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【国際都市ドバイの子育て記 from UAE】 第4回 ナーサリーでの活動と小さな親善大使

前回は、日本人学校にスポットを当ててご紹介しました。

今回は、長男(2012年生まれ)が3歳から1年間通ったブリティッシュ系ナーサリーについて、お話ししようと思います。

1歳半でドバイに行った長男は、3歳になるまでの最初の1年半は住居内にある託児所に不定期で通っていました。3歳になって夫の会社の補助が出るようになってから、ナーサリーに通い始めました。 長女の時は色々こだわった学校選びも、2人目、3人目と下に行けば行くほどシンプルになってきます。ナーサリーの条件は、①家から近く(バスで30分以内)電車でも行けること、②同じアパートから通う日本人のお友達がいることの二つでした。 一つ目は、家から近い=園バス乗車時間が短い。近いといっても日本の幼稚園選びの感覚とは少しずれるとは思いますが、車で30分以内で行ける幼稚園が第一条件です。トイレ問題を抱える3歳児に30分以上のバス通園は、できれば避けたい。また、親参加のイベントが多いナーサリー。マザーズデイやスポーツデイなど、いろんな名目で月1ペースで呼び出しがかかります。お姉ちゃん2人が通う日本人学校と行事が重なることもあります。ナーサリーでイベントに参加した後、電車で日本人学校に移動するパターンや、長男をナーサリーでピックアップして一緒に日本人学校に向かうパターンなど、あらゆる場面を想定し、地図とにらめっこしてシミュレーションをしました。

二つ目に関しては意見の分かれるところだと思います。できるだけ日本人のいないところを選ぶ人もいますし、語学の上達という面では、その方が間違いなく理想的だと思います。しかし、私は長男に関してはあえて逆を選択しました。当時日本人学校の役員になっていた私は、PTAの仕事で日本人学校に頻繁に行っていました。そうすると、午後2:30の園バスの到着に間に合わない場合が予想され、日本人でお互いに協力できる相手がいるのはマスト。結果的に息子の英語力はあまり伸びませんでしたが、ナーサリーから帰って来ても、近所に仲良く遊べる相手がたくさんいるのは、人見知りの激しかった長男にとってとても良かったと思っています。

この二つの条件に合うのは、インド人街にあるナーサリーでした。小さな体操教室が併設されていて、毎日体操のクラスがあるというのが売りでした。クラスメイトの半分くらいは、インド系、パキスタン系の生徒で、あと半分は国籍がばらばら。日本人も10名くらい通っていました。

長男の担任はMs Nehaというインド系の先生で、インターナショナル系の園ではめずらしくとても几帳面で熱心な先生でした。木曜日、翌週の予定や授業のテーマなどが保護者宛てにメールで添付ファイルで必ず送られてきて、クラスで読む予定の絵本やみんなで歌う歌のタイトル、勉強するフォニックスなどが詳細に書かれています。そのほかに授業のテーマに関して家でできることなど、ちょっとした親子の関わりについてもアドバイスがあります。

「季節」がテーマの時にはこんなことが書かれていました。「最近のドバイの気候について子どもと話してみましょう」「そして、ドバイの気候があなたの国の気候とどのように違うか話してみましょう」。

ドバイのような、日本人からみたら季節感のない国で、いかに季節を教えるかというのは、親を悩ませる問題の一つです。実際、日本に住んだことのない次女は、小学校3年生になっても季節の感覚に乏しく、節分やひな祭りなどの行事が頭ではわかっていても、季節とは連動していません。12月はドバイでも「冬」と呼ばれる季節で、日本の初夏のような過ごしやすい時期。その12月に「今(日本は)夏だよね?」と聞いてきたことに私は驚き、確かに12月の気候は日本の夏のような気候だけど、それを夏と呼ぶには、ドバイでも日本でも違和感があります。そのような季節のずれをきちんと説明していなかった親の責任を感じることがあります。先生から送られてくるファイルには、そんな示唆に富んだものが多く、毎回実行できるかできないかは別にして、興味深く読んでいました。

そのMs Nehaの朝のサークルタイム(子どもを集めて先生を中心に円で囲うように座ってする活動のこと)をご紹介します。

朝、登園すると教室の机の上にはネームプレートが置かれています。子どもたちは、自分の名前を見つけ出して、箱で作られたモンスターの口の中に入れます。(自分の名前を探すときに、お友達の名前も目にするので、長男は自分の名前だけでなく、お友達の名前にも興味をもち、最終的にはお友達の名前のスペルも覚えられました)

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登園してネームプレートを箱に入れる。

時間になると、先生からの声掛けでグリーンの絨毯の上に円になって座ります。挨拶をした後、「今日はクラスに何人いるかな?」と先生が子どもたちに問いかけ、我先にと手を挙げる子どもたちの中から一人を指名します。指名された子どもは意気揚々と立ちあがり、お友達の間を歩きながら、みんなの頭を1人ずつそっと触って、「one, two, three」と数えていきます。子どもが「eleven!」と答えると、「elevenは、どうやって書くの?11は1が2つだよ。壁に貼ってあるジンジャーブレッドマンの数字を見て、書いてみようね」子どもは壁に貼ってある数字を確認して、ボードに数を書きます。

そして「今日は何人休みなのかな?」と問いかけます。テーブルには欠席した子どものネームカードが残っているので、それを次に指名された子どもが数えて、誰がお休みなのか確認します。「〇〇ちゃんは風邪でお休み、早く良くなるといいね」「〇〇くんは家の用事で国に帰っています。あと3日で帰ってきます」と欠席の理由をみんなでシェアし、その子についてみんなで話します。

