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アメリカのギフテッド教育事情

要旨:

ギフテッド教育(Gifted Education)とは、平均よりも顕著に高い能力を持っている人のための教育である。英才教育の一種であるが、先取り学習により他の人よりも高い学力を身につけようとする早期教育とは異なる。ギフテッドの子どもたちの高知能、高能力に伴う様々な精神・社会面での問題ゆえに、通常のクラスでは学業の成績が伸びなかったり、登校拒否なども見られることから、アメリカにおいては、障害児教育と並ぶ特別支援の教育施策として捉えられている。今回は、筆者の娘がギフテッド教育に参加したその実例を含めながら、州ごとに異なるその取り組みを紹介し、また現場でギフテッド教育を担当している教員に話を伺った内容も含めて報告する。最後に、日本の教育界がアメリカのギフテッド教育より何を学ぶことができるかについて提言してみたい。
English
1.ギフテッドとは

ギフテッドの定義は多様であり、その捉え方によって対象とする子ども、その教育方法も異なっている。ギフテッド (gifted) *1という言葉からは、天から与えられた資質、つまり生まれつきの特質と捉えていることが伺われる。しかし遺伝によるものなのか、環境によるものなのかは長らく論争が続けられており、最近では、遺伝と環境の相互作用という見方が主流のようである。

ギフテッドの生徒とは、現在の連邦政府の定義では「知性、創造性、芸術性、リーダーシップ、または特定の学問分野で高い達成能力を持つため、その能力をフルに開発させるために通常の学校教育以上のサービスや活動を必要とする子どもたち」である。ハワード・ガードナーによると、このような特別な能力は、言語、論理、数学のみならず、音楽、身体運動、対人性など幅広い分野に渡って定義づけられる(多元的知能理論)。しかし、実際のギフテッド教育プログラムの選抜に際しては、IQ(知能指数)や学力テストが主な測定手段として用いられているようである。国としての正式な統計はないが、ギフテッド教育の最も大きな全米組織、National Association for Gifted Children (NAGC・全米ギフテッド教育協会)によると、米国の中では学齢の子どもたちの約6%、約300万人がその対象である。

先にも述べたが、ギフテッドとは教育熱心な親によって、幼少より特別な早期教育を施したり、親や本人の努力で優れた成績を収める優秀な生徒とは一線を画すると言われている。たとえば、筆者が参加した学区主催のギフテッドプログラムのオリエンテーションでは、ギフテッド学習者(gifted learner)の特徴として、優秀な子ども(bright child)と対照させながら、以下のような説明を受けた。

優秀な子ども(bright child) ギフテッド学習者 (gifted learner)
一生懸命努力する 遊び半分でやってみるがテストの成績は良い
学校が好き 学ぶことが好き
友達といることを好む 大人といる方を好む
いい考えを持っている 常識外れた考えを持つ
単純で順序立てたやり方を好む 複雑さを求める
自己の学習成果に満足している 自己を厳しく非難する
課題を6-8回で修得する 課題を1-2回で修得する
グループの中でトップの成績を修める グループの成績を超越していて、あてはまらない

上の表より、好奇心・独創性に富み、優れた記憶力を持ち、わずかの反復で課題を修得することができ、一生懸命学習しなくても際立った学習成績を修めるというギフテッドの特徴が伺われる。また完璧主義に陥りやすく、自己を厳しく評価する傾向のあることが指摘されている。精神面や社会面と比べ、認知能力や語彙が周りの子どもたちよりもはるかに発達していることから、同年齢の子どもたちに溶け込めず、大人と過ごす方を好むようである。しかしこれらの特徴には、個人差がみられることに留意したい。


