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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第53回 Praktikum:中学生で職業体験(インターンシップ)!

要旨:

ドイツでは一般的に小学校を卒業してから、上級学校でほとんどの学生がインターンシップを体験する。その制度は各州に委ねられているが、ベルリンでも9年次(中学3年生)に、インターンシップを行う学校が多い。息子の通う学校でも、来年春に3週間にわたって行われるインターンシップに向けて、履歴書や企業向けのメールの書き方を習ったり、様々な職種に関する知見を広めたり、自己分析を行うなど、計画的に準備を行っている。早い段階から様々な職業に関する洞察を深め、実際の現場で働く機会を与えられることは、将来のキャリア形成のためにも非常に有益なことだと思った。

キーワード:

ドイツ、ベルリン、Praktikum(プラクティクム)、インターンシップ、ギムナジウム、上級学校、履歴書、自己分析、シュリットディトリッヒ桃子

息子が8年生(中学2年生)を終えようとしていた今年6月、私たち保護者は学校から一通のメールを受け取りました。それはプラクティクム(Praktikum)と呼ばれるインターンシップに関するもので、息子の通うギムナジウム(総合大学への入学を希望する子どもが通う上級学校注1)では9年生(中学3年生)時に学校のカリキュラムの一環として、企業や組織でのインターンシップを義務付けているとのこと。本稿では、このプラクティクムというドイツのインターンシップ制度についてお伝えします。

*インターンシップの制度や内容に関しては、各州・学校に委ねられている部分も多く、本稿に記した項目はあくまでも一例であることをご了承ください。

ドイツにおけるインターンシップ

ドイツではインターンシップは、「将来専門的な職業に就くために、ある一定の期間、実践的な知識と経験を習得すること」と捉えられています。17世紀には見習い制が一般的になり、20世紀の終わりまでに現在と同様に、本格的に就職するための実践的な経験を積む場として確立されました。全ての学生にとってインターンシップは、特定の職業の内容や構造について知る機会となっているだけでなく、企業・組織と学生とのマッチングとしても役立ち、就職してから「こんなはずじゃなかった」と早々に退職してしまうようなケースを回避させることができる、と考えられています。

さらに、インターンシップの経験は履歴書に書くことができますから、将来、就職活動をする際、「知識や経験がある」と認識され、雇用されやすくなることも。特に大学生の場合は、インターンシップを経験した企業にそのまま就職するケースも多いようです。

こうした背景から、ドイツでは一般的に小学校を卒業してから、すなわち5年生から10年生の間、ほとんどの学生がインターンシップを体験しています。上級学校の場合、原則として、ギムナジウムを除くすべての種類の学校で、この制度が義務となっており、さらに近年はギムナジウムでも自発的に適用している学校が増えているからです。2000年代の終わりには、ほぼすべての連邦州がキャリア教育の一部として、上級学校にインターンシップ制を導入している状況です。

ただし、法律的には、ドイツ全体の連邦法で一律に定められているわけではないので、具体的な開始時期や適応学年は各州に委ねられているそうです。

ベルリンの場合

ベルリンではインターンシップは、学校法で「学生の就業支援を目的とした学校行事である」と定められており、「この行事を通じて学生はビジネスおよび仕事への洞察を深めることができる」と考えられています。この制度はギムナジウムを除くすべての種類の学校で義務付けられおり、通常は9年生で行われ、勤務地は基本的にベルリン市内と決められています。

このことから、市内の多数の企業や機関が、毎年4万人の中高生にインターンシップを提供しています。例えば、ベルリン州警察は9年生から12年生までの生徒のインターンを受け入れており、経験豊富な警察官が生徒の担当者となり、子どもたちは警察の様々な日常業務に同行するとのこと。インターンシップに参加したある女の子は「警察署内でデータ入力したり、動物保護のためにパトカーに同乗したりすることもあった。この経験によって、警察官になりたい、という将来の夢を確固たるものにした」と語っていました。

