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【11月】「子ども学」も国際交流促進の流れをつくる

21世紀の世界の平和を築くには、それぞれの国の人々、特に庶民が交流することが全ての始まりとなる。それには、「映画」や「音楽」の果す役割が大きいことは、御存知の通りである。

最近も韓国ドラマによって、いわゆる「韓流ブーム」が起こり、日韓の交流が活発になったことは、その代表である。2003年にNHKが放送した『冬のソナタ』を発端に起こった一連の出来事である。また、ある新聞の記事で読んだことであるが、反日的で日本人に好意をもてなかった中国人ジャーナリストが、仕事で東京に住み、いろいろと日本人と交流することにより、自らがもっていた日本人に対する認識が誤りであることを悟り、大の日本贔屓になったという話もある。人と人との交流が、偏見をなくす良い事例と言えるのではなかろうか。

どんな国でも、多くの人は外国人に好意的であることは、皆さんも御体験されたことと思う。中には、なんとなく敵意をもっている人もいなくはないが、殆どの場合極めて限られた数である。

私もアメリカに5年、イギリスに3年と生活する機会をもち、その間に多くの友人や親しい人ができ、楽しい毎日であった。また、外国への旅行も、国際小児科学会に関係した時期もあったので、優に30回は越えているであろう。パスポートは、公用のパスポートもあるので30冊に近い数になっている。

残念ながら行けなかったのは、ハンガリー、チェコなどの東欧諸国、南アメリカのペルー、チリ、トルコを除く中近東の国々、アフリカ南部・北部の国々である。しかし、この機会に、訪問した国について思い出してみたが、言葉が通じないことはあったものの、幸い不愉快な出来事は思い出せなかった。いろいろな国をみてみると、人間はいずこも同じ、交流すれば心は通うものであることを実感している。特に、表情や行動だけでも、好意の心、優しい心はちゃんと通じるものである。

この10月20日から4泊5日で中国河南省の鄭州市に旅した。1970年代初めから数えると、20回目程の中国訪問になる。上海で飛行機を乗り継いで1時間半飛べば着ける、人口約800万人の中国の歴史的な地域の町である。そこの鄭州幼児師範学校で開かれるCRNの「東アジア子ども学交流プログラム」の2日間にわたるシンポジウムに参加するためであった。

鄭州幼児師範学校は、我が国で言えば幼稚園、保育園、子ども園で子どもを教える人、世話する人を専門家として養成し、また現場の人々も再教育する専門学校、短大に準ずる教育施設である。そこの教官や学生さんと一緒にシンポジウムを開催した。

日本側からは、私とお茶の水女子大学の榊原洋一教授、東京おもちゃ美術館の多田千尋館長の3人が発表し、中国からは、上海の華東師範大学の朱家雄教授他2名の幼児教育の研究者・実践家、中国出身で現在在日中の福山市立大学劉郷英教授、それに台湾のアジア大学蕭芳華教授が発表された。その内容は、CRNで後に詳しく発表する予定である。

中国側の幼稚園をみると、我が国の幼稚園、保育園より立派であり、大型である。その上、絵を描く、歌を唄う、積み木をする、食事をするなどの目的によって部屋がそれぞれ別になっていたのに印象づけられる。それについては、子どもの「あそび」と「学び」にとって、チャイルドケアリング・デザインとして、良いか、悪いかを考える必要があるのではないかと思った。しかし、中国の小さい子ども達の保育・教育に関係する専門家を「幼児教育」としてまとめ、教育している点は、わが国で問題になっている幼保一元化の解決を考えるヒントになるのではないかと思った。

鄭州市は、3500年前「商(殷)王朝」があった中国の古い街である。現在、農業地帯の中心都市として、商業・製糸工業・観光などで栄えている。その街に近く、インドから来た達磨(だるま)大師によって建てられた、少林武術で有名な少林寺や、孔子が教えたという、宋の時代の四大書院の一つである嵩陽書院などを訪問する機会ももつことが出来た。今回の中国訪問は、CRNにとってばかりではなく、私個人にとっても意義ある旅であった。

その折、考えたことのひとつは、このような国際交流は、映画・音楽などによるものとは違った大きな意義があるということである。第1は、「子ども」に関係するということである。子どもはどんな文化、どんな民族、どんな国にとっても、特別な存在であり、生物学的存在としてみれば、どこでも殆ど同じである。第2は、生物学的存在としての子どもを、社会的存在として育てる育児・保育・教育も、乳幼児期では共通点が多く、その上、国の政策によるイデオロギーなどには、余り影響されないものであると言える。しかも現在は、21世紀の平和を作り上げ、偏見や差別の無い子ども達の心を育てるには重要な時期と言える。このように考えると、私達が行っている「子ども学」を柱にする交際交流も、子ども達に平和な心を育て、21世紀の世界平和の基盤作りに重要な役を果たすことが出来ると思う。「東アジア子ども学交流プログラム」を今後ますます発展させていきたいものである。
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