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【実録・フィンランドでの子育て】 第11回 フィンランド最大の教育の祭典「Educa」

要旨:

この連載では、教育・福祉先進国と言われ、国民の幸福度が高いことでも知られるフィンランドにおいて、日本人夫婦が経験した妊娠・出産・子育ての過程をお伝えしていきます。フィンランドに暮らすって本当に幸せなの? そんな皆さんの疑問に、実際の経験を踏まえてお答えします。第11回の今回は、フィンランド最大の教育の祭典「Educa」に参加してきた様子についてご報告します。

キーワード:

フィンランド、教育、子育て、教員研修、Educa

1月の下旬頃にフィンランド最大の教育の祭典と言われる「Educa」が1年に1回、首都ヘルシンキで開催されます。今回、子どもも連れて家族で参加してきましたので、その概要と参加した様子をお伝えします。

Educaの概要

OECDが実施する「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」にて、2000年代に突如として高順位をおさめて以来、フィンランドの教育は世界中から注目を集めてきました。近年は、PISAでの順位は下降気味ではありますが、それでも人口わずか550万人のフィンランドが高順位をキープしていることで、世界の教育者たちがフィンランドの教育に関心を向け続けています。そんなフィンランドで、年に1回、ヘルシンキのメッスケスクス(Messukeskus:日本でいう幕張メッセのようなところ、以下メッセと略す)で開催される、国内最大級の教育イベントが「Educa」です。「Educa」を企画するのは、フィンランドの教職員組合(通称OAJ:Opetusalan Ammattijärjestö)です。OAJには、小学校、中学校などの教育段階による区別はなく、幼児教育から大学教育まで、広く教育に関わる教職員が加盟しています。そのため、このイベントも学校の種類や対象とする年齢にかかわらず、幼児教育から大学教育、職業訓練や生涯教育など全ての「教育」に関わる人たちが対象になっています。メインのターゲットは現職の先生たちで、フィンランドの教員は年間3日間の研修を受けることが義務付けられていますが(どんな研修を受けるかは自分のニーズに合わせて決めることができます)、この「Educa」への参加を3日間の研修の一部に当てることができます。その他、大学の研究者や将来教員を目指す学生などはもちろん、ただ教育に関心がある、というだけの一般人でも参加できます。名前や所属などを登録する必要はありますが、参加料は無料です。

毎年「Educa」にはテーマが設けられており、2023年1月27、28日の2日間にわたって行われた今回のテーマは「これからの教育 − 教育、授業そして研究の重要性(Education in the future - the importance of education, teaching and research)」でした。私は現在、フィンランドの大学で教育心理分野の研究をしていますが、現職の先生たちがメインターゲットであるイベントでも「研究」が大きなテーマとして掲げられるところがフィンランドらしいなと感じました。日本では、大学で行われる「研究」と地域の学校で行われている「実践」には少し距離があるように感じますが、フィンランドでは、「研究者としての教師」を育てることが教員養成課程でも掲げられています。さらに、研究と実践の距離が近いと感じる場面が多く、地域の学校が大学の研究に参加し、その研究成果を大学側が地域の学校に還元して実践に活かす、ということが活発に行われている印象を受けます。したがって、教職員組合が企画するイベントのテーマにも大きく研究の重要性が叫ばれるのは、納得がいくことでもあり、研究者として嬉しく思いました。

参加してみた様子

メッセの中の広い会場には、5つのステージが設置されています。そのステージでそれぞれ、教育に関わる幅広いテーマでの講演やパネルディスカッションが行われています。国内向けのイベントなので、多くの講演やディスカッションはフィンランド語で行われますが、5つのステージのうち1つは「エクイティ・ステージ(Equity stage)」と名付けられ、常に英語の講演やディスカッションが行われていました。フィンランド語が分からない外国人の教育者や研究者でも参加できるように工夫されているなと感じました。講演やパネルディスカッションのテーマも多岐にわたり、デジタル化がどのように教師の仕事をサポートできるか、といったことから、インクルージョンに関するもの、神経科学がどのように教育に寄与するか、など様々な興味深いテーマが話し合われていました。