2.ギフテッド判定基準

それではギフテッドはどのように判定されるのだろう。これは州や学区によるギフテッドの定義づけによって異なってくるわけだが、多くの学校ではIQ(知能指数)検査、学力テスト、担任や親への質問紙、教室での観察、ドキュメンテーション、インタビューなど様々な方法を用いて総合的な判断を行うようである。IQをギフテッドの中心的な判定手段として使うことに対して、最近は懐疑的な見解もあるようだが、実際の教育現場では、このように数量比較しやすいデーターが広く用いられているようである。筆者の娘の通った学区では、以下のような違いが見られた*2

A. WISC-IV(知能検査)、担任と親への質問紙
この学区では、知能検査が98パーセンタイル*3以上というのが、ギフテッド判定基準である。ちなみに州としての基準は95パーセンタイルであるが、大学町であるためか基準を厳しくしているようであった(その説明は下記を参照)。質問紙は、対象児の言語能力、学習スタイル、動機付け、感情・社会性の発達、創造性の分野に渡って、親と担任教員それぞれの見解を得点化するものであった。

B. Measures of Academic Progress Test*4(MAP・学習進度評価テスト)、Otis Lennon School Ability Test (OLSAT*5・知能検査)、Structure of Intellect (SOI・創造性テスト)、担任と親への質問紙
この学区では、まずMAPの結果が国語、算数ともに98パーセンタイル以上であり、担任もしくは親の推薦があることがギフテッド選抜の第一条件である。その条件に適った生徒は、今度はOLSATを受け、これも98パーセンタイル以上であることで正式にプログラムに参加することができる。もしOLSATの結果が98パーセンタイルに満たない場合は、SOIを受け、これが98パーセンタイル以上であれば参加が認められる。

C. Otis Lennon School Ability Test (OLSAT・知能検査)、Stanford Achievement Test(スタンフォード標準学力テスト)、担任と親への質問紙(中高学年)もしくは教室での観察記録(低学年)
この学区では、知能検査、学力テスト、質問紙もしくは観察記録を総合して判断する。Stanford Achievement Testの中で最低1科目が96パーセンタイル以上であり、かつOLSATで84パーセンタイルであれば、ギフテッドプログラムに参加できる。

以上3つの学区の選抜規定より、基準として共通しているのは知能検査と親と担任への質問紙であるが、どの程度のレベルの生徒を対象にしているかに大きな開きが見られる。たとえば知能検査で98パーセンタイルを最低条件としているAとBの学区では、対象と認められる子どもはCに比べ少数であった。Aの場合、学区の統計によると、各学年生徒約1,300人に対し、ギフテッドクラスに在籍する子どもは約10人と記されている。Bでは、正式なデータはないが、娘の学年の生徒数とギフテッドプログラム在籍者数をカウントした結果、約1割弱の子どもたちがその対象であった。

選抜条件を比較すると、学区Bは3つの中でもっとも選抜条件が厳しく、対象は上位2%以上の知能をもち、かつ同レベル以上の学業成績を修めている子どもである。ギフテッドといっても、全ての科目に等しく秀でていることは稀であるといわれているが、この学区の場合は国語と算数ともに98パーセンタイル以上であることが要求されている。前述のギフテッドの特徴の表は、この学区のギフテッド教育の説明会で配られたものであり、そこに描写されている「グループの成績を超越していて、あてはまらない」という子どもたちである。この学区のギフテッド担当教員の話によると、大学町という環境の中(学区に通う多くの子どもは大学の教職員の子弟)、親の強い要望もあり、学区のカリキュラム内容のレベルを高くしているということであった(例えば、算数は標準より1学年上のカリキュラムを使用)。ゆえに、非常にレベルの高い子どもを対象にしなければ、ギフテッド対象生徒数が多すぎてしまい、サービスができなくなってしまうという説明であった。