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英語の絵本の定番ジンジャーブレッドマンに数字が書いてある。

続いて「男の子は何人いるかな?」「女の子は何人いるかな?」と同じ手順で、指名し、数えさせ、ボードを埋めていきます。それが終わると「今日は何月何日?」「今日は何曜日?」と質問し、みんなが答えて、今度は先生がボードに書き込みます。

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ボードに数は子どもが、曜日と月は先生が書き込む。

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曜日、月のポスターが壁に貼ってある。

わずか10分のサークルタイムでしたが、全ての工程が細やかで教育的配慮に富んでおり、子どもたちが全く迷うことなくよどみなく答えるのを見て、とても感心しました。

桜フェスティバル

2月中旬ごろだったでしょうか。このMs Nehaから「桜フェスティバル」というのをやりたいんだけれど、日本人のお母さんたちに協力してもらえないかという打診がありました。3月に日本の桜をテーマにした授業をやろうと思っているというのです。私は、3月には「ひな祭り」という伝統的行事があるが、それのことかと聞くと、ひな祭りのことは全くご存じない様子。「桜フェスティバル」というイベントがイメージできないまま、出来ることは手伝いますという返事をしました。

3月になって具体的な依頼がありました。桜フェスティバルが開かれる週に5日間毎日、少人数でいいから日本人のお母さんたちに交代で学校に来てほしい、そして何か日本について紹介してほしいとのこと。もちろん教育者のMs Nehaですから、日本人のお母さんたちに丸投げというわけではありません。事前に送られてきたファイルには、桜フェスティバルについてのプランがぎっしりで、「日本についてのビデオを見る」「日本語の挨拶を学ぶ」「パン、キュウリ、ニンジンを使って日本のベジタリアン寿司(巻き寿司のようなロールサンド)を作ってみる」など盛りだくさんです。

4歳児を相手にどんな日本文化を教えたら喜ばれるかよくわからず困っていた私に適切なアドバイスをくれたのは、意外にも当時小学校2年生だった次女でした。

娘たちが通う日本人学校では1学期に1、2回、UAEの現地校やインターナショナル・スクールと交流イベントをします。日本人学校の生徒が先方の学校を訪問をしたり、逆に日本人学校に彼らを招待したりします。交流内容は様々で、UAEの歴史に関する講義を受けることもあれば、となりのインド人学校の6年生となぜか綱引きをすることになり、休み時間に歩いて隣の学校に行って綱引きをして、負けて悔しがりながら帰って来るというお手軽な交流もあります。現地校の児童を日本人学校に招待したら2時間遅れてきた、とか、逆に1時間早く来てしまったり、はたまたドタキャンされたことも。日本人学校でも、日常的に国際交流をする場があるのです。

日本文化の紹介などに関しては、私よりずっとツボを押さえている娘たち。娘によると、日本人学校に招待するときのお決まりは、まず手作りの名刺交換。ここでお友達のお名前を覚えるの、と次女。そして、お手玉、こま、けん玉のやり方を教えてあげて一緒に遊ぶ。凧を作って凧あげをしたり、うちわを作ったり。いろんな学校が参加するステージ・イベントでは、全員でよさこいソーラン踊りを踊る。はっぴを着て、鳴子を持って全員で踊るとすごく喜ばれるそうです。なるほど、そういうのはわかりやすいし楽しい、私がやるより、あなたたちがやった方がよさそうね。ということで、春休み中で家にいた娘2人を連れて、ナーサリーへ出かけました。

その日は、日本人のH家と一緒に担当することになっていました。H家も3人兄弟で、長女(小6)、長男(小3)が日本人学校に通い、次男(4歳)がナーサリーに通っていて、我が家と似た家族構成で日ごろから仲良くしています。長女同士が同じ学年ということもあり、お母さんとも気心の知れた仲。相談して「いい機会だから全部子どもにやらせてみよう」ということになり、急遽子どもに話をしてみました。準備する時間がほとんどなかったにもかかわらず、子どもたちは何をやれば外国人に喜ばれるかがよくわかっていました。

折り紙が得意なH家の長男くんは、折り紙を担当してくれました。園児を前に、立派に英語で折り紙の説明し、簡単な飛行機を一緒に折りました。お手本で折った飛行機を飛ばすと、子どもたちは「すごい!」と手をたたいて喜んだ様子が印象に残っています。最後に、事前に家で折って来た手裏剣をクラス全員にプレゼント。

準備の時から積極的だった我が家の次女は、浴衣を着て鳴子を持ち、堂々と「1人よさこいソーラン」を踊ってくれました。独特な鳴子の音、動くたびにひらひらする浴衣の裾、威勢のよい掛け声、と視覚と聴覚で楽しむことができるパフォーマンスで、クールジャパンを体現。園児たちは目を丸くして見入っていました。両家の長女、小6の2人はけん玉を披露。園児たちはクラスメイトのお兄ちゃん、お姉ちゃんのパフォーマンスということで、目をきらきらさせて見てくれました。

長女次女が日本人学校で培った国際交流のノウハウを、思いがけず長男のナーサリーで生かすことができたこのイベント。日ごろは目にすることがない、親善大使として活躍する子どもたちの姿を見ることができ、非常に印象に残っているイベントです。

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日本アピールのアイデアを色々出してくれた次女。小さな親善大使です。

筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。現在はアラブ首長国連邦ドバイに住んでいる。
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