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【インドの育児と教育レポート~チェンナイ編】 第7回 国際デイへの取り組み

はじめに

インドの東海岸にモンスーン到来の兆しが見えはじめる9月から10月にかけて、各地でヒンドゥー教の祭事が行われます。中でも有名な「ガネーシャ」の像を海に流すお祭り「ガンパティ」については、以前にムンバイ編で紹介しました(【インドの育児と教育レポート~ムンバイ編】第7回参照)。人々の活気あふれる賑やかでダイナミックなお祭りの記憶は、鮮やかな色彩と賑やかな祭囃子とともに蘇ってきます。

筆者の暮らす街は、市街地から20㎞ほど離れた郊外の海沿いにあります。南北に長いチェンナイの街の東側には、砂浜のロングビーチとして世界的に有名な「マリーナビーチ」があります。

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マリーナビーチの砂浜
 
ビーチからそのまま漕ぎ出す漁船

他にも広い砂浜が続くビーチが多くあり、それぞれのエリアにガネーシャを流すことのできる拠点がありました。お祭りの最終日には海に流すガネーシャを載せたトラックがビーチサイドの道路に連なりました。その道中は、お囃子や太鼓などの鳴り物はほとんどなく、あったとしても時折、かすかに聞こえる程度で、お行儀よくトラックの隊列が海を目指して進みます。筆者が車で追走していても、横入りする車もなく整然と列をなして、進みます。荷台に載せられたガネーシャ像を拝みながら、筆者もノロノロと海を目指して走ります。筆者の住むエリアでは、ガネーシャを見せびらかすようなアピールもなく、「ガンパティ パッパ モーリヤ♪(あぁガネーシャ神よ)」と大声で合唱する人の声も聞こえません。ムンバイで見た「我こそは先に」と無理やり横入りしながら車を進めていくせめぎあいも無ければ、トラックの荷台で大騒ぎをする人もいません。タミルの人々の礼儀正しさや静粛な人柄が表れているようです。

少し肩透かしを食らったような気持ちでいましたが、実際にガネーシャ像を海に流すときには、お祈りをして儀式を行い、家族や地区ごとにガネーシャの周りをまわって掛け声を唱える様子を見ることができました。筆者のような外国人が見学に来ていても、それを気に掛けることもなく、静かに粛々と儀式が執り行われていました。全体的にガネーシャの像が小さいことと静かな印象のお祭りでしたが、飲酒や暴動などが起こらないように、タミルナドゥ州では警察による取り締まりが行われており、鳴り物を使ったり大騒ぎすることが禁止されているとのことでしたので、ムンバイと比較すると少し物足りなさを感じてしまうのも仕方ありません。

他にも10月の初頭に「オナム」と呼ばれる収穫祭が行われました。これは初めて耳にする祭りの名前でした。あまり外国人には馴染みがありませんが、その日は学校が一斉休校となり、農作物への感謝の気持ちを表し、各家庭で大切な野菜や穀物中心の食事を頂くお祝いの日だということです。同じインドでありながら、全く別の姿を見せる各地のお祭りです。さて、今回はグローバルな世界の記念式典への取り組みについて紹介します。

1.国際デイ

「国際デイ(International Days)」とは、同じテーマについて世界中の人々が考える機会を作り、国際会議で討論したり、その思いを交換共有したりすることができるように、また多様性を認め国際平和への願いを込めて、互いの国家を尊重するという国際機関によって定められた記念日のことです。

現在、その種類はおよそ160にも及び、様々なジャンルの記念日が制定されています。1年の半分以上は、何らかの記念日と制定されています。みなさんによく知られている「世界音楽の日」(6月21日)や「世界エイズデー」(12月1日)などは、日本でも多くのメディアにも取り上げられている「国際デイ」の一つです。