あるギムナジウムの場合
ー5年生から始まるキャリア教育

息子が通うギムナジウムでは、独自のカリキュラムを作成、実施しています。それによると、6つの分野(キーとなる人格形成の開発、職業体験、情報提供、インターネットシステム、相談の場の提供、社会科見学)を定め、5年生からキャリア教育を行っています。例えば、5年次には、「キーとなる人格形成の開発」として、チームビルディングを学ぶため、地元のサッカーチームを訪れ、選手や関係者たちから直接、講義を受けたそうです。ブンデスリーガという一流の場で活躍する選手たちの話を生で聞くことができ、息子は大興奮で帰宅しました。また、10年次からは、公共職業安定所から学校に派遣された職員が、生徒のキャリア相談に乗ってくれるそうです。

ーインターンシップ概要

上述のとおり、ギムナジウムは大学進学が前提であるため、インターンシップは義務ではありませんので、その実施に関しては各校に委ねられています。息子が通うギムナジウムでは、学校のカリキュラムの一環として、数学やドイツ語などと同様に9年次の必須科目として捉えられています。中心となる仕事の分野は、経済やビジネスおよび技術や化学系などが多いそうです。

さらに、10年次には必須ではありませんが、ボランティアとして社会的なインターンシップの機会が与えられています。希望する生徒は老人ホームに週1時間通い、高齢者の介護補助を行っているそうです。

また、11年次には夏休みの直前に、最低1週間のインターンシップがあり、こちらは再び必須科目となっています。それまで既に習得した知識を深め、就職イベントを訪れ、「キャリアデー」を開催するなど、多くの就職関連プロジェクトに参加することとなっています。

さらに、起業やビジネスに興味がある12年次の生徒は、コンサルティング企業との共同プロジェクトに参加が可能とのこと。そこで基本的な経済概念を学び、企業の創設者やその分野の専門家とアイデアを交換し、ビジネスの仕組みを理解し、最終的には自分のビジネスプランを立て発表することができるそうです。

これ以外にも、一日限りの特別なインターンシップ・デーとしてドイツ全土で開催される「ガールズデー」(女性が少ないと言われている理系分野の企業が、女子学生向けに門戸を開く)や「ボーイズデー」(男子学生向けにサービス部門、特に教育や健康・介護の分野が門戸を開く)にも、希望すれば参加できるそうです。

―9年次のインターンシップ

息子が通う学校では、9年次のインターンシップは来年春のイースター休暇の前に3週間にわたって実施されます。場所は基本的にベルリン市内の企業・組織で、勤務先に関しては、校長先生の承認が必要です。その承認が下りると、学校を通じて生徒と企業・組織の間で契約書が交わされることとなります。今年の契約書提出の締め切りは1月末だそうです。先述のとおり、このインターンシップは学校行事の一環なので、生徒が働いても賃金は発生しません。

有意義にインターンシップを経験できるよう、学校でも9学年が始まってから毎週1時間の授業が行われており、生徒たちは計画的に準備を行っているようです。そこで彼らは、自分の強みや弱みを探求し、様々な専門分野やその分野の職に就くためのトレーニングについて学びます。また、学校のキャリアアドバイザーの講演を聴いたり、様々な研究や職業訓練の担当者から直に、日常の業務に関して学ぶ機会も与えられます。

そうした準備の後、いよいよ3月に3週間のインターンシップを行うこととなります。ちなみに、息子より年上の従兄たちは、彼らの叔父が勤めているソフトウェア会社や当時通っていた乗馬クラブで実務を経験してきました。いずれもギムナジウム9年生の時に1日8時間の勤務を2週間程度こなしたとのこと。必須だったため、クラス全員が同時期にインターンシップを行っていましたが、その間は、学校には行く必要はなかったとのこと。終了時には証明書および成績(評価)表が発行されたので、気を抜くことはできなかった、と言っていました。現在の就職希望分野とは異なってはいるものの、仕事の現場を体験したことで視野が広がったので、実務に就く上での貴重な経験になったそうです。

息子の学校では、インターンシップ終了後も、フォローアップの授業が毎週1時間実施され、最後に中等教育終了試験注2)における口頭試験の準備として、インターンシップ体験に関するプレゼンテーションを行うそうです。

ー9年次インターンシップの授業内容

週1回のインターンシップに関する授業では、教科書が使用されており「履歴書の書き方、履歴書に貼る写真、企業の担当者にコンタクトする場合のメールや手紙の書き方」を最初に学ぶようになっています。この部分はドイツ語の授業ともリンクさせているようで、ドイツ語の授業中に正式な書類の文体や応募の手紙およびメールの書き方の練習もしていたとか。今学期のドイツ語の中間試験の問題の一つは「警察でインターンシップを募集しています。これに応募するための手紙を書きなさい」というものでした。