反面、学区Cでは、ギフテッドプログラム選抜の基準が比較的緩やかである。Bのように国語と算数両方に秀でていなくても、1つの科目で優秀な得点を取れば認められる。またOLSATでも84パーセンタイル以上という条件である。ギフテットプログラム担当者の説明によると、この学区では、ガードナーの多元的知能理論に基づいた教育実践を行っていることもあり、単に知的能力の高い子どもだけを抽出しないように心がけているそうである。実際、娘の学年では、13クラス中、4クラスがギフテッドのクラスであった。この件について担当者に話を伺うと、実際のところギフテッドプログラム選抜の条件を満たす子どもだけでなく、成績優秀な子どもや、教育熱が高い親からのプレッシャーで入れざるを得ない子どもたちもいるという事情であった*6


3.ギフテッドプログラムの種類

アメリカで行われているギフテッドプログラムには次のような種類がある。
  • 取り出し方式
    取り出し方式とは、一定の時間をギフテッドばかりを集めた学校あるいは学級で学び、残りの時間は同級生と同じ学校、学級で学ぶ。たとえばB学区では、ギフテッドたちは週に1度、学年ごとに1つの校舎に約2時間程度集まり、普段の授業よりも複雑で困難な学習課題に取り組むことになっている。さらに個人の興味に合わせたプロジェクトや学習内容が選べるような環境が整えられている。A学区の場合、週に1度、ギフテッドが一つの校舎に集まり1日特別なカリキュラムで授業が行われる。その場合、生徒たちの興味に応じて、様々なトピックやテーマのクラス〔例、第二次世界大戦、ルイスとクラークの探検、心理学、シェークスピア、発明、食物化学、文化学〕が選択できるようになっている。またそれぞれの生徒たちはホームルームに属し、社会情緒的な面での援助が行われている。C学区では、国語・算数・社会・理科の主要4科目についてはギフテッドのみのクラスで学び、音楽・体育は一般の生徒と共に授業を受けることになっている。

  • エンリッチメント方式
    ギフテッドは全学習時間を一般の生徒たちと過ごすが、その子どもたちの能力への挑戦となるような特別の課題を与えられる。たとえば担任の先生から、一般の生徒よりレベルの高い内容の宿題を渡されたり、スペル大会やサイエンスフェアに参加することで、本人の能力が発揮できるような機会である。またチェスや算数クラブなどの課外活動が設けられている場合がある。

  • 加速方式
    一般に知られている例としては、飛び入学や飛び級である。この場合、ギフテッド教育というよりむしろ早期教育の概念に近いように思われる。年齢ではなく、本人の能力により適当であると判断される場合は、早期にキンダーガーデンに入学したり、1学年を飛び越して、上の学年や学校に入ることができる制度である。
    またアメリカの多くの中学や高校では、能力別クラスが編成されており、ギフテッドだけでなく、一般の生徒たちもテストなどを受けてその能力があることを証明することができれば高いレベルのクラスで授業を受けることができる。たとえばCの学区では、中学や高校の中でギフテッドプログラムに参加する代わりに、Pre Advanced Placement (PreAP)やAdvanced Placement (AP)という加速クラスを受講できる。AやBの学区でも高校にAdvanced Placement (AP)の制度が設けられている。Advanced Placementとは、高校在学中に大学レベルの科目を選択・履修し、試験の結果により、大学の単位として認定される制度である。またその1つ手前の制度として、中学、高校でPre Advanced Placementクラスが設置されている場合がある。このような加速クラスをどんどん受講していくことで飛び入学し、大学を2-3年で卒業したり、あるいは高校卒業を1年早めることも可能となる。

  • サマー・スクール方式
    夏休みの間にギフテッドの子どもを対象にした集中講義やキャンプが全米各地で開催されている。中でも1979年にジョンズ・ホプキンス大学で設立されたCTY(Center for Talented Youth、タレンテッド児童のためのセンター)のサマー・スクールが有名であり、娘の学校にも参加申し込みの書類が用意されていた。希望する生徒はThe School and College Ability Test(SCAT)という言語と数能力の試験を受け、そのスコアによって参加が認められる。

