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【ヒューストンの自閉症児支援プログラム】第4回 特別支援教育のアドボカシーの紹介:ルイス・ガイガーマン氏

ポーター 倫子(ワシントン州立大学人間発達学科専任教員)

2015年1月23日掲載
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はじめに

自閉症児をもつ親に求められる重要なスキルの一つとして、アドボカシー(擁護)*1が挙げられる。これは日本ではあまりなじみのない言葉であるが、障がいをもつわが子が必要なケアと教育を受けることができるように、親が子どもの立場を擁護するスキルを身につけることが重要だと米国では言われている(Martin, 2010)。私的な話で恐縮であるが、以前自閉症支援センターJudevineの親教育のトレーニングを終えた時、ディレクターと行った最終面接(フィードバックを目的として行われる面談)の中で、「これからお子さんを擁護する (advocate)ことができると思うか」と聞かれたことが印象に残っている。その時にはなぜ障がいをもつ子どもの親にそのようなスキルが必要になるのかピンとこなかったが、その後我が子を公教育に参加させていく中で、子どものニーズを代弁し、そのニーズに配慮した教育がなされるようにたえず学校側に働きかけるアドボカシーとしての親の役割が重要であることを実感してきた。

自閉症を抱える子どもの親として、まず最優先したいのは、自分の子どものニーズに応じた個別化された教育の環境を与えることである。しかしこれには非常な困難を伴うことが多く、親のストレスを伴う。自閉症の子どもを育てること自体、親は休む暇もない程の労力を費やすと言われている。その子育て自体、身体的、精神的な健康にかなり負荷がかかることから、子どもが治療、教育、サービスを受ける権利を守るために行動を起こすための時間やエネルギーが殆ど残っていない場合が多い。さらに、子どもの治療や教育についての必要性を主張することは、時には相手側との対立を伴うものである。そういう事情を背景として、特別支援教育のアドボカシーとしての役割が重要になってくる。これは、現行の法律の下、障がいを抱える子どもが教育上必要とするニーズを擁護支援することである。具体的には、子どもの記録に基づいて、特別支援教育のサービスを受けるためのプロセスを明らかにし、個別教育計画(IEP*2)の面談で家族を支援することなどが挙げられる。これは、法律の下で家族の法的ケースを査定し、法廷で家族を弁護する特別支援教育の弁護士とは区別されている。今回は、特別支援教育のアドボカシーの働きを取り上げてみたい。ヒューストンでこの分野において非常に著名なルイス・ガイガーマン(Louis Geigerman)氏 をインタビューしたので、彼の活動とその会社、National ARD/ IEP Advocatesを紹介したい。

1 ガイガーマン氏について
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ガイガーマン氏は、1995年に創設された「National ARD*3/ IEP Advocates」(以下NARDA*4)の創始者かつ代表取締役である。もともと営業の仕事をしていたガイガーマン氏は、アスペルガー症候群の息子さんを育てた経験を通して、特別支援教育のアドボカシーを行うことになったそうである。同氏の説明によると、アスペルガー症候群と確定診断を受けた時、自分と妻よりも専門臨床医の方が息子さんのニーズをよく理解していると思っていたが、次第に息子さんの状態がなかなか良くならないことに気づき、その結果、自分たちの方がいわゆる専門家と言われる人たちよりも息子さんのニーズをよく把握していると思うようになったそうである。息子さんは自分のニーズを擁護する能力を持っていないことから、親である自分がその役を務めるようになり、個別障害者教育法(IDEA)について学ぶことにしたのがそもそものきっかけである。これがNARDAの始まりである。

アスペルガー症候群である息子さんは、いじめに遭うなど様々な困難に遭遇したそうである。息子さんを3歳の時に診断した心理士は、ガイガーマン氏らに「将来施設に入居するしか道はないだろう」と告げたそうであるが、実際には、学業面で目覚ましい成績を修め、テキサス州立大学(Texas State University)を 2011年に成績優秀者として卒業する。しかしその2ヵ月後、悲劇的な死を遂げたということである。ご夫妻は、息子さんの思い出にちなみ、彼の名前を冠した「ベンジャミン・J・ガイガーマン・レクチャー・シリーズ」をスタートすることにした。同様な高機能自閉症をもつ青年が仕事につき、豊かな人生を送るための希望やヒントを、そのレクチャーを通して提供するように努めている。

