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【ヒューストンの自閉症児支援プログラム】第5回 青年・成人の高機能自閉症者のためのクリニック:テキサス州立医大C.L.A.S.S. クリニックの紹介

ポーター 倫子(ワシントン州立大学人間発達学科専任教員)

2015年5月29日掲載
背景

自閉症は国際的に増加しており、世界に共通する現象である。アメリカ疾病予防管理センターの最も新しい統計によると、米国では子ども68人に1人が自閉症 と診断されている(The Centers for Disease Control and Prevention, 2014)。自閉症をもつ乳幼児や学童への診断、教育、治療や支援は多く行われるようになったものの、青年・成人期自閉症者への処遇は未だに限られており、この時期における支援体制の構築が求められる。

英国自閉症協会の調査では、イギリスに在住する自閉症者(約41%が高機能、30%が中機能、24%が低機能)をもつ親の意見によると、70%が自立が難しいと考えており、周りの援助なしに自分で日常生活のことができる自閉症者は10%以下であると報告されている(The National Autistic Society, 2001)。また約半数が親と同居しているとのことである。就労に関しても、フルタイムで仕事についている人は、低機能自閉症者では2%、高機能自閉症者では12%にしか過ぎない。さらに4分の1が、何もしない、あるいは家事手伝いをして過ごしている。また32%の親が、自閉症の子どもが精神疾患(うつ病、神経衰弱、自殺願望)を抱えていると報告している。特に30歳を過ぎて診断を受けた人においては、その半数に精神疾患がみられる。このように自閉症者の青年や成人の自立が難しく、精神疾患を抱えていることを考えると、特に親が高齢の場合、非常に大きな精神的・身体的・金銭的負担が想定される。

アメリカの調査でも同様の結果が伺われる。アメリカで特別支援教育を受けた子どもについての大規模調査、全米長期移行研究第二版(National Longitudinal Transition Study-2 (NLTS2))を基にした最近の報告によると、自閉症を抱える青年は、高校卒業後、他の障害(学習障害、知的障害、情緒障害)を抱える青年に比べてより親と暮らす割合が高く、一人暮らししているのは16.6%に過ぎないことが示されている(Anderson , Shattuck, Cooper, Roux, & Wagner, 2014)。また雇用に関しても自閉症を抱える青年の中で現在働いているのは32.5%(定型発達青年は59.0%)、過去2年間に働いたことがある自閉症の青年は47.7% と、定型発達青年の78.4% に比べてはるかに低い(Autism Now, 2011)。さらに就職している人のほとんどはパートタイムである。就職している自閉症者全体の中で、週20時間以上働いている人が42%、20-34時間が37%、34時間以上働いている人は21%に過ぎない(Ohio Center for Autism and Low Incidence、2012)。

C.L.A.S.S. クリニック について
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(写真:C.L.A.S.S.クリニックの建物)


このように、自閉症を抱える青年や成人への支援が殆ど行われていないといった状況を踏まえて、ヒューストンで30年以上自閉症やそのほかの精神障害をもつ人の診断にあたってきたキャサリン・ラブランド(Katherine A. Loveland)氏が、高機能自閉症の青年や成人のためのクリニック、「C.L.A.S.S. クリニック」を創設するに至ったのが5年前の2010年のことである。このような自閉症を抱える青年や成人、特に高機能自閉症やアスペルガー症候群者*1を対象としたクリニックは米国でもまだ数少ない。

ラブランド氏の経歴を簡単に説明すると、1975年に米国バージニア州シャーロッツビルで心理学学士、1980年にコーネル大学で実験心理学の博士号を取得、その後ヒューストン大学で臨床神経心理学のポスドクとして研究に従事。現在、世界最大級の医療センターであるヒューストンのテキサス・メディカルセンター内にあるテキサス州立大学健康科学センター/医科大学の精神医学行動科学学部の教授であり、同附属人間発達研究センター(The Center for Human Development Research)と自閉症クリニック(C.L.A.S.S. Clinic)の創設者兼所長である。世界最大の自閉症研究の学会であるInternational Society for Autism Researchの役員を務めた経験をもち、国際的にも自閉症研究においてリーダーシップを発揮している。またアメリカ心理学会のフェローである。

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(写真:キャサリン・ラブランド氏)


このC.L.A.S.S. クリニックとは、Changing Lives through Autism Spectrum Services の略語であり、自閉症スペクトラム者がより良い生活を送ることができるようにサービスを行うという意味で命名されている。

ラブランド氏によると、クライエントは成人だけでなく、乳幼児も受け入れているが、殆どが青年や成人ということである。性別については、男性と女性の割合が65%と35%であり、男性が圧倒的に多いが、一般に男性の自閉症者の割合が女性の4倍である(Anello et al., 2009)ことに比べて、このクリニックでは女性の割合はやや高い。また健康保険が適用されるクリニックということで、幅広い社会・経済層の人たちが来診している。ラブランド教授の評判を聞き、海外からも受診にくる場合もたまにあるそうである。

C.L.A.S.S.クリニックの主なサービス内容として、次の4点から説明する。

1.確定診断
自閉症は身体障害と違ってその障害が外見からは分かりにくいことが多い。特に知的な発達が正常な高機能自閉症やアスペルガー症候群の場合、成人期になって初めて自閉症と診断される場合も珍しくない。C.L.A.S.S.クリニックでは、子ども、青年、成人を対象に、個々の実情に応じて自閉症に対する総合的な診断を行っている。その診断の結果、個々に必要な教育・療育プログラム、就労面での援助や支援について提案を行っている。