具体的にどのような内容を書かなければならないのか息子に尋ねたところ、下記のポイントが重要になると学んだとのこと。

  • どうやってこのインターンシップを知ったのか(例:インターネット、家族や知り合いに聞いたなど)
  • なぜこの職種に興味があるのか?
  • なぜこの組織・企業でなければならないのか?
  • 自分の強み
  • 自分は今何をしていて、どんな習い事などをして、どんなことに興味をもっているのか?

「自分の強み」に関しては、教科書や追加プリントの質問表を使い、そこで自身、クラスメート、そして保護者が同じ項目に5段階で答え、点数化し、その合計点で判定するようになっています。主観、客観の両方から自己分析を行うというわけです。項目例は下記のとおりです。

  • 重要な点を見極めることができる
  • 問題が起こった場合、率先して解決していく
  • 周囲で起こっている物事に関心がある
  • 物事のリスクについて考えている
  • 批判や注意をされたら、次回から気を付けて改善しようとする
  • 締め切りをきちんと守ることができる
  • 説得力がある
  • 我慢強く最後までやり抜く力がある
  • 決定力がある
  • ケアレスミスをしないように注意して、もしあった場合は、悔しいと思う
  • 絵を描くことが上手である
  • メカニックが好きである
  • スポーツをしている

このように、大人の就職活動と同様の内容を既に14歳で学び、実践していることに驚きましたが、当地での就職時には即戦力となることが求められているので、早い段階で自分の特性を考え、このようなスキルを身に着け、就職の準備をしていくことは、理にかなったことだと思いました。

また、授業中は、各生徒が自分の興味のある職業についてプレゼンテーションを行うこともあり、様々な職種に関する知識を広げていたようです。

ーインターンシップの探し方

大人の就職活動と同様、生徒たちは希望する企業・組織に履歴書を送り、応募書類が通れば、面接となります。そこで合格となれば、晴れてインターンシップを経験できることとなります。ちなみに、もし希望の企業や組織で働くことができない場合は、最終手段として通学しているギムナジウムでインターンシップをさせてくれるそうです。

インターンシップの探し方は、直接企業のウェブページにアクセスしたり、学校が特別に作成したサイトからインターンを募集している企業を探すこともできるようです。また、一般的なインターンシップ検索サイトを利用することも可能です。こちらは、体験した生徒の口コミやその企業に対する評価も掲載されているようです。さらに、家族や親せき・知人の働く会社で行うことも多いようです。

まとめ

インターンシップにより、現実の仕事の世界を体験することができ、選択した職業に関する洞察を深めることができます。また、希望職種に応募するプロセスの練習もできます。自分がインターンシップを希望する企業や組織は自分で探して決めなければなりませんが、その前の準備やその後のフォローアップは学校が系統立てて行っている印象を受けました。

このように中高生の頃から自分のキャリアに関して考え、実務を経験するチャンスがあることは、進学する学部を選んだり、その後のキャリアパスを考えたりする上で、非常に有益なことだと思いました。

また、受け入れる企業も若い彼らを受け入れるのには、それなりに準備を整える必要があると思いますが、将来の金の卵(?)を発掘する上でも、メリットがあるのでしょう。このようにドイツのプラクティクムは学生と企業の両方にとってWinWinな状況を作り出す合理的な制度なのだと思いました。

  • 注1:上級学校には、大学入学資格(アビトゥア)を取得して総合大学への入学を希望する子どもたちが通う「ギムナジウム(Gymnasium)」、専門学校や専門大学の後に事務職や専門職を目指す子どもたちが通う「実科学校(Realschule)」、さらに、大学進学を希望しない場合や、職人や販売員を目指す子どもたちが通う「基幹学校(Hauptschule)」の主に3種類があります。詳しくは、【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第30回をご参照ください。
  • 注2:ギムナジウムは、日本でいう中高一貫教育なので、中学レベル終了時(9~10年次)にふさわしい学力がついているかどうかを見るための大きな試験(中等教育終了試験)が、記述と口頭の両形式で行われます。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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