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講演をするステージ

ステージ以外のスペースには、100以上の教育関連団体、企業、大学などがブースを出し、それぞれの活動、商品、研究成果、サービスなどについて展示するとともに、訪れる人にその内容をプレゼンしていきます。フィンランドでは、学校の先生一人ひとりに自分のクラスの授業でどの教科書や教材を使うかを決める裁量権が与えられているので、先生たちに自分たちの教材やサービスをプレゼンし、それを実際に学校現場で使ってもらうというのが大きな目的となります。できる限り多くの聴衆に集まってもらうため、各々のブースで様々な工夫をしています。例えば、来てくれた人にはチョコレートやアメなどのお菓子を配ったり、的当てのようなゲームを設置し、点数に応じて小さな景品をくれるところもあります。デジタル関連機器や教育アプリ・ゲームを扱う企業は、実際に実物を設置して、来た人が試せるようにしています。上述したように、今回筆者は子ども連れで参加したのですが、同じように子どもと一緒に参加している人も多く、子どもに向けたアクティビティや景品を用意しているブースも多数ありました。子どもたちはまるでハロウィンのお菓子集めのように、色々なブースを訪れては、お菓子や景品をもらい、アクティビティをして、とても楽しんでいました。

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ロボットを作って自分で動かす教材で遊ぶ

会場に入って一番に目を引くのは様々な教科書の出版社が設置するブースで、規模が大きいだけでなく、カラフルな教科書が所狭しと並び、さらに教科書に出てくるキャラクターの絵や人形が飾られていたりします。娘も自分が小学校で使っている教科書やワークブック、デジタル教材を見つけて、出版社の人に「これ使ってるの!」と嬉しそうに話しかけていました。

もう一つ、面白いと思ったブースが「職員室(Opettajan Huone)」と名づけられたスペースです。そこでは、参加者がシャンパンを片手にリラックスしておしゃべりしたり、近くに設置されたステージに登壇した人の話を聞き、交流したりできるようになっています。フィンランドの職員室というと、先生たちがコーヒーを飲みながらリラックスする場として知られていますが、ここでもそうした雰囲気を再現し、他の学校の先生同士や、先生と研究者など、他の参加者が情報共有できるようになっているのがとても興味深いと思いました。

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教科書ブース

今回、家族と一緒に「Educa」に参加してみて、最新のフィンランド教育の情報が得られるだけでなく、家族で出かける場としても充実していて、子どもたちもとても楽しんでいました。「あの教材、学校で使ってる」「あのアプリゲームやってる」など、展示をきっかけに子どもから色々と学校での活動について話を聞くこともできました。学校・企業・研究機関・支援団体・地域・家族・子どもが一堂に会して「教育」について考えるイベントが日本にもあったら面白そうだな、と思いながら帰路につきました。


参考文献

MESSUKESKUS. (n.d.). Educa Fair January 27-28, 2023.
https://educa.messukeskus.com/?lang=en
筆者プロフィール
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矢田 明恵(やだ・あきえ)

フィンランド・ユヴァスキュラ大学博士課程修了。Ph.D. (Education)、公認心理師、臨床心理士。現在、ユヴァスキュラ大学およびトゥルク大学Centre of Excellence for Learning Dynamics and Intervention Research (InterLearn) ポスドク研究員、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員。
青山学院大学博士前期課程修了後、臨床心理士として療育センター、小児精神科クリニック、小学校等にて6年間勤務。主に、特別な支援を要する子どもとその保護者および先生のカウンセリングやコンサルテーションを行ってきた。
特別な支援を要する子もそうでない子も共に同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」に関心を持ち、夫と共に2013年にフィンランドに渡航。インクルーシブ教育についての研究を続ける。フィンランドでの出産・育児経験から、フィンランドのネウボラや幼児教育、社会福祉制度にも関心をもち、幅広く研究を行っている。
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