CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子ども未来紀行~学際的な研究・レポート・エッセイ~ > 大学で行う小学生を対象とした看護師体験学習とプログラムの評価

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

大学で行う小学生を対象とした看護師体験学習とプログラムの評価

多賀 昌江(北海道文教大学 人間科学部看護学科 准教授)

2020年1月10日掲載

要旨:

筆者らは、地域の小学生と保護者を対象とした、小学生向けの看護師体験学習「文教キッズカレッジ」を開催している。小学生とその保護者が、看護師養成用の教育教材を用いて、簡単な体験実習を経験することにより、看護職と大学で学ぶことについて親子で考える機会になっている。大学の施設と知財を活用した体験活動は、地域の子どもたちの豊かな育ちに貢献することが示唆された。


キーワード:

小学生、看護師体験、体験学習、親子、看護系大学、キャリア教育、職業体験
1.小学生向け看護師体験学習の開催と企画の背景

子どもが直接的体験を通して、学ぶことの意味や意義を感じることの出来る学びの環境をデザインし、子どもの学びを地域で支える仕組みを構築することは、子どもの「生きる力」を育むために必要であると考えます。2010年に国立青少年教育振興機構が実施した「子どもの体験活動の実態に関する調査研究」では、子どもの頃の体験が豊富な大人ほど、やる気や生きがいをもっている人が多い、と結論づけています。

筆者らは、大学が位置する地域の小学生と保護者を対象とした、小学生向けの看護師体験学習「文教キッズカレッジ」を、2016年より開催しています。「文教キッズカレッジ」は、看護学科を有する所属大学の施設を活用した、半日の看護師体験学習プログラムです。このプログラムは、参加した小学生とその保護者が、実際に看護師養成のために使用している教育教材を用いて、実習室での簡単な体験実習を経験することにより、看護師体験と大学で学ぶことについて親子で考える体験型の学習プログラムです。参加した小学生の自由研究の題材になることも意図して、小学校の夏休みと冬休み時期の週末に開催し、過去3年間で合計6回実施してきました。

この体験学習を企画した背景には、大学がある地域の子どもたちに、身近な大学の存在を感じてもらい、医学モデルを使った実習や患者体験を通して看護師という職業を知ってもらいたい、という職業教育につなげる機会を構築する目的がありました。そして、子どもたちが将来進学について考えたときに、進学先や職業選択の幅を広げるための経験値を、小学生のうちから増やす機会になることを期待しています。別な側面としては、看護職を養成する教育機関の教員として感じている、近年の大学生の将来像のなさと学習意欲に関する危機感があります。看護学生や大学生のなかには「進路に迷って、とりあえず親に勧められた看護系大学を選んだ」、「看護師になりたいかどうかわからないが、資格があれば困らないから看護を考えた」、「とりあえず大学は卒業しようと思った」等、大学進学の明確な目的や専門職を目指す意志がないままに進学する大学生が増えています。そのような曖昧な気持ちで看護を選択した大学生のなかには、専門的な学習や病院での実習についていけない者が出てきます。今やどこの看護系大学でも、少なからず同じ現象が見られています。

楽しいイベントとしての看護師体験だけではなく、大学で専門家から直接学ぶ経験から看護師の仕事を知ったり、本物の医療材料を用いて看護技術の体験をしたりする学習経験は、小学生のキャリア教育の一環になり得ると考えます。このような背景から、本学の看護学教員とこども発達学科教員の有志メンバーによるプロジェクト活動が発足し、地域の子どもたちの豊かな育ちに貢献するための地域貢献事業として「文教キッズカレッジ」が始まりました。

子ども向けの職業体験イベントは、各地でたくさん開催されています。「文教キッズカレッジ」は、看護師の職業体験だけではなく、いのちの大切さや患者の気持ちを親子で考え、親子で話し合う機会になって欲しいと願っています。その願いを形にするために、参加した小学生の学びや保護者の意見を研究という形でまとめ、看護師体験プログラムの構築をしてきました。過去3年間の「文教キッズカレッジ」開催を通して、筆者ら(多賀・服部・福士・鹿内・小塀・笠見, 2019)が行った看護師体験学習プログラムに対する評価について、次に紹介します。

2.「文教キッズカレッジ」のプログラム構成と開催時の様子

プログラムは午前・午後それぞれ半日(午前の部は9:30-12:20、午後の部は13:30-16:20)で、内容構成は以下のようになっています。小学生(全学年対象、きょうだいでの参加可、きょうだいが小学生以下であっても一緒に参加可)は保護者同伴(大人であれば祖父母でも親以外でも可)で参加してもらいます。学内で託児を行い、参加する保護者が親子でじっくり取り組めるように配慮しています。

