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国立公園の100周年:体験学習のための野外教室

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CRN編集部より:
屋外活動が子どもの健全な発達のために重要であることは、世界各国で同様に言われています。例えば、日本では環境省が文部科学省の協力を得て「子どもパークレンジャー・プログラム」を開催しています。同プログラムでは、自然保護の大切さや自然との付き合い方、豊かな人間性を育むことを目的として、小中学生を対象に公園内パトロールや清掃、登山道の補修、植物の保護活動、自然観察や自然保護官とともに動植物の調査活動を行っています。 ここでは、アメリカの国立公園局にかかわるミルトン・チェン氏と同局長ジョナサン・B・ジャーヴィス氏による記事を通してアメリカの国立公園の現状をご紹介したいと思います。



子どもたちを成功に導く秘密のカギは、学校の校舎の外にある。長らく悩まされている学力到達度のギャップは、また経験のギャップでもある。サンフランシスコやワシントンDCのようなアメリカの都市部では、太平洋やポトマック川の近くに住みながら、一度もそれを実際に見たことがない高校生がいる。花や野菜を育てたことのない生徒も多数いる。今の若い世代は、環境変化の大きな脅威にさらされており、自然界がおかれている現在の窮状を理解するべきでありながら、多くの生徒は自然にかかわる経験が限られたものとなっている。

全米野生生物連盟によると、最近の調査*1で、アメリカの子どもが屋外で過ごす時間は、平均一日あたり30分以下なのに対し、屋内でITを使う時間は7.5時間以上と判明した。カリフォルニア州・オークランドの先生が、教え子の中学生たちの校外での生活について次のように語った。「この子たちは銃は持ち歩くくせに、虫が怖いんですよ」。

今年9月、国立公園局は100周年を迎えたが、同局職員は学校、大学、博物館や図書館、その他の青少年対象の非営利組織と手を組み、この自然体験とのギャップを埋めるべく動き始めた。同じ目的で、オバマ大統領は昨年、「Every Kid In a Park(全ての子どもを公園へ)」というキャンペーンを展開。毎年小学4年生全員およびその家族に国立公園や国有地への無料パスを発行している。教員も4年生のクラスを国立公園などに連れて行くことができる。この取り組みにより、保護者や教育関係者が子どもや生徒を早期の年齢で国立公園のような自然資源に触れさせることができる。

全米400か所以上の国立公園(イエローストーン、グランドキャニオンやヨセミテといったお決まりの場所から、4つの州にまたがるネズパース保護地、セサル・チャベスやフレデリック・ダグラスといった人権活動家の国立史跡まで)を訪れることで、子どもたちは復元施設での実体験、動植物や遺物を記録したり、先人たちの偉業や苦しみに対する見識を得られる。こうした場所では、生物的多様性から文化的多様性のような抽象的な概念が具体化して「生きて」くる。また生徒たちも、体験学習により「生き生き」してくる。我が国の景観や史跡を、上流層のためではなく、国民全員のために保護していくことは、教育にとっても重要である。

神経科学の研究結果を含む近年の研究では、生徒がより深い学びを得るには頭脳だけでなく、身体も使って学習するのがよいことが分かっている。教育学者ジェラルド・A・リーバーマンは、自然環境と学校での学習改善について研究しているが、2013年に執筆した著書「Education and the Environment(教育と環境)」の中で、特定の場所で行われる体験学習と学力向上、教室での態度、大学進学や就職の準備とを繋ぐ研究を概説した。このような学習は、先生の活気づけにもなり、学校と地域の繋がりを深めるものでもある。

生徒は公園を訪ねることで、共同学習を体験し、教室で学んでいる歴史の背景を知ることができる。子どもたちはニューヨーク港の水質を班で調査したり、地下鉄道*21800マイル(2900キロ)を支えあいながら自転車で走ったりする中で、社会性や情動スキルを訓練し、社会人として働いたときに職場で欠かすことのできないメンバーとなれるように準備しているのである。生徒たちが、兵士たちの戦死したゲッティスバーグの古戦場や真珠湾のアリゾナ記念館に実際に立つと、そこでまた「神聖な場所(hallowed ground)」という言葉の意味にも新たな深みを感じる。

教員もまた、生徒ともに学ぶことができる。国立公園の「先生・レンジャー・先生(Teacher-Ranger-Teacher)プログラム」では、教員がパークレンジャーとともに夏休み中に授業プランを立て、生徒のもとへ持ち帰る。

公園局の主な目標は、「Find Your Park(自分の公園を探そう)」というキャンペーンを通じて、新たに多様な生徒層にアプローチしようという新たな試みも含まれている。より幅広い若者や家族層を惹きつけられるよう、解説プログラムや多言語で表した看板を取り入れながら、郊外に新しい公園を作っている。こうした場所は全て、米国の歴史をより完全な形で語り継いでいこうとする決意の表れである。