4.ギフテッドの生徒たちのチャレンジ

ギフテッド教育の目的として、その高い能力に応じた教育内容を提供するだけでなく、ギフテッドゆえに経験する様々な学習や生活における困難をできるだけ軽減することが重要である。高知能をもつゆえ、学習のスタイルに違いが見られたり、心理的、社会的、感情的な面で一般の生徒とは違いがあることから起こる様々な困難に対応するために、特別な計らいが必要であると言われている。ギフテッドの行動として例えば次のような特徴が挙げられている。

  • 課業に集中できなかったり、話題と外れてしまうことがある。興味のあること以外のことをやりたがらない。
  • 飽きっぽい。
  • クラスを乱す行動をとる。
  • 繰り返しや暗誦することに、非常な抵抗感を示す。
  • 課題をさっさとこなすが、やり方が雑である。
  • やり過ぎて、自分を消耗させてしまう。
  • 批判をうまく受け止められない。
  • グループ協同作業がうまくできない。
  • 権威のある人に批判的な態度をとる。
  • 自己、他者に対して批判的である。また完璧主義である。
  • 議論の中で、自分の主張を通そうとする。
  • クラスの道化師になったり、ジョークに対して大げさに反応する。
  • クラスの中で何でも知っている物知り屋として見られる。
  • 周りに対してボス的な態度をとる。
このような行動の背後には、学習内容が本人の能力や興味とかけはなれているため、課題に集中できなかったり、周囲の誤解や批判を得るような反社会的な行動をとることが考えられる。またギフテッドの思考パターンや、感性の豊かさ、完璧主義傾向などにより、周りの行動と適応しながら学習を進めていくことが難しい場合がある。以上のような行動が積み重なると、学業成績に支障が出たり、集団から孤立することも考えられる。あるいは、周囲に同化しようとするあまり、意図的に能力以下の成績を修めようとする傾向がみられることが指摘されている。結果としてこれらの要因が気分的うつやストレスを生み出すと言われている。

個人的な事例であるが、娘の場合、人一倍他人の感情に敏感で、周りの行動に合わせようとする態度が、担任らより共通して指摘される点であった。とにかく目立つことが嫌で(担任らからは、日本人の特徴と思われていたらしいが)、学年の代表として皆の前で作文を読むこと、算数オリンピックに参加すること、特別算数クラスに選抜されるなどの体験一つひとつが、娘にとっては大きな心理的な負担であり、親として対処に悩むことが多かった。しかしアメリカでは、そのようなギフテッドをサポートするスクールカウンセラーや、親への豊富な情報(オンライン掲示板、親向けのギフテッド教育の本)が揃っていることを付記したい。

アメリカで行われた先行研究によると、18-25%のギフテッドたちが高校をドロップアウトしていることが報告されている。ドロップアウトの主な理由としては、「落ちこぼれる」「学校が好きじゃない」「仕事を見つける」「妊娠した」などが挙げられ、その生徒たちの殆どが学校に戻るつもりはないと回答している。この傾向は、貧困家庭に生まれたり、ヒスパニックやネイティブアメリカン等のマイノリティであったり、親の教育歴が低いほど、より頻繁に見られることが追記されている。

特に、ADHD(注意欠陥多動性障害)と診断される子どもたちの中には、ギフテッドである可能性を考慮して対処する必要性が問われている。怒りっぽい、エネルギーがありすぎる、周りと合わせることができない、感情的、細かいことに集中できない、などの特徴は、ADHDとギフテッドが共通している点であり、薬物治療などを試す前に、ギフテッドである可能性も含めて総合的に診断すべきだと言われている。

