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特別支援教育における情報通信技術(ICT)の活用

橋本 陽介(白梅学園大学子ども学部発達臨床学科 講師)

2020年11月20日掲載

要旨:

私たちの暮らしに欠かせない情報通信技術(Information and Communication Technology;ICT)は、日本の教育でも活用が推進されています。特に、特別支援教育では、早くからICTの活用が推進されてきました。本稿では、児童生徒が有している障害の別に、ニーズに応じたICTの活用方法例を紹介します。

キーワード:
特別支援教育、情報通信技術(ICT)、機器、障害別、ニーズに応じた活用方法
1.日本の特別支援教育とICTの活用

パソコンやスマートフォン、タブレット端末、インターネットなど、私たちの暮らしにとって、情報通信技術(Information and Communication Technology;ICT)の活用は、もはやなくてはならないものとなっています。

日本の教育においても、学校教育現場のICT環境が整備されてきている現状にあります。特に、2019年6月には文部科学省より「学校教育の情報化の推進に関する法律」が公布・施行され、同年12月には「GIGAスクール構想の実現」が発表されました。加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による臨時休校措置が実施され、オンライン授業の必要性も高まりました。これらにより、今後の学校教育現場では、児童生徒1人1台端末の配備と高速大容量通信ネットワークの整備が中心に進められ、ICT環境の充実が一気に加速すると予想されます。

加えて、小学校では2020年度、中学校では2021年度から全面実施され、高等学校では2022年度から学年進行で実施される新しい学習指導要領では、小・中・高等学校すべてに共通して「情報活用能力(情報モラルを含む)」を言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」に位置付けました。さらに、小学校の新しい学習指導要領には、文字入力など基本的な操作の習得に加え、新たにプログラミング的思考の育成が明記されました。また、中学校の新しい学習指導要領では技術・家庭科において、高等学校の新しい学習指導要領では情報科において、それぞれ、プログラミングや情報セキュリティに関する内容を充実させることが明記されています。従って、令和の時代を迎えた日本の教育では、ICTの活用が当然となり、今後はますます推進されていくことが容易に想像できます。

そのような中、特別支援教育においてもICTの活用が推進されています。むしろ、通常の教育よりも、特別支援教育でのほうが、ICTの活用は推進されており、1人ひとりの教育的ニーズに応えるうえで欠かせない存在となってきました。

実際、文部科学省は、早くから特別支援教育へのICTの活用を推進してきています。2002年に文部科学省が公表した「情報教育の実践と学校の情報化~新『情報教育に関する手引』~」には「特別な教育的支援を必要とする子どもたちへの情報化と支援」という章が設けられていました。また、その後、文部科学省が2010年に公表した「教育の情報化に関する手引」や2011年に公表した「教育の情報化ビジョン」でも、“特別支援教育”をキーワードとした章が特設されています。さらに、先述の「GIGAスクール構想の実現」においても、“特別な支援を必要とする子ども”“多様な子ども”という文言によって特別支援教育を意識した記述が見受けられます。

特別支援教育におけるICTの活用は、文部科学省の各種公表資料を見ただけでも、特筆の事項であり、推進されてきている取り組みであるといえます。

2.各種障害によるニーズに応じたICTの活用

では具体的に、特別支援教育においてICTは、どのように活用されているのでしょうか。以下では、各種の障害別に、それぞれのニーズに応じた活用方法の一例について、紹介したいと思います。

1)視覚障害

視覚障害を有する児童生徒には、言うまでもなく“見ること”への困難さに対応した支援が必要になります。

現在では、ほとんどのICT機器にテキストの「読み上げ機能」が搭載されています。従って、文字情報へのアクセスは、ICT機器を活用することで、とても容易に支援することが可能になります。また、タブレット端末やスマートフォンのように、タッチパネル式での操作が実現できることは、視覚障害を有する児童生徒の学びに大きな貢献となっています。なぜなら、タッチパネルでの「ピンチ」操作によって、対象の拡大・縮小が容易に可能であるためです。加えて、現在のタブレット端末やスマートフォンには、カメラ機能が搭載されていることがほとんどです。そのため、カメラ機能を使用して撮影した画像をピンチ操作によって拡大すれば、拡大鏡や単眼鏡を持たなくても、1つの機器のみで必要な情報へアクセスすることが可能になります。その他、画面の色やコントラストを変更する機能が搭載されている機器も多く、自分の見え方に合わせた環境を作ることがとても容易になっています。

