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心(heart)と知性(mind)の教育

要旨:

感情を表現、コントロールするための社会的、感情的スキルを生徒たちに教えるためには、教員、親、その他の養育者が関わっていかねばならない。情動学習と学業との間には、ゆるぎない関係があることが明らかだ。こころの知能指数の高い生徒はテストやその他の学習においてよりすぐれた成績をあげている。また、集中力や忍耐力に優れ、ストレスを克服し、クラスの仲間や教師に共感することができる。さらに重要な利点として、こうした生徒は高校生活で、薬物の乱用や性行為に走ることがより少ない。我々は「子どもの全人格」を育んでいかねばならない。学校教育は生徒の心(heart)と知性(mind)を育てていかねばならない。

サン・ラファエル(カリフォルニア)において、スワット(特別機動隊)チームや救急車が学校の駐車場にあわただしく入っていくという光景は、残念ながらアメリカ的な生活の一般的なイメージとなりつつある。最近カリフォルニアの2つの高校で起きた射撃事件を振り返ると、学生の成長過程に必要な側面がおろそかにされている、と気づかされる。犯人の10代の男子生徒2人は、ともに孤独、怒り、感情の麻痺というパターンを共有している。2年前にコロンビア・ハイスクールでエリック・ハリスとディラン・クレボルドが引き起こした暴力事件では、本人たちの自殺という結末となった。

 

金属探知機や警察官の数を増やす、また、メディアの暴力を攻撃することで、若者の孤立の兆候に対処することはできても、根本的原因の対策とはなっていない。10代が感情的に脆く、大人になることへのストレスを持ち、仲間への残虐さがあることなどはよく知られているにもかかわらず、我々は10代を、自らの殻にこもって悩むままにしてしまいがちだ。

 

感情を表現、コントロールするための社会的、感情的スキルを生徒たちに教えるためには、教員、親、その他の養育者が関わっていかねばならない。ダニエル・ゴールマンはベストセラーとなった著書の中で、これらの技能を「こころの知能指数」と呼んだ。

 

これらの能力は教えることができるものであり、早ければ早いほどよい。本財団のウェブサイト用のモデル・スクール・プログラムのドキュメンタリー製作にあたり、生徒たちが日々、「こころの筋肉」を鍛えるのを手助けしている感心な教師や学校長がいることがわかった。デジタル時代の職場に必要な、チームワーク、コミュニケーション、問題解決能力が求められる技能を、この生徒たちは学んでいる。

 

ブルックリン第15公立学校では、ニューヨークの公立高校と社会責任教育者が開発した「創造的な問題解決プログラム」を活用している。友達の誕生パーティーに招待されなかった直後の状況を、5年生の女子2名によるロールプレイ・シミュレーションで撮影した。最初のバージョンでは対立がエスカレートする。一方がもう一人を「いやな」友達という。「わたしの家にあなたをいつも呼んでいるのに、あのくだらないパーティーにさえ、声もかけてくれなかったわけ?」もう一人が応酬する。「うるさいわね!あなたなんか呼んだら、何もかもめちゃくちゃになっていたわよ。」

 

2つ目のバージョンは実際の感情にまでふみこんで、和解に向かって動く。一方が、「仲良しだと思っていたのに、呼んでくれないなんて腹が立ったし、傷ついたわ。」と言うと、もう一人が答える。「呼びたかったけれど、いとこが来るから友達は2人まで、ってママに言われちゃったの。話したかったけど、どういう風に話したらいいかわからなくて。でもあなたと友達でいたいな。」

 

これらの生徒たちは、敵対的な言葉や行為に対して自身の感情を表せるよう、「わたしは」で始まるメッセージの伝え方を学んでいるのである。また、言葉の言い換えや、仲間の感情表現を手助けして、彼らを理解しているということを確認できるよう、「能動的聴解(アクティブ・リスニング)」の技能も習得している。

 

ニュー・へイブン・パブリック・スクールでは、1年生が「停止信号の演習」を教わっている。赤信号は立ち止まって落ち着くこと、黄色は問題とその解決について考える、青は行動に向かって進む。ある1年の女子は、バスケットボールで他校との試合で大接戦となったとき、これを思い出したと話していた。このカリキュラムでは仲間の圧力に屈しない技能や緊張をほぐす呼吸法、協調や信頼感を育むロープ・コース*も演習で学ぶ。

 

ニュージャージー州リッジウッドのベンジャミン・フランクリン中学校では一時間目に、生徒たちが、自分たちの悩みについて話し、いじめなどの話題について日誌に意見を述べる。教師たちは生徒一人一人が参加できるよう、勝敗のないスポーツを取り入れ、礼儀や責任感に関する授業を主要カリキュラムに組み入れている。

 

これらのプログラムは、社会的・感情的学習は単なる見かけだけのお飾りでも、また「心暖まる」一時的なはやり教育でもないという、確固たる証拠を示している。情動学習と学業との間には、ゆるぎない関係があることが明らかだ。こころの知能指数の高い生徒はテストやその他の学習においてよりすぐれた成績をあげている。また、集中力や忍耐力に優れ、ストレスを克服し、クラスの仲間や教師に共感することができる。さらに重要な利点として、こうした生徒は高校生活で、薬物の乱用や性行為に走ることがより少ない。

 

常識や最近の出来事に照らしてみれば、我々は「子どもの全人格」を育んでいかねばならないことがわかる。学校教育は生徒の心(heart)と知性(mind)を育てていかねばならない。

 

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* ロープ・コースとは、チームのメンバーがロープや滑車を使い、よじ登ったり、身体を揺らしたり、飛び上がるといった行為をお互いに手助けしながら、協力と信頼の精神を育むグループ活動である。

筆者プロフィール
ミルトン・チェン
ジョージ・ルーカス教育財団 (http://www.edutopia.org/)
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