このことは、今回のギフテッド教育担当者へのインタビューでも指摘された点であり、特に貧困家庭に生まれ育った子どもたちに、よりその傾向が強く見られるとの経験からの話であった。本人に潜在的に高い能力があるにもかかわらず、家庭で教育的な刺激を受けることが少ないこととも関連し、学校で見られる様々な多動や注意欠陥行動ゆえに薬物治療を受けている子どもが多いという実情である。機会を見て、そのような子どもたちへの薬物治療をやめてみるように親に持ちかけることもあるそうで、その結果、目覚しい学業成績の伸びが見られた例を語ってくれた。

最近では、「二重に例外的な」(Twice Exceptional)と呼ばれる、障害を抱えたギフテッド児が注目されるようになっている。上記に述べたようなADHD、さらには自閉症やアスペルガー、ディスレクシア(識字障害)等の発達や学習の障害をもつ子どもたちである。特に成績が良く学習障害をもつギフテッドらが、診断漏れで特別支援教育を受けられないことが問題視されている。またその能力にばらつきがある場合(例えば、文字学習は苦手だが、飛びぬけた絵の才能がある)、学校としての対応が困難な場合も指摘されており、今後の課題である。


5.日本の教育への提言

最後に、日本の教育はアメリカのギフテッド教育により何を学ぶことができるかを論じてみたい。生まれつきの能力差が存在しないという教育観が強い日本の場合、ギフテッドの概念自体が受け入れにくく、むしろ早期教育として波及することに懸念を持つ教育関係者もいることであろう。しかし、アメリカの報告で指摘されているように、その高い能力ゆえに授業の内容が簡単すぎる、興味がわかない、周りとうまく合わせることができないという理由で反社会的な行動をとっている子どもたちがいる可能性は、今後日本の中でも検討されなければならないと思う。特に、ADHDなどの障害が疑われる子どもたちの診断の際、ギフテッドである可能性を含めた上での総合的な判断が必要になってくるであろう。アメリカの事例で見られるように、ギフテッドであるがゆえに子どもたちが落ちこぼれていくケースを軽視してはならないと考える。

話は変わるが、昨年末より中国系アメリカ人でイェール大学法学部の教授であるAmy Chua氏の書いた本、『Battle Hymn of the Tiger Mother』(タイガー・マザー)という自伝がアメリカで大変な論議を呼んでいる。数多くの天才児、クラシック音楽の神童を生み出す中国流子育て法を、アメリカ式のやり方と対比させながらこと細かく説明している。その猛烈なスパルタ式の家庭教育について、一部の読者からは児童虐待だと激しく非難を浴びている反面、そのような教育を受けているアジア系の子どもたちにアメリカ人は負けてしまうのではというあせりも広がっているようである。ここで浮き彫りにされている教育観は、人一倍努力すればどの子どもも人並み外れた能力を発揮するという教育における環境を重視した考え方である。しかし本人の意思や興味、能力を考慮せずに、血のにじむような努力でギフテッドとして成長するのかという疑問も残り、またその弊害も危惧されるところである。

中国に比べ、早い時期から戦後急成長を遂げた日本の教育が「教育ママ」「受験地獄」などの用語と共に世界で注目されたことを忘れてはならない。その後、詰め込み主義的な教育観の反省から、日本ではゆとりの教育が奨励されたが、現在では基礎学力の低下を危ぶむ声が高まり「脱ゆとり」教育が推進されている。教育観が変遷していく中、「学力」「知」をどのように定義づけていくかが問われるところである。特に、一人ひとりの子どもを大切にした教育を目指すならば、本人に潜む能力や学力レベルの違いをどのように捉え、実践に生かしていくのだろうか。今後の研究が期待されるところである。

日本の中でも、障害児教育と並ぶ教育政策として、特別な才能や能力のある子どものニーズを生かすギフテッド教育の在り方は、様々なレベルで論じられるべきであろう。これは単なるエリート教育ではなく、その子どもらに潜在する多様な能力を発見し、伸ばしてあげるような教育のシステムを整えてあげることである。今回の事例のCの学区では、知能検査を二年に一度、多元的知能検査を毎年一度実施し、それぞれの子どもの能力や特徴を把握しようと心掛けているそうである。多元的知能検査の結果は、クラスの中でのカリキュラムを計画する際に反映され、また評価の視点となっているという関係者の話であった。日本の教育の在り方を論議する際の何らかのヒントになればと願っている。


