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【2月】「無縁社会」と「ウーマノミクス」

喜ばしい事に、ガタがきた日本社会を何とか立て直そうと考え始めた人々が多くなったようである。最近の新聞やテレビをみると、それを感ずる。当然のこととは言え、1月の所長コラムを書いたばかりなので、何も私だけではないと意を強くした次第である。

1月の所長コラムで申し上げたかったことの第1は、子育て問題の背景にある大きなものは、豊かな社会の陰の部分で、特に物質的な豊かさである。そのため、われわれが人間関係を維持させるために進化させてきた優しさの心を、使わなくても生活出来るようになってしまったと思うのである。それほど豊かになったということなのだ。また、その豊かさは、残念ながらわれわれの心も蝕み、拝金主義、行き過ぎた個人主義が社会にはびこり、いろいろな社会問題までも起こしているのである。

第2は、その問題の解決のためには、女性のアイデアを生かせ、ということである。そのため、直接行政に頼ることなく、現在女性が中心となって子育て問題に対応している、日本各地にあるNPO運動を支援するという方法もあることを申し上げたかったのである。

今月の所長コラムで取り上げた2つのキーワードは、全く関係ないように見えるが、実は2011年1月11日の読売新聞朝刊「日本の改新」欄に載った、ハーバード大学 マイケル・サンデル教授の「<無縁社会>の話をしよう」という論文と、同日夕方放送のNHK「クローズアップ現代-"ウーマノミクス(女性経済)"が日本を変える」という番組から取ったものである。朝その新聞を読んで、夕刻そのテレビを見た時、わが意を得たりと実は思ったので、早速今月の所長コラムのタイトルを「<無縁社会>と<ウーマノミクス>」にしたのである。

サンデル教授は、わが国に多発している老人の孤独死や、住居不明の高齢者の痛ましい悲劇は、コミュニティの喪失が原因という。コミュニティとは、社会学的に定義すれば、血縁・地縁や宗教で結ばれる共同体ということになるという。人間関係が弱くなれば、血縁も地縁も崩壊することは明らか。その上、わが国の社会は、仏教中心なので、キリスト教と違って、宗教が人間関係の維持に強い力を発揮出来ないのかもしれないと考えたのである。

サンデル教授は、さらにこの無縁社会の原因のひとつは、現代の市場社会がもたらした豊かさであろうとおっしゃる。コミュニティ喪失に加えて、豊かさによる極端な個人主義が加わって社会の結束を弱体化しているという。

「クローズアップ現代」の「ウーマノミクス(女性経済)"が日本を変える」は、現在女性が実践しているいろいろな事業の経済学的分析の番組であった。女性に人気があるベネッセコーポレーションとも関係があるので、女性の社会進出、企業での活躍は、それなりに知っている心算であったが、わが国の女性進出の現実は、私の考える以上であった。しかし、欧米先進国、特に北欧にくらべると、まだまだであるという現実も知って残念にも思った。

豊かさの陰の部分が関係して優しい人間関係が弱くなるという発想は、生物学的な考え方で、すでに何回か申し上げている通りである。すなわち、われわれの遠い祖先は、生きていくために、優しさをもって人間関係を維持し、集団生活する必要があったのである。それが、自然淘汰をもたらす環境作用として淘汰圧になり、優しい心が進化したという考えである。しかし、その優しい心を使わなくても生きていけるほど豊かになったので、社会の優しさが働かなくなり、人間関係が弱くなったという考えは、必ずしも100パーセント証明されているわけではない。私自身でも、論理に飛躍ありと思っている。しかし、この生物学的な考えは、問題解決にひとつの重要な洞察を与えるものと考えている。人間も、所詮生き物なので、私なりに研究法をデザインしてみたいと思っている。

子育て支援に女性の考えを利用するという考え方は、生命誕生と直接関係する女性側からしてみれば当然と言えよう。いずれにしても、「クローズアップ現代」でも取り上げられているように、社会通念として「男女平等」を認めることからまず始めなければならない。そして、サンデル教授がすすめる「ディベート」を行うことによって、大きな哲学的、倫理的な考えや価値観を明るみに出し、問題解決の基盤を作ることが出来ると思うのである。

いずれにしても、時代は刻々と変わっている。われわれは、今や狩猟採集時代はとうの昔に終わって、豊かな先進工業化社会の中で生活しているのである。男女一緒に英知をもって「ディベート」し、当面する子育て問題も解決すべき時にあるのではなかろうか。
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