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【ノルウェー子育て記】第7回 子どもの読書

小中高の夏休みの宿題といえば読書感想文がお決まりだと思っていましたが、国が違えば宿題の内容も違うものです。夏休みは休暇のための時間であって、勉強するためにあるのではないという考えによるものなのか、スウェーデンでもノルウェーでも子どもたちは学校で「夏休みの宿題」というものが出たことがありません。親としては、せめて1冊くらい夏休み中に本を読んでもらいたいと思いますが、強制するわけにもいかず。今年の夏休みも精一杯遊んで終わりました。

近年、子どもたちの読書に関しては、本を読まない子どもが増えているとの指摘がノルウェーの各方面であります(資料1)。読書量が減っているのではなく、まったく本を読んだことが無いという子どもが増えているそうです。しかし私個人としては、それは子どもだけに限ったことではないのでは、と思ってしまいます。というのも、日頃通勤で使うバスや電車の中で、読書をしている大人を見かけることが少なくなった(もしくは皆無!)からです。日本でも同じような光景を目にしますが、電車の中ではみんな、手元のスマホを覗き込み下を向いています。もしかしたら、電子書籍を読んでいるのかもしれませんが、多くの人はニュースやSNS、もしくはゲームなどをしているのではないでしょうか。そのような環境の中で子どもたちが読書に興味をもつかといえば、はなはだ疑問です。

では北欧地域では、どのような児童書が読まれているのでしょうか。はっきりした調査や統計がなかなか見つからなかったのですが、2014年のノルウェーのメディア局NRKによる記事(資料2)では、ビョーン・ロービク(Bjørn F. Rørvik)作の、Bukkene Bruse på badeland(『やぎのがらがらどん プールに行く』(書名筆者仮訳))という絵本が人気で、2009年の初版から10万部以上が売れているそうです。このお話は、De tre bukkene Bruse(日本語訳『三びきのやぎのがらがらどん』)というノルウェーの昔話をもとに作られていて、1965年には日本語にも訳されています。3匹の山羊と、それを食べようと狙うトロールのお話です。これは童謡にもなっているので、ノルウェーやスウェーデンの保育園ではよく歌われています。他に、児童文学では、「グレムリン」や「チャーリーとチョコレート工場」の作者であるノルウェー系イギリス人、ロアルド・ダール(Roald Dahl)の作品や、ハリー・ポッターシリーズで有名なJ・K・ローリングの作品が、ノルウェーでは比較的よく読まれているそうです。たしかに、映画のハリー・ポッターが大流行した頃は、書店でも原作が山積みになり、たくさんの子どもたちが読んでいたのを覚えています。しかしその流行が下火になってからは、本を手にする子どもは減っているのでしょうか。少なくとも学校では文学作品に接する機会はあると思うのですが、実際に学校教育の中で読書はどのように扱われているのでしょうか。この点について少し調べてみました。

国語の授業での文学作品の役割

子どもの教育と文学作品について、2019年のオスロ大学の研究者による研究報告があります(資料3)。ノルウェーの学校教育では読者として子どもを育てるよりも、子どもが何を読んで何を話し合ったかということを「書かせる」ことに重点が置かれているそうなのですが、具体的に授業内で文学作品はどのように活用されているのか、ということを調査したものです。全国各地の8年生(日本では中学1年生にあたる学年)を対象に、47の文学の授業に参加してデータを集めたそうです。結果、文学作品には大きく4つの役割があるそうです。

  1. 文学のさまざまなジャンルや表現方法などを具体的に示すために使う
  2. 作品をはじめから最後まで読むことを目的に使う
  3. 本の内容を発表する技術を高めるために使う
  4. 教師と生徒の間で本の内容を議論し、理解を深めるための材料として使う

この中で、一番頻度の高いものは最初の「文学のさまざまなジャンルや表現方法などを具体的に示すため」に文学作品を使うというものです。小説のスタイルとは何か、詩のスタイルとは何か、といったようなことを学ぶための利用法ですが、これは作品を鑑賞するためというより知識として文学に触れるためのものではないでしょうか。個人的には、これは試験に出るから、という目的ありきのようにも感じます。ちなみに、四つ目の読解や鑑賞に近い利用方法は一番頻度が少ないそうです。

さらに、どんな文学作品を使うかという問題は、教師がどの教科書を利用するのかということにも左右されるでしょう。教師からは、「選択できる文学作品が限られており、授業時間も限られていることに不安がある」という意見もあるそうです。加えて、一部の教師は「そもそも国語の時間に文学の授業ができる能力が自分にあるかどうか自信が無い」という声もあるそうです。だからこそ、「出来上がった教科書通りに授業をするほかない」という結論になるのでしょう。

読書のススメ

本を読むという行為は能動的な作業なので、誰かに強制されて読んでもあまり意味はないかと思います。しかし、実際に私が大学生に「どんなノルウェーの作家が好き?」と聞いても、きちんと答えられる学生がいないという場面に出くわすと、もう少し何とかできないものかと考えてしまいます。ベネッセ教育総合研究所と東京大学との研究でも、日本の小・中・高校生の読書時間について「パネル調査における小学校1年生から高校3年生までの学年別不読率が、15.8%から始まり,59.5%まで増加する」との結果で(資料4)、本を全く読まない児童生徒の割合が高いことが明らかになったそうです。おそらく同じような若者の活字離れ現象が、ノルウェーでも起きているのではないかと思います。試験に出るからという目的を忘れて、楽しんで読書をする面白さを誰かに伝えることができたらいいなあと、親として、教師として、日々望んでいます。


筆者プロフィール
下鳥 美鈴

ベルゲン大学(ノルウェー)文学部外国語学科准教授。東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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