2.インターナショナル・スクールにおける国際デイへの取り組み

今回は、アメリカン・スクールで行われた「インターナショナル・デイ」という国際デイに因んだ学校行事について紹介します。毎年、国連の定める「国際平和デイ」に合わせて開催されます。学校で行われる行事としては、各国の文化交流が目的となっています。2023年のインターナショナル・デイも行われたところですが、今回は2022年度の学校行事についてレポートします。

2022年9月に2日間にわたり行われた行事ですが、初日は授業の一環として子どもたちだけが参加しました。各国の子どもたちは、それぞれの伝統衣装を着て登校します。筆者の娘はいつになく早起きをして、浴衣を着て登校しました。中学生となり、背丈も伸びてきたため、華やかな柄の大人サイズの浴衣を選びました。帯の色合わせも一人で行う様子を見て、成長を感じました。

校内でのインターナショナル・デイの催しは、講堂で行われました。ステージには各国の旗手を務める生徒代表が国旗を掲げて、各国の国歌が流れるなか登壇し、平和を願うスピーチが学生により行われました。その様子は、YouTubeのストリーミング配信で、保護者も家庭から視聴することができました。厳かな張り詰めた空気の中、「JAPAN」と呼ばれた瞬間には、全身に鳥肌が立ちました。

2日目は、親子で参加ができるアクティビティ形式のイベントでした。校内の特設会場には各国のブースが設けられ、国ごとに趣向を凝らしたアクティビティや展示などがひしめき合うように並んでいました。スタンプラリーをしながら全ての参加国ブースをまわったり、学校から提供されるランチやドリンクやアイスキャンディーを飲食しながら、自由に屋内外を行き来することができました。筆者もその日は一日中、浴衣を着て、開会式の入場行進から最終の閉会まで楽しみました。ランチはビーフハンバーガーにレモネード、おやつにマンゴーのアイスキャンディー、そして閉会後はドーサとチャイを頂いて、一日を締めくくりました。

「インターナショナル・デイ」は、保護者が中心となって活動に取り組む行事です。ボランティアに手を挙げた母親たちが「ジャパン・ブース」の活動を支えます。まず、ブースの設営や飾りつけを担当する方は、紅白幕を垂らしたボードに、手作りの「折り鶴」や「書道作品」などを飾り付け、壁面造形を仕上げました。200羽ほどあった折り鶴は、来場者へのプレゼントとしても大人気で、あっという間に無くなってしまいました。日本の「折り紙」は海外の方に人気で、中には作り方を教えてほしいとおっしゃる方もいました。

また、「書道体験」では、来場した外国人の子どもたちが実際に自分で筆を持ち、お手本の筆順通りに筆を動かして作品を仕上げました。書道の得意な保護者が、一緒に一筆一筆を見守りながら丁寧に声をかけてお手伝いしている様子を見て、参加者だけでなく提供するスタッフ側もとても素晴らしい体験をしていることを実感しました。

今回、筆者は「浴衣体験」の準備に協力しました。来場者の身長に合わせて、120㎝から170㎝の身長に10㎝刻みで対応できるように、また、短時間(約3分)で着付け体験ができるよう「おはしょり」(着物や浴衣の丈を調整するために折り上げる部分)のしつけをしました。また、子どもの浴衣と同様にすべての浴衣に腰ひもを半裁したものを胸前に縫い付け、着付けの時間短縮に備えました。休日や平日の夜に家で一人静かに運糸をしながら、久しぶりのお裁縫に心の平穏を感じました。浴衣を着た外国の子どもたちや母親たちが嬉しそうに写真を撮ってはしゃぐ姿を見ながら、私たち日本人の着付けスタッフも自然と笑みがこぼれました。