「文教キッズカレッジ」一日大学生体験プログラム

(1)看護師ユニフォーム(子ども用各サイズを準備している。ユニフォームの色は自分で着たい色を選択する。参加時のみの貸与)・講義資料・一日学生証(名札)の受領

(2)体験講義:「大学ってどんなところ?」

(3)学内探検:「大学のなかを探検してみよう!」

(4)看護師体験実習

(5)修了証の授与


開催時の様子

report_02_270_01.jpg   report_02_270_02.jpg
(1)看護師ユニフォームを着て記念撮影。
 
(2)体験講義: 講義資料を用いながら、クイズ形式で大学と小学校の違いを学びます。



report_02_270_03.jpg   report_02_270_04.jpg
(3)学内探検:大学生が説明をしながら広い大学構内を案内します。学生食堂、図書館、研究室、大講堂、実習室など、小学校にはない設備を見て歩きます。



(4)看護師体験実習:看護実習室にて、看護教育用の医療モデルや赤ちゃんの人形などの教育教材を使用して実習します。安全に配慮し、看護学科の大学生と保護者が、小学生の細かな動作を見守ります。
実習の内容は、開催時のテーマに合わせて①看護師が行うケアの方法を実践する職業体験、②妊婦や高齢者、ケアを受ける人の気持ちを体験するための当事者体験、①②の混合型、としています。
実習のはじめに、短時間で資料を用いながら「看護師になるには」「看護師として大切なこと」「いのちの大切さ」を講義形式で説明します。

report_02_270_05.jpg   report_02_270_06.jpg   report_02_270_07.jpg
本物の保育器のなかに手を入れて、保育器内の温度や小さく生まれた赤ちゃんの大きさを体感します。   3kgの新生児モデルの抱っこ体験。この場面では、子どもが赤ちゃんだったころの話を母親が話し始めることが多いです。   妊婦体験:小学生用の体験ジャケットを装着して、胎児の重さを感じ、子宮の中に胎児がいることを認識します。



report_02_270_08.jpg   report_02_270_09.jpg   report_02_270_10.jpg
沐浴実習。保護者か大学生がサポートしながら行います。低学年でも出来ます。体験重視で、細かい手技は気にしません。   新生児モデルの呼吸音、心拍を聴診器で聴き、1分間の回数を数えます。赤ちゃんの心拍数が高いことに、子どもたちは驚きます。   自分の心臓の音を聴診し、回数を数えます。赤ちゃんとの回数の違いから、成長すると変化していく自分のからだについて学びます。



report_02_270_11.jpg   report_02_270_12.jpg
車椅子体験:乗車体験では、段差を乗り越えるときの大変さがわかります。また、押すときと乗っているときに感じるスピードの違いを体感できます。車椅子を押す体験では、障害物や細い通路を通るときの車椅子の操作に苦労します。



report_02_270_13.jpg   report_02_270_14.jpg   report_02_270_15.jpg
手洗いチェッカーによる手の汚れの可視化では、きれいに手を洗ったつもりでいても汚れていることに気づきます。感染症予防のために、手洗いが大切であることを学ぶ機会になります。   内臓モデルを使った小腸の長さ測定と内臓の配置パズルで、からだのなかの構造と、食べたものが通る消化管について学びます。   高齢者体験キットを装着して、高齢者の視野、白内障のときの色の見え方、音の聞こえづらさ、関節の動きづらさ等を体験します。高齢者のからだの変化について、たくさんの気づきが生まれます。



report_02_270_16.jpg report_02_270_17.jpg
消毒と包帯を巻く練習をしています。包帯は、巻いてみるときつさの調整や巻く向きに注意するなど、意外に難しいことがわかります。   点滴の滴下速度の調整をしています。過去に点滴をしてもらったことのある子どもは、どのくらいのスピードにするとどのくらいの量の液がからだに入るのか興味津々です。



3.研究目的

本研究の目的は、2016年から2018年までの3年間に実施した「文教キッズカレッジ」に参加した小学生の学びと体験内容および保護者の満足度を明らかにすることです。そのために、小学生を対象とした看護師体験学習プログラムを評価し、検討しました。

4.方法

1)研究参加者

2016年から2018年までの3年間に文教キッズカレッジの看護師体験に参加した小学校1~6年生156名と保護者134名。参加した子どもと保護者には、無記名自記式質問紙を配布し、プログラム終了後に回収しました。

2)調査項目

子どもへの質問項目は、(1)学年、(2)一日大学生体験プログラムに参加して感じた気持ち、(3)看護師体験に参加して感じたこと、(4)一番勉強になったこと、(5)感想、としました。(4)(5)は自由記述式です。

保護者への質問項目は、(1)参加動機、(2)プログラム満足度、(3)感想・意見、としました。また、3年間のプログラム構成について、看護師体験の型の分類を行い、テーマ別に体験内容および使用した教材をリストアップしました。

3)分析方法

収集したデータは、3年分を統合して単純集計を行いました。自由記述は内容分析を行いました。子どもの「参加して感じたこと」については、高齢者体験・車椅子体験・新生児のお世話、というテーマを3年間で各2回実施していたことから、自由記述部分だけを統合し、ワードクラウドを用いた頻出語の描写を行いました。この調査は、所属機関の倫理委員会の承認を受けて行っています。