ガイガーマン氏は、ヒューストン市だけでなく全米でも、障がいをもつ人とその家族を支えるための指導的な役割を担っている。たとえば、ヒューストンのテレビ放送局の特別支援教育分野でアドバイザーも務めており、彼の役割は、スコット・ティール氏の著作*5の中でも紹介されている。

2 NARDAについて

1995年に創設されたNARDAは、主にテキサス州において特別なニーズをもつ子どもの家族を擁護することを目的としている。弁護士資格は有していないが、有料でアドボカシーを専門に行う会社である。主な業務として、障がいをもつ子どものニーズについて親の相談にのったり、個別教育計画の面談に出席して親を擁護したり、様々な機関に対する不服申し立ての手続きを行ったり、いじめやいやがらせのケースの相談を受け、それに関してテキサス州教育機関に通報する際、家族を代表するなどしている。 NARDAの使命は、「特別支援教育が公平に施行されるようにすること」である。

現在、NARDAには4人のスタッフが配置されている。その多くは特別支援教育を専攻した人たちで、また障がいをもつ家族がいる人もいる。ガイガーマン氏によると、この仕事に求められるのは、「情熱」である。「もしこの仕事に情熱や興味がなければ、ただの仕事として終わるだけで、効果的に働くことはできない」ということである。また善悪の感覚と思いやりも、スタッフに期待する非常に大切な要素と説明している。

3 利用者について

診断:利用者のおよそ66%〜75%が自閉症スペクトラム障害者とその家族だが、他の知的/学習障害者も利用しているということである。
年齢:対象としている子どもの年齢は幅広いが、おおよそ50%が就学前児または小学生、20%が中学生、30%が高校生である。年齢の高い子どもの場合、次の学校に進学する際の援助が重点課題である。ガイガーマン氏によると、学校は子どもがまだ次への学校に移行する準備できていない状態で卒業させてしまうことが課題である。中学生の場合は、いじめが共通課題である。自閉症の生徒は、いじめの対象になる傾向があり、そのことに関して注意を払わなければならない。

4 IEPの面談における特別支援教育アドボカシーとしての役割

ガイガーマン氏の説明によると、IEPの面談における特別支援教育アドボカシーとしての役割は 「ファシリテーター」である。学校側も家族側も特別支援教育に関する法律などの知識をもっていないことが多く、そのために特別支援教育サービスがどのように機能すべきかの過程を理解してもらえるようにすることが擁護者の主な仕事である。また学校側と家族側の双方を手助けするファシリテーターが必要であり、多くの場合、自分の立場を相手側に分かってもらえることで達成感を味わうことができるものである。お互いを理解することが先決である。IEPの面談の準備をするために、もし可能であれば保護者と面接し、最低でも子どもと面接し、そのチャレンジを把握するように努める。またその子どもに関する記録に目を通すようにしている。

5 学校と保護者の間の共通のギャップ

学校と保護者間のギャップとしてまず挙げられるのは、知識のギャップである。ガイガーマン氏の説明によれば、保護者は学校には何が要求されているのかを理解していないことが多く、また学校は自分たちが何をすべきか分かっていないことが多い。また予算が削減されている中、特別支援教育に関して提供されるサービスは非常に不安定であり、予算の制限が対立の原因となる場合がある。そのような状況下、保護者が得られる援助というのは、学校のシステムをナビゲートしてくれたり、学校がすべきことを理解するのを助けてくれる人の存在である。

