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【9月】小樽で開かれた日本思春期学会に出席して

要旨:

8月28日(土)、29日(日)に小樽で開かれた日本思春期学会の第29回学術集会の参加レポートである。日本思春期学会の成立やその名前の意味、また当日の講演の様子が紹介されている。学会では、性感染症、子ども達の性行動問題や摂食問題などいろいろな問題が話し合われた。その中、最近ニュースでも取り上げられていた子宮頚癌の予防接種が、1つの大きなテーマとなっていた。また、札幌から小樽までの列車の旅での情景が目に浮かぶような内容にもなっている。
日本思春期学会が8月28日(土)、29日(日)に小樽で開かれた。久しぶりに北海道に行き、4回目の小樽で楽しく勉強することが出来たので、今月の所長メッセージはこれをとり上げることにする。

もう30年程前になるが、小児科医、産婦人科医、泌尿器科医などの内分泌学を専門とする医学関係者が集まって、思春期の子ども達の問題を勉強しようと「研究会」を組織したのが始まりで、それが大きくなって「日本思春期学会」に発展した。その時、思春期医学という言葉を使わなかったのは、思春期に関係する学問・職業に関係する人なら誰でも参加出来るように、この名前にしたのである。したがって、現在の会員は、医師ばかりでなく、看護師、助産師、保健師などの医療関係者、小・中・高の教師、さらに養護教諭など教育の関係者、行政の関係者、さらに公衆衛生学、心理学、社会学などの思春期に関心をもつ学者・研究者が参加している学際的な学会である。私が関係している「日本赤ちゃん学会」、「日本子ども学会」と同じタイプの学会と言えよう。会員数は1900人程であるが、小樽の第29回には400名を超える参加者が集まったようである。

小樽の第29回学術集会は、海辺のホテルで開かれ、裏にはヨットハーバーがあり、ヨットばかりでなくモーターボートなど色々なボートが、白い船体を夏の陽光に輝かせて並んでいた。

学会発表は、特別講演3題、理事長・学術集会会頭の講演2題、ランチョンセミナー・シンポジウム・ワークショップそれぞれ2題で計6題、そして一般演題97題と盛沢山で、思春期問題の全てをカバーしていたと言える。

小樽の学会の会頭は、北海道大学大学院医学研究科生殖内分泌・腫瘍学分野教授の櫻木範明先生で、会頭講演は、思春期や若い女性の子宮や卵巣に関係する癌治療の話で、どのようにして妊娠可能な状態を残すかを配慮して治療を進めるかについて発表し、特に、手術の時には苦労される事を強調された。

会頭の関心もあってというよりは、欧米に約10年近くも遅れてやっとわが国でも予防接種で子宮頚癌を予防出来る可能性が出て来たので、本学会では、それが大きなテーマのひとつであった。即ち、アメリカのメーカーによって人工的に作られたヒト・パピローマ・ウイルスを用いたHPV ワクチンが、わが国でも輸入され、厚労省の認可もおり、予防接種に利用出来るようになったのである。中高生の少女に接種すれば60~70%の子宮頚癌が予防される様になると報告されている。ヨーロッパ・カナダなどの先進国では、4~16歳の少女対象に、すでに10年近く前に、しかも公費で予防接種が行われており、効果を上げている。この関係のテーマで特別講演、ランチョンセミナー2、カンファレンス1とで発表され、活発な話し合いが行われたのである。

性感染症は、思春期学会では毎年大きなテーマになっているが、今回は、幸いなことに減少傾向にあると何人かの研究者によって報告された。その理由についての論議が活発に行われたが、最終的には、性教育が欧米的なやり方で大きな成果を上げたのではないかという結論であった。今のような時代では、従来の日本的な性教育は、もう終わったのかもしれない。

上述の外には、勿論、思春期のホルモンや生殖器の奇形の問題も発表されたが、子ども達の性行動の問題、望まない若年妊娠の問題、摂食問題(食欲不振症)、こころの問題と、いろいろな問題が話し合われた。性は文化と関係すると考えられるが、最近の子ども達の性行動も大きく変わり、若年妊娠や性感染症の低下も、性教育ばかりでなく、それに関係しているのではないかという意見も少なくなかった。摂食障害も、女の子ども達の「女性のロールモデル」が、自分の母親でなく、グラビアに登場する女優やタレントになってしまった事にも関係すると言える。いわゆる、神経性食欲不振症という病気の発症メカニズムも、昔とは違うのである。

北海道に旅することはいつも楽しみである。今年は特に猛暑の夏であったが、それでも気温は東京より最低2・3度は低かったので、海からの涼しい風も今回の旅を更に楽しくしてくれた。千歳空港から快速列車で札幌を通って小樽までの1時間14分の短い旅でも、窓からの風景は、何時ものように目を楽しませてくれた。空港駅を出てしばらくは、緑濃い北の森が続く。白樺の樹の白い肌が、夏の陽光に光る緑の中に浮ぶ。ノルウェーの森を思い出す。札幌を出て小樽に近づくと、右側に日本海が拡がり、遠くに積丹の山々がかすむ。その昔、北海道や九州の大学の先生と一緒に三人で海釣りに出た事を思い出した。二人の仲間の先生方も今は亡い。






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