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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第54回 学校に図書室はないけれど~身近な存在の図書館

要旨:

ベルリンの学校には図書室が存在しないが、市内に数多くある図書館を子どもたちは無料で利用することができる。子どもコーナーも充実しており、絵本やゲームや子ども向けオーディオブック、映画などを子どもが自ら選ぶことができる。また、保育園児や小学生のための図書館ツアーなども行っており、実際に図書館をクラスで訪れる機会も多々あるとのこと。また、コミュニティ内で不要な図書を寄付し貸し出す図書ボックスでも、気軽に読書体験を行うことができる。コロナ禍以降、読書量が増えた人が多いという統計があるが、図書館の電子化も相まって、この流れは加速するかもしれない。

キーワード:

ドイツ、ベルリン、図書館、電子書籍、外国語としてのドイツ語、漫画、読書、シュリットディトリッヒ桃子

息子が小学校に入学した時、驚いたことの一つは、学校に図書室が存在しないことでした。学童保育の部屋に本棚はあり、放課後、思い思いに読書をしている子どもを目にすることはありましたが、いわゆる書籍専用の部屋はなかったのです。日本の中学・高校にあたる上級学校は、さすがに勉強するところだから図書室は存在するだろうと、淡い期待を抱いていましたが、ギムナジウムに進学しても同様でした。日本では小中高校といった、どの教育課程の学校でも図書室があり、時に司書さんが本選びを手伝ってくれたと記憶していますし、現にベルリン日本人学校や日本語補習校では、図書室は完備されています。このような環境でベルリンっ子たちは、どのように本に親しんでいるのでしょうか?

市内80か所にある市民図書館

そのカギは市民図書館にありました。ベルリンには国立図書館や大学の図書館など大規模な図書館が多くありますが、それ以外にも一般市民がより慣れ親しんで利用している市立図書館(Stadtbibliothek)が沢山あります。ベルリンの人口は400万人弱(2021年 約368万人)ですが、市立図書館は市内18区内で約80か所に設けられています(1区に4~5館)。筆者はほぼ同じ人口規模で同数の区を擁する横浜市出身なのですが、横浜市立図書館は各区1館のみ、市内合計18か所にとどまっているので、ベルリンの市立図書館の多さに驚いた記憶があります。

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ある市立図書館の外観
 
図書館内の様子
ピアノの練習も可能な館内設備

では、そんな市立図書館の中の様子はどうなっているのでしょう。私たちがよく利用する市立図書館を例にとると、30万点以上の書籍やメディアを有しているとのこと。図書や雑誌、新聞の他にも、CD、DVD、ブルーレイ、ゲームソフトなどのソフトウェアも取り揃えており、図書館内で鑑賞することはもちろん、日本のレンタルショップ感覚で無料レンタルすることもできます。

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自宅以上にくつろげる(?)メディア鑑賞エリア
 
公園を眼下にリラックスしながら読書も可能

また、国際都市ベルリンということで、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、といった主要な欧州言語は勿論、ロシア語、アラビア語、トルコ語、といったその他の外国語書籍も幅広く扱っています。また、移民難民も数多く居住していることから、外国人向けの「外国語としてのドイツ語教材」や「やさしいドイツ語で書かれた書籍」コーナーも充実しています。

日本語の本は見つけることができませんでしたが、漫画コーナーを発見! よくよくタイトルを見てみると、「NARUTO ―ナルト―」「ONE PIECE」「犬夜叉」「ポケットモンスター」「ラブひな」など、そのほとんどが日本の作品です。全てドイツ語版ですが、日本のアニメの影響力の大きさを、こんなところでも感じることができました。

また、館内は全館Wi-Fi無料ですから、自分のノートパソコンやタブレットを持ち込んで作業をしている人を多くみかけます。一方で、館内ではインターネットに接続されている常設のパソコンを利用したり、そこから印刷することも可能、タブレット端末やノートパソコン、電子書籍リーダーの貸し出しサービスもあります。定期的に館内のパソコンを利用するシニアの方々も多いようでした。

さらに、音楽に興味がある利用者のために、ピアノやギターなどの楽譜の種類も豊富で、こちらも他の書籍同様、借りることもできます。また、ピアノやバイオリン、ギターやドラムセットを完備した防音室もありますから、自宅で練習が困難な方にとっては便利なシステムですね。

子どもの目線で作品が並ぶ
子ども向けのコーナーも充実しています。絵本はもちろん、ゲームや子ども向けオーディオブック、映画、知育教材、学校教科の補助教材も揃っています。息子が幼い時には、このコーナーで毎週のようにオーディオブックや映画を借りたものでした。ここは子どもの目線の高さで本や作品が陳列されているので、子どもが興味のある作品を自ら探して選ぶことができます。取材した日も、絵本コーナーでは、小さな男の子が絵本に没頭していたり、赤ちゃん連れのお母さんが読み聞かせをしていたのが印象的でした。