私的な例であるが、筆者の自閉症者の息子が米国共通の大学進学適性検査「SAT」や「ACT」を受験する際、障害者として教育上の配慮を受けるため、専門家による総合的な診断資料の提出が必要であった。過去1-2年内に受けた診断資料が要求された時、C.L.A.S.S.クリニックで2日間にわたり総合的な診断(面接、質問紙調査)を受け、結果は10ページ相当のレポートに要約され、高校側の資料と合わせて提出することで、試験の際の教育上の配慮を受けることが可能であった(例、試験時間を1.5倍にしてもらう。手書きではなくキーボード入力での受験を認める)。それだけでなく、実行機能(反応抑制、注意機能などを含み、学習や日常生活を行う際の重要な認知機能)、対人関係、感情の制御の困難さに対する支援について、具体的な提案がなされた。

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(写真:クライエントと話すラブランド氏)


2.セラピー
自閉症を抱える人は、その本来の困難のみならず、派生的な情緒障害として、不安障害やうつ病などと診断される場合が多い。そのような問題を軽減するために、このクリニックでは訓練を受けた専門家により心理療法を行っている。特に自閉症者の抱える主要な問題として、人生を前向きに切り開いていくこと、対人関係での困難、社会的不安やそのほかの感情の問題が挙げられる。それぞれの個人の状況に応じて療法が行われる他、このような個人の問題は家族を巻き込む場合が多いことから、家族も対象として、必要な援助スキルを紹介したり、サポートやセラピーを行っている。

3.薬物療法
自閉症の治療として、薬物療法を行い、不安症状、抑うつ、攻撃性、実行機能の困難さを緩和することが有効な場合がある。これはすべての自閉症者に当てはまるわけではないが、もし効果的な場合は、その方面に熟知した専門家を探すことが必要になる。分業化されている米国では担当医と自閉症の薬物療法に詳しい精神科医との間の連携が必ずしもスムーズに行われているとは言えないが、このC.L.A.S.S.クリニックでは、精神科医を含めた学際チームが治療に関わることになっている。

4.ソーシャルスキルのクラス
自閉症者にとっては、社会性やコミュニケーションの問題は共通する課題である。C.L.A.S.S.クリニックでは、知的障害をもたない高機能自閉症者を対象とし、年齢やニーズに応じたグループを作り、その中でグループ活動やディスカッション形式で、ソーシャルスキルが身に付くように指導している。具体例として、18歳以上の自閉症者とその親を対象とし、「おとなへの移行」をテーマとした8週間のクラスを提供している。また15-18歳を対象とした「青年期への移行」をテーマとした社会的スキル、感情のコントロール、自己管理の形成を目的としたクラスもある。

今後の課題

1.自閉症者の自立と子育てサポート
ラブランド教授によると、青年や成人の自閉症者は、社会的感情の発達の面で、通常、5-7年遅れていると言われている。そのため定型発達の青年や成人と比較し、興味対象が幼い、異性や身の回りの清潔などに対する関心の遅れなどが指摘される。また独立したり、おとなになることに恐れを抱く場合も多い。

前にも述べたように、独立して一人暮らしをしている自閉症者の割合は非常に低い。これは、青年や成人の自閉症者が、年齢相応のスキルをまだ学習していない、自立への抵抗感や不安感がある、独立を強いられることで家族から見放されたと勘違いする、などが原因である。特に準備なしに独立してしまった結果、失敗に終わる場合もある。そして何よりも子どもを守るために家族が過保護に陥り、自閉症をもつ子どもの自立を阻んでしまう場合も考えられる。そのため、本人の自立ニーズに焦点をあてた対応、親教育が課題である。

2.次のステージへのスムーズな移行を意識したサポートの拡大
米国の法律、全障害児教育法(IDEA)の中では、すべての障害をもつ生徒が次の段階へ移行(transition)しやすくするためのサービスを受ける権利があることが示されている。これは、義務教育後の高等教育(大学や短大など)、職業教育、職業訓練、成人教育、自立生活、地域活動参加など幅広い内容を含めて解釈されている。義務教育のレールの中での特殊教育は明確化されているが、卒業後の進路や移行へのサポートは殆ど行われていない。結果的に、大学に進学させることができるのか、その場合一人暮らしはできるのか、就職することが可能なのか、車を運転しても大丈夫かなどの疑問や不安に答えてくれたり、相談にのってくれる専門家の存在が必要である。

前にも述べたとおり、実際に自閉症をもつ青年で自立し、フルタイムの仕事に就いている人は、自閉症の程度に関わらず割合的に少数である。また精神疾患(うつ病、神経衰弱、自殺願望)を抱えている自閉症者も多い。個々のニーズや長所、興味や関心を生かせるような教育や就職の機会が得られるための援助や、より良い生活を送ることができるようにサポート体制を整えることは急務である。このようなことから、今回紹介したような青年や成人を対象とした自閉症クリニックの拡大とそのための専門家の育成は、国を超えた共通課題であると考えられる。



筆者プロフィール
report_porter_noriko_02.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

金沢市出身。1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、国際結婚を経て1998年に渡米。2008年にミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。現職はワシントン州立大学人間発達学科のインストラクター。2015年より安倍フェロ-として日本における調査研究を実施。テキサス大学医学部の精神医学行動科学学部客員研究員。立命館大学の人間科学研究所客員協力研究員。
保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の子育て比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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