また同局は、直接公園に足を運ぶことができない生徒のために、多くのオンライン学習のテクニックを使っている。国立公園局のサイトには、パークレンジャーとのビデオ会議など様々な授業プランが満載である。教員がバーチャルな遠足に使える「Google Expeditions」という無料アプリを「WildEyes」というアプリの提供開始とコラボさせ、全米の国立公園のバーチャル映像を提供しようとしている。

また今年は、「BioBlitzes」と呼ばれるイベントがナショナル・ジオグラフィック・ソサイエティとの連携のもと、200か所以上の国立・州立・市立公園で開催される動きが広まっている。このイベントは、一か所の公園で短期間にできるだけ多くの種を参加者に見つけてもらうものである。どんな年齢の方もアマチュア科学者として、動植物の種を特定しながら目録作成をする科学コミュニティの大枠に参加することができる。児童生徒がこれまでに未確認の種を発見するかもしれず、それは生涯に影響を与える科学好きを生み出すかけがえのない経験になるかもしれない。

しかし、こうしたオンラインのバーチャル体験は、国立公園を訪れる実体験に取って代わるものではなく、補強するものである。そうした観点から、国立公園財団は「Ticket to Ride(乗車券)」というプログラムを通じ、クラス遠足の交通費を補助している。子どもたちは本物の公園に場所を移すと、新しい形の学習に取り組むことができる。教育課程の内容を学ぶだけでなく、自らについても学ぶことになる。

国立公園の100周年を祝うにあたり、教育現場にいる指導者たちに言いたい。学校の授業を実生活に結び付ける上で、野外活動が果たす重要な役割を覚えていてほしい。IT時代の今でも、「母なる自然」が最高の先生であり続けることを学校側も忘れてはならない。


  • *1 国による調査の対象年齢は、8~18歳と6~12歳。
  • *2 地下鉄道(Underground Railroad):19世紀アメリカの黒人奴隷たちが、奴隷制が認められていた南部諸州から、奴隷制の廃止されていた北部諸州やカナダまで亡命した逃亡路。

  • 2016年8月25日にウェブサイト「Education Week」に掲載された記事「National Parks at 100: Outdoor Classrooms for Experiential Learning」の転載許可をご快諾くださったミルトン・チェン氏に深く感謝いたします。
筆者プロフィール

ミルトン・チェン (ジョージ・ルーカス教育財団上席研究員)
ジョージ・ルーカス教育財団上席研究員、同専務理事を名誉退職。同財団は、サンフランシスコ湾岸地帯の非営利団体で、幼稚園~高校生の革新的な教育を提案する受賞歴のあるサイト「Edutopia.org」を制作している。1998~2010年まで同財団で専務理事を務め、サンフランシスコのKQED 教育センター(公共放送サービス/PBS)の創設時の所長でもあり、NYのセサミ・ワークショップのリサーチ・ディレクターとしてセサミ・ストリートやエレクトリック・カンパニー、3-2-1コンタクトなどの番組制作にも携わった。またハーバード大大学院で助教授を務め、2007~2008年には新世紀奨学金プログラムの奨学生35人のうちの一人に選出された。
現在、ニュージャージー州のパナソニック財団の会長であり、セサミ・ワークショップのほか「California Emerging Technology Fund」の理事も兼務。また、内務省長官より国立公園局の諮問委員会のメンバーにも任命され、科学・技術・工学・数学や教養教育の分野で同局が活動を展開できるよう助言する。
2015年には、教育メディアへの貢献を評価されてNHK主催の日本賞を受賞した他、公共放送機構(CPB)からフレッド・ロジャース賞を受賞している。最も名誉あるのは、チェン博士の50歳の誕生日にジョージ・ルーカス監督から直々に「ジェダイ・マスター」を任命されたことでしょう!

ジョナサン・B・ジャーヴィス (アメリカ合衆国国立公園局長)
第18代国立公園局長。1976年、ワシントンDCの国立公園局の季節ガイドとしてキャリアをスタートさせ、今日ではアメリカの最も貴重な景観や文化的遺産を保存する公園局を運営する立場に。彼の39年間のキャリアを経て、パーク・レンジャーから資源管理者、公園所属の生物学者、そしてクレーターズ・オブ・ザ・ムーン、ノース・キャスケード、ランゲル・セントイライアス、マウント・レイニアなどの国立公園の最高責任者まで昇りつめた。さらに局内の太平洋岸西部の支部長を経て、2009年9月24日に第18代国立公園局長に就任。また、世界に向けて保護地区の保存を提唱し、文化・自然の資源マネジメントにおいて世界を牽引する役割を再活性化させたのもジャーヴィス氏の功績である。
2016年に同局が100周年を迎えるにあたり、彼は局の将来に非常に重要となる分野に焦点をあてている。同局が管理していかなければならない場所の管理責任の強化、公園やプログラムの教育的ポテンシャルの最大化、新たな世代や来場者を惹きつけること、そして同局職員の福祉などを充足させることである。

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