さらに予算をめぐる両者の対立について、ガイガーマン氏は次のように説明している。「70年代半ばに議会の中で特別支援教育法が義務付けられ、特別支援教育を必要とする生徒に対して平均して40%まで連邦政府がその費用を負担することになっていたが、実際には17%しか支出されていないことが問題である。その結果、予算不足が学校と保護者側の対立を生み出している。また皮肉にも、予算不足にもかかわらず、学区は税金である教育予算を何千ドルも法律事務所に支払って障がいをもつ子どもの教育をめぐる法廷闘争を繰り広げ、保護者と対決しようとするが、保護者はそのような弁護士を雇うのには自腹を切らなければならない」と不公平な現実を指摘している。

また同氏は、特別支援教育専用の教室にカメラを配置して、虐待が起こらないよう監視しなければならないということを提案し、そのために活動している。特に問題行動のある子どもの場合、スタッフや他の生徒により虐待を受ける可能性があったり、訓練を受けていない教師の不適切な介入により子どもが傷を受ける場合もある。こういった教師は、障がいをもつ子どもの問題行動に対する肯定的かつ適切な対応方法を学ぶ必要がある。またスタッフ不足により、傷害を引き起こす場合もある。保護者は、定期的にクラスを参観し、教員助手を含むスタッフの資質をチェックすることが求められている。

おわりに

自閉症をもつ子どもの擁護は、親の生涯をかけての仕事である。もし、親が自分たちだけでその責任を負わなければならないと思いこんでしまうと、非常に困難な人生を送ることになると考えられる。実際、米国で行われた調査では、自閉症児をもつ米国の母親の約80%が、自分の子どものために十分にやってあげていないという罪悪感をもっていることが報告されている(Kuhn & Carter, 2006)。このような背景を考えると、ガイガーマン氏が行うような特別支援教育のアドボカシーは、障がいをもつ子どもの親が、親としての役割を果たす上で負担を軽減するのに非常に大きな役割を果たすと考えられる。全ての子どもは豊かな生活を送る権利があり、ガイガーマン氏の活動は、親に希望を与えてくれると言っても過言ではないだろう。


    <注>
  • *1:アドボカシーとは、従来法律用語として、社会的弱者やマイノリティーの権利擁護や政策提言などの活動を意味する用語として知られている。最近では公共政策の変容を促すような政策提言だけでなく、対象者(障がい者、患者、子ども、など)のために弁護する、代弁する、サポートする、声をあげる、といったような個人やグループによる活動も含めて紹介されている。
  • *2:個別教育計画の会合は、障がいをもつ子どものための個別化された教育計画を作成するために、学校側(教師、管理職、特別支援教育教員ら)と保護者、場合によっては当人である子ども、保護者や学校側が招待した外部者(特別支援教育アドボカシー、セラピスト)を含めて行われる。
  • *3:障害の認定, 個別教育計画の作成,レビュー,障害認定の取り消しにかかわる会議。州によってIEP面談と命名されることもある。
  • *4:NARDAについての詳しい情報は、このホームページを参照。http://www.narda.org/about-us.html
  • *5:Teel, Scott.2009.Defending and Parenting Children Who learn Differently: Lessons from Edison's Mother(他の子どもと異なった学び方をする子どもを守り教育すること:エジソンの母から学んだこと).Rowman & Littlefield Education


    • 【参考文献】
    • Kuhn, J. C., & Carter, A. S. (2006). Maternal self-efficacy and associated parenting cognitions among mothers of children with autism. American Journal of Orthopsychiatry, 76(4), 564-575. doi: 10.1037/0002-9432.76.4.564
    • Martin, A. (2010). The everyday advocate: Standing up for your child with autism and other special needs. New York: New American Library.


筆者プロフィール
report_porter_noriko_02.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

石川県金沢市出身。富山大学教育学部幼稚園教員養成課程、南イリノイ大学教育学部幼児教育修士課程、ミズリー州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。日本では1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、その間富山大学教育学部非常勤講師も勤める。現在はワシントン州立大学の人間発達学科のインストラクター及びテキサス大学医学部の自閉症クリニックの客員研究員。保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の子育て比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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