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絵本を読む男の子
 
読み聞かせをするお母さん

さらに、子ども向けのサービスとして、ベルリンの市立図書館では、保育園児や小学生のための図書館ツアーや、DVDやオーディオブック、指で触れる絵本といった図書館にある様々なメディアを使って言語発達を促すイベントなどがあります。また学校向けサービスとしては、クラスへの読書セット(ドイツ語や英語の授業用に、同じ本を一度に30冊貸し出しするなど)やトピックごとのメディア(例:男女平等や性的マイノリティに関する書籍やDVD)などの貸し出しも行っているそうです。

取材した日も、クラス単位でやってきたと思われる先生と小学生たちが、本を選んでいました。息子に聞いてみると、小学校の時には先生がクラスを引率して、この図書館に来訪したことがあったようです。図書館の利用方法を学んだり、その場で読書したり、会員証を持っている子どもたちは本を借りていたとのこと。冒頭に述べた通り、ベルリンの学校には図書室はないので、このように子どもたちは図書館に出向いて、本に親しむのですね。

共同スペースも充実

これ以外にも、共同学習の場所として、ワークスペース、グループ学習エリア、講演、展示の場所もあります。息子によると、ギムナジウム入学後は、クラスメートと宿題や学科プロジェクトに取り組むため、この図書館で資料を集めたり、PCで調べ物をしたり、グループエリアで議論したり、最後には上述のメディアコーナーで、くつろぎのDVD鑑賞タイムを楽しんだり、と子どもたちだけで来訪しても、図書館での時間を満喫していたようです。

さらに、定期的にイベントも開かれているとのこと。その内容は、ロボット作り、裁縫クラブといったコミュニティ主体のものから、「1~3歳児とその親たち向けの『五感で本を体験する』講座(Bücher entdecken mit allen Sinnen)」、「4歳児からの『サプライズストーリー』(Überraschungsgeschiten für Kinder ab 4 Jahren)」といった図書に関するイベントまで多岐にわたっています。

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グループスペース
 
会議スペース
子どもへの貸し出しは無料!

図書館内で本を読んだり、作業をするのは自由ですが、貸出を希望する場合は、会員登録が必要となります。身分証明書またはパスポートと住民登録証を持参し、年会費(大人10ユーロ、大学生・職業訓練生5ユーロ、子ども・生活保護受給者は無料)を払うと、1年間有効な図書館会員証が作成されます。この会員証があれば、一度につき最大60点が貸りることができるといいますから、かなり太っ腹ですね!ちなみに、一回の貸出期間は、一般書籍28日間、ベストセラー14日間、DVD、CD、雑誌、ゲームなど14日間となっていますが、2回まで延長できるとのこと。延長の手続きは、館内でも自宅からオンラインでも可能とあって、便利です。ただし、延滞した場合は、1つのアイテムにつき一日25セントの延滞金を支払わなければなりません。

貸し借りは全てセルフサービス

出入口付近および館内には、何台もの貸し出し用の自動読み取り機があります。借りたいアイテムが決まったら、そこで自分で貸し出し作業を行います。といっても、そのプロセスはいたってシンプル。会員カードを読み取り、パスワードを入れてログインしたら、借りたいアイテムを自動読み取り機の上に置くだけ。最後に、本のタイトルや返却日が書かれたレシートが出てくるのでそれを受け取って終了。返却も図書館の出入口付近にある返却機にアイテムを入れるだけです。閉館中でも屋外窓口にある返却機にて返却可能です。

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子ども用図書会員証

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自動貸し出し機(四角の枠に借りたいアイテムを置くだけ)
 
屋外の返却機
電子書籍について

このように会員証があると多岐にわたるサービスが利用可能になりますが、昨今、市が注力しているのは電子書籍ポータルサイトです。図書会員証を有している利用者は勿論、電子書籍のみの利用であれば、上記のようにわざわざ窓口に行かずとも、オンラインでの会員申込だけで、すぐにいつでも26万冊の電子書籍や、Eラーニングソフトの利用、映画や音楽のストリーミング視聴が可能とのこと。また、このオンライン会員証をプレゼントすることも可能だそうです。

街角の図書ボックス

これまでは主に市立図書館について説明をしてきましたが、街中にも時々電話ボックスのようなものに本が入っている「図書ボックス」を見かけることがあります。例えば、この写真のような「図書ボックス」は、周辺の町内会によって運営されており、誰でも本を持ち込み、借りることができます。こちらでは、特に子ども向けの本が充実しているようでした。わざわざ図書館まで行かずとも、近所で気軽に本を借りたり、また読んだ本を寄付することができるのは、コミュニティにとっても有益ですね。

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図書ボックス
 
ドアを開けると、寄付された本が沢山!
まとめ

ドイツ大使館の情報によると、ドイツ人の61%は本を読む習慣があり、そのうち39%は年間5冊以上、27%は10冊以上の本を読むとのこと。読書の方法としては、紙の書籍91%、電子書籍41%、オーディオブック24%となっています。電車の中で分厚い本を開いている人を時々目にするのですが、この統計を見ると納得です。また、コロナ禍で、全ての世代で読書量が増え、特に10代では3分の1が「読書量が増えた」と回答したとか。図書館の電子化も相まって、様々な媒体で読書やメディア鑑賞を楽しむ機会が増えていることからも、今後も図書館の利用者が増えるかもしれませんね。



筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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