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*1 学区によって名称は異なり、筆者の娘が通った学区では、highly capable, gifted and talentedなどの用語が用いられていた。
*2 娘の場合は、ギフテッド教育を意識して育てたことはなく、長男が自閉症と診断されたため、その療育を中心とした家庭内のスケジュールの中で幼少期を過ごす。娘が3歳の時に私立大学付属プレスクールに入園することになり、その条件として、発達テスト(Developmental Indicators for the Assessment of Learning - Third Edition (DIAL-3))を受けることになった。その結果、運動感覚機能の面でやや遅れがみられると診断され、Title 1 Preschoolという州政府管轄の発達に遅れがみられる就学前児のための補償プログラムを紹介される。しかし、親の仕事の都合上、2ヶ月しか通えなかった。そういった経緯もあり、娘が2年生の時に担任の先生よりギフテッドプログラムに推薦された時は、親として大きな驚きであった。以下、度重なる引越しのため、様々な学区のギフテッドプログラムを経験することになる。
*3 パーセンタイルとは、計測値の分布を低い方から並べて、パーセントでみた数字。一般人100人の集団のうち、下から何番目かという意味だと考えても良い。たとえば、20パーセンタイルとは100人中、低い方から20番目と解釈できる。
*4 Northwestern Evaluation Associationが開発した学力テスト。全国の子どもたちのデーターを集計し、対象児の得点でパーセンタイルが判定できるようになっている。
*5 このOLSATは、子どもがどれだけの知識を持つかというよりむしろ認知プロセスを測定するものであるため、テストに際し、準備は必要ないという学校からの説明であった。
*6 このCの学区のある町は、世帯平均所得が$87,670〔アメリカ平均は、$50,221〕と非常に高く、成人の高卒以上の割合が95.6%〔アメリカ平均は、84.6%〕であることとも関連していると考えられる。


参考文献
Dai, D. Y. (2010). The nature and nurture of giftedness: A new framework for understanding gifted education. New York: Teachers College Press.
Hoagies' Gifted Education Page (2011). Retrieved from http://www.hoagiesgifted.org/who_am_i.htm
Johns Hopkins University Center for Talented Youth (2011). Retrieved from http://cty.jhu.edu/about/history.html
National Association for Gifted Children (2008). Retrieved from http://www.nagc.org/
Renzulli, J.S. (2005). The three-ring conception of giftedness: A developmental model for promoting creative productivity. In R. J. Sternberg & J. E. Davidson (Eds.), Conceptions of giftedness (2nd ed., pp. 246-279). New York: Cambridge University Press.
Robertson, E. (1991). Neglected dropouts: The gifted and talented. Equity & Excellence, 25, 62-74.
Ryser, G. R. (2004). Qualitative and quantitative approaches to assessment. In S. K. Johnsen (Ed.), Identifying gifted students: A practical guide. (pp. 23-40). Waco, Texas: Prufrock Press.
Sternberg, R. J., Jarvin, L., & Grigorenko, E. L. (2011). Explorations in giftedness. New York: Cambridge University Press.
Teachers and Families (2011). The exceptional child. Retrieved from http://www.teachersandfamilies.com/sped/gt/gt-spot.html.
筆者プロフィール
report_porter_noriko.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

石川県金沢市出身。富山大学教育学部幼稚園教員養成課程、南イリノイ大学教育学部幼児教育修士課程、ミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。日本では1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、その間富山大学教育学部非常勤講師も勤める。現在はワシントン州立大学の人間発達学科のインストラクター。ダイバーシティ、親子関係、保育関係の講座を担当。保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の育児比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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