日本では、保育園の先生と保護者のやりとりは連絡帳を用いるのが一般的だと思います。小学校に入ってからも、連絡帳を用いたり、先生からの学級通信が配られたりして、保護者へのその日の報告や連絡事項が伝えられることが多いでしょう。フィンランドのデイケアや学校では、紙面上でやり取りをする機会は少なく、多くの場合、保護者連絡アプリを使って行われます。今回は、その保護者連絡アプリがどのように活用されているのか、使っている感想などをお伝えします。
デイケア(保育園)での保護者連絡アプリの活用
デイケアに入園すると、保護者は連絡用アプリのインストールをすることになります。この保護者連絡アプリで最も重要な機能は、保育時間の管理です。フィンランドでは、保護者の就労スタイルに応じて、その子が1ヶ月間で利用できる上限の時間が決められており、それによって月額で払う保育料も変わってきます。保育時間や保育料の上限は、自治体によって異なりますが、私が住むユヴァスキュラ市では、0~84時間、85~107時間、108~130時間、131~150時間、151時間以上の5段階に分かれています。例えば我が家は夫婦ともにフルタイムで働いているので、151時間以上、特に上限はなく利用できる設定になっています。
この保育時間は、保護者連絡アプリを通して管理されています。保護者は、毎日の利用したい時間を入力し、1週間前まで変更は可能です(もちろん急な変更も可能で、その場合は口頭で伝えることもあります)。朝送り届けた時とお迎えの時、保育者が持っているスマホあるいはパソコンで、登園降園時間を入力し、その日の保育時間が記録されます。この内容は、保護者、担任の保育者はもちろん、園長先生や他のスタッフも閲覧可能なので、誰がいつ来て帰ったのかが把握できるようになっています。
デイケアの行事や先生からの連絡、および自治体からの連絡も、このアプリ上のメッセージ機能を使って送られて来ます。デイケアでのその月のイベントのお知らせから、自治体で行われる幼児教育やファミリーサポート関連のイベント情報、市内でのインフルエンザやその他の病気の流行状況と予防接種をどこで受けられるかの情報まで、ありとあらゆる連絡がアプリを通して送られてきます。また、夏休みや冬休みなどの長期休みにデイケアを利用しない場合には、あらかじめ伝えておくとその月の保育料が安くなります。休暇の登録もアプリ上で行います。
その他に、デイケアの欠席の連絡もアプリ上で行います。乳幼児期の子どもは、急に発熱して登園できない、といったことが日常茶飯事だと思いますが、その場合もアプリにて、「欠席」のボタンをポチッと押すだけで園への連絡はおしまいです。最初の頃は、ちゃんと伝わっているのだろうか、と心配になり、欠席ボタンを押してかつメッセージも送ったりしていましたが、きちんと伝わっているということが分かった今は、ポチッとするだけで済ませています。
小学校での保護者連絡アプリの活用
小学校に入学すると、デイケアで使っていたアプリとは別の保護者連絡アプリをダウンロードすることになります。小学校では、デイケアのように保育時間を管理する必要はありませんが、アプリを通じて子どもの時間割を見ることができます。というのも、フィンランドの小学校は、日本のように全ての子どもが毎日8時半から始まるわけではありません。学校によって時間の区切りは異なりますが、小学2年生になるうちの子どもの場合、現在のスケジュールは、月曜日は8時40分から、火曜日・木曜日・金曜日は8時10分から、水曜日は9時50分からという具合に、学校が始まる時間が曜日によって異なります。これは、子どもを2グループに分けて時間差で登校してもらうことで、より少人数での授業を行うためです。しかも、このスケジュールは約2ヶ月ごとに変更になるため、アプリを通じてその子ども個人の時間割を確認できるようになっています。
担任の先生、校長先生、スクールナースなど学校に関わる全ての人からのメッセージはこのアプリを通して送られてきます。したがって、子どもが先生や学校からプリントをもらって帰ってきたことはほとんどありません。担任の先生からの明日の持ち物など簡単なメッセージのこともあれば、校長先生からのウクライナ戦争にあたってどう子どもに接するか、家庭でのデジタル機器使用の注意点など長文のメッセージが送られてくることもあります。スクールナースからは、インフルエンザの予防接種がどこで受けられるか、現在流行している病気の種類とかかった時の対処法などのお知らせが送られてきます。メッセージフォルダには、送信者と件名が時系列で保存されていきますし、検索機能ももちろんあるので、後からもう一度情報を確認したいときに、たくさんの紙のプリントの中から探し出す必要もなく、すぐに確認できて便利です。
さらに、様々な予約や登録をする場合もこのアプリを通して行われます。例えば、うちの小学校では年に2回、先生、子ども、保護者で行う個人面談があるのですが、その予約もアプリを通して行います。アプリ上にいくつか予約枠が出てきて、そこで自分の都合がいい時間を予約する形です。その日程の都合が悪くなった場合も、そこからキャンセルおよび予約の取り直しができるので、直接先生に連絡して日程を調整してもらう必要はありません。
その他、うちの学校では、任意で放課後にさまざまなクラブ活動(コーラス、ダンス、プログラミングなど)があり、参加したいものに登録する場合も、こちらのアプリを使用します。
加えて、体調が悪くて学校を欠席する場合にも、デイケア同様にこのアプリを使って登録します。子どもの体調が悪い時に、ワンクリックで欠席を連絡でき、連絡の心配をしなくていいというのは、とても助かっています。
連絡用アプリを使用している感想
日本の子どもをもつ友人からの話や育児関連の記事を見ていると、「小一の壁」問題の一部として、配布物の多さや、連絡帳や電話での先生とのやりとりの不便さなどが挙げられています。ただでさえ、学校という新しい環境に順応するので精一杯の子どもたちに、配布物をきちんと家まで持って帰り、それをきちんと保護者に渡し、さらに必要事項を記入してもらい、また学校に持ってきて先生に渡す、などの作業は子どもにとって大きな負担に感じられます。こうしたやりとりを全てアプリ上で行うことで、子どもの負担はかなり軽減されていると思います。また、アプリの使用によって、保護者の負担が減っていることももちろんですが、先生の負担もかなり減っているのではと思います。
配布物を印刷して子どもたちに配る手間もありませんし、保護者に書いてもらわないといけない書類を子どもがきちんと学校に持ってきたか一人一人確認する必要もありません。欠席の連絡や、個別の連絡もアプリのメッセージ機能を用いて行うので、先生に直接電話などで連絡することは、よほどのことがない限りありません。私は、日本でスクールカウンセラーの仕事もしていたので、先生たちが放課後様々な保護者からの電話に対応する姿を見てきました。ただでさえ忙しい先生たちにとって、保護者との連絡を簡潔にアプリ上でできるのは、大きな負担軽減になるのではと思います。日本はGIGA元年と言われた2021年から、小中高のデジタル活用状況がずいぶん変わってきて、同時に課題もあるときいています。フィンランドでも、携帯を持たない保護者には、プリントで配るなどの対応をしているそうです。フィンランドでのデジタルツールへの切り替えの様子が、何かのご参考になればと思い、レポートさせていただきました。
参考文献
- Jyväskylän kaupunki. (n.d.). Maksut ja palveluseteli.
https://www.jyvaskyla.fi/varhaiskasvatus/maksut-ja-palveluseteli - 小学校で使われるアプリの情報が載っているページのリンク
https://www.wilma.fi/mika-on-wilma-jarjestelma/#