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【9月】外来小児科学会の素晴しい発展を祝う

小林 登 (CRN 所長、東京大学 名誉教授、国立小児病院 名誉院長)

2012年9月 7日掲載
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「日本外来小児科学会」、"Society of Ambulatory and General Pediatrics of Japan (SAGPJ)"の第22回年次集会が、小田原市で小児科を開業されている横田俊一郎さんを大会長として、この8月24日夕方から25日、26日の週末に横浜市のパシフィコ横浜で開催された。ひとりの会員として参加した。

そもそもこの学会は、1991年(平成3年)に、四国松山で開業していた小児科医徳丸實さんが「日本外来小児科学研究会」として、第1回の勉強会を開催したのが始まりで、10回目には学会になり、その後も毎年年次集会と呼ぶ勉強会が開かれている。この第22回の年次集会の参加者数は3,000人近くにもなったという。もっとも参加者は医師だけでなく、それぞれの小児科診療所で働く看護師さん、病児保育をやっている保育士さん、そして事務職の方々、さらには薬剤師さんなども参加しているのである。これらの方々も日頃勉強した事を発表し、よりよい外来小児医療を求めてお互いに切磋琢磨している。とにかく参加者が初日の24日で2,700人というのであるから、この年次集会は「大成功!」と言えよう。確かに参加してみると、それぞれの地域からの参加者の熱気を感ずることができる素晴しい学会であった。この学会の御発展を心からお祝いしたい。

"Ambulatory and General Pediatrics"、「外来・総合小児科学」という小児科学は、アメリカで1970年代末から出てきた考え方にもとづくものである。戦後、本土は戦場にならなかったアメリカで、「子ども病院」"Children's Hospital"の発達とともに、小児科学の専門分科が著しく進み、小児神経学、小児心臓病学、小児腎臓病学、小児アレルギー学などなどのいろいろな小児疾患のそれぞれを専門とする小児科学が次々と体系づけられた。それによって、子どもの病気の治療は発展したが、子どもの体と心の関係など、子どもをひとりの人間として大きく捉えられなくなったという。外来で子どもを診ている小児科専門の先生が、専門外の病気を見落としたりするようなことが出てきたのである。その反省の上に立って外来を中心に子どもの心と体全体を診る小児科のことを外来・総合小児科学と呼んだのである。

御存知とは思うが、"ambulant"、"ambulate"とは「歩くこと」、「移動すること」の意である。それが医学・医療では、患者さんが歩いて医療を受けに来る、医師・看護師さんが患者さんのところに行って治療するという営みに使われるようになった。患者さんが歩いてきて診療を受ける場所という意味で"ambulatorium"「外来診療所」という言葉になり、"ambulance"になると「救急車」、「病院船」などを指すことになるのである。

一方"general"という英語は、「総合的な」、「全体的な」、「一般的な」という意味であるが、専門的ではない点を強調して「総合的」、「一般的」と訳すべきであると考えている。したがって"general pediatrics"は「総合小児科学」と呼ぶべきであろう。

この学会の設立を考えられた徳丸さんは、大学病院、県立病院の勤務医、つづいて開業医として子どもたちの診療を行っているうちに、アメリカでの外来小児科学とか総合小児科学の流れを知り、わが国にもそれをつくりたいと、当時久留米大学小児科学教授をされていた山下さんと私にいろいろと御相談されたのである。それは私どもが以前から小児科学の専門分科も重要だが、子どもを包括的あるいは総合的に診ることの重要性も強調していたからである。

そんなこともあって、この学会については、いろいろな思い入れがあり、可能な限り年次集会には出席するようにしてきた。この学会での最大の収穫は、大学とか小児病院という組織の中で生活してきた私にとって、地域社会と密着して地域の子ども達の心と体の健康のために、汗を流して日々御活動されている小児科医の先生、また関係される方々の熱気を直接感じられることであった。

イギリスのロンドンの子ども病院で勉強していた頃、九州大学小児科の遠城寺教授が、当時九大の学長としてイギリス政府主催の「日英学長会議」のためにおいでになったことがある。先生からは、ロンドンの近くで開業しているDr. John Fryにぜひお会いしたいのでアレンジして欲しいという連絡をあらかじめ頂いていた。Dr. J. Fryは、地域医療の中でよくみる、ありふれた病気を持った子どもが大人になってどうなるかを整理して"Common Diseases"という本にまとめ上げた医師である。遠城寺先生は、その本をお読みになって、Dr. Fryに関心をもたれたのであろう。私も早速買って読んだ後、電話帳でしらべて連絡したのである。当日は、遠城寺先生におともしてDr. Fryの家に参上した。典型的なイギリス紳士のDr. Fryが、お茶をのみながら遠城寺先生となさった会話を直接うかがったのである。Dr. Fryのわきに座っていた茶色の大きな犬が印象的だった。

話の内容は、開業医にとっても研究が如何に大切かということであり、しかも開業医にしかできない研究もあるというものであった。その考えをもとに、Dr. Fryは、よくみるありふれた病気を丁寧に診療し、特に「子ども病気のナショナルヒストリー」の研究として"Common Diseases"という本にまとめたのである。1963年のことだったと思う。今でも話し合っておられる二人のお姿をありありと思い出すことができる。Dr. Fryは、その後WHOのコンサルタントになり、彼の考えを広め世界的にも有名になった。私も日本医師会にお願いして、日本にお招きしたこともある。そんなこともあって、外来小児科学会の研究発表には、いつも大きな関心をもって出席してきた。

第22回の年次集会でも、前夜セミナー4、会長講演、教育講演、MTE(Meet the Experts)で13講演、いろいろなテーマについてのシンポジウム・対話形式のセッションが9、ランチョンセミナー18、アフタヌーンセミナー4、一般演題ポスター発表67(うち口演発表63)と計120題近くの発表が行われていた。極めて活発な学会であり、沢山の開業小児科医の先生方、また関係者が日々勉強しておられることが良くわかる。

その中で目立って多いテーマが「予防接種」と、喘息やアトピー性皮膚炎などに関係する「アレルギー」である。それにつづいて多いテーマは「子育て相談」、「教育問題」、「発達障害」、「感染症」などである。地域で開業されている小児科の先生がどんな仕事をなさっているか、どんな問題で困っておられるか、どんな勉強をしたいかがよくわかるであろう。

勿論、学会とは勉強するだけの場ではない。日本全国各地から来ている方々の交流の場として懇親会なども行われる。今回は、前夜祭として、横浜港を2時間程クルージングする短い船旅と、横浜開港記念のタワーではディナーパーティーが開かれていた。クルージングには参加できなかったが、マリンタワーでのディナーパーティーには参加して、多くの知人とお会いし、楽しいひと時をもつことができた。また翌日の第1日目の夜には、参加者が中華街のいくつかの大きな中国レストランに分かれて集まって懇親会が開かれ、これも交流の大きな機会になっていた。

「日本外来小児科学学会」は、町で開業している小児科の先生の勉強会として、極めて重要な役を果している。診察のためお子さんを連れていくと、時に「休診」だったり、代りの先生による「代診」だったりすることもあろう。こんな時は、町の先生も勉強のために学会に行っていることが多いのである。大学病院や子ども病院で診療している先生方のように、開業の先生方にも特別な勉強の機会があり、それぞれが子ども達のよりよい外来診療の在り方を求めて学んでおられることをぜひご理解して頂きたいと思う。
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