5.結果

表1.プログラム参加者数と内訳

report_02_270_18.jpg

各回とも、小学校低学年の参加者が半数以上になっていることがわかります。

高齢者体験・車椅子体験・新生児のお世話、の3つのテーマについて、参加した小学生の自由記述を分析したところ、「車椅子」体験のインパクトが大きかったことが伺えます。そのほか、お年寄りが感じる不自由さや身体的特徴について理解した内容と、「すごい」「重い」「こわい(恐ろしい)」「楽しい」など、体験を通して情動性を表す表現が抽出されました。当事者の気持ちを体感する体験活動を通して、子どもたちが普段なかなか体験することが出来ない当事者の気持ちを理解する助けになっていたことが推察されます。

report_02_270_19.jpg 図1.高齢者体験・車椅子体験・新生児のお世話体験のワードクラウド

体験内容の記述以外で挙げられた内容は、多い順に1)看護師をしてみたくなった、2)看護師の勉強をして楽しかった、3)しょうがい者(病気やけがの人)を安心させて助けたいと思った、4)病院の道具に触れたこと、5)大学の学食で食べてみたい、6)本物の赤ちゃんと触れ合ってみたい、となりました。

自由記載欄には、否定的感情として「おとしよりになりたくないなあと思った」「かんごしは大へんで、せきにんじゅうだいだからなりたくないと思った」(原文のまま、いずれも小学校3年生)という感想が述べられていました。看護師の職業体験は、全員が興味や憧れをもつことにつながるのではなく、経験することによって職業として現実的な思いをもつ子どもがいることがわかります。


表2. 体験プログラムの型の分類と小学生の肯定的感情・学習の動機づけ、保護者の満足度との関係
report_02_270_20.jpg

看護師体験プログラムの構成を体験の型で分類すると、看護師の仕事や看護技術などを経験する「職業体験」と、自分が患者や高齢者、妊婦、新生児などの疑似体験をする「当事者体験」に分類できます。実施6回中4回は「職業体験」と「当事者体験」の混合型で構成されており、混合型のプログラムの方が「参加して感じたこと」の記載数と内容が多くなっていました。また、包帯法や手洗い、消毒法、点滴の調整といった本物の看護用具を使用した技術体験は、保護者の感想からリアルな体験ができたことへの満足感が高かったことが伺えました。

子どもの学びや感想については、細かな看護技術の体験は高学年の満足感が高い傾向にありましたが、低学年でも「沐浴」などの少し難しい技術に挑戦したかった、という意見がありました。6回実施したプログラムのなかで一番人気があった看護用具は、「車椅子」でした。乗車体験と保護者を乗せて操作する体験は、毎回子どもにも保護者にも「段差を越えることが難しいことがわかった」「車椅子を押すことが大変だと思った」などの多くの気づきや学びをもたらしていました。

6.考察

小学生を対象とした看護師体験プログラムの評価

過去3年間に実施した一日大学生体験のなかの看護師体験プログラムは、参加した小学生に肯定的感情をもたらし、保護者のプログラム満足度がほぼ100%であったことから、プログラム構成と体験内容は妥当であるのではないかと評価できます。小学生が看護系大学において本物の教育教材や体験教材を使用することによって、リアルな職業体験と当事者体験をすることができていました。参加した小学生の学びの内容から総合的に判断すると、看護師体験プログラムには子どもの多様な体験を通じて得られる資質・能力(体験の力)に寄与する内容が含まれていると考えます。

国立青少年教育機構では、子どもの「体験の力」には、7つの要素(自尊感情、共生心、意欲・関心、規範意識、人間関係能力、職業意識、文化的作法・教養)があるとしています。「文教キッズカレッジ」の看護師体験は、これらの力のうち、自尊感情、共生心、意欲・関心、職業意識、の4つの体験をすることが可能であると考えます。大学の知財を活用した体験プログラムを地域の子どもたちに提供することによって、少子化の時代に生きる子どもたちの豊かな育ちに貢献することができることが示唆されました。


[参考文献]

*本稿は、感性フォーラム札幌2019での口頭発表(多賀昌江・服部裕子・福士晴佳・鹿内あずさ・小塀ゆかり・笠見康大、2019)に加筆修正したものです。

筆者プロフィール
taga_masae.jpg 多賀 昌江(たが・まさえ)

北海道文教大学 人間科学部看護学科 准教授、助産師。
日本助産学会・日本感性工学会会員・日本渡航医学会評議委員。
北星学園大学文学部英文学科卒業、信州大学医療技術短期大学部専攻科助産学特別専攻修了、札幌医科大学大学院保健医療学研究科女性健康看護学専攻修士課程修了。修士(看護学)。
臨床で11年半助産師として勤務し2006年より看護学および助産学の教育研究に従事。札幌市立大学看護学部・助産学専攻科をへて2015年より現職。研究テーマは看護とデザインの連携を中心に渡航看護、周産期のグリーフケアに関するデザイン、産後の孤立感などに関する研究を進めている。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

論文・レポートカテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP