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【1月】子育て問題解決にはどうしたらよいか、女性の英知をもっと生かそう

要旨:

現在、少子化の問題、育児・保育や教育の問題、そして子ども虐待の問題など、わが国の子ども問題は深刻である。その中で、子育て問題は極めて重要である。今回は、所長がベネッセ次世代育成研究所による乳幼児の父親に関する調査結果に触れながら子育て問題を考え、子育て問題解決のために、女性の考えを育児・保育の実践的なやり方に積極的に取り入れようと提案している。

欧米先進国に比較すればまだまだましと言われるが、現在、わが国の子ども問題は深刻である。子どもの出生数の低下、すなわち少子化の問題、さらには育児・保育や教育の問題、そして子ども虐待(児童虐待)の問題などなど、数え上げればきりがない。その中で、子育て問題は、次の世代を考えると極めて重要である。

 

「少子化問題」にしろ、「子ども虐待問題」にしろ、国を挙げて対応しているが、その効果は見られない。子どもの出生数は改善せず、子育てと深く関係する「子ども虐待」の児童相談所対応件数も、増加の一途をたどっている。何かが悪い。社会の仕組みが上手く働かないのである。

昨年12月、ベネッセ次世代育成研究所が発表した「第2回 乳幼児の父親についての調査」は、子育て問題を考える上でヒントを与えるように思う。主な調査結果は、次の通りである。

1)家事・育児に今以上に関わりたいと思う父親は増えている(05年47.9%→09年54.2%)。
2)父親がかかわる家事・育児は、4年前と比べてほとんど変わっていない。
3)育児休業を取得した父親は、4年前に比べてあまり増えていない。希望者は決して少なくないが。
4)「自分は妻に必要とされている」と感じる父親の割合は、4年前に比べて減っている。
5)父親が今後不安に思うことの上位3つが、お金に関することである。すなわち、「将来の子どもの教育費用」「育児費用の負担」「自分の収入の減少」などを心配している。
6)地方の父親の方が、首都圏の父親に比べて子どもと過ごす時間が長い。

父親が育児に参加する、すべきという考え方は、決して新しくはない。少なくとも20年以上前から、社会的に言われ始めてきた。しかし、父親がそう考えても、現実にそれが出来ないのである。一方、地方ではそれがやりやすいことは、考えてみれば重要である。地方の方が、生活のリズムがスローで余裕があるのである。

個人的に、子育て問題を含めて、子ども問題の要因は、豊かな社会の蔭の部分ではないかと考えている。豊かさを築くためには人は働かなければならないことは明らかで、人口を都市に集中させ、男性も女性も働かせて豊かさを維持しているのである。したがって、特に首都圏では、スローな生活はしにくい。父親は、子育てしたくても出来ないのである。

毎日が忙しければ、心は平安ではあり得ず、社会はギスギスしてしまう。長い進化の中で育てた優しい心、思いやりの心、共感の心の働きも弱くなり、親がわが子を虐待するような事態にもなり得るのである。

そこで、豊かさを少し犠牲にして、ヨーロッパの小さな国並みの生活レベルにすればよいのではなかろうか。そうすれば、好むと好まざるとにかかわらず、生活はスローになり、余裕をもって働き、生活もエンジョイ出来るようになる。子守唄や童謡などの歌やメロディの流れる町、行き交う人が挨拶し合う町、電車の中で席を譲り合う町、そして、子どもに優しく声を掛けるような町にすることが出来る。結果的に、町は優しさいっぱいになるのである。

行政が考えたよい施策も、そんな町なら機能するかもしれない。現在のようにギスギスした町だから、どんなよい施策でも機能しないのではなかろうか。

いかなる社会でも、それがうまく機能するためには、働かせる場と働かせる仕組みを考えなければならない。社会を機能させる仕組みには、道路や交通といったものも重要ではあるが、よい制度や施策が必要であり、機能させる場としての社会には、よい情報、優しさで代表されるような「感性の情報」が必要であると思う。特に、子育てに関係しては、生命誕生から体験する女性のアイデアが重要だと思うのである。

関西のある町に、活発に活動している父親の会がある。週末に父親達と子ども達が集まり、皆で楽しいひとときを持つことを活動の中心としている。それにより、母親に色々な面で余裕を与え、直接・間接に母親の子育てを支援している。会の代表に、どうしてこのような会を作ったのか尋ねたところ、「奥さんに言われて始めた」とのことであった。

子育て問題解決のために、女性の考えを育児・保育の実践的なやり方に積極的に取り入れようではないか。わが子を身ごもり、子育て全てを直接体験出来る女性は、子育ての英知を持っているのである。

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