また、2000年頃から普及し始めたデジタル録音図書の国際標準規格であるDAISY(Digital Accessible Information System)注1は、視覚障害をもつ児童生徒の学びに重要な役割を果たす1つのツールとなっています。現在では、マルチメディアDAISY注2による図書や教科書が主流となり、音声による読み上げと画面上の文字、画像を同期させながら、学習を進めることが可能になっています。さらに、マルチメディアDAISYは、視覚障害にとどまらず、知的障害や学習障害などの「読み」の困難を抱えた児童生徒の学習にも活用されています。しかし、DAISY図書・教科書の製作は、いまだボランティアベースで進められている場合がほとんどであるため、製作に係る技術開発等を進める必要性があると考えられます。

2)聴覚障害

聴覚障害を有する児童生徒には、“聞くこと”への困難さに対応した支援が必要になることは言うまでもありません。

現在では、音声認識の技術が飛躍的に進歩を遂げ、音声情報を文字情報へ変換することが容易になりました。このことにより、聴覚障害を有していても、健常の児童生徒とともに、同じ環境下で授業を受け、学習を進めることが以前よりも容易になりました。また、音声認識によって文字化された情報は、ネットワークを介して即時的に送受信することも可能です。そのため、テレビ会議システムなどを用いた遠隔にある学校などとの交流学習にも、音声認識の技術は大いに活用することができます。しかし、音声認識の精度には、使用するシステムや周囲の環境によって差があり、音声情報をすべて完璧に正しい文字情報へ変換できるとは限りません。そのため、誤って変換された文字情報は、人の手によって修正することが、まだ必要な状況にあります。

加えて、Web上の様々な動画ストリーミング配信サイトでも、アップロードされた動画から自動的に音声認識をおこない、字幕に変換する機能が搭載されています。従って、これまで多くの時間を要していた映像教材の字幕作成が、とても短時間で進められるようになってきました。しかし、Web上の動画ストリーミング配信サイトに映像教材をアップロードする際は、著作権にも配慮が必要な現状にあります。

3)肢体不自由・病虚弱

肢体不自由や病虚弱を有する児童生徒は、それぞれの身体状況に応じて、様々な困難が生じます。そのため、個々の児童生徒の状況に応じた支援が必要になります。

例えば、肢体不自由を有する児童生徒で、上肢機能に困難を抱えている場合は、タイピングや視線入力を用いたキーボードの利用によって、書字を代替することが可能です。また、タブレット端末やスマートフォンのカメラ機能を活用すれば、書字の負担なく板書を留めておくことが可能になります。

また、肢体不自由を有する児童生徒で移動の制限がある場合や、病虚弱を有する児童生徒で外出が困難な場合には、テレビ会議システムなどを使用して、自宅等から授業を受けることが可能になります。さらに、テレプレゼンスロボット注3を活用することで、自宅や学校からの外出が伴わなくても、校外での学習に参加することも可能になってきました。加えて、このような各種のオンラインシステムを用いた学習は、将来の在宅ワークによる就労を見据えたトレーニングにもつながる可能性を有しています。

4)知的障害・発達障害

知的障害や発達障害を有する児童生徒も、それぞれの状況によって、生じる困難は様々であり、支援の内容も多様になります。

例えば、音声言語によるコミュニケーションに困難を抱える児童生徒には、入力したテキストを読み上げ機能を用いて音声に変換して発信することが可能になります。また、タブレット端末やスマートフォンに、絵や写真を保存して、コミュニケーションをとる相手に表示させることにより、音声言語を代替するコミュニケーション手段となり、持ち運びもコンパクトなので使いやすいです。

また、注意や集中の維持に困難を抱える児童生徒には、デジタル教材でアニメーションなどを活用することにより、注目すべき箇所がより分かりやすく表示できる場合があります。取り組んでいる学習課題に対する正誤等についても、聴覚・視覚のいずれかまたは両方へ即座にフィードバックすることが可能なため、学習に対するモチベーションの維持につながる場合があります。