来場する外国人の子どもたちや保護者の中には「こんにちは」「ありがとうございます」と上手な日本語で挨拶をしてくれる方がいらして、はじめは全て英語で対応していた筆者も、途中からはインターナショナル・デイズの意義を再考し、日本語で挨拶をするようにしました。幼いフランス人の女の子が「ありがとう、メルシー」と答えてくれた時には、胸がキュンとなりました。また、世界各国のブースを巡ると、民族衣装の展示や民族舞踊のショー、また、伝統的な子どもの遊びやお菓子の紹介など、内容は盛りだくさんで、それぞれの国の保護者が工夫を凝らして、インターナショナル・デイズのイベントを盛り上げようと準備してきたことがうかがえます。

こうして、にぎやかなインターナショナル・デイズのイベントは大成功で閉会しましたが、その陰には、校内で働くインド人の職員の方々の力添えがあったことを忘れてはならないと思いました。学校には、セキュリティー・スタッフをはじめ、コックさんや清掃スタッフ、用務員さんなど、とても多くの方が、教職員や児童・生徒、保護者を支えてイベントに従事していました。特に驚いたのは、会場設営は教員や保護者や子どもたちではなく、すべてインド人の現地採用のスタッフが行っていることです。その数は筆者の周りで数えただけでも60名ほどいらっしゃいました。日本では、運動会や文化祭の度にPTAがお手伝いをして、机やいすを並べたり、各式典の際には教職員が前日から総出で準備に追われたりしますが、インドではそれらはすべて、教員や保護者の役割ではないと考えられています。ほとんどの私立校では、会場の設営は専門の業者に外注するか、あるいはインターナショナル・スクールのように多くのスタッフが常駐している学校では、インド人のスタッフが基本的な設営を行っています。このように私たちの活動を裏で支えてくれている多くの人々の存在がとても心強いと感じます。

世界の各国からインドに集まってきている子どもたちのほとんどが、両親の仕事の都合で駐在し、異国での不慣れな生活を強いられています。このようなイベントを通して、子どもたちの心に世界の国々への興味や関心が芽生えると同時に、それぞれの自国に対する「愛国心」を育み、自国の文化に親しむことができる大切な時間であったと思います。

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インド・ブースからはインドの観光地や特産品を紹介する地図やサモサの差し入れ
 
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韓国・ブースからは繊細な刺繍の展示やハングル文字のしおりやお菓子など
 
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ジャパン・ブースからは折り紙や扇子の展示や浴衣の着付け体験などを出展
3.多様性を受け入れることが日常の学校生活

インターナショナル・スクールにおける学校生活は、実際には毎日が「インターナショナル・デイ」であると言っても良いほど、子どもたちは、様々な文化や習慣の違いの中で一日の多くを過ごしています。校内で使用される共通言語の「英語」について考察すると、教員の国籍によって発音やイントネーションや言い回しの特徴にも大きな違いがあります。また、子どもたちの英語力も様々です。多くの先生方と面談をしたり雑談をしたりする時にも、全く何を言っているのか聞き取れないくらいの超速スピードのネイティブ英語に圧倒されることもあります。こんなに早口でまくし立てるような会話を、子どもたちは日々の授業で耳にし、それぞれの先生の発音やイントネーションの特徴をとらえて、理解しようと努めているのかと、その順応性に感心します。

また、チェンナイのアメリカン・スクールは、在籍している児童・生徒の5割以上が韓国の子どもたちであるため、校内でも休み時間や放課後には日常的に韓国語が飛び交っており、子どもたちの中には、いつの間にか韓国語を話せるようになっているという人も少なくありません。我が家も娘のリクエストに応えて、韓国料理のレシピが増えており、お弁当に「トッポギ」や「スンドゥブチゲ」を持たせることもあります。ランチタイムにはカフェテリアのレンジで温めてもらうことができるそうで、熱々を食べることができます。

