家庭も多いそうです。高機能自閉症の障がいが見えにくいことから、周りから誤解を受けたり、理解を得られにくいということも理由として挙げられるでしょう。

入学を許可された子どもの中には、保護者の要望やその子どものニーズから判断し、まだ正規に自閉症と診断されていない高機能自閉症の疑いのある幼児も何人かが含まれているそうです。これは、自閉症の正規の診断をしてもらうためには、順番待ちをしなければならないという実情を反映しているようです。たとえばテキサス子ども病院の自閉症クリニックでは、診断のために1年以上待たなければならないそうです。保護者の中には、医療機関の診断を待つより、むしろ学区に連絡し特別支援教育の専門チームに診断してもらったり、このような自閉症や発達障がいの学校に子どもをしばらく通わせて様子をみる選択があるようです。

授業料はおおよそ年間1万4千ドルから2万ドルだそうです。1ドル100円として日本円に換算すると、年間140万から200万円も掛かります。クラスサイズと教員一人あたりの子どもの数が少なく、教員の学歴が高いため、どうしても授業料が高額になってしまうという担当者の話でした。また金額に開きがあるのは、子どもの年齢、1日の滞在時間によりそれぞれの子どもにかかる費用が異なってくるからだそうです。さらに専門の療法士より言語あるいは作業療法を1対1で受ける場合には、追加費用が掛かります。このような事情より、比較的裕福な家庭の子どもたちが在学しているということでした。しかしなるべく多くの家庭の人たちに利用してもらおうと、経済状況に応じ、奨学金を支給し、援助しているそうです。現在は、約20%の家庭に奨学金を支給し、授業料の負担を軽減しているという話でした。

教育内容

学校であるということから、自閉症のための訓練や治療よりも、まず教育を優先としています。一般の子どもたちと同じような学校の環境を用意し、その中で自閉症者のニーズや特徴を配慮したカリキュラムと個別指導が考案されています。カリキュラムは大きく分けて、就学前、小学校、中学校の3種類です。就学前用としては、早期介入を目的とし、言語、運動、社会的な面でのスキルの向上に特に力を入れています。小学校と中学校のカリキュラムは、一般の学校と共通しており、国語(英語)、算数、科学、社会、音楽、美術、演劇、コンピューター、体育の科目があります。その中で個人のニーズにあった計画が細やかに作成され、それぞれが自分の優れた面を伸ばし、学業面で最大限に力を発揮できるように配慮されているそうです。

自閉症者に不得意とされるtransition(場面の移り変わり)や急な変化への対応については特に注意を払い、場所や活動の移動がスムースに行えるように、様々な方法で援助しているそうです。援助の具体例としては、PECS(Picture Exchange Communication System, 音声言語を獲得できない子どもたちのために開発された、絵カードと文字カードによるコミュニケーションの手法)や、social stories(人との付き合い方、生活習慣や社会習慣を自然な設定で学ぶことが困難な自閉症児に、ストーリー形式で説明する方法)が挙げられます。さらに自分の所持品を整理するスキルを身につけたり、自己管理の能力を養うことも教育の内容として重視されています。

また自閉症の特徴に配慮した教育の内容として、会話能力を高めるための援助(相手からのメッセージを受容・理解し、自分の思いや意見を表現・伝達する)があります。通常の授業の中でこのような能力を高めることができるように、教員は意図的に援助を行っているそうです。さらに様々な場で、人とコミュニケーションする力を高めていけるように、授業の中ではグループ活動が奨励され、課外活動として部活動(野球やサッカーなど)や生徒会があります。学校の行事としては、フィールドトリップ(遠足)、お泊まりパーティ、キャンプ、ペンパルとの手紙交換、スペシャルオリンピック(知的障がい者のためのオリンピック)への参加、などの機会を幅広く設け、なるべく外に出かけ地域の人たちと触れ合う機会を増やしています。家に帰ってからも、クラスメートたちと携帯電話やフェイスブックで連絡を取り合っているところは、一般の子どもたちと変わらないそうです。

自閉症スペクトラム障害を持つ子どもは、歩いたり、三輪車に乗ったり、ボールを投げるなどの身体的な不器用さを強く有する場合が多いことから、体全体や細部の筋力を強くするための活動が、毎日のスケジュールの中に盛り込まれています。そのような子どもたちのニーズに応じた設備や備品が用意されており、専門の作業療法士がクラス担任にアドバイスしたり、個別指導も行っているそうです。特に年齢が高い子どもの場合は、ディスレクシアなどの学習障害を有する場合もあるため、細部の筋力の遅れについて診断することが難しいこともあるようです。

保護者教育

最後に、この学校の特徴として挙げられるのは、保護者教育の重視です。月に3度、木曜日の午前9時半から10時半まで様々なトピックで約1時間のセミナーが行われています。セミナーを担当するのは、この学校のスタッフや、ヒューストン市内の自閉症の専門家、あるいはテーマに基づいてゲストスピーカーが招待されます。たとえば私が参加したあるセミナーでは、障がいを持つ子どもがいる場合の所得控除の手続きについて税理士の方からの詳しい説明がありました。セミナーには朝食が用意され、また子連れや夫婦で参加するなど、アットホームな雰囲気でした。

終わりに

自閉症児を持つ保護者にとっては、学校の選択は大きな課題です。米国では、このような自閉症あるいは発達障がいの子どもの学校を選ぶ保護者もいれば、一般の私立・公立学校に通わせる場合もあります。またホーム・スクーリング(学校に通学せず、家庭に拠点を置いて学習を行う教育形態。米国の2007年の統計では、全米の生徒数の約3%に相当する)が選択肢に含まれるのは、アメリカならではのことです。今回紹介したような自閉症の学校のメリットとしては、自閉症の専門家により、自閉症の特徴を配慮しつつ、かつ個人の能力に応じた少人数制の学業指導を集中的に受けることができるということだと思います。またコミュニケーション面での障がいをもつ自閉症の子どもたちにとっては、社会発達面での意図的かつ集中的な援助により、同年齢の子どもたちとのつきあいを深めていくことは大きなメリットだと考えられます。

次回は、ヒューストン市内の自閉症の子どもたちのための施設Spectrum of Hopeを紹介したいと思います。



筆者プロフィール
report_porter_noriko.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

石川県金沢市出身。富山大学教育学部幼稚園教員養成課程、南イリノイ大学教育学部幼児教育修士課程、ミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。日本では1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、その間富山大学教育学部非常勤講師も勤める。現在はワシントン州立大学の人間発達学科のインストラクター。ダイバーシティ、親子関係、保育関係の講座を担当。保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の育児比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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