加えて、これまでに述べてきた各種障害での活用例は、知的障害や発達障害を有する児童生徒にも、有効な場合があります。視覚障害で紹介したマルチメディアDAISYは、音声による読み上げと画面上の文字、画像を同期させることで、読みの負担が軽減できるため、知的障害や学習障害などの「読み」の困難を抱えた児童生徒の学習における内容理解を助けます。また、聴覚障害で紹介した音声情報から文字情報への変換は、学習障害などにより「聞く」ことに困難を抱えた児童生徒の学習を支えます。さらに、肢体不自由・病虚弱で紹介した各種のオンラインシステムを用いた学習は、自閉スペクトラム症などによる特有の感覚特性から、集団の中で学習を進めることが困難な場合にも活用できると考えられます。

3.おわりに

以上、各種障害のニーズに応じた活用方法の例を紹介しましたが、これらはほんの一部となります。今後は、2019年12月に発表された「GIGAスクール構想の実現」、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって高まったオンライン授業の必要性を踏まえれば、児童生徒1人1台端末が配備されることから、ICTを活用した教育が、もはや当たり前の状況となります。従って、今後の特別支援教育に関する研究では、ICTの活用も当然のごとく視野に入れて進めていくことが必要となると予想されます。また、学校教育現場などにおける実践においても、板書や各種教材の作成などと同様に、教育方法の1つとしてICTを活用することが位置付けられてくると考えられます。特に、インクルーシブ教育の推進における「合理的配慮の提供」にあたっては、ICTの活用が有効な手段の1つとなりうると言えます。

もしかすると、読者の皆様の中には、これまで、特別支援教育におけるICTの活用を考える際に、何か特別な機器を使用しなければならない、新たなシステムやソフトウェアを開発しなければならないなどといった印象をもたれていた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本稿で紹介したように、特別な機器の使用や新しいシステムの開発をしなくとも、身近にあるICTを活用して、障害を有する児童生徒の困難さに対して支援することは可能です。むしろ今後は、「GIGAスクール構想の実現」による環境の充実や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止によるオンライン教育の取り組みをいかし、既存のICTを上手にコーディネートしたうえで、活用していくことが重要になると考えられます。そして、日本の伝統的な教育手法である対面指導に、ICTを活用した指導を上手く組み合わせ、障害を有する児童生徒1人ひとりに、超高度情報化時代の中で生きていく力を身に付けさせていくことが重要になると考えられます。


参考資料


注記

  • 注1)DAISYとは、Digital Accessible Information SYstemの略で、「アクセシブルな情報システム」と訳されるデジタル録音図書の国際標準規格である。もともとは、視覚障害の方に向けた録音テープに代わるものとして開発されたが、現在では、学習障害や知的障害などの方にとっても有効であることが国際的に認められてきている。
  • 注2)マルチメディアDAISYとは、音声による読み上げと画面上の文字、画像を同期させながら見ることができるデジタル録音図書であり、再生には専用の再生機や専用ソフトウェアをインストールしたパソコンが必要となる。その他に、音声による読み上げのみの音声DAISYがある。
  • 注3)テレプレゼンスロボットとは、テレビ会議システムと遠隔操作の技術を組み合わせたロボットであり、使用者はビデオ会議を行いながら、遠隔にいるロボットを操作して動かすことができる。これにより、その場にいなくとも相手に存在感を与えられるため、近年では在宅勤務やイベントへの参加、教育現場などで広く普及してきている。
筆者プロフィール
Hashimoto_Yousuke.jpg橋本 陽介(はしもと・ようすけ)

白梅学園大学子ども学部発達臨床学科 講師。
東北大学大学院教育情報学教育部博士課程後期3年の課程修了。博士(教育情報学)。日本学術振興会特別研究員DC、函館大谷短期大学こども学科、宮城大学社会・文化学系を経て、現職。専門は教育情報学、特別支援教育。現在の研究テーマは「障害児・者への保育・教育的支援におけるICTの活用」「幼児教育・保育におけるアクティブラーニングのユニバーサルデザイン」である。また、自身が脳性麻痺による肢体不自由を有する障害当事者でもあることから、その背景をいかして教育・研究に取り組んでいる。主な著書は、「高度情報化時代の『学び』と教育」(東北大学出版会,2011年,分担執筆)、「現代の特別ニーズ教育」(文理閣,2020年,分担執筆)など。

※肩書は執筆時のものです

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