余談ではありますが、娘がお弁当にラップに包んだおにぎりを持参した時の話です。カフェテリアのスタッフにおにぎりをレンジで温めてほしいとお願いすると、「ラップはレンジで溶けてしまうから取り出して容器に移して」と言われたそうです。隣にいた韓国人の友だちも口をそろえて「何をやっているの? そのままだと溶けるよ!」と大騒ぎして阻止しようとしたそうです。娘は、「日本のラップは大丈夫」と説明し、「ほらね、溶けてないでしょ」と見せると、インド人のスタッフも周りの友だちもびっくりして感心したとのことです。帰宅した娘がお弁当袋を差し出しながら「日本ってやっぱりすごいよね」とこのエピソードを話してくれました。

世界に誇る日本の文化や産業を何気ない日常の実体験で学ぶ姿から、長く海外に暮らしていても、日本人としての誇りやアイデンティティーを認識することができる土壌があることは、とてもありがたいと感じた場面でした。

年に一度の「インターナショナル・デイ」という学校行事に特化することなく、私たちは日々の生活の中で様々なコミュニティーと関わりながら、外国の文化を知り、受容し、共感することを学んでいます。それと同時に、日本人としての誇りや愛国心をもつことができる機会も数多くあります。このような機会を大切に、子どもとの対話の中で折に触れ「日本人」であることの意義や日本文化への敬愛、そして世界の平和について、家族や友達同士で話し合い、お互いの意思を伝え合うことが大切であると感じました。

おわりに

最後に、筆者の都合で2022年後半から約一年、執筆を休止しており、久しぶりの記事掲載となりました。この一年、筆者はいわゆる引きこもりのような生活をしつつ、駐在でチェンナイにいらっしゃる多くの日本人の保護者に支えられて過ごしました。海外生活で、同じ気持ちをもつ日本人と日本語で会話することが一番の癒しの時間となりました。日本語のもつ繊細で豊かな感情表現や心遣いの詰まった「言葉」の力を実感した一年でした。

コロナが明けて日常生活が戻ってきたと同時に、張り詰めていた心が少し緩んだのか長いインド生活のストレスが溜まってしまったのか、心の休養が必要な時期を過ごしておりました。こうして、再びインドのレポートをお届けすることができましたことを嬉しく思います。

同じインドとはいえ、ムンバイとチェンナイの文化やしきたり、人間性の違いなどにより、思い通りに生活ができないことや不便なインド生活に直面しました。ムンバイでのインド生活の快適さに比べて、地方都市のチェンナイは未だに発達途上の商業文化や古き伝統を重んじる保守的なコミュニティーが存在しています。楽しみに移住してきたチェンナイの生活にがっかりすることやショックをうけることが多く、筆者の知っている「インド」は、インドのごくごく一部に過ぎず、本当のインドの姿は何もわかっていないことを強く感じました。「ムンバイ」では通用することが「チェンナイ」では全く通用しないという場面にもたくさん遭遇しました。おそらく、それはインドにある28の州、そして8の連邦直轄地すべてにおいて同じことなのだと思います。それぞれが異なる言語・文化・宗教をもっており、互いに尊重された共和国として成り立っていることからもわかるように、インド国内においても、州が違えばまるで外国のような感覚で相互理解を図っていることが推察されます。ムンバイのインターナショナル・スクールでは、インターナショナル・デイに、在籍の子どもたちの国ごとのブースを設けたり国旗を掲げたりする以外にも、インドの各州のブースが設けられていたことを思い出しました。同じインド人でもマハラシュトラ州以外の多くの地域から人々が集まるムンバイならではの計らいだったのかもしれません。

アメリカン・インターナショナル・スクール・チェンナイでは今年も「インターナショナル・デイ2023」が開催されました。筆者は毎年ジャパン・ブースの取りまとめ役として多くの日本人の保護者と関わります。インド・チェンナイのインターナショナル・スクールから、世界各国出身の子どもたちへ、美しい日本の文化や楽しいイベントをお届けできるように奮起してきたところです。次号では、その様子をレポートします。

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi_2023.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院(児童・保育学)にて南インドの教育研究及びインド舞踊の研究中。 約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月より2020年4月までムンバイ在住。2020年9月よりチェンナイ在住。
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